農福連携の「福」の広がりとして、高齢者の農福連携への取り組みが今後期待されている(図1)。
わが国は急速に高齢化が進み、現在、65歳以上の人口は3621万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.9%となっている(2022年版『高齢社会白書』)。22年後には3900万人を超えると予想されている。こうした中で、心身に慢性的な疾患や障害などを有し、介護を必要とする高齢者は690万人以上となり、今後もますます増加していくと言える。
特に中山間地域や一部の都市地域などにおいては、少子高齢化や過疎化によって、高齢者の生活そして地域の維持が困難な状況になっている。そうした中で、高齢者が自分らしい人生を最後まで送ることができるようにすること、同時に地域の維持あるいは活性化が求められている。また、これまで高齢者は、介護や医療サービスなどを受ける対象と位置付けられてきたが、今後はそれらのサービスを受けながらも家庭や地域に役割を持ち、貢献することが期待される。
こうした中で高齢者の「農業活動」、広義の農福連携の一つである「高齢者の農福連携」への取り組みが期待されている。
この「農業活動」は三つに分類される。(1)農産物の生産により生活をしていくための「農業」(2)農産物を生産し対価を得るが、健康づくり・生きがいづくり・社会参加などが目的となる「ゆるやか農業」(3)農産物を生産し、健康づくり・生きがいづくり・社会参加・リハビリテーション・レクリエーションなどが目的となる「農的活動」─がある(報酬を得ても良い)。
今後は高齢者による「ゆるやか農業」と「農的活動」の取り組みが重要となる。生活の収入を得ることを目的とした農業ではなく、趣味や生きがいづくりなどとして農業を行ったり、あるいは農業を通じてレクリエーションやリハビリテーションなどにつなげるというものである。
この「ゆるやか農業」と「農的活動」には四つのパターンがある(濱田健司「高齢者の農福連携に関する取り組み実態および類型化」『共済総合研究』(第81号2020年9月)(表)。
(1)リタイヤした元農業者やリタイヤしようとしている農業者が一部の作業を手伝ってもらったり、農業法人などで雇用してもらい個人で行うより気楽に農作業に従事するという「リタイヤ農業者型農業」(2)農業未経験者や農業に主として従事していなかった定年退職者・帰農者などが就農する「定年退職者型農業」(3)介護予防・日常生活支援総合事業
(注2)における農的活動(・ゆるやか農業)に利用者などが参加する「介護予防型農的活動」(4)介護サービス事業の利用者などが介護サービスの中で農的活動(・ゆるやか農業)を実施する「介護サービス型農的活動」─がある(図2)。
(注2) 高齢者が要介護状態にならないように市町村・地域で要支援者や高齢者に対して計画的に提供される、介護予防や生活支援の事業のこと。
つまり、高齢者の農福連携はレクリエーション・リハビリテーション・健康づくり・生きがいづくり・介護予防を実現し、高齢者が役割を果たすことを目指すものである。