各畜種の具体的なスマート畜産技術を「3 スマート畜産技術の類型」で示した分類に従って、主に製品化されているものを紹介する。
4−1 養牛
(1)畜舎
農林水産省のスマート農業技術カタログにも登録され、スマート技術を
謳った畜舎としては、「次世代閉鎖型牛舎システム」がある(図2)。これは筆者らの研究グループが開発し、大手メーカーが販売している。さまざまな媒体で紹介されており、現在日本でも10カ所以上で建設されているが、日本では珍しい閉鎖型牛舎である。最も多くの酪農家が課題として挙げるのが夏季の熱ストレスによる乳量の著しい低下である。閉鎖型搾乳牛舎は暑く、暗く、日本には不適切というイメージがある。このため、日本では開放型牛舎がほとんどであり、冬季にカーテンによって開口部を閉鎖する。軒・棟を高くし、開口部を大きく取ることで換気量を多くし、牛舎内を涼しくしようとしているが、実際は多数の送風機が
梁から下がっている。これはいくら開口部を大きくしても牛への熱ストレスが低減できないからである。次世代閉鎖型牛舎システムは閉鎖型の強制換気による対流熱伝達
(注)で多くの熱を牛から奪い、かつ、気流の制御を容易にして横断方向に気流を流すLPCV(Low Profile Cross Ventilation)方式が採用されている。牛舎の長手方向にゾーンを分割し、ゾーンごとの局所環境制御を可能とした(図2)。制御は夏季の温熱指標(THI)と画像によって牛を識別し、ゾーン内での牛の頭数によってゾーンごとに環境を制御する。また、冬期はエアロゾル濃度による制御が可能である。従来の開放型の暑熱対策と比較し、夏季の乳量の減少が抑えられている。加えて、閉鎖型牛舎のメリットとしては、鳥獣が牛舎内に侵入できず、白血病の媒介となる吸血昆虫も侵入しづらい。さらに牛舎からの排気空気の位置が特定されるので、バイオフィルターなどによる臭気対策が取りやすいことが挙げられる。一般社団法人全日本畜産経営者協会が2019年に報告したスマート畜産に関するアンケート調査では、畜舎環境制御に関するニーズが第二位であり、他の畜種でも一番目あるいは二番目に期待されている技術である。開放型牛舎においては、近年THIを指標として細霧機と送風機の制御システムが見られる。環境制御というと制御対象機器は送風機、換気扇と細霧機などが中心になるが、換気空間構造としての畜舎を捉えた技術は少ないのが現状である。
(注) 空気中や水中などで、流れに乗って熱エネルギーが移動する現象。
(2)作業の自動化
ア 飼料生産
土地利用型の作物で開発されているスマート技術と基本構成は同じである。「(4)クラウド」の項目も含まれてしまうが、ドローン利用による
圃場監視(雑草、栽植密度、栄養価の定量化など)技術、これらの情報をクラウドで統合、解析して、ロボットトラクタで作業を実施する流れとなる。収量予測も含め、圃場管理者の意思決定支援に使用される。これらの一連のシステムは実証試験段階である。
イ 給餌関連
酪農においては給餌(飼料の調理・給与、給水)が作業時間の約20%を占めており、これを自動化する意義は大きい。自動給餌機はつなぎ飼い方式、放し飼い方式の両方に機器が使用されており、牛舎レイアウトに対応して導入が可能である。搾乳機(あるいは搾乳ロボット)からの乳量データと連携することで乳量から算出される給餌量とその結果としての乳量で精密な栄養管理が可能となる。
このほか、餌寄せ作業に対して自律走行し、障害物などを避ける機能を備えた餌寄せロボットが海外のメーカーから多数販売されている(写真1)。餌を寄せるだけではなく、残飼量を計測してそのデータをクラウドにアップする機能を持ったロボットもある。残飼量のデータが得られれば前述の給餌量と連携して精密な栄養管理の実現が可能となる。
ウ 搾乳
スマート畜産の先導的な機器として搾乳ロボットがある。日本では約1200台以上導入されていると言われている。大きくは牛訪問型と機械訪問型に分類され、前者は放し飼い方式、後者はつなぎ飼い方式に対応している。よく日本で見られる搾乳ロボットは牛訪問型である。1台で50〜60 頭の搾乳が可能で、飼養規模に対応して導入台数を増やしていく。おおむね500頭規模までの農場が対象となる。それ以上の3000頭規模までではパーラー型と呼ばれる製品があり、近年導入され始めている。これはロータリーパーラーに対応したものである。特にGEA社の製品は搾乳ユニットと装着ロボットが一体となったユニットを各ストールに設置している(写真2)。
搾乳ロボットは搾乳作業の自動化に加え、牛から体温、BCS(ボディ・コンディション・スコア)、体重、歩数、動作行動などのさまざまな生体情報を収集する場となっている。また、搾乳される乳量、乳成分からも発情、疾病などに関する情報をリアルタイムで得ることができる。筆者の研究グループが実施したスマート農業実証プロジェクト 「次世代閉鎖型搾乳牛舎とロボット、ICTによる省力化スマート酪農生産の実証」では、近赤外センサーを用いて搾乳毎、個体別にリアルタイムで九つの乳成分を取得するシステムを開発した。
エ 哺乳
哺乳牛を群管理する集団哺育施設に設置する哺乳ロボットが従来からある。ドリンクステーションに哺乳牛が侵入すると、個体識別をして個体毎に設定された量を哺乳する。
一方、つり下げ型の哺乳装置がレールで移動して哺乳牛に個別に哺乳する方式が近年導入され始めている。哺乳牛を群管理するのか、個体管理するのかの考え方でどちらを導入するかが分かれる。
オ ふん尿処理他
畜舎からふん尿を搬出する自動機器にはスクレーパーが従来からあるが、フリーストール牛舎用にふん尿収集搬出ロボットが数社から市販されている。牛通路を設定時間になると自律走行してふん尿を胴体のタンクに回収し、所定の場所に運んで放出する(写真3)。
ふん尿処理では堆肥化処理において自動堆肥化装置が従来からある。ロータリ式、スクリュ式、クレーン式の開放型
撹拌施設がある。また、養豚で多く導入されている密閉縦型堆肥化装置は養牛でも導入が進んでいる。
フリーストール牛舎における自動敷料散布機が市販され、導入が始まっている(写真4)。敷料の交換は搾乳時に重機を使って熟練の操作で短時間に行なわなければならない。搾乳ロボットで搾乳を行っている場合は、交換に工夫が必要となる。これらに対して自動敷料散布機は散布の省力化に有効である。
放牧においては、ニュージーランドのHalter社がバーチャルフェンスを開発した(図3)。GPSシステムを使用した追跡可能なスマートカラーセンサー(太陽電池式牛用首輪)を装着し、音と振動で牛を誘導するシステムである。アプリ上で設定したバーチャルフェンスを越えないようにセンサーで誘導することが可能でスマートフォンやタブレットで牛の位置がわかり、操作ができる。
(3)個体イベント検知・生体情報の取得
個体の分娩、発情、疾病発見に関するセンシング技術が海外の製品も合わせて多数が市販されている。分類をまとめたものを表2に示す。メーカー数で最も多い製品は加速度計を
頸部に装着し、行動(反すう、起立、
横臥、歩行、休息など)をAI(人工知能)により識別して、行動変化からイベントを検知するものである。養牛では肉用牛よりも乳用牛に対する製品が多く市場に出ている。肉用牛では分娩を対象とした製品が多く、センシングでは画像により分娩、異常検知を行う製品が販売されている。これらは異常を検知するとアラートを作業者に通知する。作業者に対応方法を提示する製品はほとんどない。精度に関しては各メーカーが独自の値を公表している場合もあるが、不明確であることが多い。
表2に記載されているイベント検知製品ではセンサーと営農、経営まで発展させたクラウドを対にして提供している場合がある。また、表2の個別センサーの情報だけではなく、他のセンシング情報と合わせて、イベント検知の精度を上げるシステムも販売されている。このような場合はクラウドで各情報を統合して解析を行っている。
(4)クラウドによる統合制御と経営支援
イベント検知の製品では、センシング機器と同時に飼養管理を統合したクラウドシステムが付随している。これに経営的な支援も組み込んだシステムもある。通常は(1)から(3)で得られたデータを統合して、「見える化」を行っている。データの収集は実現できているので、「どのデータをどのように活用するか」がこれからの課題であると思われる。クラウドから直接機器を制御している製品はほとんど見られない。欧州では単にデータの閲覧だけではなく、作業者に対応方法を提示する製品もある。
4−2 養豚
養牛ほど多種の製品が販売されていないので、主な技術について述べる。
(1)畜舎
特に畜舎に関わる環境制御では新規の技術は少ない。閉鎖型豚舎では換気システムとの関係で入排気口の位置関係によってさまざまな形の豚舎がある。暑熱対策に対して効果があるトンネル換気方式の豚舎が普及しており、舎内の温度によって換気扇のON−OFFやインバーター制御で換気量を調整している。他に、悪臭問題を背景としてアンモニア濃度を因子とした環境制御システムがある。
(2)作業の自動化
給餌・給水に関しては従来から自動化されている。オールアウト後の豚舎内を清掃するロボットが市販されている(写真5)。また、母豚の群飼いに対応した給餌システムが海外の会社から販売されている。
(3)個体イベント検知・生体情報の取得
養豚業においては、体重測定の省力化というニーズが高いので、体重測定に関する技術がある。その一つに「デジタル
目勘」という製品がある。豚の画像を専用のハンディデバイスで撮影すると誤差4.5%以内で体重や推定枝肉量が表示される。他にも国内で画像から体重推定する技術が発表されているが、「デジタル目勘」が最も普及している。オランダのFancom社は肥育豚房の上部に3Dカメラを設置し、体型から豚の体重を推定するシステムを販売している。疾病の発見でも同社は、咳の音声を識別し、異常を通知するシステムを販売している。日本でもくしゃみ、咳の音声識別や画像から疾病を発見する技術開発は進められている。養豚では個体管理にかけられるコストが牛よりも格段に低く、飼養形態も生育ステージで異なるのでイベント検知の考え方を牛の場合と変える必要がある。
(4)クラウドによる統合制御と経営支援
生産現場のリアルデータをクラウドにアップして解析し、飼養管理にフィードバックする統合的なシステムは販売されていない。経営支援システムに関しては養豚経営者だけではなく獣医師、飼料メーカーなどのステークホルダーを取り込んだシステムが市販されている。
4−3養鶏
養鶏では肉用鶏と採卵鶏で飼養形態が異なるが、飼養羽数が多いので作業の自動化はスマート畜産が提唱される前から進んでいる。
(1)畜舎
地鶏以外は養鶏業の大規模化が進んでおり、鶏舎も閉鎖型のトンネル換気が多い。THIやアンモニア濃度を因子とした環境制御システムが開発されている。
(2)作業の自動化
給餌、給水、ふん尿搬出、鶏卵の回収、選別、梱包の自動化はすでに行われている。ブロイラーにおける捕鶏は人力で行っているところも多いが、オランダのPeer system社はブロイラーの捕鶏、と場への搬送システム、搬送車の洗浄システムなどの作業の自動化の機器を販売している(図4)。
死鶏を発見し、知らせることの自動化ニーズが高く、採卵鶏のケージ飼いに対して国内メーカーの大豊産業株式会社が「Robococco」という採卵鶏舎内を自立走行し、死鶏を発見、従業員のスマートフォンにその位置を知らせるロボットを開発、販売している(図5)。
(3)個体イベント検知・生体情報の取得
前述のFancom社がブロイラー鶏舎において天井カメラの画像で鶏の群としての活動量を計測して飼養管理に反映させるeYeNamicというシステムを販売している。
養鶏の場合は飼養個体数が多いので、個体のイベント検知というよりは群としてのイベントを検知し飼養管理に生かす方が費用対効果は大きいと考えられる。
(4)クラウドによる統合制御と経営支援
養鶏管理ソフトは従来から販売されているが、飼養管理のリアルデータを収集してクラウド上で解析、機器の制御、営農に活用するアプリは販売されていない。前述のFancom社が画像による鶏の活動量センシングに連携した営農支援システムを販売している。