農林水産省が令和4年7月29日に公表した「令和3年 農業物価指数―平成27年基準―」について、概要を以下の通り報告する。
農業物価指数とは、農業における投入・産出の物価変動を表すもので、農産物価格指数と農業生産資材価格指数を用いて作成されている。農産物価格指数は、農家が販売する農産物の生産者価格に関する指数であり、農業生産資材価格指数は農家が購入する農業生産資材価格に関する指数である。なお、これらすべての指数は、基準年の平成27年を100とした数値となっている。基準年は5年ごとに改定されており、令和4年は改定年に当たることから令和2年を基準とした数値の公表も一部行われているが、本稿では過年度との比較をもって推移などを把握することを目的としていることから、平成27年基準を用いている。
令和3年については、農産物価格指数(総合価格指数(以下「総合」という))は畜産物等の価格の上昇があったものの、米、野菜等の価格が低下したことにより107.9と前年比2.8%低下した(図1)。一方、農業生産資材価格指数(総合)は飼料、光熱動力などの価格が上昇したことにより、106.9と前年比5.0%上昇した。過去7年間の推移を見ると、いずれも上昇傾向にある。農産物価格指数(総合)は平成28年以降、農業生産資材価格指数(総合)は30年以降、ともに100を上回って推移しており、両指数の差は、令和2年までは9.3ポイント程度農産物価格指数(総合)が上回っていたが、3年は1.0ポイント差とほぼ同程度となった。
【農産物価格指数】畜産物は前年からわずかに上昇
畜産物の農産物価格指数(注1)を見てみると、鶏卵で2年冬に発生した鳥インフルエンザによる供給減少で3年の価格が上昇したことに加え、肉用牛や和子牛などが2年と比較して3年は外食需要などが回復したことで価格が上昇したことなどから、前年比2.2%上昇し104.2となった(図2)。
(注1)農産物価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエイトは、全体を100とした場合、米は22.73、いもは2.13、野菜は25.82、果実は10.97、花きは5.02、畜産物は29.00などとなっている。
畜産物のうち肉用牛を見ると、2年はCOVID−19の影響で全品目で100を下回っていたが、3年は持ち直した(図3)。特に、前年からの騰落率が最も大きかったのはめす肥育和牛で、同13.7%上昇の106.3となった。また、乳用肥育交雑種は同9.5%上昇の98.3となったものの、唯一100を下回る結果となった。
月ごとの指数の動向を見ると、3年は緊急事態宣言解除後の経済活動の再開や輸出の回復などにより、おおむね高い水準で推移している。
肥育用乳子牛および和子牛の指数を見ると、2年はCOVID−19の影響による枝肉価格の低下に伴い子牛価格も低下していたが、その後枝肉価格の上昇などにより回復したことから、3年は肥育用乳用(交雑種)を除いたすべての品目で前年を上回った(図4)。指数を見ると、和子牛(おす)は同10.3%上昇の115.2、和子牛(めす)は同10.3%上昇の114.4、肥育用乳用おす(ホルスタイン種)は同9.4%上昇の126.5となった。一方、肥育用乳用(交雑種)については、3年は肉用牛と同様にと畜頭数の増加に伴い価格が低下しており、指数についても同4.3%低下の102.4となった。
肉豚の指数は、基準年である平成27年が豚流行性下痢(PED)の影響などで卸売価格が高水準だったことから、おおむね100を下回る推移となっているものの、令和2年と3年は緊急事態宣言などによる巣ごもり需要で卸売価格は比較的堅調に推移している。ただし、3年は消費者側の慣れなどにより需要が弱まったことなどから、同3.2%低下し94.4となった(図5)。
また、3年の生産量は平成7年以降最高となったことなどから供給量が増加し、前年と比較して枝肉卸売価格が下落傾向で推移した。このことから月ごとの指数も4〜11月のいずれの月も前年同月を下回って推移した。ただし、春ごろまで緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置が適用され、巣ごもり需要が堅調だったことから、枝肉卸売価格とともに、2〜3月の指数は前年同月を上回る結果となった。
ブロイラーの指数は、COVID−19の影響による巣ごもり需要が2年に引き続き旺盛となったことなどから、同2.4%上昇し、101.4となった(図6)。
鶏肉生産量は、消費者の根強い国産志向や健康志向などを背景に、近年増加傾向で推移している。鶏肉は、部位により仕向け先が異なることから、主にテーブルミートに仕向けられるもも肉と、総菜やチキンナゲット、ソーセージなど主に加工・業務利用の多いむね肉で価格動向は異なる。もも肉はCOVID−19の影響による巣ごもり需要で量販店を中心に堅調に推移し、夏以降は落ち着きが見られたが、むね肉は2年から引き続き加工用および量販店需要が好調だったことなどから、卸売価格が前年を上回って推移した。
これらのことから、月ごとの指数の動向を見ても同様の傾向があり、全体としては11月までは前年同月を上回って推移し、12月は前年同月並みとなった。
生乳の指数は同0.9%低下し、105.1となった(図7)。基準年となる平成27年から初めての減少となった。また、10キログラム当たり全国年平均価格は1048円となった。COVID−19の影響により学校給食用牛乳や業務用の飲用向け需要が減少し、乳製品向け処理量がやや増加したことなどによる、酪農家の受取乳価である総合乳価の低下などが要因とみられる。
鶏卵の指数は、同25.7%上昇し102.2となった(図8)。
近年の鶏卵の需給動向を見ると、鶏卵を使用したデザートやマヨネーズなどの加工向けを含めた旺盛な需要を背景に鶏卵の生産拡大が進んだことなどから、鶏卵の指数は平成28年以降、おおむね減少傾向で推移してきた。
令和3年は、2年に引き続きCOVID−19の影響による業務・加工用需要が減少していたものの、高病原性鳥インフルエンザの継続的な発生の影響により供給量が減ったことなどから、卸売価格は高水準で推移した。これらのことから月ごとの指数の動向を見ても、2月以降は前年同月を上回って推移し、平成27年基準では、初めて100を上回る結果となった。
【農業生産資材価格指数】飼料は前年からかなり大きく上昇
農業生産資材価格指数(総合)(注2)について、農業生産資材のうち畜産用動物を見ると、2年は図4のように肉用牛子牛の価格が下落していたものの、3年は価格が上昇したことなどにより、指数も前年比5.5%上昇の112.2となった(図9)。種別に指数を見ると、肉用牛子牛(去勢)や子豚(繁殖用雌)は大きく上昇し、それぞれ同10.6%上昇の112.9、同9.4%上昇の106.3となった。一方で、乳用牛(成牛)、肉用牛子牛(乳用肥育交雑種)(乳用交雑種)はいずれも前年から低下した。
(注2)農業生産資材価格指数(総合)の算出に用いる類別のウエイトは、全体を100とした場合、畜産用動物は5.88、肥料は10.35、飼料は19.25、光熱動力は9.12、農機具は18.82、賃借料および料金は10.56などとなっている。
飼料の農業生産資材価格指数を見てみると、同14.0%上昇の111.6となり、平成27年度基準では、初めて100を上回る結果となった。飼料費が畜産の経営コストに占める割合は高く、繁殖牛(子牛生産)は39%、肥育牛は30%、肥育豚は60%、ブロイラー経営は56%、生乳は北海道で41%、都府県で48%、採卵経営は47%となっている(注3)。
飼料のうち配合飼料について見ると、令和3年は同14.7%上昇の112.3となった。配合飼料価格は、飼料穀物の国際相場や海上運賃、為替の動向により変動する。平成28年は米国でとうもろこしが豊作だったことと併せ、海上運賃の下落や為替の円高傾向などにより配合飼料価格が下落したことから指数も低下したが、30年以降は配合飼料価格の上昇などにより、前年を上回って推移している。令和3年を品目別に見ると、乳用牛飼育用は同14.4%上昇の114.7、肉用牛肥育用は同13.4%上昇の112.6、若豚育成用は同16.0%上昇の112.6、幼豚育成用は同16.4%上昇の111.9、ブロイラー用(後期)は同16.2%上昇の110.5、成鶏用は同12.4%上昇の107.6と、すべての種類で100を上回った(図10)。3年は、ロシアのウクライナ侵攻前ではあるが、南米産の作況悪化懸念などによるシカゴ相場の上昇などを背景に配合飼料価格が高騰したことから、前年を上回る結果となった。
(注3) 資料:農林水産省「飼料をめぐる情勢」
畜産経営コストに占める飼料費の割合は、令和2年度畜産物生産費調査および令和2年営農類型別経営統計から算出。繁殖牛(子牛生産)は子牛1頭当たり、肥育牛および肥育豚は1頭当たり、生乳は生乳100キログラム(乳脂肪分3.5%換算乳量)当たり、養鶏(ブロイラー経営、採卵経営)は1経営体当たり。
(畜産振興部 田中 美宇、酪農乳業部 山下 侑真)