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国内需給【令和3年「畜産物生産費統計」について】 畜産の情報 2023年2月号

令和3年「畜産物生産費統計」について

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 農林水産省は、令和4年12月9日、「農業経営統計調査 令和3年畜産物生産費統計」を公表した。同調査は、子牛、育成牛、肥育牛、肥育豚および牛乳の生産に要した経費などの実態を明らかにし、畜産物価格の安定をはじめとする各種政策の推進に必要な資料を整備することを目的として実施されている。調査により得られた結果は、肉用子牛の保証基準価格・合理化目標価格、肉用牛肥育経営安定交付金、肉豚経営安定交付金、加工原料乳生産者補給金単価の算定資料などに利用されている。
 本稿では、3年(1〜12月)の肥育牛、肥育豚および牛乳の概要について紹介する。

【肉用牛生産費(肥育牛)】もと畜費低下も飼料費上昇によりすべての肥育牛で生産費が増加
1.去勢若齢肥育牛

 去勢若齢肥育牛の1頭当たりの全算入生産費(注1)は、136万9634円(前年比2.5%増)となり、前年をわずかに上回った(表1、図1)。
 このうち、費用合計の約6割を占めるもと畜費は、平成26年以降、枝肉相場の上昇や子牛の取引頭数の減少により高騰が続いていたが、30年をピークにやや低下傾向にあり、令和3年のもと畜費は81万8422円(同1.4%減)と前年をわずかに下回った。3年に販売された去勢若齢肥育牛の平均的な肥育期間が20.5カ月であることから、子牛導入時期はおおよそ平成31年4月から令和2年3月と推定される。当時の子牛価格(黒毛和種)は、元年の消費税増税や和牛生産量の増加などによる和牛枝肉相場の軟化に伴って子牛の取引価格も低下したため、3年のもと畜費は2年を下回ったとみられる。
 また、費用合計の約3割を占める飼料費(注2)は、配合飼料価格の高騰により38万3759円(同14.7%増)と前年をかなり大きく上回った。この配合飼料価格高騰の要因には、2年10月以降の、中国向け輸出成約の増加や南米における作況悪化懸念などによる、トウモロコシや大豆油かすのシカゴ相場上昇や世界的なCOVID-19流行後の経済回復に伴う船腹需要増加や原油価格上昇により海上運賃の引き上げなどが重なったことが挙げられる。
 なお、1経営体当たりの販売頭数は40.7頭(同3.8%減)と前年をやや下回った一方で、1頭当たりの販売価格は136万34円(同12.8%高)となり、COVID-19拡大で外食需要やインバウンド需要が減少したことなどの影響により枝肉相場が大幅に下落した前年をかなり大きく上回った。

(注1)「資本利子・地代全額算入生産費」の略称。
(注2)飼料費には、配合飼料価格安定制度の補ほてん金は含まない。
 






2.交雑種肥育牛
 交雑種肥育牛の1頭当たり全算入生産費は、84万7146円(同2.3%増)と前年をわずかに上回り、同統計開始以降で過去最高となった(表1、図2)。
 このうち、費用合計の約5割を占めるもと畜費は、42万8898円(同5.8%減)と同統計開始以降で最高となった前年をやや下回った。令和3年に販売された交雑種肥育牛の平均的な肥育期間が18.0カ月であることから、子牛導入時期はおおよそ元年7月から2年6月と推定される。当時の子牛価格(交雑種)は、COVID-19の影響による和牛枝肉相場下落に連動して交雑種枝肉相場が下落した影響などにより低下傾向にあったため、3年のもと畜費は2年を下回ったとみられる。
 一方、費用合計の約4割を占める飼料費は、去勢若齢肥育牛と同様の理由により33万3843円(同15.7%増)と前年をかなり大きく上回った。
 なお、1経営体当たりの販売頭数は125.5頭(同6.5%増)と前年をかなりの程度上回り、1頭当たりの販売価格も77万5418円(同12.1%高)と去勢若齢肥育牛に連動して下落した前年をかなり大きく上回った。

 
 
3.乳用雄肥育牛
 乳用雄肥育牛の1頭当たり全算入生産費は、58万638円(同6.5%増)と前年をかなりの程度上回り、同統計開始以降で過去最高となった(表1、図3)。  
 このうち、費用合計の約4割を占めるもと畜費は、近年、乳用種の子牛取引頭数の減少を背景に堅調に推移してきたものの、25万7084円(同3.0%減)と同統計開始以降で過去最高となった前年をやや下回った。令和3年に販売された乳用雄肥育牛の平均的な肥育期間が13.1カ月であることから、おおよその子牛導入時期は元年11月から2年10月と推定される。当時の子牛価格(乳用種雄)は、取引頭数の一層の減少による品薄高からおおむね堅調に推移していたものの、和牛枝肉相場を中心に枝肉相場が軟化した影響を受け、3年のもと畜費は2年を下回ったとみられる。
 一方、費用合計の約4割を占める飼料費は、去勢若齢肥育牛と同様の理由により25万7243円(同18.5%増)と前年を大幅に上回った。
 なお、1経営体当たりの販売頭数は154.2頭(同2.9%増)と、1頭当たりの販売価格は、国産牛肉需要の高まりや生産量の減少などにより50万7142円(同1.9%高)と、ともに前年をわずかに上回った。
 以上のように、すべての肥育牛において、近年、全算入生産費を押し上げていたもと畜費が減少したものの、飼料費の大幅な増加により全算入生産費は前年を上回る結果となった。全算入生産費の増加率を品種間で比較すると、乳用雄肥育牛が同6.5%増と最も大きく、次いで、去勢若齢肥育牛が同2.5%増、交雑種肥育牛が同2.3%増となった。これは乳用雄肥育牛が去勢若齢肥育牛や交雑種肥育牛よりも、費用合計に占める飼料費の割合が高いことに加え、肥育期間が短いため、同期間の大半が配合飼料価格高騰の影響下にあったためとみられる。なお、もと畜費については、去勢若齢肥育牛が平成30年、交雑種肥育牛および乳用雄肥育牛は令和2年をピークに減少に転じたものの、3年も費用合計に占めるもと畜費の割合は大きい状況にあり、この影響を受けて生産費は高い水準にあると言える。
 また、肥育期間が去勢若齢肥育牛および乳用雄肥育牛では前年を下回り、交雑種肥育牛も前年並みとなった一方で、販売時生体重がすべての肥育牛で前年を上回っていることから、もと畜費や飼料費をはじめとする諸々の物財費が上昇する中、生産現場において産肉能力や飼養管理技術の向上に向けた取り組みが行われている状況がうかがえる。


 

【肥育豚生産費】飼料費上昇により生産費が大幅に増加
 肥育豚の1頭当たりの全算入生産費は、3万7907円(前年比12.7%増)と前年をかなり大きく上回り、同統計開始以降で過去最高となった(表2、図4)。
 このうち、費用合計の約6割を占める飼料費は、そのほとんどが濃厚飼料によるものであることから、輸入配合飼料原料価格の変動が全算入生産費に与える影響が大きい。令和3年は肥育牛同様、配合飼料の主原料であるトウモロコシや大豆油かすの高騰や海上運賃の引き上げなどにより、2万4135円(同18.9%増)と前年を大幅に上回り、過去10年で最も大きい上昇率となった。
 また、飼料費に次いで割合が高い労働費は、5018円(同5.4%増)と前年をやや上回り、同統計開始以降、22年ぶりに5000円を超過した。同統計によると、3年の肥育豚1頭当たりの飼育労働時間のうち、「飼料の調理・給与・給水」は同0.01時間減で0.85時間となり前年を下回ったものの、「敷料の搬入・きゅう肥の搬出」は同0.04時間増で0.65時間となり前年を上回ったという調査結果となっており、これを含む総労働時間の増加が3年の労働費が2年を上回った一因として挙げられる。
 1経営体当たりの販売頭数は1432.7頭(同4.3%増)と前年をやや上回った一方で、1頭当たりの販売価格は3万7658円(同2.8%安)と、生産量の増加に加え、COVID-19の影響から前年に旺盛となっていた内食需要の落ち着きなどにより、前年をわずかに下回った。販売時月齢が前年に比べて短縮されたものの、販売時生体重が増加していることから、肥育牛同様、産肉能力や飼養管理技術などが向上している状況がうかがえる。





(畜産振興部 郡司 紗千代)

【牛乳生産費】前年度比6.7%増と6年連続上昇
 全国の搾乳牛1頭当たりの資本利子・地代全額算入生産費は、88万3991円(前年比6.7%増)とかなりの程度増加し、6年連続の上昇となった(表3、図5)。地域別に見ると、北海道は83万4586円(同7.0%増)、都府県は94万4727円(同6.3%増)とともにかなりの程度増加した。費用合計は、物財費と労働費に大別され、令和3年におけるそれぞれの割合は、83.5%と16.5%となっている。さらに、物財費のうち、特に大きな割合を占める飼料費は全国、北海道および都府県すべてにおいて前年を上回った。
 1頭当たりの労働時間は、全国平均では96.84時間(前年並み)と、統計開始以来初めて100時間を下回った元年から3年連続で短縮しており、北海道では84.98時間(同0.2%減)、都府県においては111.41時間(同0.1%減)となった。





 
(酪農乳業部 橋 沙織)