(1)飼養頭数
ポーランドの牛の飼養頭数(経産牛を含む)は、2012年の552万頭から増加傾向で推移し、21年には638万頭になった(表3)。また、牛を飼養する生産者戸数は16年時点で約34万戸であり、その半数以上は30頭以下を飼養する小規模経営とされている。
ポーランドはEU第3位の生乳生産量を誇る酪農大国
(注1)であり、経産牛のほとんどは乳用牛である。経産牛のうち乳用牛の占める割合は、12年の95.0%から、近年の肉用牛の増加を裏付けるように21年には88.9%まで低下している。
(注1)ポーランドの酪農業については『畜産の情報』2021年1月号「ポーランドにおける牛乳・乳製品の生産および輸出動向について」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001472.html)を参照されたい。
(2)主要生産地
前述の通りポーランドの肉牛生産者戸数は半数以上が飼養規模30頭以下の小規模家族経営とされ、牛は国内各地で飼養されている。2020年の牛の総飼養頭数に占める県別牛飼養頭数の割合は、中東部マゾフシェ県(MAZOWIECKIE)が18.0%、中西部ヴィエルコポルスカ県(WIELKOPOLSKIE)が17.4%、東部ポドラシェ県(PODLASKIE)が16.3%であり、この3県で同国全体の牛飼養頭数の半数を超え、主要な牛飼養地帯と言える(図1)。残りの13県の飼養頭数割合を見ると、いずれも10%以下となっている。
(3)主な品種
ポーランドの主要食肉処理・加工業者(約130者)で構成する食肉産業生産者・雇用者連合(UPEMI)によると、肉牛経営で飼養される牛の多くは酪農から供給されるホルスタイン種である。残りはホルスタイン種と肉専用種の交雑種および肉専用種が占めるとされる。肉専用種は赤身の割合が高いリムジン種が7割を占めるほか、シャロレー種、ヘレフォード種、ベルジアン・ブルー種などが飼養されている。
ポーランド農業支援センター(KOWR)によると、輸出される牛肉はホルスタイン種が多く、次いで交雑種となる。交雑種はリムジン種とホルスタイン種の交雑が多いが、最近ではベルジアン・ブルー種とホルスタイン種との交雑も増えている。これは、雄の場合は増体の良さが、雌の場合は肉質が評価されていることによる。
(4)飼養形態
牛の飼養は放牧を主体としており、放牧地を含む永久草地が農用地の21%(305万ヘクタール、日本の国土の8.4%)程度を占めるため、低い生産費で粗飼料を賄えるとしている。牧草の高さが10センチ程度になる早春から秋にかけて放牧される。また、放牧牛の特徴として、疾病に対する抵抗力が強いという点もある。
KOWRによると、肉用牛は肥育期間を経て平均23カ月齢で出荷される。肥育期間は牧草や粗飼料に加えて配合飼料も給与され、牛は、牧草地と牛舎内の餌場を自由に移動できるのが基本とのことである。年間120〜140日間はこの放牧を基本とした形態で飼養され、冬の間の220〜240日間はフリーストール牛舎で飼養されている。また、肥育期には、白い脂肪を好むアジア向けにはトウモロコシを給与し、クリーム色の脂肪を好むスペイン向けにはわらやサイレージを給与するなど、輸出先ごとに飼料を分ける工夫をしている。
さらに、ポーランドで油糧種子作物として広く栽培されている菜種や亜麻を搾油した後の副産物も牛の飼料として広く用いられているほか、放牧地では、さまざまな種類の牧草、マメ科植物、ハーブも使われている。
(5)牛肉生産量の推移
ポーランドの牛肉生産量は、人件費や粗飼料費など生産費が低く価格競争力が高いこと、また、地理的に平地が多く生産規模の拡大が容易なことなどから全体的に増加傾向にあり、2012年の37万1000トンから21年には55万5000トンに増加している(図2)。21年時点でポーランドは、フランス、ドイツ、イタリア、スペインおよびアイルランドに次いでEU第6位の牛肉生産国となっている(図3)。
(6)ポーランド産牛肉の特徴
ポーランド産牛肉は、EUの共通農業政策(CAP)の下で、他のEU諸国と同じ品質水準にあるにもかかわらず、その価格はEUの主要牛肉生産国を下回る。これは、牛肉の生産コストが低いことに加え、同国の食肉業界は中小企業が多く、供給網が単純で仲介業者が少ないことが一因とされる。このため、直売に近い販売形態となり、牛肉の生産者や生産地を特定することが容易となる。そのほか、脂身が少ない点もポーランド産牛肉の特徴と言える。
UPEMIによると、ポーランドの食肉処理・加工業者は、EUレベルで制定されている品質基準(適正衛生規範、適正製造規範、HACCPなど)に適合しているほか、輸出競争力の強化に向けて自主的にISO規格
(注2)やCODEX規格
(注3)、BRC規格
(注4)のような任意の品質規格も導入し、製品の品質認証に取り組んでいるという。
(注2)国際標準化機構(International Organization for Standardization)による国際的な品質保証基準。
(注3)コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)により策定される国際的な食品規格。
(注4)英国小売協会(British Retail Consortium)による食品安全規格。
また、ポーランド国内市場では、同国の肉牛生産者協会(PZPBM)による牛肉の品質認証制度(QMP:Quality Meat Program)が導入されている。同制度は、EU域内に向けたポーランド産牛肉の品質の向上やマーケティング力の向上のために導入された。農業農村開発省は、2008年にQMPを公的支援対象の制度として承認している。
QMPは、「飼養管理」、「飼料」、「家畜輸送」、「食肉処理場での取り扱い」の牛肉生産に関する供給網の四つの工程ごとに認証規格を制定している(表4)。認証取得のための監査は独立した認証機関によって実施され、QMPに従った生産を行う事業者に対し認証が付与される。例えば、牛肉生産者の要件には、適切な品種の選択(交雑種や純粋種)やアニマルウェルフェアの強化などが含まれる。
さらに、UPEMIによると、ポーランドの牛肉生産は、主に小規模な家族経営により行われているが、純粋種肉用牛飼養や有機飼養に専門的に取り組む大規模生産者、交雑種の肥育を行う生産者、乳用牛の肥育を行う生産者など、さまざまな生産者がいるため、ポーランドの輸出事業者は、製品や価格の面で、多様な要求に対応可能な点も特徴であるとしている。
以下にポーランドにおける牛肉生産の特徴と捉えられる点をまとめた。
● 高い価格競争力(他のEU諸国に比べ相対的に製造コストが低い)
● 放牧を主体とした飼養管理
● 肥育ホルモンおよび抗生物質の不使用
● 衛生的な農場および牧草地での生産
● 環境やアニマルウェルフェアに配慮した生産
● EU水準で制定される食品安全基準と適切な管理の確保
● 直売に近い販売形態のため、生産者の特定が容易
● 小規模生産者による肉牛生産
(7)ポーランドにおける牛肉の消費状況
ポーランドには、肉牛生産に適した地理的条件が揃っている一方で、伝統的に牛肉を料理に利用する習慣があまりないことや、豚肉や鶏肉に対する相対的な価格の高さから国内の牛肉消費量は多くない。同国の1人当たりの年間牛肉消費量は、2〜3キログラム程度と日本の半分以下である。国民所得の向上などから牛肉の消費量は増加しているが、2012年の同1.6キログラムから21年の同2.5キログラムにとどまる(表5)。