連邦政府による法規制が限定的であることからも、米国では州ごとの立法判断や民意による法規制、また、業界の自主的な取り組みがAWの土台となっている。そして業界では、持続可能性に対する消費者の関心の高まりを受け、持続可能な畜産に向けた取り組みが本格化し始めた。その中でもAWは重視されており、各団体は生産者に対して、消費者に向けた業界の取り組みを発信することの必要性を訴えている。
(1)肉用牛・牛肉業界
全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)が事務局を務める「持続可能な牛肉のための米国円卓会議(USRSB)」は2022年4月、持続可能な牛肉に向けた目標として「家畜の健康と福祉」を含めた6項目を掲げ(図16)、サプライチェーンのセクター別(肉用牛生産者、子牛市場関係者、食肉処理・加工業者、小売・外食業者)に目標と指標を設定した
(注3)。AWの目標・指標には、肉用牛生産者や子牛市場には牛肉品質保証(BQA)プログラム参加の拡充、食肉処理・加工業者には従業員教育と第三者機関による監査、小売・外食業者にはAWへの対応方針の策定と公表などが設定された(表6)。
(注3) 海外情報「持続可能な牛肉のための米国円卓会議、持続可能に向けた目標を設定(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003251.html)を参照されたい。
ア 牛肉品質保証(BQA)プログラム
BQAプログラムは、AW、労働者の安全、環境に配慮した方法で健康かつ安全にすべての牛を飼養していることを消費者に保証するため、NCBAが1991年に策定したプログラムである。本プログラムには生産者向け研修制度と認証制度があり、研修を受講して試験に合格した生産者が3年間有効なBQA認証を受けることができる。本プログラムの財源を出している肉用牛生産者牛肉振興調査ボード(CBB)によると、現在、BQA認証を受けた生産者は20万人以上、これらの生産者が生産する牛肉は米国産牛肉の85%以上を占めているという。
本プログラムには、牛の飼養管理・衛生管理、バイオセキュリティ、輸送、環境保護など、幅広く基準や目安が示されている(表7)。一部の州で規制・制限が設けられている断尾について、本プログラムでは断尾を推奨しないとし、尾部の損傷や壊死を防止するために飼養面積を確保することが有効であるとしている。
イ 仔牛肉品質保証(VQA)プログラム
VQAプログラムは、人道的に子牛を飼養し、安全で高栄養価の仔牛肉を生産する業界の取り組みを示すためにNCBAが1990年に策定したプログラムである。本プログラムにも生産者向け研修制度と認証制度があり、研修を受講して試験に合格した者が3年間有効なVQA認証を受けることができる。
本プログラムには、子牛の健康管理、飼料・水の給与と栄養管理、飼養施設、輸送など、幅広く基準や目安が示されている(表8)。一部の州で規制・制限が設けられている子牛用ストールについて、本プログラムでは、適切な飼養面積の確保、つなぐことの禁止、10週齢までの群飼養への移行などが示されている。また、米国仔牛肉協会(AVA)は18年1月、すべての会員生産者が子牛のつなぎ飼いを廃止し、群飼育に移行したことを発表した。
(2)酪農・乳業業界
酪農チェックオフ団体であるデイリー・マネージメント・インク(DMI)が国際乳食品協会(IDFA)とともに2008年に設立し、持続可能な酪農・乳業に向けた業界の取りまとめを担っている米国酪農イノベーションセンター(Innovation Center for U.S. Dairy)は、「アニマルケア」を含めた5項目を重点項目に位置付けている(図17)。アニマルケアの分野では、人道的かつ倫理的な乳用牛の飼養管理のための手順書である生産者保証責任管理(FARM:Farmers Assuring Responsible Management)アニマルケア・プログラムに基づく飼養を継続することとしている。
ア 生産者保証責任管理(FARM)アニマルケア・プログラム
FARMアニマルケア・プログラムは、科学的根拠に基づく最高水準の飼養管理の下、牛乳・乳製品が生産されていることを消費者に保証することを目的として、DMIが全米生乳生産者連盟(NMPF)とともに2009年に策定したガイドラインである。本プログラムでは、研修を受けた酪農協同組合、販売業者、加工業者が第三者評価機関となる。参加を希望する生産者は、基準を満たしていれば本プログラムの認証を受けることができる。第三者機関による評価は少なくとも3年に一度実施され、基準を満たしていない場合、生産者はその内容により、段階的な改善を求められる。DMIによると、現在、米国内生乳供給量の99%以上が本プログラムに参加している農場から供給されているという。
本プログラムには、継続的な教育、飼養施設、牛の管理、抗生剤の使用、離乳前子牛の管理など、幅広く基準や目安が示されている(表9)。一部の州において、規制・制限が設けられている断尾について、本プログラムでは怪我の治療などを除く「日常的に行われる断尾」を17年以降、段階的に禁止している。
(3)養豚・豚肉業界
米国養豚・豚肉業界の持続可能性への取り組みは、全米豚肉委員会(NPB)、全米豚肉生産者協議会(NPPC)、各州の豚肉生産者協議会が運営する「ウィー・ケア(We Care)」というイニシアチブが主導している。ウィー・ケアは業界の責任を自らが追求し、継続的に評価・改善するために2008年から開始された。ウィー・ケアは倫理原則として、AWを含む6項目を掲げ、持続可能な豚肉の生産に必要なものと位置付けている(図18)。そして、22年2月にウィー・ケアが公表した持続可能性報告書の中で、6項目それぞれについて、消費者や豚肉を取り扱う食品業界が求めているものを重視した目標を設定した。AWの目標には、豚肉品質保証(PQA)プラスプログラムと輸送品質保証(TQA)プログラムによる生産者・従業員の認証、PQAプラス農場評価などによって、AWに配慮した最高水準の豚の管理を実践することとした。
ア 豚肉品質保証(PQA)プラスプログラム
NPBは2007年、豚の飼養方法への消費者の関心の高まりを受け、HACCPプログラムをモデルとした生産者の教育・認証プログラム、豚の人道的な飼養管理に関するプログラム、抗生剤使用ガイドラインを一つにまとめてPQAプラスプログラムを策定した。生産者はPQAプラス認定アドバイザーが実施する教育プログラムを受講することで3年間有効なPQAプラス認証を受けられる。ウィー・ケアによると、現在、PQA認証を受けた生産者は7万1000人以上、これらの生産者が生産する豚肉は米国産豚肉の85%以上を占めているという。
本プログラムは、豚肉の安全性とAWに焦点を当てた継続的改善プログラムとして設計されており、ウィー・ケアの倫理原則と同様に、食品安全、AW、従業員の安全と教育、公衆衛生、環境、地域社会の6項目について基準を示している(表10)。一部の州で規制・制限が設けられている母豚用ストールについて、本プログラムでは、非妊娠豚にはストール飼養か否かに関わらず適切な飼養面積の確保、妊娠豚には集団飼養を推奨しているが、個々の飼養施設の状況に応じた飼養管理が必要としている。
イ 輸送品質保証(TQA)プログラム
TQAプログラムは、豚の移動・輸送時の豚の取り扱いに関する基準を定めている。生産者や輸送業者といった豚の移動・輸送に関わる者は、TQA認定アドバイザーが実施する教育プログラムを受講することでTQA認証を受けられる。豚の健康維持やAWの確保だけではなく、移動・輸送時のストレスの軽減が体重減少の抑制や肉質の維持にも寄与するものとして参加が推奨されている。ウィー・ケアによると、現在、3万1000者以上の家畜取り扱い業者や輸送業者が認証を受けているという。
ウ 豚肉品質保証(PQA)プラス農場評価
PQAプラス農場評価は、PQAプラス認定アドバイザーによるPQAプラス認証生産者を対象とした農場評価であり、豚の飼養管理の手順や飼養施設の確認などが行われる。生産者がPQAプラス認証を受け、かつ農場がPQAプラス農場評価によって適切であると判断された場合に、PQAプラス農場ステータスを取得することができる。
(4)肉用鶏・鶏肉業界/採卵鶏・鶏卵業界
米国養鶏業界では、近年まで各団体、各企業がそれぞれ独自に持続可能性に向けて取り組んできた。しかし、2017年に全米鶏肉協議会(NCC)、全米鶏卵生産者組合(UEP)、米国鶏肉・鶏卵協会(USPEA)などの業界主要団体が中心となって、持続可能な鶏肉・鶏卵のための米国円卓会議(US─RSPE)という養鶏業界の持続可能性を主導する組織を立ち上げた。US─RSPEは、生産者、インテグレーター、食鳥処理・加工業者、GPセンター(鶏卵選別包装施設)、小売・外食業者などの鶏肉・鶏卵サプライチェーンの他、学術機関やNGOから構成される。また、US─RSPEは持続可能性の3本柱「鶏」「地球」「人々」を掲げ、「鶏」の優先事項にAWを組み込んでいる(図19)。US─RSPEは22年中に、業界の持続可能性への取り組みの進捗状況を測定して発信する「持続可能性の枠組み」を開始することとしている。
持続可能性という観点からは、他の畜種業界と比較すると遅れがちではあるものの、従来からAWに配慮した鶏の飼養管理のガイドラインは広く普及しており、今後、US─RSPEの取り組みと連携を取っていくこととされている。
ア 全米鶏肉協議会(NCC)アニマルウェルフェアガイドライン
NCCは1999年、すべての鶏が適切に飼養管理され、人道的に扱われていることを確認するための基準として、NCC・AWガイドラインを策定した。NCC・AWガイドラインにはブロイラー生産者向けと肉用種鶏生産者向けがあり、企業コミットメント、人材育成、ふ化場運営、飼養施設、輸送など、幅広く基準や目安が示されている(表11)。
イ 全米鶏卵生産者組合(UEP)認証プログラム
UEPは、消費者のAWへの関心が高まっていることを踏まえ、政府関係者、有識者、獣医師などから構成される諮問委員会に委託し、2002年にUEP認証プログラム、06年にUEPケージフリー認証プログラムを策定した。プログラムへの参加を希望する農場は第三者評価機関による評価の上、認証を受けることができ、認証された農場から生産される鶏卵には認証ラベルを付すことができる(図20、21)。その後、毎年同機関による監査を受ける。UEPによると、現在、米国産鶏卵の90%以上が本プログラムに参加している農場で生産されているという。
UEP認証プログラムには、クチバシの切断と処置、誘導換羽、捕獲・輸送、安楽死、バイオセキュリティ、飼養施設など、幅広く基準や目安が示されている(表12)。一部の州で規制・制限が設けられているバタリーケージ飼養について、バタリーケージ飼養向けのUEP認証プログラム、ケージフリー飼養向けのUEPケージフリー認証プログラムがあることからもわかるように、本プログラムはバタリーケージの飼養を制限するものではない。ただし、いずれの場合でも適切な飼養面積の確保を求めている。