次に粗飼料(ロール)を自給する経済効果について考察する。表4の通りである。計算に当たっては、全酪連の瀧本慎也氏から全面的なご協力をいただいた。組合員の3戸は、粗飼料として自給のロール以外に輸入乾草を給与しており、長恒牧場がオーツヘイ・アルファルファ、長恒氏がアルファルファ、大江氏がスーダン・オーツヘイ・アルファルファをそれぞれ利用している。
ロールと輸入乾草の乾物給与量から、粗飼料自給率(A)を計算したところ、長恒牧場が約43%、長恒氏が約83%、大江氏が約39%であった。なお、ロールの現物価格は、前述の通り1キログラム当たり10円と仮定し、含水率が40%であるので、10円を0.6で除して乾物価格16.7円と算出している。輸入乾草についても、同様の計算により算出している。
搾乳牛1日1頭当たり輸入乾草削減効果(B)は、長恒牧場が約240円、長恒氏が約530円、大江氏が約200円であった。(B)の値に、表1の搾乳牛飼養頭数と365(日)を乗じたものが、年間1経営当たり輸入乾草削減効果(C)である。長恒牧場で約900万円、長恒氏で約700万円、大江氏で約300万円の経済効果があり、3戸の合計では1900万円にも上ることが分かる。
本稿の冒頭でも述べたように、輸入乾草は、確かに品質が安定しており、注文すると庭先まで届けてもらえる。飼料作の労働負担を軽減できることから、酪農経営にとって、輸入乾草を利用するメリットは大きい。わが国の純国内産粗飼料自給率が76%にとどまっている理由でもある。
しかし、輸入乾草に100%依存するのではなく、自給飼料の割合を高めることによって、(C)のようなコストの削減につなげることができるのである。ただし、この組合のように、乳牛の飼養管理に影響しない、効率的な粗飼料生産のシステム構築が求められるのである。また、90ヘクタール近くにも上る飼料作面積の活用によって、高額な収穫調製機械の導入に伴う固定費を削減することも肝要である。
なお、図2は、組合員が利用している輸入乾草のうち、スーダンとアルファルファの1キログラム当たりの価格推移を見たものである。データの表示期間(平成25年4月〜令和3年12月)の平均価格はスーダン52.0円、アルファルファ64.2円であり、標準偏差はスーダン2.96円、アルファルファ3.89円である。変動係数(標準偏差÷平均価格)は、スーダン5.7%、アルファルファ6.1%である。注目すべき点は、両者が連動した価格推移を見せており、令和2年12月からいずれも上昇傾向にあることである。
なお、全酪連によると、全米最大のコンテナ取扱数量を誇るロサンゼルス港およびロングビーチ港における沖合でのコンテナ本船の滞船や、ターミナルへのコンテナ搬出入を待つトラックの混雑はいまだ解消せず、日本への商品の輸送が遅延している
(注5)。日本向けにアルファルファやチモシーが多く輸出されている北米西岸航路(PNW航路)でも状況は悪化しているとのことであった。このことが、輸入乾草の安定供給とフレイトに大きな影響を及ぼしている。
また、輸入乾草の日本での庭先価格に影響するのが為替レートである。すなわち、円安になると輸入乾草の庭先価格を上昇させることになる。
今後、輸入乾草の価格がどのように推移するか将来を見通すことは難しいが、現状のように価格が高騰している状況では、粗飼料の自給割合を高めることは、酪農経営にとって重要な戦略といえる。
(注5) 全国酪農業協同組合連合会「輸入粗飼料情勢」(https://www.zenrakuren.or.jp/members/shiryo/yunyu/)