COVID-19拡大が引き起こした健康面へのリスクは、中国の乳製品需要を刺激した。「2020年中国乳事業者指数レポート」によると、COVID-19流行期間中、96%の消費者が牛乳を飲むことは免疫力向上に大きく役立つと認識している。中でも高い数値を示しているのは、低温殺菌牛乳に豊富に含まれているラクトフェリンや免疫グロブリンといった活性因子が免疫力を向上させるという価値についての共通認識である。また、4割を超える消費者(児童に限定すると5割以上)が摂取する乳製品の種類や摂取量、摂取頻度を増やしている。上記から分かるのは、COVID-19の拡大は、中国国民の乳製品消費をより促したということである。
(1)年々上昇する中国の乳製品消費量、特に2020年に顕著に増加
中国の乳製品消費総量は着実に上昇していたが、特にCOVID-19発生後に顕著な伸びを示している。図1に示す通り、中国国民の乳製品消費総量は、2015年以降、「上昇−下降−上昇」の特徴を示しつつも、全体としては増加傾向にある。15〜19年の期間に、総消費量(生乳換算)は3863万5000トンから4427万4000トンに増加し、この間の年平均増加率は3.6%であった。COVID-19発生後はさらに顕著な伸びを見せており、20年の乳製品消費総量は4762万4000トン、前年比7.6%増、数量にして335万トン増加した。これは、15〜19年の年平均増加率を大きく上回っている。
同期間の中国国民の乳製品1人当たり平均消費量もまた、図2に示す通り、「上昇−下降−上昇」の特徴を表している。15〜17年は、同消費量(生乳換算)が36.0キログラムから36.9キログラムに増え、この間の年増加率は1.3%であった。18年は一時的に同34.3キログラムまで下降したが、19年には再び同35.8キログラムまで回復した。その後、COVID-19の発生に伴い顕著に上昇し、20年には同38.3キログラム、前年比7.0%増、数量にして2.5キログラム増加と、15年以降で最も大きな伸びとなった。
中国の乳製品消費量が「上昇−下降−上昇」の特徴を示した原因は、18年の中米貿易摩擦による輸入タンパク原料価格の高騰
(機構注4)、それに関連した飼料コストの増加にある。酪農生産コスト全体の75.4%は飼料が占めており、その結果、一部の中小酪農家の撤退を加速させることになった(王長梅、劉瑶:2020
(参考文献11))。このことから、18年の乳製品生産量はそれまでの水準を下回る2687万1000トン(前年比8.4%減)となり、これに伴い消費量も下降した。その後、中国政府による酪農生産への指導と強力な政策サポートを受けた結果、増頭意欲を持った酪農家が増加し、中国国内の乳製品生産量も徐々に回復した。この結果、国民もより多くの乳製品を購入できるようになり、消費量も次第に上昇し始めた。また、COVID-19発生後の乳製品消費量が顕著に増加した原因は、COVID-19の爆発的な拡大に対する政府による指導が、乳製品に対する国民の消費意識を高めたためである。例えば、中国国家衛生健康委員会が公布した「新型コロナウイルス感染症の予防・対策のための栄養指導」には、「毎日できるだけ300グラムの牛乳乳製品を摂取する」といった提案がなされており、それが中国国民の飲食習慣に健康的意識を浸透させ、乳製品をはじめとする栄養補充食品の消費ニーズの増加を後押しした。その結果、乳製品は次第に国民が日常的に飲食するものとなった。
(機構注4) 詳細は、海外情報「米国産の畜産物や大豆など545ラインに追加関税を賦課(中国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002237.html)を参照されたい。
(2)都市・農村間に存在する1人当たり乳製品消費量の差
都市部と農村部での乳製品消費量には、依然として大きな差が存在している。また、COVID-19の拡大は、都市居住者の乳製品消費量に、より大きな影響を与えている。図3に示す通り、2010年以降の中国の都市部と農村部の1人当たり乳製品消費量は、いずれも、小幅な変動がありながらも全体としては上昇傾向にある。最近の動きに注目すると、都市部の同消費量は16年の16.5キログラムから19年には16.7キログラムへと増加し、この間の年平均増加率は0.4%であった。一方、農村部は、同期間に6.6キログラムから7.3キログラムに増加し、年平均増加率は3.5%であった。全体的に見て都市部の乳製品消費量は農村部よりも明らかに多く、その差は約2.5倍に達している。20年、COVID-19が常態化する中で、都市部の1人当たり乳製品消費量は前年より0.6キログラム増の17.3キログラム(前年比3.6%増)となったが、農村部では同0.1キログラム増の7.4キログラム(同1.4%増)であった。
以上から分かるのは、COVID-19発生後の乳製品消費量の伸びは、都市部が農村部を著しく上回っているということになる。これを分析すると、以下の三つの原因が見える。
・元々、農村部の購買力は都市部より低く、乳製品などの栄養補充食品を購入するための消費能力に差がある。
・農村部は、政府が公布した免疫力アップに関する一連の飲食習慣の提案をそれほど重視していないため、乳製品を追加して消費するという意識が低い。
・農村部では、乳製品のサプライチェーンが十分に整備されておらず、供給ルートが限られているため、消費量が伸び悩んでいる。
(3)国民1人当たり乳製品消費額は年々上昇も2020年は小幅下降
この数年、中国国民の1人当たり乳製品消費額は上昇傾向にあったが、COVID-19が発生するとやや下降した。図4を見ると、1人当たり乳製品消費額
(注2)は2015年以降順調に拡大しており、15年の253.8元(5139円)から19年の299.7元(6069円)へと増加し、この間の年平均増加率は4.5%であった。しかしCOVID-19が発生すると同消費額は下落し、20年には293.7元(5947円)と前年比2.0%となった。
同期間の1人当たり乳製品消費額の動きと要因を示したものが以下となる。
・14年以降、乳製品市場は、「新規ビジネスの開拓に伴う増産の段階」から「品質向上による価格上昇の段階」へと転換が進んだが、このときに国内の牛乳価格が上昇し、国民の収入水準もやや向上した。
・消費レベルが向上するにつれて高品質な乳製品への需要が高まり、それが15〜19年の1人当たり乳製品消費額の上昇につながった。
・20年の1人当たり乳製品消費額の下落については、COVID-19の爆発的流行が春節(旧正月)時期に重なったことで、中国国民にとって新年の主要な贈答品の一つである乳製品の購入が大きく減少し、深刻な在庫過多に陥った。
・その後、在庫解消のために企業が長期にわたり大幅な値下げによる販売促進などで末端消費を刺激したため、国民の1人当たり乳製品消費量は上向いたが、販売価格の引き下げから1人当たり乳製品消費額は小幅に下落することとなった。
(注2) 1人当たり乳製品消費額=市場規模÷人口。