令和4年8月の鶏卵卸売価格(東京、M玉基準値)は、前年が、高病原性鳥インフルエンザ(以下「HPAI」という)の大規模な発生の影響などにより例年の価格を大幅に上回って推移していたことから、1キログラム当たり204円と7カ月連続で前年同月を下回る結果となった(図1)。ただ、204円という価格は過去5カ年の8月平均を31円上回っており、低需要期としては依然高い水準にあると言え、この一因としては、飼料価格をはじめとする生産コスト上昇によるものという見方がある。また、猛暑による産卵率の低下や小玉率の増加に加え、3年ぶりに行動制限のないお盆となり業務用需要も好調となったこと、下旬には学校給食の再開や大手ファストフードチェーンのプロモーションなど9月の需要回復を控えた引き合いが増加したことも同価格を押し上げた要因として挙げられる。
なお、同価格は、例年、夏場の需要低下に伴い下落基調で推移して底を打ち、秋口から年末の需要期に向けて上昇基調に転じるといった季節変動がある。本年も、例年通り、気温の上昇に伴う需要減退により軟調に推移して8月に底を打ったとみられ、8月17日からは上昇基調に転じ、月末には210円まで回復した。
今後について、供給面は、暑さの和らぎに伴い卵重が回復すると考えられるものの、HPAIの発生リスクが高まる時期に入ることや、昨今の生産コスト上昇が生産量に影響してくる可能性がある。需要面では、一般社団法人日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査」によると、外食産業全体の売上高が3年12月以降、前年を上回って推移している。COVID−19の影響下で消失していた鶏卵の業務用需要がおおむね回復傾向にあるとみられることに加えて、今後はおでんや鍋物といった季節需要の増加などにより、年末の最需要期に向けて一定程度の引き合いが継続すると予想される。
ただし、相次ぐ食品価格の値上げに伴う消費者意識の変化が今後の鶏卵消費へ影響してくる可能性も想定される。このことから、鶏卵相場は例年通り、秋から冬にかけての上昇が見込まれるものの、引き続き生産、消費双方の動向を注視する必要がある。
4年上半期の鶏卵輸出量、輸出金額ともに好調に推移
日本産鶏卵は厳しい衛生管理下において生産され、日本では生食されているという品質が評価され、近年、特に香港やシンガポールなどのアジア地域を中心に輸出が好調となっている。輸出関係者によると、海外において日本産鶏卵は富裕層に好まれる高級食品に位置付けられており、輸出先において他国産の鶏卵よりも高い価格で販売されているとのことである。
令和2年以降、COVID−19の影響により主な輸出先である香港において内食化が進んだことなどから、輸出量、輸出金額ともに増加傾向となっている。4年上半期の鶏卵輸出についても引き続き香港向けを中心に好調であることなどから、輸出量(殻付き卵)は1万4297トン(前年同期比44.1%増)、輸出金額は38億7479万円(同48.8%増)となった(図2)。また、輸出量および輸出金額の伸び率を前年同期と比較すると、輸出金額が輸出量を4.7ポイント上回っていることから、より高い単価で輸出されたものと考えられる。
国別の輸出量および輸出金額はそれぞれ、香港(1万3779トン、37億4187万円)、台湾(367トン、6731万円)、シンガポール(145トン、6428万円)、マカオ(6トン、133万円)となった。このうち、香港が占める輸出量の割合は96.4%と、前年に引き続き最も大きい結果となった。前年同様、HPAI発生道県からの輸出が一時停止されていたものの、最大の輸出先である香港向けについては、6月28日に北海道からの輸出停止が解除され、現在、すべての都道府県からの輸出が可能となっている。また、台湾向けについては、4年2月10日から3月31日まで1年3カ月ぶりに再開し、現在も、一時輸出停止地域を除き、4年7月25日から5年3月31日までの間の輸出が認められている。
このように一時停止措置が行われている地域があるものの、輸出全体では、4年3月以降、月別輸出量が2000トンを上回っており、特に、3月と4月は2カ月連続で過去最高を記録をするなど着実に輸出量が伸びている。輸出先において日本産鶏卵の市場が広がっている状況がうかがえ、円安の影響もあり下半期も好調に推移することが見込まれる一方、今後のHPAI発生状況や国際的な物価上昇などが今後の鶏卵輸出へ及ぼす影響も注視されている。
(畜産振興部 郡司 紗千代)