(1)網走市の概況
デイリーウーマンズの活動拠点である網走市は、北海道東部に位置し、冬にはオホーツク海に流氷が接岸する(図4)。オホーツク海のほか、市内には、ラムサール条約に登録されている
濤沸湖を含めた大小五つの湖沼があり、水産業が盛んである。また、畑作が盛んな地域としても知られ、主に畑作3品(小麦、てん菜、ばれいしょ)の他、だいこん、ごぼう、ながいもなどの野菜、豆類が生産されている。
夏は、一番暑い8月でも最高平均気温は25度を下回っているため、過ごしやすく、冬は、平均気温が氷点下を下回る月があるものの、道内の他の地域と比較して冷え込みは穏やかである(図5)。また、積雪量についても、道内の他の地域と比べると少なく、1年を通じて比較的過ごしやすい気候である。
網走市が公表している「令和3年度あばしりの農業」によると、令和2年12月時点の農家人口は、1590人(総人口比4.6%)、農家戸数は320戸(総世帯比1.8%)である。農家戸数を経営体別に見ると、酪農は16戸、その他畜産は7戸、複合は13戸、畑作が284戸であり、畑作農家が全体の80%以上を占めている(表2)。
また、3年3月時点の農業生産額は、357億6649万3000円であり、そのうち、農産物生産額が118億9065万3000円(農業生産額比33.2%)、畜産物生産額が238億7584万円(同66.8%)である。畜産物生産額のうち、生乳については15億5233万円であり、畜産物生産額全体の6.5%を占める。
(2)デイリーウーマンズの概要
ア 結成のきっかけ
デイリーウーマンズ結成のきっかけは、メンバーの中島梨絵氏が平成22年に義父から牧場の経営を移譲されたことにある。当時の状況について、中島氏は、「経営移譲されたものの、酪農に関する知識が乏しく、飼養管理に関する疑問などを家族に相談しても解決できずにいた」という。その矢先に、後にグループのリーダーを務めることになる佐藤幸枝氏を配偶者から紹介され、悩みを相談したところ、地域の女性酪農家が数名集まったことで、24年7月にデイリーウーマンズが結成された。グループは、経営移譲などを機に酪農の経営に本格的に参入した4名で構成されており、同じような境遇にある者同士で悩みや疑問を共有し、学び合うための自主的な女性酪農家グループとして活動している(表3)。その利点として、リーダーの佐藤氏は、「組織のルールに拘束されずにメンバーの中で研修内容や活動日を設定できること、グループへの加入に事務手続きを必要とせず、気軽に参加できること、活動経費はメンバーの自己負担だが、自己負担することで研修などに真剣に取り組むこと」を挙げている。また、活動の立案から実施に至るまで、すべて自分たちの手で行うことから、外的な制約が少なく、自分たちが知りたい、聞きたいことをリアルタイムで学べるという利点もある。
イ 令和元年女性・高齢者チャレンジ活動表彰事業において最優秀賞を受賞
デイリーウーマンズは、北海道が実施する令和元年女性・高齢者チャレンジ活動表彰事業において、最優秀賞を受賞した。オホーツク総合振興局のホームページによると、仲間同士で切磋琢磨し、励まし合いながら情報収集や新技術習得、経営改善に取り組んでいることが評価されての受賞であった。メンバーからは、「介護や子育ての話といった仕事以外の話も遠慮なく相談でき、ストレス発散につながっている」という話があったように、グループの活動だけではなく、日頃から仕事以外のことも相談することにより、精神的にも支え合っている。
また、グループは本年で結成10年目を迎え、地域における役割も変化しつつある。メンバーからは、「自主的な学習グループとして他グループの見本でありたい」「グループの活動で得た知識を地域に還元したい」「地域の若手女性酪農家の相談役でありたい」といった声があり、自分たちの活動を外に発信する機会も増えてきている。
(3)デイリーウーマンズの活動内容
デイリーウーマンズの主な活動は、研修会の開催、牧場視察、酪農関係イベントへの参加である。
研修会では、メンバーの疑問や課題に沿ったテーマを設定する。農業改良普及センター、飼料メーカー、製薬会社、獣医師、人工授精師といった講師を招き、これまでに約20回開催している(表4)。また、不定期での開催ではあるが、メンバー同士で牧場を視察し合い、その場で気が付いた点について改善策を話し合うバーンミーティングも行っている。この取り組みには、お互いの牧場の状況を確認し合うことで、経営者自身が気付けないことに周囲が気付き、直接アドバイスをもらえるという利点がある。グループ内では、メンバーのアドバイスを基に水槽の腐食部分をコンクリートで埋めて汚れがたまりにくいように改修した事例もある。
牧場視察では、国内外の牧場を視察し、他の酪農家の工夫や特徴ある取り組みについて学んでいる。視察先は道内が中心だが、平成26年3月にグループ初の海外研修として、米国・ウィスコンシン州に赴き、牧場視察や大学での酪農関係講座の受講などを行った。牧場視察の際には、最先端の子牛の管理方法、掃除や換気の方法、環境に配慮した取り組みなどを見学し、各牧場に導入できるかを検討した。こうした牧場の視察や前述の研修会で学んだ内容を生かし、メンバーごとに経営改善に向けた取り組みを実践している(表5)。このように、メンバーの疑問や課題に基づいた研修内容が設定されていることにより、メンバーは意欲的に取り組むことができ、研修がより実践的なものになっている。
さらに、北海道酪農技術セミナーや酪農女性サミットなど道内のイベントに参加し、酪農に関する情報収集や参加者との交流なども行っている。デイリーウーマンズが参加している主なイベントについては、表6を参照されたい。
(4)これまでの活動から得られた成果
メンバーに対し、これまでの活動から得られた成果を伺ったところ、大きく分けて、三つの回答があった(表7)。
リーダーの佐藤氏によれば、「そもそも網走では、地域的に酪農家向けの研修会が少ない」とのことだった。その点、デイリーウーマンズは、メンバーにとっての学びの場、課題解決の場としての役割のほか、仕事以外のことも気軽に相談できる息抜きの場としての役割も担っている。現在はコロナ禍の影響もあり、活動は縮小しているが、今後は、「結成から10年が経過し、メンバーの家族構成も変化している。それぞれが今後の酪農情勢に合わせた経営になるよう、活動していきたい」とのことだった。