(1)中高級牛肉とは
中国で「牛肉」といえば、これまで一般牛肉(中国語で普通牛肉)を指していたが、近年は海外から業界内で「中高級牛肉(中国語で中高端牛肉)」と呼ばれる品質のよい牛肉、特に霜降りのWAGYU肉の輸入が増加傾向にあり、消費者の間でも徐々に浸透しつつある。中国では、「一般牛肉」「中級牛肉」「高級牛肉」についての専門用語あるいは学術用語の定義はない。よって、筆者の先行研究での定義
[参考資料4]に基づき、本稿における「中高級牛肉」についてあらかじめ定義したい。
「中高級牛肉」とは、品種改良・肉質改善が行われた肉専用種の肉を言う。肉に霜降りが入ることが一つの特徴であるが、小売段階で一般に高級部位と低級部位に分けられ、部分肉ごとにカット・パックして販売される。また、特定の品種で専門的な肥育を行い、特定のブランド名で出荷されている牛肉でもある。具体的には「○○黄牛」「○○黒牛」「○○紅牛(赤牛)」など在来種の品種改良した肉牛のほか、WAGYU、黒牛、黄牛、紅牛など高級肉牛の種牛および精液、母牛および受精卵を使用し、品種改良と肉質改善を行い、脂肪交雑(サシ)の追求を目的として生産する肉牛を指す。非常に分かりやすく言うならば、今までの「一般牛肉」ではない牛肉、ブランド化した牛肉を言う。
(2)中高級牛肉生産の変遷
中国の中高級牛肉の生産の歴史は、20年程度であり、三つの段階に分類できる。
ア 中高級牛肉の萌芽期(2000〜11年)
中国で最初に生産された中高級牛肉は、大連の「雪龍黒牛」であり、これが中国の中高級牛肉生産の始まりであった。雪龍黒牛は2000年ごろから飼養管理改善のほかハイテクな品種改良技術を使い、牛肉に霜降りが多く入る「高級」な専用肉牛を生み出した。雪龍黒牛は、上海や北京で日本料理屋を経営している日本人経営者やシェフが「日本の和牛と変わらないのではないか」と評価し、中国の食肉関係者が「サシがよく入っていて、味がおいしい」と評価するなど、市場調査で評価が高かった。中国の中高級牛肉の萌芽期では、雪龍黒牛の「1ブランド独占」状態であり、雪龍黒牛以外の中高級肉牛は飼育されていなかった。この時期に、中国人は初めて霜降り牛肉の存在を知った。当時は輸入された高級牛肉もなく、また中国の急速な高度成長の時期と重なったことから大変人気となり、その名は中国全土に知れ渡った。
業界関係者への聞き取りによると、雪龍黒牛の飼養頭数は、最盛期でも8000〜1万2000頭程度、年間出荷頭数は1500〜2000頭程度であったという。出荷先はほぼ固定されており、大半は外食店舗に仕向けられ、小売が行われたのは、上海、北京、深セン、広州など超一流都市の特定の市場のみであった。また、雪龍黒牛には、日本の枝肉格付をまねたA5、A4などの肉質等級が採用されていた。日本人の技術者が常駐し、雪龍黒牛の飼養管理、種付け、格付けなどについての技術指導を行っていたとされる。業界関係者によると、雪龍黒牛の経営者は、もともと日本へも輸出を行う飼料販売業に従事しており、日本の肉牛生産者ともある程度の関係があり、そのことが雪龍黒牛の成功の基礎になったとのことである。かなり前に、雪龍黒牛の経営主体が破産し現在は会社も存在しないが、雪龍黒牛は中国の中高級牛肉の生産を語る上では欠かせない存在であり、業界関係者の間では、中国人に「高級牛肉とは何か」を知らしめした功績は大きいという見方が共通の認識となっている。さらに言えば、雪龍黒牛こそが業界関係者に「中高級牛肉産業」という新しい扉を開いたと言っても過言ではない。
イ 中高級牛肉の全盛期(12〜18年)
この時期は、雪龍黒牛の業界内での浸透、海外からの中高級牛肉の輸入拡大、豪州や米国からのWAGYUの受精卵・精子の輸入などにより、中高級牛肉の生産が大きな関心を集め、新規参入者が多く出現し、「一ブランド独占」から「全面開花」となった。聞き取り調査によると、「北京海淀和牛」「国秀和牛」「九囿和牛」「龍江和牛」「海島和牛」「村上和牛」「草原和牛」「伊泰和牛」「中谷和牛」「合和牛」などWAGYUを飼育する企業は40社以上にも上ったという。これらの企業は、「牛肉の霜降りの重視」を目標とし、中国語漢字で「和牛」を用い、宣伝では、「純血和牛」「純種和牛」など品種の優越性を強調した。中国におけるこのような「和牛(WAGYU)」の飼養頭数に関する統計は存在しないが、聞き取り調査の結果および中国の肉牛専門誌「安格斯(アンガス)」の統計資料
[参考資料5]から推計すると、2020、21年は、年間15万〜18万頭程度となる。また、これまでの調査の中で、WAGYU飼養頭数は18年以降減少しているとの結果も得られたことから、18年までの全盛期は、その頭数が18万頭以上であったのは間違いないだろう。
「安格斯」の集計(20年)によると、トップ10社のWAGYU飼養頭数は6万3000頭となっており、トップは黒龍江省の「龍江元盛(龍江和牛)」であり、WAGYU2万頭を飼養している。中国では、1000〜4000頭程度を飼養する企業が多く、1万〜2万頭規模でWAGYUを飼育している大規模企業は、4社程度である。これらの大規模企業は、複数のWAGYU牧場を所有している。WAGYUを売りにしている企業は、霜降り肉に力を入れており、中国では高級牛肉の範囲に入る。ここで飼養されるWAGYUは、純血や純種であることが強調されている。
中高級牛肉の全盛期に出現した中級牛肉も無視できない存在である。この時期に出現した中級牛肉としては、赤牛、黄牛、黒牛などを品種改良したもの、アンガス牛や黒牛にWAGYUの精子を交配させた交雑種が挙げられる。これらの中級牛肉は、霜降りも重視するが、肉の食感、品質、安全性などをメインにブランド化し、付加価値を生み出し、差別化を図ったものであった。中国で飼養される中級肉牛の頭数は、18〜21年は年間50万〜60万頭に上る。
ウ 高級牛肉の衰退、中級牛肉の成長期(19年〜)
2019年以降は、(1)高級牛肉のブームはピークを過ぎ、消費者の高級牛肉への認知度が向上し理解が深まったこと(2)「全面開花」した高級牛肉産業のサプライチェーンの欠陥が露呈
(注4)したこと(3)中国の経済成長が減速気味となったこと(4)高級肉牛生産が期待したほどの収益を得られなかったこと―などから多くのWAGYU牧場をはじめとする高級肉牛企業は、「高級牛肉の生産規模縮小」「中級牛肉の生産拡大」といった生産経営方針転換を余儀なくされた。さらに、その後のCOVID-19の拡大および長期化による高級牛肉の流通・消費への影響は大きく、高級牛肉の生産縮小に拍車をかけることとなった。
(注4)生産(飼育)以降の消費者に届くまでの行程(加工・流通・販売など)において、高級牛肉に適したサプライチェーン(温度管理などの技術的管理:ノウハウも含む)が確立されておらず、高級牛肉が生産された後の加工・流通・販売がスムーズに行えない状況にあった。現状では、生産者がその全過程に携わらざるを得ない状況になる。
18年以前は、中国の経済成長、国民所得の増加、消費力の向上、中高級牛肉の認知度の拡大などにより、中高級肉牛飼養の人気が高まり、業界への新規参入の動きも活発であった。大規模企業を含め、中高級肉牛産業へ参画する投資も増えた。
今回、WAGYU牧場の調査や中国牛業発展大会(中国畜牧業協会主催)、中国肉類発展大会(中国肉類協会主催)などの場を通じ、初期投資5億元(97億円)、6億元(116億円)および10億元(193億円)の投資を計画している複数の市場調査グループから、定期的に中高級牛肉生産、市場の動向などについて聞き取りを行ったので、以下に事例を紹介する。
19年、杭州の不動産グループ(集団)の高級牛肉事業開拓部が、オルドス市(内モンゴル自治区)のある肉牛牧場を買い取り、人員配置や畜舎の修繕などの準備を終え、高級肉牛である純血WAGYU中心の繁殖牛の購入を計画したところで事業を停止したという。事業停止の理由は、国産高級牛肉市場の将来性に確信が持てなくなったことだという。本グループが本格的に市場調査を行った17年時点および牧場を購入する19年時点までは、中高級牛肉の将来性に非常に期待感があったが、その後は大きな危機感を感じ、事業を放棄する道を選んだというが、損失は全体で2000万元(3億8620万円)に及んだ。しかしその後、COVID-19が
蔓延したことから、当該グループは、高級牛肉事業を停止したのは、非常に賢明な判断だったとしているという。
次に、大手グループの本業界への新規参入例を紹介する。18年調査で把握した中国の大手乳業メーカーの状況である。本メーカーは乳業で得る収益が大きいが、高級牛肉生産に期待し、「万頭牧場」を3カ所経営することを計画し、18年に内モンゴル自治区および黒龍江省で牧場経営をスタートさせた。しかしながら、SNSや電話を用いて調査を行ったところ、WAGYUなど高品質な繁殖雌牛の購入は計画通りに実現できないことが判明し、同社は輸入した生体牛(シンメンタール牛、アンガス牛など)にWAGYU受精卵を用いて高級肉牛を生産する方向へと転換を図った。しかし、出生したWAGYUの繁殖・肥育成績が振るわず、受精卵移植業者との間にもトラブルが生じたという。これらの状況にCOVID-19の流行が重なり、今年からは「高級牛肉」生産から「中級牛肉」生産へ方針転換したという。
このように19年ごろからは、高級牛肉生産の衰退が著しく、その分、中級牛肉生産は成長期を迎えていると言える。このような中、赤峰市(内モンゴル自治区)でWAGYU生産を行っていたH牧場の倒産が、高級牛肉生産牧場の将来を暗示しており、近い将来、多くの高級牛肉生産企業が倒産あるいは廃業するのではないかと言われている。H牧場は、北京の別の牧場で飼養されていたWAGYUを購入し、高級牛肉生産を開始した農場である。筆者も2年前、調査先のあるWAGYU牧場から「H牧場のWAGYUは純血であり、状態がよい」との話を聞いたため、H牧場への調査を計画したもののCOVID-19の影響により実現できずにいたところ、H牧場破産のニュースが報じられた。破産の原因は、飼料代など経営コストの増加に加え、市場開拓の問題が大きかったとのことである。特にコロナ禍で期待したほどの収益が得られず、経営が成り立たなくなったという。肉牛業界関係者の間では、今回H牧場が直面した問題は、高級牛肉生産者に共通する課題だとし、いつどこの牧場が廃業してもおかしくないという危機感を持っているという。
これまで継続的に調査してきた高級牛肉生産牧場の担当者に聞き取り調査を行った結果からも「高級牛肉生産衰退と中級牛肉生産拡大」状況をうかがうことができた。以下にその例を紹介する。
河北省にある「九囿和牛」は、WAGYUの生産規模拡大の可能性を模索し、この2年間、中国では肉牛の2大生産地と言われている内モンゴル自治区通遼市と甘粛省張掖市を繰り返し視察した結果、21年に張掖市に新しい牧場を開いた。2年前には、高級牛肉で勝負するという考えを強く持っていたが、現在はWAGYUの交雑種による中級レベルの牛肉に力を入れ、将来的に物流や市場の状況が好転した場合には、高級牛肉生産を拡大したいとしている。
海南省にある「海島和牛」は、三つの牧場を持ち、純血WAGYUとして業界内では広く認知され、高級牛肉の肉質も中国内でトップクラスであった。株式保有率の変化により、経営主体が国営企業である海墾グループ(海
垦集团)となったこともあり、これまで一貫して追求してきた「霜降り至上主義の中国一の良質なWAGYU肉の生産」から「WAGYU繁殖もと牛ビジネス、WAGYUの受精卵や移植技術の提供、霜降りよりもおいしさを求める高級牛肉生産」などへの転換を図っている。山東省聊城市にある「村上和牛」はすでに繁殖WAGYU経営へと転換し、連携する肥育業者にWAGYUの子牛を出荷することで、経営リスクの分散を図っているという。
生体牛貿易に従事した経験を持つ「内モンゴル興牧達牧業服務有限公司(会社)」の孟社長によると、WAGYUなど高級繁殖牛の売買需要は売り・買いともに増えているが、生体牛の価格の折り合いがつかず、なかなか取引が成立しないとみている。孟社長によると、本質的な問題は、表に現れている価格ではなく、売りに出される高級繁殖牛への不信感、つまり、高級肉牛として信頼できないことであり、血統証明などの客観的証拠が確実なものではなく、高級牛肉市場は不健全な状態にあるとのことであった。また、「海島和牛」「馬龍双友牧業」「青島郁香国泰牧業」など中高級牛肉生産企業で長年勤務した経験を持つ「内モンゴル〇〇商業貿易有限公司」の遅社長によると、中国の現状では高級肉牛産業のサプライチェーンが確立しておらず、一から十まですべてを生産企業が行う必要があり、必要とする資金が多く、高級牛肉生産は苦労が多く、成功させることは難しいという。
こうした中、高級牛肉経営が順調であるのは、青島市の「隆銘牛」(青島隆銘牛業有限公司)である。「隆銘牛」は、繁殖牛、肥育牛を含めて1500頭程度を飼養している。牧場設立当時から飲食業者と連携しており、契約販売のみを行ってきた。この2年間は飼料価格の高騰により経営コストが増加し、さらにはCOVID-19により契約先である飲食業者がかなり大きな影響を受けたが、肉牛の肥育期間や出荷
時期の調整などによって対応できているという。将来についての不安は全くないというが、現在の規模が市場や経営のリスクに最適の規模であるため、規模拡大は考えていないとしている。
(3)現地調査から見えてきた中高級牛肉生産の方向性
本調査を通じ、「楽牧高仁」「草原和牛」「伊泰和牛」「吉亜太肉牛」の4社に対し、中高級牛肉生産の今後の展開について現地ヒアリングを実施した。
(@)「楽牧高仁」
「楽牧高仁」牧場は、寧夏回族自治区の石嘴山市平羅県にある。敷地面積は730ヘクタールあり、1万2000頭の肉牛を飼養している(写真1、2)。体験農園をイメージした事業計画であり、40ヘクタールのぶどうやりんごなどの果樹園がある。また、ワイン工場を建設する予定もあり、観光農園としてのコンセプトが打ち出されている。牧場は寧夏回族自治区の区都銀川市から60キロメートル離れているが、高速道路が近くまで通っており、非常に便利な場所にある。肉牛経営では、当初の計画はWAGYUの繁殖経営、アンガス牛、赤牛を含めた中高級肉牛の肥育経営、酪農業の子牛育成の3部門であった。しかし、優れたWAGYUなど高級肉牛の繁殖牛の確保問題、高級牛肉のと畜や市場の課題、資金繰りの問題などから2018年ごろからWAGYUの交雑種・アンガス牛・赤牛の繁殖・肥育、乳用種オス牛の肥育・ブランド化へ経営の舵取りをしたという。すなわち、中級牛肉、消費者が意識する安全安心なおいしい肉作りへ特化した。乳用種オス牛の肥育は、牧場近辺200キロメートル範囲に他社が70万頭の乳牛を飼育しており、毎年かなりの頭数の乳用種オス牛が生まれてくることに大きなビジネスチャンスを感じ、そのオスの子牛を買い取り、去勢せずに肥育・ブランド化して、中級牛肉として出荷するようになったものである。実際、乳用種雄牛の肥育業務が順調で、利益も大きいという。
肉牛の肥育は9カ月齢から開始され、専用の肥育用飼料を給餌して20〜22カ月齢で出荷する。主な出荷先は上海市と杭州市となっており、出荷される牛肉は味の評価が高く、自家牧場のブランド力も強いため、中級牛肉としてはよい価格で販売できているという。今後は霜降りを追求する純血WAGYUなどを飼育する「高級路線」ではなく、現在のスタイルに従いつつ、早急にワイン工場を完成させ、体験型農場を完成させる予定という。それによって牛肉の付加価値はさらに高まり、経営収入も増加するとしている。いずれにしても、投資額が10億元(193億円)を超えるこの牧場が「WAGYUを飼養する」という「初心」に返ることはなさそうだ。
(A)「草原和牛」
「草原和牛」は、内モンゴル自治区のオルドス市にあるWAGYU牧場であり、中高級牛肉の全盛期にその名が全国的に知れ渡っていたWAGYUブランドである(写真3、4)。大連の「雪龍黒牛」の後、全国で有数の高級肉牛飼養牧場となり、全盛期にはWAGYUを2万頭飼養していた。上海、北京、広州、深センの市場に出荷されたほか、ネット販売でもしばしば注目を集めた。牧場長によると、株主の経営方針の転換、企業代表(CEO)の交代、龍江WAGYUなど強い競争相手が多く出現したことなどから、「草原和牛」の規模も縮小され、現在、純血WAGYUの飼養頭数は約3500頭となっている。一部を肥育するほか、大部分は子牛の生産を目的とした繁殖経営であり、WAGYUの受精卵ビジネスに力を入れ、相応の収益を上げているという。現地調査で実際に肉牛を見たところ、「草原和牛」で飼養されるWAGYUが、体格・体系・毛色などで、日本の和牛に一番似ていると感じた。他のWAGYU牧場から聞いたところでも「草原和牛」のWAGYUの血統は純度が高いということであった。
今後の展開について牧場長は、経営方針を決めるのはオーナーであると前置きしながらも、おそらく大幅な規模拡大の可能性は低いのではないかとしている。このように諸般の事情により規模が縮小された中高級牛肉牧場は、国内のほかの地域でも散見されている。
(B)「伊泰和牛」
「伊泰和牛」は、オルドス市(内モンゴル自治区)にある中高級牛肉飼育牧場であり、伊泰グループの子会社である(写真5、6)。伊泰グループとは、内モンゴル自治区屈指の大手民間企業であり、石炭産業、化学工業、不動産業などさまざまな業務を展開し、資金面で強大な実力を有している。
伊泰グループは、同地域の「草原和牛」の発展を見て、中高級牛肉産業に参入した。主にWAGYUとアンガス牛を飼養し、3年前には飼養頭数6000頭に達していたが、COVID-19の影響、飼料価格の高騰、市場問題などにより、現在は3000頭にまで減少している。「伊泰和牛」にとって幸いなことに21年にアリババグループが展開する高級スーパー「盒馬生鮮」と契約できたことで、市場問題は解決することができた。しかし、供給量が少ないこと、取引に縛りが多いこと、山東省の指定と畜場を利用することなどから経営コストが余分にかかり、当分は利益がない状況だという。「盒馬生鮮」は全国で300以上の店舗があり、「新鮮な」「品質がよい」物を「30分以内に届ける」ことが特徴である。このような店舗と契約できたことから、「伊泰和牛」が、ある程度の品質を備えていることは間違いない。現在の頭数規模では供給量が足りず、十分に対応するためには、少なくとも3万頭が必要であり、そうなればかなり収益は大きくなる見込みである。しかし、短期間で規模を拡大することは難しい上に、規模拡大後に契約期限を迎えた場合には大変なことになる。したがって、状況を見ながら、少しずつ規模拡大をしていく計画のようだ。
(iv)「吉亜太肉牛養殖有限会社」
「吉亜太肉牛養殖有限会社」は、2019年に内モンゴル自治区ウランチャブ市(〇〇察布市)で設立された肉牛の繁殖・肥育の一貫経営を行っている牧場である。アンガス種、ヘレフォード種、シャロレー種など中級肉牛生産からスタートし、WAGYUの受精卵を用い、高級牛肉生産へ経営転換する方針としていた。しかしこの2年間、高級牛肉経営に不安が多く、既存の肉用種やシンメンタール牛を使った中級牛肉生産に特化することとなった。こうした経営方針の転換により、当初の投資計画からかなりの資金が留保されたため、今年同様の牧場を内モンゴル自治区通遼市に立ち上げ、中級牛肉の生産拡大を図るとしている。すなわち、また一つの肉牛生産牧場が高級牛肉生産を諦めたことになった。