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海外の需給動向【飼料穀物/中国】 畜産の情報  2022年5月号

トウモロコシおよび大豆の価格動向ほか

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トウモロコシ、市場供給量の減少などから価格は上昇
 中国農業農村部は3月25日、「農産物需給動向分析月報(2022年2月)」を公表した。この中で、2022年2月の国産トウモロコシ価格については、2月初旬の春節以降、企業や貿易業者が積極的に在庫を積み増しており、市場供給量の減少から上昇に転じている(図1)。また、短期的な価格動向として、ウクライナ情勢を背景とした小麦価格の上昇からトウモロコシ代替飼料としての小麦の利用が減少し、トウモロコシへの需要回帰がより進むことで堅調に推移すると予想している。
 主要養豚生産地である中国南部向け飼料原料集積地となる広東省黄埔港到着の輸入トウモロコシ価格(関税割当数量内:1%の関税+25%の追加関税)は、22年2月が1キログラム当たり2.64元(52円:1元=19.56円(注1))と前月からわずかに上昇した。同月の国産トウモロコシ価格(東北部産の同港到着価格)同2.82元(55円)に比べて同0.18元(4円)安となり、前月からわずかに価格差が縮まっている。
 一方、関税割当数量を超えた輸入トウモロコシ価格(65%の関税+25%の追加関税)は同4.24元(83円)と前月から同0.18元(4円)上昇した。国産トウモロコシ価格に比べ同1.42元(28円)高く、前月より価格差が広がっている。
 中国国内では、飼料価格の上昇など生産コストが増加する中で、豚肉価格の低迷から養豚生産は赤字とされ、養豚農家の増頭意欲も低下しているとされている。しかし、豚の飼養頭数が当初予測よりも減少していないことから、当面、飼料向けトウモロコシの需要は堅調とみられている。


 
大豆、在庫放出も国産価格は引き続き高水準と予想
 春節以降、国産の大豆取引数量はやや増加したが、政府による大豆の継続的な国家備蓄向け購入が下支えとなったことで、価格はわずかに上昇した(図2)。また、短期的な価格動向として、主産地の農家は高値を見越して販売に消極的なことから、国産大豆の供給はひっ迫傾向にある。さらに、大豆国際相場上昇の影響を受けて輸入大豆を利用する搾油用向けの供給が不足傾向にあることで、政府系機関による国家備蓄の放出も予定されるなど、大豆需給の緩和に向けた取り組みも行われている。しかし、全体的なひっ迫感が継続することで、国内の大豆価格は引き続き高水準で推移すると予想している。
 主産地である黒竜江省の搾油用向け国産大豆平均取引価格は、2月が1キログラム当たり4.98元(97円、前年同月比3.2%高)、同じく食用向け同価格は同6.10元(119円、同7.5%高)と前月並みながらも依然として前年に比べ高い水準にある。また、大豆の国内指標価格の一つとなる山東省の国産大豆価格は、同6.50元(127円、同6.4%高)と同じく高い水準にある。国産大豆価格と輸入大豆との価格差は、大豆国際相場の上昇などから縮小し、2月が1キログラム当たり1.46元(29円)となった。
 このような中で、中国の大豆輸入量は引き続き増加基調にある。21年(1〜12月)は9652万トン(前年比3.8%減)と高い水準の輸入量を記録したが、22年(1〜2月)は輸入量が1394万2000トン(前年同期比4.1%増)、輸入額が83億4800万米ドル(1兆301億円:1米ドル=123.39円(注1))と報告されている。


2022年中央1号文書を発表、食料の安全保障を強調
 中国共産党中央委員会と中国国務院は2月22日、「2022年中央1号文書」である「2022年の農村振興における重点活動の全面的推進に関する中国共産党中央委員会と国務院の意見書(2022年1月4日)」を発表した。この中央1号文書は、その年の最初に発出される最も重要な政策であり、14年以降、19年連続して「三農(農業、農村、農民)」の問題に対処したものとなる。
 今年の中央1号文書では八つの項目が示されているが、注目すべき点として、これまでも筆頭項目として掲げられている「食料の生産と重要農産物の供給確保に全力を挙げる」が特に強調されていることにある。この中では、食料の安全保障に対して党と政府の責任で完全に実施するとされており、穀物在庫の拡充や水資源の的確な管理などによる穀物作付面積の安定や生産量の維持などが挙げられている。また、90年代以降、輸入により国内需要を満たしていた大豆について、初めて生産能力の強化に向けた取り組みが示されたことが特筆される。
 現地専門家によると、食料安全保障は一貫して重要な位置を占めているが、特に今年はCOVID-19が世界的に流行する中で、貿易の混乱や一部の国が食料輸出に制限を設けたことで、食料の国際需給に複雑な変化を生じさせたことが背景にあるとみている。このため、食料の自給率を高め、食料安全保障を確かなものとするのが重要としている。
 今回の発表に際し中国国務院は、中国は国際市場の変化やリスクに警戒を怠らないことが重要とし、食料輸入先の多角化を推進しなければならないとしている。さらに、14億人の人口を擁し、食料の需要は今後も増加するとみられることから、その供給をしっかりと保障しなければならないとしている。

大豆の増産に向けた支援を公表
 中国農業農村部および中国財務省は3月25日、中央1号文書を受けた2022年の穀物生産の重点課題と支援政策の概要を公表した。これによると、トウモロコシや小麦の生産を維持するとした上で、新たに大豆の増産に全力を挙げるとしている。具体的には、穀物生産農家に対する補助金の交付や新規耕作地の拡大を進める一方、新たに大豆とトウモロコシの帯状複合栽培(注2)に対する補助などである。農業農村部によると、この栽培方法はすでに技術が確立されたとしており、22年は国内16省、1500万ムー(100万ヘクタール)以上の農地でこの栽培を推進することで、連作が難しい大豆の増産が図られる。
 中国は世界最大の大豆輸入国であり、同国の輸入量の拡大は輸出元である南米の大豆生産を押し上げてきた。中国が大豆の自給に向けて舵を切り替える中で、今後の国際相場への影響が注目される。

(注1) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年3月末TTS相場。

(注2) 同一の耕作地でトウモロコシを4〜6条、大豆も同じ間隔で交互(帯状)に作付けし、栽培するもの。

(調査情報部 横田 徹)