本稿における消費者意識調査に関しては、インターネットアンケート会社の株式会社マクロミルに依頼して、20〜60歳代の男性・女性の消費者1109名から回答を得た。本研究では、後述する「食の志向性」に関して「どれもあてはまらない」と答えた回答者を除いた859名の回答を分析に用いることとする。これまでの消費者の畜産物に対する購買意識や購買行動に関する研究においては、それら購買意識や購買行動に与える要因として回答者の性別や年齢層、居住地域などの属性が用いられてきた(佐々木ら 2006; 長命・広岡 2016)ため、本稿においてもそれらの属性を取り入れて分析を行う。
(1)回答者の内訳
表1に示すように、回答者の居住地に関しては、関東が最も多く36.4%を占めていた。次いで近畿(20.4%)、中部(17.5%)が続いた。他方で中国・四国(8.0%)および九州・沖縄(7.7%)の回答は若干少なくなっていた。性別に関しては、女性が若干多いものの、おおよそ半数程度となっている。年齢層に関しては、60歳代以上が若干多くなっているものの、性別・年齢層ともに均一的な分布であると言える。結婚の有無に関しては、「未婚(離別・死別を含む)」が39.5%、「既婚」が60.5%と既婚の割合が高かった。
職業に関しては、定職者(公務員、会社員、自営)、非定職者(フリーター、アルバイト、学生など)および専業主婦・主夫の三つに分類した。回答者の内訳では、定職者がおよそ6割弱を占めており、非定職者がおよそ3割を占めていた。
最後に、単一回答により回答を得た食の志向性の結果について、最も回答割合が高かったのは「健康志向(28.1%)」であり、次いで、「経済性志向(24.8%)」、「安全志向(21.1%)」が高かった。他方、「菜食志向(ベジタリアン)(2.4%)」および「簡便志向(5.5%)」は割合が低かった。なお、本設問項目は、河村(2021)のアンケート調査の選択肢項目に基づき、実施したものである。回答割合の上位の傾向は河村(2021)と同様のものであった。ただし、「菜食志向」および「簡便志向」においては、本稿よりも回答割合が高かったのは、複数回答が可能であったためと考えられた。
(2)食生活における価値観・行動意識
ア 食生活において重視している価値観・行動意識
表2は、消費者の食生活における価値観および行動意識について、「とても当てはまる」の7点から「全く当てはまらない」の1点まで度合いに応じて点数を割り当てた15の設問に対する結果を示したものである。
分析の結果、平均点が最も高かったのは「気になることは自分で調べる習慣がある(5.15点)」であり、次いで高かったのは、「食品を購入するときは、産地を確認する(4.85点)」、「同じ食材であれば、一番値段が安いものを買っている(4.68点)」であった。他方、平均点が低かったのは「食べ物の好き嫌いが多い(3.44点)」であった。その他、「珍しい料理を作って食べるのが好きだ(4.45点)」、「異文化の生活をしてみたい(3.61点)」などの項目で平均点が低かった。
イ 食生活における価値観・行動意識の主成分分析
次いで、食生活における価値観・行動意識に対して主成分分析(注1)を行った結果を示したのが表3である。主成分分析を実施し、15項目の意識スコアを少数の主成分に要約することを試みた。分析の結果、四つの主成分が抽出された。
(注1)主成分分析とは、多くの変数を持つデータを集約して主成分(個体の特徴を総合的に表す指標)を作成する統計学的分析手法。
第1主成分は、「異文化の生活をしてみたい(0.829)」など七つの項目が寄与しており、すべて正の相関関係を示すものであった。これら寄与している項目の関係を見ると、第1主成分は、冒険心や好奇心旺盛で新たなことにチャレンジする価値観・行動意識を持っていると考えられたことから、「冒険心・好奇心に関連する指標」(以下「好奇心」という)と呼ぶこととする。
第2主成分では、「食品を購入するときは、産地を確認する(0.863)」など三つの項目が正の関係をもって寄与していた。第2主成分では、食品や加工食品を購入するときに産地や原材料などを確認すること、また自身が気になっていることがあった場合、調べる習慣があることに関する項目が寄与していたことから「探究心に関連する指標」(以下「探究心」という)と呼ぶこととする。
第3主成分では、「食べ物の好き嫌いが多い(0.808)」など、四つの項目が正の相関係数を示す形で寄与していた。第3主成分は、食事に対する消費者自身の好みやこだわりを示す項目で構成されていることから「食事に対するこだわりに関連する指標」(以下「こだわり」という)と呼ぶこととする。
第4主成分は、「同じ食材であれば、一番値段が安いものを買っている(0.854)」の一つのみが寄与していた。このため、第4主成分は「低価格志向」と呼ぶこととする。
(3)AWへの意識
ア AWに対する意識
表4は、AWに対する意識に関する結果を示したものである。分析の結果、最も意識が高かったのは、「動植物であっても、人間と同様に存在する権利があると思う(5.27)」であり、次いで「生物学の発展には動物の解剖が必要であると思う(4.65)」、「ウシやブタが食用として飼育されることはまったく問題ないと思う(4.40)」、などの項目で意識が高かった。その一方で、「人間には動物を利用する権利があると思う(3.78)」は相対的に低い値であった。消費者は、動植物に対する存在権利を意識している一方で、生物学発展のための解剖や食用としての飼育に対する容認意識も持ち合わせていることが示唆された。
イ AW意識に対する主成分分析
次いで、AW意識に対して主成分分析を行った結果を示したのが表5である。分析の結果、二つの主成分が抽出された。
第1主成分は、「ウシやブタが食用として飼育されることはまったく問題ないと思う(0.850)」など、3項目が正の関係として寄与していた。これらは、動物を飼育することを肯定的に捉えた項目であることから、第1主成分は「動物の飼育を肯定することに関連する指標」(以下「肯定」という)と呼ぶこととする。
第2主成分は、「家畜の命を奪うことに抵抗がある(0.807)」など、3項目がそれぞれ正の関係を示し寄与していた。これらは、動物の命を奪うことに抵抗があることや動物にも権利があることに対する意識が寄与していたことから、「動物の飼育に抵抗があることに関連する指標」(以下「抵抗」という)と呼ぶこととする。