韓国の養豚業は、1970年代後半から濃厚飼料給与を基本とした生産の発展や専業型の畜産農家の出現など、それまでの小規模兼業養豚から大きく変化し、急成長を見せた。80年代に入ると養豚業はさらなる発展を見せ、増加する飼料需要にけん引されて、国内配合飼料の年間生産量は89年に1000万トン以上を記録した。しかし、豚飼養頭数の急激な増加によって国内の豚肉需要をある程度満たした一方で、養豚産業の企業化の進展から韓国の養豚業界は農場周辺の環境対策や多様化する流通への対処が求められるようになった。
(1)豚の飼養状況
近年の豚飼養頭数および出荷頭数は増加傾向にあり、今後も持続するとみられている(図1)。飼養戸数は、大規模化が進んでいることから減少傾向にあるが、規模別に見ると、生産者の高齢化などの問題から特に1000頭未満の小規模生産者戸数の減少が大きい。(図2)。主な飼養品種はランドレース種、ヨークシャー種などで、種豚のほとんどを輸入に依存しており、韓国在来種も飼育されてはいるものの、施設面や資金面ともに韓国独自の育種体制が確立できていない点が課題となっている(写真、表1)。
また、養豚業が急速に発展したことで、近年では飼養密度の上昇による家畜疾病の増加、水質および土壌汚染、悪臭の発生など環境や衛生に関する課題が複数生じている。このため、韓国では2000年代半ばから「環境にやさしい畜産」の概念を導入し、生態系と環境を維持、保全しながらも家畜本来の習性を考慮した健康な家畜の飼育を行い、安全な畜産物の生産、供給を目指すことを掲げている。なお、04年に悪臭防止に関する法律、05年に家畜排せつ物の管理および利用に関する法律などを制定し、「環境にやさしい畜産」の実現に取り組んでいる
(注2)。
さらに、家畜の改良および増殖、畜産業の構造改善、需給調整および価格の安定などを通じ、畜産業を発展させ、畜産物の安定的供給に資することを目的に1963年に制定された畜産法が2018年に改正、20年に施行され、同法の目的の一つに畜産環境改善が加わり、新たに畜産環境に関連する条項が盛り込まれた。
(注2) 環境問題への取り組みの詳細については、『畜産の情報』2020年2月号「韓国の畜産業界における環境問題への取り組み」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000970.html)を参照されたい。
(2)豚肉需給
韓国国内の豚肉の需給状況に目を向けると、口蹄疫の発生により2011年の豚肉生産量は大きく減少しているものの、10年以降の生産量はおおむね増加傾向にあり、出荷頭数の増加に伴い、今後もわずかながら増加傾向が継続するとされ、31年には100万トンに達すると見込まれている(図3)。また、生産量の増加に伴い、1人当たりの年間消費量および消費量全体も増加傾向にある。20年にはCOVID-19およびアフリカ豚熱の影響により一時的に減少したものの、その後は増加傾向が継続し、31年には150万トンに達すると見込まれている。
現在の豚肉消費に占める国産の割合は76%であり、韓国で生産される豚肉のほぼ全量が国内で消費されている。豚肉の輸出は、政府の支援不足や海外市場のニーズおよび現地の法規、食習慣などの把握が不十分であることが課題とされ、消費量全体からすると1%以下である。国内で流通する輸入豚肉は、消費量全体の24%に相当し、国産の豚肉に比べ5〜6割程度の価格で販売されており、価格差が大きい状況にあるが、味や安全性の観点で輸入品を
嫌厭し、国産品を選択する消費者が多いとされている。
主要食肉のうち、豚肉は最も多く消費されており、近年の消費量の伸びも大きい(図4)。特に家庭消費では適当な価格でおいしい食肉として好まれており、約6割が家庭内消費、約4割が外食消費(デリバリー消費を含む)とされている。
また、加工向け(18年)を見ると、豚肉の仕向量は32万2496トンとなり、全畜種の仕向量の約4割を占める最大の食肉となっている。豚肉の加工向け仕向量のうち、国産の割合は約75%を占めている。
(3)豚肉の輸入動向
韓国では、前述の通り豚肉需要の増加に合わせて豚肉生産量は増加しているものの、不足分を輸入に依存する状況が続いている。2013〜18年の輸入量は増加傾向にあり、18年の豚肉輸入量は57万1190トン(前年比16.7%増)と近年で最大を記録した(図5)。主な輸入先は12年発効の米韓FTAにより輸入量が増加している米国のほか、EUではドイツ、スペインなどとなっている。
近年の輸入動向を見ると、韓国での口蹄疫発生により国内生産が大きな損害を受けた11年および中国でのアフリカ豚熱発生の影響が懸念された18年は大きく増加したが、アフリカ豚熱の影響をある程度抑制することができたため、19年は前年を下回る輸入量に落ち着いた。20年はCOVID-19の影響を受け、輸入量は引き続き前年を下回る数量となった。なお、同年、主要輸入先であるドイツでのアフリカ豚熱発生を受け、同国からの輸入を一時停止している。しかしながら今後の輸入量は食肉消費量の増加などを背景に増加傾向で推移するとされ、31年には50万トンに達すると見込まれるなど自給率の低下が懸念されている。
輸入される豚肉の部位は三枚肉(ばら)、前肢、肩ロースなどが多い。ばらは外食チェーンなどでの消費、前肢はハム、ソーセージなどの加工向け原料として、肩ロースは焼肉店などでの消費が多いとされ、一般消費者が輸入肉を購入する頻度は比較的低いとみられている。一般的な輸入豚肉は輸入後、卸売、小売の段階を通じて供給される(図6)。輸入の際は船舶上もしくは航空機内で貨物の検査を実施した後、検疫検査場での官能検査や疫学検査が実施される。輸入検疫を合格した豚肉は輸入業者、卸売業者、食肉包装処理業者、食肉販売業者を経由して国内に流通し、販売業者や加工業者、飲食店などに販売された後に消費者へと渡る。
(4)国内の豚肉流通状況
韓国の豚肉流通に目を向けると、同国内で生産された肥育豚は全量、と畜場を経由し、95.2%が枝肉を部分肉などに加工する食肉包装業者へ、残りの4.8%が直接精肉店へ販売されている(図7)。食肉包装業者を経由した食肉は大型小売業者やスーパーマーケット、精肉店のほか飲食業者や2次加工業者へも販売されている。と畜過程が存在することにより、他の農産物に比べて流通体系が固定化されており、直接取引や地産地消が困難な側面があるが、最近のICTや物流の発展によりeコマースなどの流通経路の多様化が進められている。