1人当たり食肉消費量(純供給量)は1960年代に急速に増加した後、緩やかな増加に転じ、2000年代には肉類全体で年平均増加率は0.1%にとどまった(表)。特に牛肉は1990年代には自由化された輸入牛肉の増加によって肉類全体の消費がけん引された面があった。その後、BSE(牛海綿状脳症)の発生がわが国(2001年)や米国(2003年)で確認されたことから、一時的に1.9%の減少となったが、10年代は肉類全体で年平均1.6%の増加を記録し、牛肉も再び増加に転じていた。肉類の中では特に鶏肉の増加が年平均2.4%と著しく、12年度には豚肉を抜いて肉類の中で最も多い消費量となった(図1)。
コロナ禍の食肉消費への影響は、20年以降に表れたと考えられるが、1人当たり肉類の年間消費量は、20年度33.5キログラム、21年度34.0キログラムと19年度の33.5キログラムとほぼ変わらなかった。外食需要の激減を巣ごもり需要による家計消費の増加が埋め合わせたと考えられる。食肉消費の構成割合でも、20年次には家計消費向けが牛・豚・鶏肉すべてで3〜4ポイント増加していること(図2)、また、肉類の家計消費支出が20年度は例年と比べて増加傾向にあった点(参考文献4)などで確認できる。
当初、巣ごもり需要は価格が手頃な豚肉に表れ、牛肉は高価格のため、さほど大きくならないとの予測もあった。しかし、高価格で知られる飛騨牛は輸出やインバウンド、外食需要の激減への対処として、20年4月29日にクラウドファンディング(注2)を立ち上げ、わずか2週間足らずで1万人以上から1億1000万円以上の資金を集め、在庫が一掃されたという。消費者の高級牛肉への需要の強さが明らかになった。
(注2) クラウドファンディングとは、「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた「インターネット上のプラットホームを介して不特定+の人々から資金を調達する」ことを指す造語。
しかし、肉類別では21年度は牛肉で1人当たり0.3キログラム減少し、豚肉は0.3キログラム、鶏肉は0.5キログラム増加したことで合計0.5キログラムの増加となっている。牛肉生産量は20年度、21年度とも33万6000トン(農林水産省「食料需給表」部分肉ベース)と変わらない一方で、輸入量は対前年度比20年度で5.0%、21年度では3.7%減少(財務省「貿易統計」)しており、牛肉消費量の減少は輸入牛肉によると考えられる。輸入量減少の理由は、豪州は干ばつからの回復途上にあったこと、米国は現地価格の高騰が挙げられるが、輸入牛肉の主な使用先である外食需要の減退も影響していると考えられる。
以上のようにコロナ禍によって肉類の外食需要は減退したが、家計消費量の増加によって消費総量はほぼ変化しなかった。ただし、牛肉も家計消費は増加したものの、外食需要の減退分をカバーしきれず、豚肉、鶏肉の増加によって埋め合わされたと推測できる。近年の鶏肉消費の増加の背景には、健康や価格志向がある(参考文献5)。アフターコロナの肉類消費動向について、家計消費への回帰がこのまま維持されるかを現時点で予測することは難しい。例えば、21年度の肉類の家計消費額および量は20年度より減少を見せており、むしろ健康と価格志向というキーワードが今後の消費を左右することになるのではないか。
前述した家計消費支出に関する先行研究でも、65歳以上の無職世帯の平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合)は100%内外となっている。高齢世帯のみでなく、低所得世帯の割合はコロナ禍によって増加したと見られ(参考文献6)、巣ごもり需要として高価格の食材を享受した層がある一方、食費の捻出にも苦労する世帯が増えたと予想される。ニューノーマルに対応したフードシステムのあり方として「アグリビジネス企業は、効率性からフードシステム維持のレジリアンスへとかじを切り、(中略)グローバルな仕入れから、地産地消に力を入れていく。(参考文献7)」との予想もあるが、川下での低価格の鶏肉消費の増加は、所得の低下に対応した食行動とも考えられ、その意味から一概に国産回帰が定着するとも言えないだろう。