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調査・報告 畜産の情報 2023年1月号

南九州の未利用資源“規格外かんしょ”の高度飼料利用に向けた調査研究

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宮崎大学農学部 教授 川島 知之
宮崎大学農学部 准教授 高橋 俊浩
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 上級研究員 境垣内 岳雄
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 上級研究員 倉田 理恵

【要約】

 規格外かんしょは有用な飼料資源であり、南九州には5000トンを超える賦存ふぞん 量があると推定された。その量は、直播栽培が普及すると増える可能性がある。飼料化のコスト削減を図るため、規格外かんしょを原料としてサイレージを調製し、それを肥育豚に給与すると差別化できる豚肉の生産が可能になることが示された。さらなるコスト削減に向けては、収集やサイレージ調製における規模拡大や機器の改良も必要である。また、その普及のためには傷んだかんしょが混入しないための工程管理も必要とされる。

1 はじめに

 わが国では、畜産の持続的発展に向けて、極めて低い濃厚飼料自給率が大きな課題となっている。濃厚飼料自給率の向上に向けて、規格外かんしょの飼料利用に焦点を当てた調査研究を実施した。
 かんしょは年間約80万トンが生産される主要な畑作物であり、鹿児島県、宮崎県からなる南九州はかんしょの主要な産地である。また、同地域は全国でも有数の養豚地帯であり、豚飼養頭数は鹿児島県が全国第1位、宮崎県が同第2位である。養豚経営において、飼料は生産コストの6割強を占めるが、その大部分を輸入に依存している。そのため、養豚経営は飼料用穀類の価格や需給状況に大きな影響を受けている。
 原料用や青果用として出荷できず廃棄されている未利用資源の規格外かんしょは有用な飼料資源であり、南九州における養豚用飼料の自給率向上に資すると考えられる。これまで規格外かんしょの利用が進まなかった要因として、その収集や飼料調製の手間やコストに関する課題があり、一方で、輸入穀類の入手が安価で容易であったことが挙げられる。しかし、高止まっていた飼料用トウモロコシ価格が2020年後半からさらに急騰し、国内の濃厚飼料生産拡大が喫緊の課題となっている。そこで、規格外かんしょの飼料利用については、コストを削減するため、粗粉砕・ギ酸添加によりサイレージ調製し、それをリキッドフィーディングにより飼料利用する体系を想定し、規格外かんしょの収集と飼料調製、そして豚に多給する肥育試験を実施するとともに、安全性に関する調査を実施した。また、かんしょ栽培の画期的な省力化技術として直播栽培に向けた品種育成ならびに栽培体系の研究を進めているが、この栽培体系ではサイズの小さい規格外かんしょが多く発生する。この直播栽培の特徴を生かし、省力化と飼料生産を両立させる研究調査も実施した。

2 規格外かんしょの発生量

 農林水産省の作物統計によると、2021年度のかんしょの作付面積は約3万2400ヘクタール、生産量は約67万1900トンである。都道府県別生産量では鹿児島県が第1位の19万600トン、宮崎県が第4位の7万1000トンであり、近年、サツマイモ基腐もとぐされ病の被害を受けているものの、鹿児島県と宮崎県を合わせた南九州地域は依然として全国生産量の約40%を占めるかんしょの大産地である。
 かんしょには出荷基準があり、規格外は商品とならないため圃場ほじょうで廃棄される。例えば、南九州でのかんしょの主用途である焼酎用、でん粉用では重量による基準があり、かんしょ1個が50グラムに満たない小さいサイズは「規格外かんしょ」となる(写真1)。ここではこの基準にならい、50グラム未満のサイズを規格外かんしょと定義して、南九州地域で飼料として利用できる可能性のある規格外かんしょの発生量を試算した。

 
 かんしょは苗を植える「挿苗栽培」が慣行であるが、育苗から採苗・定植までの作業負担が大きいため、省力化を目的として、ばれいしょのように種いもを直接圃場に植え付ける「直播栽培」が研究されている(境垣内ら 2020)(写真2)。今後、挿苗栽培の一部を直播栽培に転換することを目指しており、直播栽培での規格外かんしょの発生量についても調査を行った。
 調査は2021年に国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター都城研究拠点(宮崎県都城市)の圃場で実施した。挿苗栽培では、焼酎・でん粉用の主要品種である「コガネセンガン」「シロユタカ」、青果用の主要品種である「べにはるか」を供試し、4月下旬に苗を植え付けた。直播栽培では直播栽培適性のある3品種・系統を供試し、3月下旬に種いもを植え付けた。なお、直播適性のある品種・系統とは、植え付け後、親いも(種いも)が肥大しないように改良された品種・系統である。収穫調査は挿苗区、直播区ともに10月下旬に行い、茎葉を除去した後、収穫機械でうね内のかんしょを掘り出した。掘り出したかんしょのうち、50グラム以上を出荷可能な「規格内かんしょ」、また、50グラム未満は「規格外かんしょ」として分類し、収量(生重量)の調査を行った。
 慣行の挿苗栽培した3品種では、規格外かんしょの割合は全体の1.64〜3.20%の範囲にあった(表1)。3品種の平均値から2%を挿苗栽培の規格外かんしょ割合と仮定すると、鹿児島県、宮崎県のかんしょ生産量が19万600トン、7万1000トンであることから、圃場で廃棄されている規格外かんしょは鹿児島県で3812トン、宮崎県で1420トンと試算され、南九州において、5000トンを超える賦存ふぞん量(潜在的な存在量)があることが分かった。
 写真2のように直播栽培では、1株当たりのいも数が多くなる。このため、直播栽培では規格外かんしょの割合も挿苗栽培と比較すると大きく、5.09〜8.59%の範囲にあった。直播適性品種・系統の規格内かんしょ重は、挿苗栽培した品種と同程度以上であることから、直播栽培が挿苗栽培の一部を代替した場合には、現状よりも多くの規格外かんしょが発生すると推察される。



3 規格外かんしょの回収

 規格外かんしょを飼料として利用するためには、収穫時の効率的な回収が必要である。収穫機は、掘り取りと土とかんしょの分離のみを行う「分離型」と、掘り取りとかんしょの分離に加えて、コンテナなどへの回収までを行う「分離調整型」に分けられる。近年では、分離調整型の自走式ハーベスタが実用化され、広く普及している(写真3)。このうち、コンテナ収納タイプは主に青果用のかんしょで、フレコンバッグ収納タイプは焼酎・でん粉用のかんしょで用いられる。コンテナ収納タイプでは、コンベアにすべてのかんしょが運ばれるため、手作業での選別が必要となるものの、規格外かんしょの回収率は高い。一方で、フレコンバッグ収納タイプはコンベアの前にリフトがあり、小さいサイズのかんしょはふるい落とされる設計になっている。このため、コンテナ収納タイプと比較すると規格外かんしょの回収率はやや低くなると推察される。南九州地域では焼酎・でん粉がかんしょの主用途であり、フレコンバッグ収納タイプの稼働が多い。規格外かんしょを効率良く回収するためには、フレコンバッグ収納タイプでの機械的な改良が必要と考えられる。
 市販化はされていないが、かんしょ株収穫機が開発されている(馬門ら2019)。株収穫機とは、かんしょを圃場で株から切り離さず、株ごと大型コンテナに収納するよう改良された機械であり、選別は別途、圃場外で行う。この株収穫機が実用化され、普及すれば、規格外かんしょの回収について、より効率的な体系が構築できると期待される。

4 規格外かんしょの飼料成分

 前述の挿苗栽培した3品種と、直播栽培した3品種・系統それぞれの、規格内かんしょと規格外かんしょの飼料成分を表2に示した。規格外かんしょは規格内に比べ可溶無窒素物(炭水化物)が減少し、粗繊維が増加する傾向が見られた。これは、規格外かんしょはいもの皮部分の占める割合が高くなり、内部のデンプン質主体の部分が相対的に少なくなったためと考えられた。しかし、成分から推定したエネルギー栄養価に影響は見られず、デンプン質飼料としての飼料価値についての変化は小さいと考えられた。また、日本標準飼料成分表に記載されているかんしょの成分値と比べ、現在、南九州で栽培されている代表的なかんしょは、生産用途の違いを問わずデンプン質含量が向上していることがうかがえた。これは、九州・沖縄におけるかんしょ育種目標が、デンプン質歩留まりがより高いものを目指していたことに関係しているのではないかと考えられた。また、粗タンパク質含量の減少は、育種に伴って栄養素の代謝や機能を阻害するトリプシンインヒビター含有量が減少したことに関連していると考えられた。


5 かんしょサイレージの調製

 規格外かんしょの発生時期はかんしょ収穫時期に集中しており、飼料利用を推進するためには低コスト保存技術の開発が必要である。かんしょは水分含量が高く、乾燥法による飼料調製はコストが課題となる。そこで、低コストなサイレージ調製技術として、ギ酸添加サイレージ化を考案した。規格外かんしょをギ酸添加サイレージとして調製するためには、かんしょを粉砕し、ギ酸と混合し、密封する工程が必要となる。そのため、粉砕機の能力向上がサイレージ調製コスト削減のために重要となる。そこで、大型機械を用いた飼料化先進事例について生産能力と処理費用に関する調査を行った。
 加工用、青果用かんしょを通年出荷し、菓子原料用かんしょ残さを飼料用として出荷している茨城県にある業者の視察を行った。粉砕機はスクリュー式ポンプの先端に8ミリメートルのスクリーン(粉砕時に粒の大きさをそろえる器具)を設けて連続粉砕を行うものである(写真4)。粉砕から保管までの作業は次に述べる手順を1名で行う。(1)原料投入後に定量供給ポンプにより0.4%ギ酸の自動供給を行い(2)粉砕されたかんしょは樹脂製のホースから排出され、500リットルのふた付き大型樹脂製コンテナに充てんし(3)充てん後、表面を平らにならし(4)表面にギ酸溶液を噴霧してからポリエチレンシートで覆い(5)コンテナにふたをしてから(6)積み重ねて保管を行っていた。
 1日当たり3〜4コンテナの粉砕かんしょを調製し、3〜4日かけて12〜16個のコンテナ1回分として調製し、週に2回養豚生産者へ出荷を行っていた。コンテナによる保管は通常3〜4日であり、養豚生産者で直ちにリキッドフィード飼料として使用しているとのことであった。
 コンテナに充てんしたかんしょ原料の粉砕からコンテナ詰めまでの作業時間は、コンテナ1個当たり20〜30分であり、後述する肥育試験で使用した小型粉砕機(写真5)に比べて約2〜2.5倍の処理能力であった。



6 かんしょサイレージの安全性に関して

 かんしょの塊根かいこんは黒斑病などの病原菌の感染やアリモドキゾウムシなど害虫の食害、傷害により、イポメアマロンなどのファイトアレキシン(防御物質)を作り出すことが知られている。このため、イポメアマロン類は外敵からの刺激に応答して合成が開始され、その反応は栽培中でも収穫後の貯蔵中においても変わらない。これらは特有の匂いと苦みを有するため、人が口にするとすぐに匂いや味がおかしいことに気付き食べるのをやめる。しかし、家畜類では餌に混ざると食べてしまい、食中毒を起こす事があり、最近では2016年に鹿児島県において黒毛和牛が傷害かんしょにより中毒死した事例が報告されている(中村誠ら2020)。今回は傷害のない健全なかんしょではあるが、サイズが50グラム以下の規格外かんしょの飼料利用を目的とし、エサとしての安全性を担保すべくイポメアマロンの有無を調査した。
 前述の規格外かんしょ(3区分:T、U、V区)と、比較対照に50グラム以上の規格内かんしょ(1区分)を供試した。イポメアマロン類の抽出および薄層クロマトグラフィー(TLC)による検出は石井ら(2012)の方法に準じて行った。イポメアマロン類はアルカロイドの染色試薬であるエールリッヒ試薬により赤〜紫色に染色される(写真6)。
 TLC分析の結果のまとめを表3に示す。「規格内かんしょ」だけでなく「規格外かんしょ」においてもイポメアマロンは検出されなかった。また、品種・系統間による違いも認められなかった。さらに、挿苗と直播という栽培法の違いによる影響も認められなかった。これに対して、検証用として用いた傷害かんしょの抽出液はイポメアマロンが検出された。これらの結果は、イポメアマロンは病・傷害かんしょから生成されるというこれまでの報告を支持するものだった。イモ類のばれいしょについては、小さくて未熟なものは毒性のあるアルカロイドの「ソラニン」などを多く含んでいることがよく知られているが、かんしょの毒性物質であるイポメアマロンについては全く生成メカニズムが違うと推察される。今回の結果より、規格外かんしょを飼料利用するに当たって、健全な原料はイポメアマロン類を有していないことが明らかとなった。



7 かんしょサイレージ主体飼料を給与した肥育豚の飼養成績と肉質

 リキッドフィーディングにより豚に給与することを想定して、かんしょサイレージを主体とし、生焼酎かすを添加した飼料の給与が肥育豚の発育および肉質に及ぼす影響を調査した。焼酎工場や圃場で排出された規格外かんしょを使用してかんしょサイレージを調製した。前述の圃場調査では、50グラム未満を規格外と定義したが、この試験では腐敗したものは目視にて排除して、商品、もしくは原料として利用できないものを原料とした。日本標準飼料成分表の値を用いて、試験区のTDN(可消化養分総量)を83.0、対照区のTDNを86.2とし、両区の粗タンパク質(CP)を合わせるように飼料を設計した(表4)。かんしょサイレージを多給するために、試験区のTDN含量は低くなった。1腹のLWD交雑種去勢雄8頭を、各区4頭ずつ用いた。試験開始平均体重は70.0キログラムで、単独飼育、飽食給与、自由飲水とした。約115キログラムに達した時点で出荷し、豚肉の理化学分析を実施した。
 試験区の乾物摂取量は高い傾向にあり、平均増体量に差はなく、乾物当たりの要求率は高くなる傾向を示した(図)。飼料中の利用可能なエネルギー含有が低下すると、豚は、物理的な飼料摂取可能量や、その他の環境要因によって制限されるまで、より多くの飼料を食べることによって、必要とされるエネルギー摂取量を維持しようとすることが知られている。本試験でも同様のことが生じており、かんしょサイレージは繊維含量が多いものの、必要とされるエネルギー摂取量を満たすように摂取量を増加でき、物理的に飼料摂取量を抑制するものではなく、好性にも優れたものであったと考えられる。




 
 背脂肪厚やロース芯面積に差はなかったが、枝肉歩留は試験区が低かった。飼料中の繊維含量を高めると、増体量および飼料効率が低下し、枝肉歩留も低下するとの報告があり、本試験では、増体量に差がなかったものの、繊維の摂取量が多くなり、枝肉歩留も同様の結果となったものと考えられる。
 胸最長筋の理化学的特性に関して、皮下脂肪内層の脂肪色についてはL*値は試験区が高く、a*値は低かった。このことは消費者から好まれる白い脂肪色の豚肉が生産されることを示している。皮下脂肪内層の脂肪酸組成について、試験区はオレイン酸が高い傾向を示し、リノレン酸は有意に高く、リノール酸は低かった。オレイン酸が高いことは、肉質の改善に寄与する可能性を示している。皮下脂肪内層のインドール含量に差はなかったが、スカトール含量は試験区が低かった。スカトールは豚肉の脂肪組織内に存在し、不快なにおい物質であり、それが低くなることは、嗜好性の高い豚肉生産につながる可能性を示している。
 以上の結果より、かんしょサイレージ主体飼料の給与は乾物要求率が高くなる傾向はあるものの、嗜好性に問題はなく、生産された豚肉の脂肪組織中のオレイン酸は高い傾向があり、皮下脂肪色は白くなり、脂肪中のスカトール含量が低くなることが示された。

8 おわりに

 2020年後半から飼料価格が急騰し、22年春以降、ウクライナの情勢も加わって、さらに高い水準となっている。飼料を安価に安定供給するというシステムが崩れつつあり、飼料自給率の向上が喫緊の課題となっている。その対策の一つの取り組みとして、圃場に廃棄されている規格外かんしょを飼料化するための調査研究を実施した。
 規格外かんしょは有用な飼料資源であり、南九州には5000トンを超える賦存量がある。その量は、直播栽培が普及すると増える可能性がある。飼料化のコスト削減を図るため、かんしょサイレージを調製し、それを肥育豚に給与すると差別化できる豚肉の生産が可能になることが示された。さらなるコスト削減に向けて、収集やサイレージ調製における規模拡大や機器の改良も必要であり、また、傷んだかんしょが混入しないような工程管理も求められる。
 飼料化する場合、かんしょ農家に規格外を回収してもらい、飼料を調製する事業所がそれを購入するということが想定される。でん粉用のかんしょの場合、取引価格は1キログラム当たり10円程度だが、それに同27円ほどの補助がなされるため、農家としては同37円取ることができる。一方、かんしょ農家が飼料用として規格外かんしょを販売する場合はこの補助を受け取ることができない。飼料化を進めるためには、この差額をどうするかが大きな課題となる。また、かんしょの生産現場では基腐病が深刻化しており、それを防除するためには、残された株からまん延しないように規格外かんしょを圃場から持ち出すことが重要である。基腐病対策のためにも多くの予算が組まれているが、飼料化の取り組みとは連携していない。基腐病も抑制しながら、かんしょの飼料化を推進できるような、総合的な支援制度が望まれる。


参考文献
石井択径ら(2012)腐敗甘薯中毒事例におけるサツマ
   イモからのイポメアマロンの検出、日獣会誌、 65、355-359
馬門克明ら(2019)「サツマイモ株収穫機の開発」、九州
   農業研究 82、農業機械部会 p2
中村誠ら(2020)黒毛和種繁殖牛で発生した傷害サツマ
   イモ中毒、日獣会誌、73、253-258
境垣内岳雄ら(2021)「直播栽培の概要と栽培上の留意
   点」、最新農業技術 作物13、p191-200、農文協 東京.