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海外特集 畜産の情報 2023年3月号

2022年OECD農業大臣会合〜強靭で持続可能な農業・食料システムへの道のり〜

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農林水産省 輸出・国際局 国際戦略グループ 国際交渉官 米田 立子
 令和4年11月3日〜4日、第15回OECD(経済協力開発機構)農業大臣会合が6年ぶりにパリのOECD本部で開催されました。我が国からは野中厚農林水産副大臣が出席した他、OECD加盟国36カ国、ウクライナを含む招待国8カ国、招待国際機関7機関と、過去にない規模で行われたこの会議は、コロナ禍やウクライナ侵攻後における世界の食料・農業政策の将来の道筋をひらく上で、大きな基礎を築くものとなりました。

1 会合テーマと閣僚宣言の内容

 2日間にわたって開催された会合では、強靭で持続可能な農業・食料システムの構築に向けた課題と解決策について、閣僚間の議論が行われ、各国が今後取り組むべき方針をまとめた閣僚宣言を採択して終了しました。議論の中では、ロシアによるウクライナ侵攻が世界の食料安全保障にもたらすリスクや、農業と環境の関係についての高い関心が寄せられました。また、畜産の関連でいえば、畜産業が土壌の管理、生物多様性および生計にプラスの貢献が可能なこと、動物福祉への配慮、抗菌剤耐性や人獣共通感染症への対応の必要性についても宣言に記載されました。
 他に閣僚宣言には、農業が温室効果ガス排出削減等に貢献可能であること、環境に有益な補助金(支援策)についての分析を行い有害な補助金に対処することや、新規就農者施策や労働問題への対処など、幅広い項目が盛り込まれました。

2 我が国の主張

 我が国からは野中厚農林水産副大臣が出席し、ロシアによるウクライナ侵略への非難や、輸出規制に対する規律の強化、持続可能な食料システム達成のためのイノベーションとその普及の重要性とともに、我が国が「みどりの食料システム戦略」に基づいた取り組みを推進している旨を紹介しました。
 また、本会合内の閣僚昼食会の場では、野村哲郎農林水産大臣がビデオメッセージを通じ、ドローン等スマート農機の導入で、農薬や施肥量の低減を図ることが可能となること、その際に課題となる機器導入コスト削減策として、農業者の共同購入の事例を紹介しました。

3 参加者の広がりとOECDの変質〜自由貿易から持続可能性へ〜

 今回の農業大臣会合で注目すべき点は、論点の変遷と参加者の広がりにあります。OECDの歴史は、第二次世界大戦後の欧州復興プランにさかのぼり、以来、自由貿易の推進を基礎とした政策提言を重ねてきました。現行WTOの農業補助金規律の基礎をOECDが作ったことをご記憶の読者諸兄も多いことでしょう。
 しかしながら、近年OECDでは、かつての貿易中心の議論よりも、気候変動を含む農業と環境の論点や、農業イノベーションの推進策、人材育成策等の分析の比重が大きくなっています。もちろん、農業補助金に関する分析・分類の議論や、農産物市場の中期見通しの作業も継続してはいますが、これらについても、その現代的な意味合いについて加盟国から疑義が呈されることもあります。
 この変化には二つの要因が考えられます。一つは、世界の食料・農業をめぐる論点の重心が、貿易から持続可能性、特に環境問題に変化していることです。気候変動問題を見ても、農業は世界の温室効果ガス排出の4分の1を占め、食品産業まで含めると3分の1とも言われます。この状況を受け、農業関係者自らが環境持続可能性の問題に主体的に取り組まなければならない、こうした世界的な議論の流れが、OECDの場でも踏襲されているということが言えるでしょう。
 二つ目には、加盟国の広がりです。第二次世界大戦後の欧州復興OECDの歴史はメンバーも、時に「先進国クラブ」と批判されることもあるほど、西側先進国を中心とした時代が長く続きました。一方で、90年代に入り旧東欧諸国や中南米諸国の加盟が始まり、現在ではアルゼンチンやブラジルなど数カ国が加盟手続を開始しています。このように国の広がりが拡大するにつれ、より幅広く世界の食料農業問題への関心が議論の中心となっている、これがOECDの現状と言えます。

4 食料システムアプローチ

 もう一つ、今回のOECD農業大臣会合で特筆すべき点は、「食料システムアプローチ」を前面に押し出したことです。これは、食料や農業の課題を生産、加工、流通・消費と区切って考えるのではなく、関連産業も含めた一つの「システム」として包括的に捉える見方です。特に、2021年9月に開催された国連食料システムサミットで、世界150カ国を超える閣僚がこの「食料システム」の考え方に賛同したことは、世界の農業・食料に関する議論にも大きな影響を与えました。OECDでは、このアプローチをさらにかみ砕き、(1)生産性をいかに向上させるか(2)農家を含む関係者の生計をいかに維持するか(3)環境保全をどのように行うか−の三つを「トリプル・チャレンジ」と設定し、これらが両立する施策を考えるべきと呼び掛けています。
 この考え方は、我が国が一昨年に公表した「みどりの食料システム戦略」とも相通ずるものであり、OECDの議論でも、畜産を含む農業が必ずしも環境に負荷を与えるだけではないこと、手法によっては環境にプラスとなりうることが強調されつつあります。重ねて、その支援策に関しても注目が集まっており、先述のように、閣僚宣言に「農業環境に有益な支援策(補助金)の分析を進める」と明記されたことは、とかく農業補助金を「悪」と捉えがちであったOECDの歴史において画期的な転換点と言えるでしょう。

5 今後の世界的な議論に向けて

 OECD農業大臣会合は、前年の国連食料システムサミットの流れを受け、翌週に気候変動枠組条約COP27、翌月に生物多様性条約COP15を控える中で行われました。2015年のSDGsの採択を受け、持続可能性や食料システムの考え方は今やあらゆる農業・食料関係の国際的な議論の主流となっています。一方で、環境に偏りがちな持続可能性の課題を生産性の向上や所得向上の課題とどのように両立させていくかが、農業関係者が直面する課題です。食料システムの考え方では、各国の自然条件や作目の違いに着目し、有効な解決策は、各国の置かれた事情の違いに応じて各国が最適な施策を講じるべきとされています。
 我が国は、2023年にG7議長国を務め、4月には宮崎で農業大臣会合の開催を予定しています。「みどりの食料システム戦略」を推進する我が国には、今回のOECD会合の成果を基礎に、世界の食料・農業の持続的な発展に向け、議論をリードすることが期待されています。

2022年第15回OECD農業大臣会合における閣僚宣言のポイント
・持続可能な開発目標に整合する形で、飢餓、栄養不良の撲滅、持続可能な生産性向上、食品ロス・廃棄の削減に取り組む。
・不当な輸出規制など、世界の食料安全保障を損なう、不当な貿易制限措置を課さない。
・持続可能な生産性の向上を促進し、気候変動の緩和と適応に関する解決策を提供できる研究、イノベーション、普及サービスに投資する。
・畜産が土壌の管理、生物多様性及び生計にプラスの貢献が可能なことを認識しつつ、動物の健康と福祉に害を及ぼすような畜産物の 生産や生産方法による環境への負の影響を軽減する。
・OECDに対し、環境に有害及び有益な支援策を精査し、根拠に基づく分析を行い、環境に与える影響を改善するための改革を支援するよう求める。



 

(プロフィール)
大阪府出身
平成11年       農林水産省入省(林野庁林政課)の後、水産庁水産経営課等、米国タフツ大学フレッチャー校留学(法律外交学修士)、生産局特産振興課、水産庁管理課等を経て、
      28年       生産局畜産部畜産振興課補佐
      同年      同 企画課併任
      29年      大臣官房国際部国際戦略グループ補佐
令和  1年       同 調査官
      2年       同 国際交渉官
      3年12月  国連食糧農業機関ローマ本部勤務
     4年7月  輸出・国際局国際交渉官(現職)