中国の最近のトウモロコシ生産に関する政策として、まず、2021年11月に発出された中国国務院の通達に触れる必要がある。この通達のトウモロコシと豚肉に関連した部分の概要は以下の通りである。
「国務院の第14次5カ年計画期間における農業農村現代化規画の発出に係る通知」2021年11月12日 中国国務院(トウモロコシ・豚肉関連部分のみを抜粋)
第14次5カ年規画期間における農業農村現代化の主要指標
1.食糧総合生産能力
2025年目標値:6.5億トン以上、指標属性:約束性
2.肉類総生産量
2025年目標値:8900万トン、年平均伸率:2.8%、指標属性:予測性
3.高標準農地面積
2025年目標値:7167万ヘクタール、5年累計増加:1833万ヘクタール、指標属性:約束性
4.農作物生産収穫総合機械化率
2025年目標値:75%、5年累計伸率:4.0%、指標属性:予測性
5.畜禽類糞尿等総合利用率
2025年目標値:80%、5年累計伸率:5%以上、指標属性:約束性
第1節 食糧作付面積を安定させる
トウモロコシ作付面積については、生産優位性を有する地域では適当に拡大を図り、トウモロコシ・サイレージなどにより優良品質飼料生産の発展を促進する。大豆は振興計画を実施し、高脂肪高タンパク白大豆の供給量を増加させる。
第2節 農地の保護を強化する
農地利用の優先度を明確化し、永久基本農地は重点的に食糧生産に使用することとし、特に稲(米)、小麦、トウモロコシなどの穀物生産を保障する。土地の流用については管理監督を強化する。
第3節 その他重要農産物の供給を保障する
養豚産業を持続的・安定的に発展させることとして標準化・規模化生産を促進し、豚肉の生産能力を5500万トン前後に安定させ、生産量の大きな増減を防止する。
上述の通り、第14次5カ年計画の期間中(21〜25年)の食糧生産の重点は稲(米)、小麦、トウモロコシであるが、今回、新たに大豆の増産が掲げられたことが特筆される。この中で表明されている25年の目標値について、指標属性として「約束性」と「予測性」の2種類ある。「約束性」は政策的課題として実現させることを約束されたものであるが、「予測性」は政策的に実現するというものではなく、現在の動向から予測される数値に過ぎないものとなる。したがって、政策上ではこの二つの異なる指標属性を同列に論じることはできない性格のものであることを理解しておく必要がある。つまり、目標値ではあっても、行政的に責任を負っているものか(約束性)、現在の動向を示しているだけのものか(予測性)、区別して見ておくべきであるという意味である。
なお、この通達の第3節で、「豚肉の生産能力を5500万トン前後に安定させる」としているが、21年の豚肉生産量は5296万トンであり、25年までに5500万トンに引き上げるためには、4年間累計で3.9%増加させるということになる。これを21/22年度(10月〜翌9月)の飼料消費の増加率3.3%から見ると、この達成はそれほど困難なことではないと思われる。
中国国務院の通達後に開催された21年末の中央農村工作会議
(注3)で示された22年の方針と補助金額の予想を見ると、通達を踏まえて22年はトウモロコシよりも大豆の増産が
喫緊の課題とされている。トウモロコシと大豆は、もともと作付けが競合している作物であり、特に黒龍江省の大規模生産農家では、この競合が常に問題であるとされる。ただし、トウモロコシと大豆の競合は、対等の競争ということではなく、圧倒的に大豆に分が悪い競争となる。これは、大豆が連作障害を発生させる作物であることによる。中国に限らず、どこの国でもトウモロコシと大豆の生産は競合関係にあるが、大豆は毎年、同じ圃場で作付けすることができないため、どうしてもトウモロコシとの輪作を組まざるを得ない。実際には、連作障害を回避するために、大豆の作付けは3年に1度とし、他の2年はトウモロコシを作付けするという輪作体系をとっているところがほとんどであり、トウモロコシと大豆の生産量の多い吉林省でもこの方策が採られている。黒龍江省の大規模生産農家では、1枚当たり数ヘクタールの規模の圃場を3枚整備し、毎年1枚だけで大豆を作付けし、残りの2枚ではトウモロコシを作付するという輪作を実施している。同省では、この輪作によって、毎年、一定量の大豆の生産量を確保している。
(注3) この会議は、 中央政府の農業政策を地方政府に徹底し、 農村経済の発展に資することを主眼に、 毎年3月の全国人民代表大会(国会に相当)の前に、 全国の省・市政府代表者などを集めて開催されるもの。
また、大豆はトウモロコシに比べて単収が低いため、大豆生産の粗収益額はトウモロコシ生産よりも低いということも、トウモロコシに比べて分が悪くなっている一因といえる。中国農業農村部公表の「中国農産物需給状況分析」によると、19/20年度の大豆の単収は1ヘクタール当たり1935キログラム、同年度の国産大豆平均卸売価格は1トン当たり4938元(9万8069円)であるため、大豆の1ヘクタール当たり概算販売額は9555元(18万9762円)となる。これに対してトウモロコシの場合は、単収が1ヘクタール当たり6316キログラム、同年度の国産トウモロコシ平均卸売価格が1トン当たり1965元(3万9025円)であるため、トウモロコシの1ヘクタール当たり概算販売額は1万2411元(24万6482円)となる。概算ではあるが、1ヘクタール当たり3000元(5万9580円、1ムー
(注4)当たり200元(3972円))近い価格差が生じることになる。このため、大豆の生産者補助金額については、トウモロコシよりも1ムー当たり200元(3972円)を上回るように設定されているようである。以下に22年の黒龍江省のトウモロコシと大豆の生産者補助金額についての報道記事を紹介する。
「2022年の黒龍江省のトウモロコシと大豆の生産者補助金の最新基準」─黒龍江省農業農村庁網:22年2月8日付け記事─
現在、春耕生産が開始されているため、黒龍江省党委員会と黒龍江省政府は食糧作物の生産を安定させて大豆を増加させるという中央の方針に従って、トウモロコシと大豆の差別化補助金措置を今年も引き続き実施する。原則的には大豆生産者補助金の1ムー当たりの金額はトウモロコシ生産者補助金の1ムー当たりの金額を200元(3972円)前後上回ることとする。具体的な補助金額は国の補助金標準に基づき、トウモロコシ・大豆生産者補助金資金の総計額およびトウモロコシ・大豆の実際の作付面積などを統一的に勘案して確定するものとする。
(注4) ムーは、中国で用いられる面積の単位であり、1ムーは約0.0667ヘクタールで算出。