22年1〜9月の生乳生産量、前年同期比0.7%増
アルゼンチン経済省によると、2021年の生乳生産量は1155万3300キロリットル(前年比4.0%増)と前年をやや上回り、2年連続の増加となった(図1)。同年は湿度が低いことに加え、異常気温の日が少なく牛の生育に適した気象条件に恵まれたことや、海外からの乳製品需要が堅調であったためである。近年の生乳生産量を見ると、16〜19年は1000万キロリットル台で推移したが、20年以降は1100万キロリットル台で推移している。
22年1〜9月の生乳生産量は836万7400キロリットル(前年同期比0.7%増)と前年同期をわずかに上回った。月ごとの推移を見ると、1月は厳しい高温と乾燥気候で十分な飼料の確保ができず、19年6月以来31カ月ぶりに前年同月を下回った。2月以降は気象条件が改善され生乳生産はやや持ち直したものの、6、7月には厳しい低温と乾燥気候で牧草の生育が十分でなかったことから再び前年同月を下回るなど、21年と比べ増加率が低下している。また、飼料穀物、肥料や燃料など上昇基調にあった生産コストが、ウクライナ情勢の影響でさらに拍車がかかったことなども生乳生産に影響したとみられる。なお、直近の報道によると、3期連続でのラニーニャ現象の発生の可能性が高まりつつあり、今後、乾燥気候による穀物生産などへの影響が懸念されている。
22年1〜9月のチーズおよびバターの輸出量、ロシア向けが大幅に減少
2021年の主な乳製品輸出量は、脱脂粉乳を除き前年を上回った(表1)。特に全粉乳、チーズおよびバターは直近5年間で最大の輸出量となった。
22年1〜9月の主な乳製品輸出量は、全粉乳、チーズおよび脱脂粉乳が前年同期を上回る一方、ホエイおよびバターは下回った。品目別で見ると、全粉乳は19年以降増加傾向で推移している。輸出先別ではアルジェリア向け(全体の62.9%)が最大で、これに次ぐブラジル向け(同28.8%)を合わせると全体の9割以上を占める。チーズについては、モッツァレラチーズやセミハードチーズを中心に19年以降増加傾向で推移している。輸出先別ではブラジル向け(同49.2%)が最大で、これに次ぐチリ向け(同32.2%)を合わせると全体の8割以上を占める(表2)。21年はロシア向けが第3位であったが、ウクライナ情勢の影響により22年3月以降、同国向けが大幅に減少(前年同期比70.7%減)する一方で、ブラジルおよびチリなどの輸出先でそれを補った。バターについては、21年まで増加傾向で推移してきたが、22年は減少に転じた。21年にはロシア向けが全体の85.2%を占めたが、22年はチーズと同様に大幅に減少(同41.0%減)する一方で、他の輸出先でその減少分を補いきれなかったためである。
生産者乳価は引き続き大幅な上昇
アルゼンチン経済省によると、2022年9月の生産者乳価(ペソ建て)は、1リットル当たり55.50ペソ(53円:1ペソ=0.95円
(注)、前年同月比68.0%高)と大幅に上昇した(図2)。生産者乳価は18年ごろから上昇傾向が強まり、特に21年ごろからが顕著となっている。アルゼンチンでは近年、高水準のインフレが続いており、21年は年率50.9%と近年で最も高かった19年のインフレ率(同53.8%)に次ぐ高さとなった。22年は、21年をさらに上回るインフレ率が見込まれている。
同国政府は、急激な物価上昇に対応し、国内に物資を安定供給するため、価格統制策を講じてきたが、十分なインフレ抑制に至っていない。また、政府は22年10月、食品などの生活必需品の価格を90日間据え置く制度「プレシオス・フストス」の導入を公表した。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「現地参考為替相場」の2022年10月末Selling相場。
(調査情報部 井田 俊二)