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話題 畜産の情報 2022年12月号

第12回全国和牛能力共進会鹿児島大会の結果概要について

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公益社団法人全国和牛登録協会 専務理事 穴田 勝人

1 鹿児島大会について

 朝晩の透明な空気に秋の気配が感じられ始めた令和4年10月6〜10日、第12回全国和牛能力共進会(以下「全共」という)鹿児島大会が、種牛会場は霧島市牧園町、肉牛会場は南九州市知覧町の2会場において、多くの関係者ならびに来賓をお迎えし、成功裏に終わりました。今回の鹿児島大会は、開催直前まで新型コロナウイルス感染症拡大の影響が懸念され、各種感染症対策がとられた中での開催であったにもかかわらず、いざ始まってみると霧島山系のすがすがしい天候にも恵まれ、延べ約31万人と多くの来場者を迎えることができました。また、コロナ禍における各種制限がかかる生活が長く続きましたが、改めて人も牛も一堂に会することができる有り難さ、そしてその喜びについても実感した大会となりました。そして何より、今大会から新設された特別区(高校および農業大学校の部)の出品に関わる全24校の学生達が、全国からこの種牛会場に集結し、精一杯の取り組み発表と出品牛への熱い想いで、会場は活気と熱気にあふれ、さらには後継者を含む若い世代の出品者も今まで以上に多く見られ、担い手にとっても和牛は魅力ある産物に成長しつつあることを肌で感じた大会になりました。

2 全共の特徴

 なぜ、和牛のオリンピックとも言われるこの全共に、これだけ多くの人が引き付けられるのでしょうか。関係者にとっては、5年に一度、全国各道府県から選び抜かれた出品牛をじかに見ることができる唯一の機会であり、自分の飼っている牛と比較したり、あるいは県外の素晴らしい牛を見比べたりと牛の見方はそれぞれですが、どの牛にも魅力があり、それを五感で感じることができるという素晴らしさがあります。
 本来の全共の特徴は、日々の和牛登録事業を通じそれぞれの時代の要求に応じた形で和牛改良を進めていくため、改良上の狙いを出品区の設定に盛り込みます。本共進会に取り組むことによって、将来につながる優秀な素材を生産および発掘し、これを出品展示することによってその成果を確認し、全共開催後も改良を引き継いでいくことにあります。そこで全共は、開催の都度、開催の狙いに基づくテーマを掲げています。第12回全共鹿児島大会では、「和牛新時代 地域かがやく和牛力」というテーマで取り組んできました。つまり新しい時代にふさわしい和牛肉の新しい価値観の構築につながる全共にしたいという狙いがあります。特に昨今の和牛の産肉能力の改良は目覚ましく進展し、歩留に代表される肉量と脂肪交雑に代表される肉質については、遺伝的能力と肥育技術の向上により、非常に高いレベルに到達しました。今後は生産、流通、消費の動向を見据えて、効率的な牛肉生産に加え、食味性の向上に重点を置いた遺伝的改良と飼養管理技術の研さんが求められています。また、現在、和牛は一部の産肉能力に優れた種雄牛(血統)に偏りはじめ、全国同じような血統構成の集団になりつつあります。産肉能力の改良が進むことは良いことなのですが、種雄牛の供用に偏りが見られると、遺伝的多様性が減少し、将来の新しい改良目標に適応できないことが懸念されており、地域の優良遺伝子を活用した育種改良による「地域の特色ある牛づくり」の推進が求められています。和牛は大切な知的財産であり、それら地域固有の優良遺伝子を活用した取り組みの成果として「地域がかがやく」ことを期待した大会となっています。これらの「新時代」に込められた狙いと「地域かがやく」という地域の魅力が、これからの時代の担い手に対して和牛を生産・飼育することへの誇りとなり、これからもさらに和牛を大きく発展させていくエネルギー源としての「和牛力」につながることを願っています。

3 第12回全共鹿児島大会の結果概要

 鹿児島大会は第1〜8区および特別区の九つの出品区があります(表)。そして、今大会は新しく特別区として高校および農業大学校の部が設定されました。次の通り概要をまとめます。

 
(1)特別区(高校および農業大学校の部)
 特別区には全国から24校の出品がありました。この区の出品条件は、各道府県の改良方針に基づき出品校で生産・飼育したものを原則とし、自道府県内の学校間の連携によって生産したものも認められています。しかし、多くの学校では頭数がかなり限られた出品候補牛の中からの出品となるため、出品牛との巡り合わせも非常に重要な要素となってきます。さらに、その出品候補牛を鹿児島大会に出品するまでの長期間にわたり、毎日気持ちを込めて育成する馴致じゅんち作業は、それぞれに貴重な経験になったものと思います。また、審査会場における出品牛の展示と取り組み発表を通して、日頃の飼育管理における創意工夫や、和牛生産に対する熱い思いが多くの皆さんに伝わりました。出品牛の序列と取り組み発表の評価順位をそれぞれ勘案した結果、優等賞1席には鹿児島県立曽於そお高等学校(写真1)、優等賞2席には宮崎県立小林秀峰高等学校(写真2)が選ばれました。それぞれの出品牛の素晴らしさはもちろんのことですが、特に取り組み発表において、曽於高等学校では学校内の肉用牛班全員が和牛生産地帯である曽於地区の一員として頑張っていることや、曽於の雌系「まつ系」から造成された「華忠良」を使って取り組んだことが特徴的でした。また、小林秀峰高校では自校内で平均分娩間隔357日という高いレベルの母牛群を構成し、地元西諸県にしもろかた郡生産の種雄牛の利用を中心に改良を進めていることが素晴らしい点でした。





 

(2)肉牛の部
 5年前の前回大会肉牛の部全体(183頭)と比較して、枝肉重量はやや小さくなったものの、ロース芯面積は3.5平方センチメートル大きくなり、その他歩留面についてはほとんど差がありませんでした。一方で脂肪交雑については、前回大会肉牛の部全体の平均牛脂肪交雑基準(BMS)No8.3に対して、今大会は肉牛の部出品牛166頭の平均BMSNo10.3となり、さらに成績が向上しました。同時に、ロース芯内の粗脂肪含量についても前回大会45.0%に対して、今大会は50.2%と増加しました。また、オレイン酸などのおいしさに関連する一価不飽和脂肪酸(MUFA)予測値において、平均値は前回大会の54.4%に対して、今大会は56.4%と成績が向上した一方、ばらつきは40.8〜67.4%と非常に大きく、新しい価値観の構築に向けての今後の課題と考えられました。そのような中で第7区「脂肪の質評価群」の優等賞1席は、宮崎県の種雄牛「第5安栄」の産子3頭1群のセットでした(写真3)。特に3頭ともにBMSNo11以上、平均BMSNo11.3、また、MUFAも3頭ともに62%以上、平均MUFA63.4%と特筆すべき優れた能力で、肉牛の部の名誉賞と、特別賞として脂肪の質の斉一賞も受賞した素晴らしい枝肉でした。

 
 全共では効率的な牛肉生産を目指すため、出荷月齢が24カ月齢未満とされています。このような厳しい条件下においても、和牛は高品質の牛肉を生産できる素晴らしい産肉能力を備えていることを示すことができた点は肉牛の部のもう一つの成果です。前回大会から今大会に向けてのMUFAの成績向上を見ると、育種目標を明確に設定し、脂肪の質の情報や血統情報など正しい記録が収集できれば、必ずその目標は達成できるという一つのモデルケースともいえます。一般的には、出荷月齢24カ月で和牛は仕上がらないという意見もありますが、和牛の産肉能力が向上し、早熟早肥の改良が格段に進み、MUFAの値も改良が進んでいる昨今において、これらの特筆すべき長所を、どのように経営に生かしていくことができるのか、特に、出荷月齢の短縮は今後の検討課題です。

(3)種牛の部
 肉用種の特徴を堅持しつつ、種牛性(飼い易さ、健全性、繁殖性など種牛としての良さ)のいっそうの改良と地域の特色ある牛づくりがテーマとなっています。従来から全共ごとに和牛の発育・体積は大きくなる傾向が認められてきましたが、前回大会から今大会まで和牛のサイズが大きく変化したということはありませんでした。一方で種牛性においては、全体的に輪郭鮮明で品位に富むものが多く、総じて前回大会よりも種牛性に優れていました。また、種牛の部においては、出品区によって少し条件が異なっており、特に第4区「繁殖雌牛群」については、3代以上自道県内産となっており、地域の特色が表れた出品となりました。第4区「繁殖雌牛群」の優等賞1席は、鹿児島県の姶良(あいら和牛育種組合からの出品でした。この群は肉用種の特徴を堅持しつつも種牛性に優れ、輪郭鮮明で、体しまり、骨緊りともに良く、体上線は平直で、肩付よろしく、肢勢正しく、雌牛らしい品位においては抜群でした(写真4)。従って、種牛の部の名誉賞と特別賞として品位賞も受賞しました。なお、品位に優れた繁殖雌牛は、繁殖能力に優れており、出品牛個々の平均分娩間隔は、344日(3産)、342日(3産)、385日(3産)で、3頭の平均は357日となっており、一年一産を達成している素晴らしい能力でした。和牛の産肉能力の改良を重視してきた昨今ですが、今後は一定レベル以上の産肉能力を備えた牛群の中で、繁殖能力に優れ、地域の特色を備えた母集団の構成が求められており、よりいっそう種牛能力の改良を推進していただきたいところです。
 

4 次回開催に向けて

 今大会の一つのテーマであった新しい和牛肉の価値観の構築については、まず、肉牛の部において一歩前進した成績を残し、新しい時代に向けて良いスタートが切れたと考えています。和牛における産肉能力の改良において、肉量、肉質を堅持しながら、脂肪の量から質への転換が可能であることが示され、新たな育種目標を掲げて、和牛全体で取り組みを継続していくことが今後、いっそう重要となります。また、それらの取り組みを消費者まで届け、多様な消費者ニーズに応える仕組みを関係者全体で構築していく必要があると考えています。
 次に種牛の部では、肉用種の特徴を堅持しつつ、種牛性のいっそうの改良と地域の特色ある牛づくりが開催テーマにありました。出品牛は、地域間でばらつきも見られましたが、全体としては、輪郭鮮明で、品位に富み種牛性に優れ、地域の血統(系統)を活用した取り組みの成果が確認できました。特に優等賞上位クラスにおいては、それぞれの産地の特色が確認でき、地域の系統を意識した種雄牛の活用と造成の継続がさらに重要になってくることが分かりました。
 いまだ不安定な世界情勢が続き、生産資材の高騰などへの対応が喫緊の課題となっています。国内での食料や飼料自給率の向上と同時に、生産性を高めるための和牛改良が急がれます。具体的には、飼料利用性や子牛生産性を向上させ、脂肪の質の能力を高め、おいしい牛肉の安定的な生産につなげていく。その中で、地域の特色を求めつつ、地域の和牛をどのように改良していくべきなのかを考えていくことが重要です。今回の全共出品を通じ、また新たな育種目標に向かって改良を進めていくことが必要です。その新たな育種目標がすなわち次回全共の開催テーマにつながることと思います。5年後の北海道大会に向けて、和牛の魅力のさらなる発信とともに、和牛改良がいっそう進むことを願っています。


(プロフィール)
平成3年4月 社団法人全国和牛登録協会 入会
平成28年7月から 現職