先述の通り、美由紀牧場は女性が中心の職場であるが、現在働いている女性全員が、求人サイト経由ではなく、農業大学校の実習で美由紀牧場を訪れたり、上別府氏の情報を聞きつけたりし、直接問い合わせたことで採用されており、女性従業員4人のうち3人は県外出身者である。このように、美由紀牧場は、女性が「ここで働いてみたい」と思う魅力のある牧場であり、その情報発信の場の一つが、上別府氏が所属している農業女子プロジェクトおよびかごしま農業女子プロジェクトである。
農業女子プロジェクトとは、農林水産省主導で平成25年に設立されたプロジェクトで、農業内外の多様な企業・教育機関などと連携し、農業女子の知恵を生かした新商品の開発や情報発信などを通じて社会全体での女性農業者の存在感を高め、職業としての農業を選択する若手女性の増加を図っている(図5)。設立当初、37人だったメンバーは、令和4年9月末時点で923人まで増加し、知名度も上昇してきている。
上別府氏が農業女子プロジェクトを知ったきっかけは、軽トラックを購入しようとしていた時に、たまたま目に留まったピンクの軽トラックである(写真5)。この軽トラックは、ダイハツと農業女子プロジェクトのコラボレーションにより開発されたもので、ボディーカラーがカラフルなことに加え、UVカットガラスの採用や女性でも乗降車しやすいようフロアの高さを下げるなど、女性目線で開発されており、上別府氏はこの軽トラックに一目ぼれし、後に購入している。このことがきっかけで農業女子プロジェクトに興味を持ち、プロジェクトについて調べてみると、多くの女性農業者が加入していることを知り、自身も加入してみることにした。
また、上別府氏は、農業女子プロジェクトから派生した地域版農業女子プロジェクトの一つであるかごしま農業女子プロジェクトにも加入し、さまざまな企画に参加している(図6)。
例えば、かごしま農業女子プロジェクトメンバーが生産する農畜産物を使用し、自分たちで考案した弁当を鹿児島県内の百貨店で販売する企画を毎年期間限定で行っている(図7)。販売時には自ら店頭に立ち、消費者と直接交流し、大盛況となっている。この企画は上別府氏が参加する前から存在するが、上別府氏の参加により、初めて弁当の具材に食肉が加わった。現在、上別府氏は知り合いの女性養豚農家にプロジェクトへの参加を持ち掛けるなど、さらなる活性化に向け積極的に活動しており、今後は、現在加入のない酪農や養鶏分野の女性農業者に加入してもらい、より多様な食材を使用した弁当になればと願望を語った。
また、地元の住宅メーカーとコラボレーションした企画では、住宅展示場の敷地内で、ジャムを作るワークショップやメンバーが生産する野菜などを販売するマルシェなどのイベントを開催した。上別府氏は、和牛と乳牛の違いや牛の妊娠期間が人間とほとんど同じであることなどを来場者に説明し、知識を深めてもらったりしている。
上別府氏は、このような農業女子プロジェクトの活動について、「消費者と直接交流できる機会があるだけではなく、農業女子プロジェクトのメンバー内での交流もあり、同じ農業女子と話していると気分転換にもなり元気になる」と語った。