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調査・報告 畜産の情報 2023年2月号

消費者価値観とアニマルウェルフェア意識を考慮した畜産物購買意欲の解明〜多様化する消費者ニーズに向けた代替タンパク普及の可能性〜

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広島大学大学院 統合生命科学研究科 准教授 長命洋佑
広島大学大学院 統合生命科学研究科 教授  細野賢治

【要約】

 本稿では、植物肉および培養肉に対する消費者意識の解明を行うことを目的とし、検討を行った。分析の結果、植物肉に対する認知度では9割以上の消費者で認知されていることが、一方で培養肉に関しては、認知度は約6割にとどまり、約4割の消費者は言葉自体も知らないことが明らかとなった。また、植物肉では約6割、培養肉では約4割の消費者が試食意識を持っていることが明らかとなった。さらに、代替タンパクに対する消費者意識構造では、食生活における価値観・行動意識の中で好奇心が高い消費者、アニマルウェルフェアにおける動物飼育・利用に抵抗意識のある消費者で植物肉や培養肉の試食意識が高い一方で、食へのこだわり意識が高い消費者において試食意識が低いことが明らかとなった。

1 はじめに

 人類が肉を食べてきた歴史は長い。食肉には良質な栄養素が多く含まれており、人間の健康や成長に欠かせない食べ物となっている。ところが、現在、人間の肉食のあり方は、さまざまな視点から問い直されている。20世紀後半から欧米を中心にアニマルウェルフェア(以下「AW」という)や動物の権利の主張などの議論が活発となり、人間が肉食を行う際に、その正当性を説明することが求められるようになってきた(野林2018)。また、持続可能な生産が重要となり、家畜のふん尿による窒素やリンの産生、ウシなどの反すう動物の消化管からのメタン産生などの環境問題、食料と飼料の農地をめぐる競合などが社会問題として大きく取り上げられるようになってきた。特に欧州の先進国では、食料として畜産物の摂取が否定的に議論されることが多くなり、畜産の存在そのものが危ぶまれている(広岡2020)。
 そうした中、これらの解決策として植物性タンパクを原料とする食品(植物肉)、家畜の細胞を培養したものを原料とする食品(培養肉)などの代替タンパクに対する注目が集まっている。わが国では、新たな市場創出に向けた取り組みとして、「多様な食の需要に対応するため、大豆など植物タンパクを用いる代替肉の研究開発など、食と先端技術を掛け合わせたフードテックの展開を産学官連携で推進し、新たな市場を創出する(農林水産省2020)」ことが掲げられている。
 そこで本稿では、植物肉および培養肉に対する消費者意識の解明を行うことを目的とする。その際、消費者価値観およびAW意識について考慮し、代替タンパク普及の可能性について検討を行う。

2 代替タンパクに対する消費者意識

 本稿における消費者意識調査に関しては、インターネットアンケート会社の株式会社マクロミルに依頼して、20〜60歳代の男性・女性の消費者1109名から回答を得た。本研究では、後述する「食の志向性」に関して「どれもあてはまらない」と答えた回答者を除いた859名の回答を分析に用いることとする。これまでの消費者の畜産物に対する購買意識や購買行動に関する研究においては、それら購買意識や購買行動に与える要因として回答者の性別や年齢層、居住地域などの属性が用いられてきた(佐々木ら 2006; 長命・広岡 2016)ため、本稿においてもそれらの属性を取り入れて分析を行う。
 

(1)回答者の内訳

 表1に示すように、回答者の居住地に関しては、関東が最も多く36.4%を占めていた。次いで近畿(20.4%)、中部(17.5%)が続いた。他方で中国・四国(8.0%)および九州・沖縄(7.7%)の回答は若干少なくなっていた。性別に関しては、女性が若干多いものの、おおよそ半数程度となっている。年齢層に関しては、60歳代以上が若干多くなっているものの、性別・年齢層ともに均一的な分布であると言える。結婚の有無に関しては、「未婚(離別・死別を含む)」が39.5%、「既婚」が60.5%と既婚の割合が高かった。
 職業に関しては、定職者(公務員、会社員、自営)、非定職者(フリーター、アルバイト、学生など)および専業主婦・主夫の三つに分類した。回答者の内訳では、定職者がおよそ6割弱を占めており、非定職者がおよそ3割を占めていた。
 最後に、単一回答により回答を得た食の志向性の結果について、最も回答割合が高かったのは「健康志向(28.1%)」であり、次いで、「経済性志向(24.8%)」、「安全志向(21.1%)」が高かった。他方、「菜食志向(ベジタリアン)(2.4%)」および「簡便志向(5.5%)」は割合が低かった。なお、本設問項目は、河村(2021)のアンケート調査の選択肢項目に基づき、実施したものである。回答割合の上位の傾向は河村(2021)と同様のものであった。ただし、「菜食志向」および「簡便志向」においては、本稿よりも回答割合が高かったのは、複数回答が可能であったためと考えられた。
 

(2)食生活における価値観・行動意識

ア 食生活において重視している価値観・行動意識
 表2は、消費者の食生活における価値観および行動意識について、「とても当てはまる」の7点から「全く当てはまらない」の1点まで度合いに応じて点数を割り当てた15の設問に対する結果を示したものである。
 分析の結果、平均点が最も高かったのは「気になることは自分で調べる習慣がある(5.15点)」であり、次いで高かったのは、「食品を購入するときは、産地を確認する(4.85点)」、「同じ食材であれば、一番値段が安いものを買っている(4.68点)」であった。他方、平均点が低かったのは「食べ物の好き嫌いが多い(3.44点)」であった。その他、「珍しい料理を作って食べるのが好きだ(4.45点)」、「異文化の生活をしてみたい(3.61点)」などの項目で平均点が低かった。





 

イ 食生活における価値観・行動意識の主成分分析
 次いで、食生活における価値観・行動意識に対して主成分分析(注1)を行った結果を示したのが表3である。主成分分析を実施し、15項目の意識スコアを少数の主成分に要約することを試みた。分析の結果、四つの主成分が抽出された。

(注1)主成分分析とは、多くの変数を持つデータを集約して主成分(個体の特徴を総合的に表す指標)を作成する統計学的分析手法。

 
 第1主成分は、「異文化の生活をしてみたい(0.829)」など七つの項目が寄与しており、すべて正の相関関係を示すものであった。これら寄与している項目の関係を見ると、第1主成分は、冒険心や好奇心旺盛で新たなことにチャレンジする価値観・行動意識を持っていると考えられたことから、「冒険心・好奇心に関連する指標」(以下「好奇心」という)と呼ぶこととする。
 第2主成分では、「食品を購入するときは、産地を確認する(0.863)」など三つの項目が正の関係をもって寄与していた。第2主成分では、食品や加工食品を購入するときに産地や原材料などを確認すること、また自身が気になっていることがあった場合、調べる習慣があることに関する項目が寄与していたことから「探究心に関連する指標」(以下「探究心」という)と呼ぶこととする。
 第3主成分では、「食べ物の好き嫌いが多い(0.808)」など、四つの項目が正の相関係数を示す形で寄与していた。第3主成分は、食事に対する消費者自身の好みやこだわりを示す項目で構成されていることから「食事に対するこだわりに関連する指標」(以下「こだわり」という)と呼ぶこととする。
 第4主成分は、「同じ食材であれば、一番値段が安いものを買っている(0.854)」の一つのみが寄与していた。このため、第4主成分は「低価格志向」と呼ぶこととする。
 

(3)AWへの意識

ア AWに対する意識
 表4は、AWに対する意識に関する結果を示したものである。分析の結果、最も意識が高かったのは、「動植物であっても、人間と同様に存在する権利があると思う(5.27)」であり、次いで「生物学の発展には動物の解剖が必要であると思う(4.65)」、「ウシやブタが食用として飼育されることはまったく問題ないと思う(4.40)」、などの項目で意識が高かった。その一方で、「人間には動物を利用する権利があると思う(3.78)」は相対的に低い値であった。消費者は、動植物に対する存在権利を意識している一方で、生物学発展のための解剖や食用としての飼育に対する容認意識も持ち合わせていることが示唆された。


イ AW意識に対する主成分分析
 次いで、AW意識に対して主成分分析を行った結果を示したのが表5である。分析の結果、二つの主成分が抽出された。
 第1主成分は、「ウシやブタが食用として飼育されることはまったく問題ないと思う(0.850)」など、3項目が正の関係として寄与していた。これらは、動物を飼育することを肯定的に捉えた項目であることから、第1主成分は「動物の飼育を肯定することに関連する指標」(以下「肯定」という)と呼ぶこととする。
 第2主成分は、「家畜の命を奪うことに抵抗がある(0.807)」など、3項目がそれぞれ正の関係を示し寄与していた。これらは、動物の命を奪うことに抵抗があることや動物にも権利があることに対する意識が寄与していたことから、「動物の飼育に抵抗があることに関連する指標」(以下「抵抗」という)と呼ぶこととする。

3 植物肉・培養肉に対する消費者意識

 まず、植物肉・培養肉の認知度および植物肉・培養肉のハンバーグに対する試食意識の結果について述べる。なお、試食する品目にハンバーグを選定したのは、植物肉ではすでに大豆ハンバーグなどの商品化が行われていること、培養肉に関してもひき肉(ミンチ肉)を利用したハンバーグが試験的に製造されていることに加え、消費者が日常的に購入可能でイメージしやすいと考えたためである。
 

(1)植物肉・培養肉の認知度

 表6は、植物肉に対する認知度についての結果を示したものである。なお、アンケートの設問文では、図1に示す説明文を記載した上で、回答してもらった。
 回答の内訳は、「知り合いに説明できるくらい知っていた(理解している)」は15.1%、「正確な内容は知らなかったが、おおよそ知っていた」は53.7%、「内容は知らなかったが、言葉は知っていた(聞いたことがあった)」は22.7%、「言葉自体も知らなかった(初めて聞いた)」のはわずか8.5%であった。




 
 これらの結果から、9割以上の消費者が程度の差はあるものの、植物肉について認知していることが明らかとなり、そのうち約7割弱の消費者が植物肉について、おおよそ内容について認知しており、植物肉が認知され始めていることが示唆された。
 次いで、培養肉に対する認知度の結果について述べる。なお、アンケートの設問文では図2に示すように説明文とイラストでの説明を記載した上で、回答してもらった。
 回答の内訳としては、「知り合いに説明できるくらい知っていた(理解している)」と回答した消費者は10.4%、「正確な内容は知らなかったが、おおよそ知っていた」と回答した消費者は22.7%、「内容は知らなかったが、言葉は知っていた(聞いたことがあった)」と回答した消費者は29.7%、「言葉自体も知らなかった(初めて聞いた)」と回答した消費者は37.3%であり、約4割の消費者は、言葉自体も知らなかったことが明らかとなった。

 

(2)植物肉・培養肉のハンバーグに対する試食意識

 表7は、植物肉・培養肉のハンバーグに対する試食意識についての結果を示したものである。植物肉のハンバーガーに対して、「絶対に食べてみたい」が7.2%、「食べてみたい」が21.9%、「少し食べてみたい」が32.1%と、約6割の回答者が試食意識を持っていたことが明らかとなった。その一方で、「食べてみたくない」は4.3%、「全く食べてみたくない」は5.0%と一定数いることが明らかとなった。
 また、培養肉のハンバーガーに対しては、「絶対に食べてみたい」が4.5%、「食べてみたい」が14.1%、「少し食べてみたい」が26.5%と、約4割強の回答者が試食意識を持っていたことが明らかとなったが、植物肉に比べるとその割合は低かった。その一方で、「あまり食べてみたくない」は17.6%、「食べてみたくない」は6.4%、「全く食べてみたくない」は9.1%と、およそ3割強の消費者において試食意識が低いことが明らかとなった。

4 代替タンパクの試食意識に対する消費者意識構造

 本節では、前述のアンケート分析の結果を基に、代替タンパクの試食意識(表7)に対する回答者属性、食生活における価値観・行動意識およびAW意識との関係を明らかにする。分析においては、以下の二つのモデルを設定し、被説明変数である植物肉および培養肉のハンバーグに対する試食意識に影響を及ぼしている要因の解明を行った。モデル1では、説明変数として、性別、年齢層、居住地域、未既婚(未婚は離別・死別含む)、食の志向性(以下「食志向」という)について取り上げた。モデル2では、モデル1に加え、食の価値観・行動意識およびAW、認知度、喫食経験(植物肉のみ)を取り上げた。これらのモデルに対して、一般化線形モデル(Generalized Linear Model)(注2)を用いて分析を行った。分析の結果は、表8に示す通りである。

(注2)一般化線形モデルとは、統計学で用いられる線形モデルの一つで、残差(誤差の推定量)が任意の分布とした物を指す。


 

(1)植物肉に対する消費者意識構造

 モデル1では、職業および食志向において統計的に有意な差が認められた。職業に関しては、定職者および専業主婦・主夫と非定職者との間で有意な差が認められ、定職者および専業主婦・主夫の方が植物肉に対する試食意識が高いことが明らかとなった。また、食志向に関しては、安全志向および国産志向の回答者に比べ、健康志向の回答者において試食意識が高いことが明らかとなった。
 モデル2では、モデル1で有意であった項目では有意な差は認められなくなり、新たに食生活における価値観・行動意識およびAW意識、植物肉の認知度および喫食経験において有意な差が認められた。食生活における価値観・行動意識に関して、1%水準で有意な差が認められたのは、好奇心およびこだわりであった。好奇心に関しては、0.26と正の値であったことから好奇心が高い消費者ほど試食意識が高いことが示唆された。他方、こだわり意識に関しては、マイナス0.19と負の値であったことから、こだわり意識が高い消費者ほど、試食意識が低いことが示唆された。また、AWに関しては、動物の飼育・利用に対して抵抗意識が高い消費者ほど、植物肉に対する試食意識が高かった。さらに、植物肉に対する認知度に関しては、認知度の高い消費者の方が、試食意識が高い傾向にあることが明らかとなった。加えて、これまで植物肉を食べたことのある消費者の方が、食べたことのない消費者よりも試食意識が有意に高いことが明らかとなった。
 以上の結果より、植物肉の試食意識に関しては、食生活における価値観・行動意識での好奇心、こだわりに対する意識が影響していることが明らかとなった。また、AWに関しては、肯定的に捉えている消費者よりも動物飼育・利用に対して抵抗意識を持っている消費者の方が植物肉の試食意識が高いことが示唆される結果であった。さらに、植物肉に対する認知度および喫食経験の有無が植物肉の試食意識に影響を及ぼしていることが考えられた。
 

(2)培養肉に対する消費者意識構造

 モデル1では、性別、年齢層、居住地域および食志向において有意な差が認められた。性別に関しては、女性よりも男性において試食意識が高い結果となった。年齢層に関しては、40〜60歳代に比べ20歳代で試食意識が高いこと、40歳代に比べ30歳代で試食意識が高いことが明らかとなった。居住地域に関しては、関東で試食意識が高く、近畿および中国・四国地域で有意に試食意識が低い結果であった。さらに、食志向に関しては、菜食志向、安全志向および国産志向の消費者に比べ健康志向の消費者で試食意識が高いこと、安全志向および国産志向の消費者に比べ経済性志向の消費者で試食意識が高かったことが明らかとなった。
 モデル2では、性別、年齢層、居住地域および食志向に加え、食生活における価値観・行動意識の好奇心およびこだわり、AWの肯定および抵抗、さらには培養肉の認知度において有意な差が認められた。
 性別に関しては、女性より男性において意識が高いこと、また、年齢においては20歳代や30歳代の若年層で意識が高かった。特に40歳代において意識が低かったことは、健康面での関心ごとなのか、小さい子どもがいるのかなどの背景が考えられるが、今後、継続して研究を進めていく必要があることが考えられる。居住地域に関しては、関東に比べ近畿地域で有意に意識が低い結果であった。植物肉に関して有意な差は見られなかったが、培養肉に関して有意差が見られたことは興味深い結果である。この点に関しても今後、新たな研究結果が望まれる。
 食志向に関しては、安全志向の消費者および国産志向と比べ、経済性志向の消費者において試食意識が高かった。この点に関しては、培養肉に対する製造方法や実際の喫食による影響などの情報が未知なものが多いことが、試食意識に影響したと考えられた。なお、海外では需要が高い菜食志向の消費者との間には、植物肉および培養肉ともに明確な傾向は認められなかった。この点に関しては、国内における菜食志向者の人数を考慮したアンケート調査を行うなど、今後も継続的な研究が必要と考える。
 また、食生活における価値観・行動意識に関しては、好奇心およびこだわり意識を持っている消費者において関係が見られた。好奇心の高い消費者は新しい食材への関心も高いことから試食意識が高いものと考えられた。この傾向は、植物肉に対しても同様であると考える。他方、こだわり意識に関しては、植物肉も同様に、こだわりを持っているほど試食意識が低かった。この点に関しては、消費者が食べたいと思えるかどうかは、消費者自身が納得することが重要であると考えられるため、今後、植物肉や培養肉に関する情報提示の方法が重要になってくると言える。
 さらに、AWに関しては、動物の飼育や利用を肯定している消費者および抵抗がある消費者ともに、培養肉の試食意識が高い傾向にあった。この点に関しては、植物肉とは異なる傾向であることが示唆された。
 培養肉に関する認知度では、「内容は知らなかったが、言葉は知っていた(聞いたことがあった)」および「言葉自体も知らなかった(初めて聞いた)」と回答した消費者に比べ、「知り合いに説明できるくらい知っていた(理解している)」と回答した消費者において試食意識が高いことが明らかとなった。そのため、培養肉への試食意識を高めるためには、培養肉に対する情報を提示し、認識を高めていくことが重要であると考えられる。

5 おわりに

(1)分析結果について

 本稿では、植物肉および培養肉に対する消費者意識の解明を行うことを目的とし、消費者価値観およびAW意識について考慮し、代替タンパク普及の可能性について検討を行ってきた。分析の結果、以下の四つが明らかとなった。
 第一に、植物肉に対する認知度では、9割以上の消費者が植物肉について認知していることが明らかとなった。植物肉の喫食経験に関しては、およそ4割弱が「食べたことがある」と回答していたことから、植物肉が認知されつつあることが示唆された。その一方で、培養肉に関しては、約4割の消費者は言葉自体も知らなかったことが明らかとなったことから、まだまだ認知されていないことが明らかとなった。
 第二に、植物肉のハンバーグに対する試食意識では、約6割の消費者が試食に関心をもっていることが明らかとなった。その一方で「食べてみたくない」は4.3%、「全く食べてみたくない」は5.0%と一定数いることも明らかとなった。また、培養肉のハンバーガーに対しては、約4割強の消費者が試食に関心を持っていることが明らかとなったが、およそ3割の消費者では、試食意識が低いことが明らかとなった。
 第三に、植物肉に対する消費者意識構造に関する分析では、食生活における価値観・行動意識での好奇心、探究心およびこだわりに対する意識が影響していることを示唆する結果であった。また、AWに関しては肯定的に捉えている消費者よりも動物飼育・利用に対して抵抗意識を持っている消費者の方が植物肉の試食意識が高いことが明らかとなった。さらに、植物肉に対する認知度および喫食経験の有無が植物肉の試食意識に影響を及ぼしていることが示唆された。
 第四に、培養肉に対する消費者意識構造に関する分析では、女性より男性において意識が高いこと、また、年齢においては20〜30歳代の若年層で意識が高いことが明らかとなった。居住地域に関しては、関東に比べ近畿地域で有意に意識が低い結果であった。植物肉に関しては有意な差は見られなかったが、培養肉に関して有意差が見られたことは興味深い結果であった。
 

(2)今後の畜産の展望

 2050年には世界の人口は約100億人に達すると予想されており、人々が生活していくための食料生産に係る問題は避けては通れないものと言える。作物生産が可能な農用地においては、家畜の飼料生産を可能な限り削減し、飼料としては農産物や食品製造物の副産物を活用することなどの創意工夫が必要となる。
 今後は、持続可能な畜産の重要性がますます高まっていくであろう。例えば、広岡(2020)が指摘していたように、欧米諸国では家畜由来の環境問題低減やAWを配慮する畜産、食料と飼料の農地をめぐる競合などが社会問題となっており、欧州先進国では、食料として畜産物の摂取が否定的に議論されるなど、畜産の存在そのものが危ぶまれている。環境負荷低減に関しては、家畜排せつ物による悪臭や水質汚染といった環境問題の発生のみならず、家畜由来のメタン産生の低減を図ることが重要となってこよう。また、AWに配慮した飼養管理を行うことに対する意識も高まってくることが予想される。さらには、海外では若い消費者を中心として、ビーガン(完全菜食主義者)やフレキシタリアン(準菜食主義者)、ベジタリアン(菜食主義者)など、家畜に対する倫理観の変化によって肉食を控えて植物由来タンパク質の摂取へと移行する動きも注視していく必要がある。
 畜産物が今後も人々に必要とされていくためには、従来のように単純に食料増産を目指すのではなく、環境負荷の低減およびAWに配慮しながら農産物の高品質化・高付加価値化を実現していくことがますます重要となってこよう。


引用文献
河村侑紀(2021)「各国における食肉代替食品の消費動向」『畜産の情報』380:70-90.
https://www.alic.go.jp/content/001191969.pdf(2022年3月10日参照).

長命洋佑・広岡博之(2016)「牛肉の購買行動における消費者意識構造の把握-共分散構造分析を用いた解析-」
『農林業問題研究』52(3):160-165.https://doi.org/10.7310/arfe.52.160(2022年3月10日参照).

農林水産省(2020)「食料・農業・農村基本計画〜 我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために 〜」:28       
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-13.pdf(2022年3月10 日参照).

野林厚志(2018)「序」野林厚志編『肉食行為の研究』平凡社:5.

広岡博之(2020)「畜産の必要性について考える」『畜産の情報』373:2-6.
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001382.html(2022年3月10日参照).

佐々木啓介・三津本 充・合崎英男(2006)
「牛肉購入時における消費者の着目点の分類」『日本畜産学会報』77(1):67-76.
https://doi.org/10.2508/chikusan.77.67(2022年3月10日参照).