ここ数年の米国の豚肉需給動向は、表3の通りである。直近の変化をパッカーの視点から見ると、2017年以降、輸出需要に後押しされる形で生産量が拡大し、加工場の処理能力向上が進められていたが、20年にはCOVID-19の拡大に伴い、処理場の閉鎖や生産体制の混乱といった困難に見舞われた。21年はこうした混乱から徐々に落ち着きを取り戻していったが、22年には飼料穀物価格の上昇など生産コストの増加による豚の供給減、インフレやドル高に伴う国内外の需要減、卸売価格の低下といった課題が発生し、パッカーは新たな困難に直面している。後項では、供給面と需要面とに分けて、直近の動向および今後の見通しについて述べる。
(1)供給の減少と増頭意欲の低下
米国の豚総飼養頭数の推移を見ると、2017〜20年にかけては増頭傾向だったものの、20年以降は縮小傾向にある(図4)。また、肥育豚価格は20年以降上昇しており、本来であれば供給増の好材料になるところであるが、USDAが22年9月に公表したデータによると、繁殖豚飼養頭数、肥育豚飼養頭数、6〜8月の産子数がすべて減少し、生産者の9〜11月と12月〜翌2月の分娩母豚数見込みもすべて減少している(表4)。これは、飼料価格や、豚舎の空調などに使用するエネルギーコストの高騰、カリフォルニア州法などの規制リスク(後述)、国内外の需要減速などにより今後の見通しが不透明なことなどにより、生産者が増頭に慎重となっているためである。USDAは23年の豚肉生産量を前年比0.8%増と予測しているが、規制リスクの見通しがつき、肥育豚価格がさらに上がるまでは増産は行われないと見込まれ、豚群の拡大は23年の後半になるとみられている。
(2)国内需要の減速とパッカーの粗利益の減少
表3によると、2020〜21年にかけて国内消費量はわずかに減少しており、22年の数値は未公表であるものの、個人消費量見込みは横ばいとなっている。これは、食品価格全体がインフレにより上昇する中で、牛肉や豚肉から鶏肉へと消費が移行したためである。また、国内需要、輸出の減少により冷凍在庫が増加しており(図5)、卸売価格も低下している。なお、21年の小売価格の上昇は主に需要の高まりによって引き起こされたのに対し、22年の価格の上昇は、生産コストの上昇や労働者不足によってもたらされているという要因の違いがある。
図6は小売価格に占める小売、パッカー、生産者のそれぞれの粗利益の割合を示したものである。20年には肥育豚価格の下落により生産者の割合が低下した一方、小売店の割合は高くなっていた。しかし、22年には肥育豚価格の高騰が小売価格を押し上げたため、生産者の割合が高くなり、小売店およびパッカーの割合は低下している。
なお、図6ではコスト変動は加味されていないことに留意されたい。生産者は飼料価格やエネルギーコスト、パッカーは人件費、エネルギーコスト、金利上昇に伴う資本コスト、小売業者は輸送費や人件費がそれぞれ上昇しているため、こうしたコストを差し引いた後の経常利益はさらに圧迫されていると想定される。専門家からの聞き取りによれば、23年に最も経常利益を上げると見込まれるのは生産者で、逆に最も少なくなるのはパッカーと見込まれている。
また、図7は豚1頭当たりのパッカーの粗利益を算出したもの
(注2)であるが、20年にはCOVID-19の拡大に伴う肥育豚の価格下落と卸売価格の上昇により一時的に高水準となった。一方、22年(1〜10月)は、肥育豚の供給ひっ迫に伴う価格の上昇と卸売価格の下落により半分以下となっている。
今後の見通しとして、23年の秋以降に肥育豚の供給増の期待から肥育豚価格が下がるため、季節的要因により現在よりは改善すると見込まれる。また、USDAは23年の1人当たり牛肉消費量を前年比5.6%減、豚肉消費量を同1.4%増、ブロイラー消費量を同1.8%増と見込んでいる。これはインフレによる牛肉消費の減少により、豚肉の消費が代替的に拡大する想定と考えられるが、需要増が卸売価格上昇につながれば、パッカーにとって好材料となる。
(注2)図7の粗利益はスポット取引価格を基準として算定されているが、スポット取引価格は、豚の需給が緩めば価格は割引に、需給が強まれば価格は割高になる傾向があるため、他の取引形態と比べ、変動が強調される点に注意されたい。
(3)輸出需要の減速
図8、9は、ここ数年の輸出量・輸出額の推移を輸出先別に示したものである。輸出量が生産量の2割強を占める中、2021年以降、輸出量は減少傾向となっている。これは、ドル高や中国向け需要の落ち着きに加え、物流の停滞に伴う貨物遅延により、賞味期限の比較的短い冷蔵豚肉の輸出量が減少したことなどが影響している。
主要輸出先のうち、特に輸出量の変動が大きいのはメキシコと中国向けである。まず、メキシコ向けについては、15年以降、20年を除いたすべての年で輸出先第1位となっており、22年(1〜9月実績)も前年同期比18.3%増と好調に推移している。特に22年は、為替がペソ高で推移していること、かつ、国内生産量の伸びを上回る豚肉消費の拡大など輸出を後押しする要因が多く、今後も主要な輸出先となると見込まれる。
一方で、中国向けは20年をピークに減少傾向にある。従来、中国はバラエティミートの主要市場であったが、アフリカ豚熱により中国の豚肉生産量が劇的に減少したことで、部分肉や枝肉を大量に輸入するようになった。しかし、豚肉生産の回復などから22年現在、バラエティミート中心の輸入に戻りつつある。また、22年の輸出減速の背景には、ゼロコロナ政策による検査などの中国側の輸入コスト増加や、報復関税により他国産に振り替えられているという事情もある。今後、ゼロコロナ政策や、報復関税の動向によっては、再び同国向けの輸出が拡大する可能性もある。
3で述べたほかにも、米国の豚肉パッカーはさまざまな課題に直面している。以下では、(1)パッカー・ストックヤード法(2)カリフォルニア州法12号(3)加工場における労働力不足―の3点について、その概要と今後の見通しを紹介する。