(1)換気と送風の違い
換気と送風は意味が混同されがちであるが、換気とは「牛舎内の空気を入れ換える」ことを意味する(図1)。また送風は、「風を作り広げて送る」ことを指す。
人の住宅に置き換えると、換気扇と扇風機の関係である。換気扇を回すと空気は入れ替わり、室内のこもった臭いや埃は排出されるが、室温は外気温に依存する。扇風機を回すと、風を受ける人は涼しく感じる(体感温度が下がる)が、換気扇を回していなければ、室内の空気をかき回しているだけで空気が入れ替わることはない。
牛舎の場合、閉鎖型牛舎だと住宅に近い構造となるが、開放型牛舎では常時、牛舎外からの風の出入り口がある場合、自然に換気できる(自然換気)。送風機を回し、牛体に風を送り体感温度を下げるとともに、風の入口から出口までの導線を工夫し、牛舎内にむら無く風を送れるよう送風機の配置を考えれば、換気の手助けにもなる(ハイブリッド換気(写真))。従って、牛体への送風=換気ではなく、排気ファンを用いた強制的な換気=牛体への送風でもない。混同しがちなので注意が必要である。
牛舎の換気は、1時間当たりの空気の入れ換え推奨回数が示されており、 気温の変化に伴い変動はあるものの、11月〜翌4月で4〜10回、5月と10月は30回、6〜9月は45〜60回の換気が推奨されている。
(2)自然換気
自然換気に限ったことではないが、換気を考える上で重要なのは、新鮮な牛舎外の空気の入口を考えることである。従って、牛舎は土地の形に合わせて建設するというよりは、その土地の一年を通しての風向を調べ、一番風(新鮮な空気)が入りやすい位置に入気口を配置する必要がある。特に自然換気の場合、自然の風を牛舎に取り入れ、その風圧で排気口(屋根のリッジ)から排気することになる(図2)。一般的には牛舎の側面を開放し、カーテンを用いて風圧を調整する。夏季はカーテンを開けて風を最大限に、冬季はカーテンの上部以外を閉め、牛からの熱放散による熱浮力(上昇気流)を利用し、軒下から入気し排気する。
自然換気の場合、重要なのは牛舎に 「新鮮な空気」が自然に入るかどうかである。都市近郊型の酪農でよく見る、近隣に住宅がある、隣に建物がある、牛舎が密接しているなどでは、風が入りにくい場合が多々あり、この条件下で自然換気は困難である。また、周囲に何も建物がなく自然換気に適した土地であっても、風が入らない構造であれば、季節に応じた換気回数は困難であり、夏季では牛舎内温度や湿度の上昇、冬季は結露することもある。特に日本のように、高温多湿になりやすい環境では自然換気は難しいかもしれない。
(3)強制換気
強制換気は、ファンを用いた強制的な換気である。牛舎の空気(風)の入口(入気)と出口(排気)を考える。排気ファンを排気口に設置して入気口から入る自然の空気を強制的に排気することを陰圧換気、入気用の送風ファンを入気口に設置して空気を牛舎内に強制的に送り込み、排気口から自然に排気することを陽圧換気という。強制換気には、(1)屋根のリッジ部分に排気用ファンを取り付け、自然換気の要領で強制的に上部のリッジから排気する換気システム(2)ストールや飼槽、通路と平行して外壁にファンを取り付け強制換気する縦断型換気システム(図3)(3)ストールや飼槽、通路と垂直に側面外壁にファンを取り付け強制換気する横断型換気(クロスベンチレーション)システム─(図4)などがある。
陰圧換気の場合、設置した排気ファン付近の側面が開放されていると、そこから外気を取り込み排気することになり、牛舎全体の換気力が弱まる。陽圧換気も同様にそばの外壁が開いていると、そこから取り込んだ空気が逃げる。従って強制換気の場合は、入気と排気の導線に沿って、側面をカーテンやポリカーボネートなどの外壁材でふさぎ、換気ロスを減らす工夫が必要となり、この考えをトンネル換気システムという。
(4)THIと体感温度
泌乳牛の暑熱対策を考える上で、牛体に風を当てる送風は重要である。これは体感温度を下げることを目的としており、換気とセットで風の流れを計算していない限り、THIを下げることにはつながらない。体感温度とは、風呂上がりに部屋の温度とは関係なく扇風機の前に立つと涼しく感じる現象のことで、体感温度=気温(度)−6×√風速(メートル/秒)で計算できる。牛体に秒速2メートルの風を送った場合、体感温度=気温(度)−6×√2(メートル/秒)となり、計算すると、体感温度=気温(度)−8.49
となる。例として、牛舎内温度が30.6度の環境下で、牛体に秒速2メートルの風を送った場合、牛の体感温度は22.1度に感じることになる。あくまでも体感温度であり、牛舎の温度を下げていることにはならない。