中国農業農村部は2月20日、「農産物需給動向分析月報(2023年1月)」を公表した。この中で、2023年1月の国産トウモロコシ価格は前月からわずかに上昇している(図1)。国内のトウモロコシ需給を見ると、春節明けのトウモロコシ市場では取引が徐々に活発化する中で、農家からの出荷の遅れから供給量はややタイトな状況にあるとされている。一方、需要面では、豚飼養頭数の増加による安定した飼料需要に加えて、トウモロコシ加工業者による在庫の補充も進むとされている。このため、国産トウモロコシ価格は、需給がややひっ迫傾向にあることで短期的には高値安定での推移が見込まれている。
各地の価格動向を見ると、主要養豚生産地である中国南部向け飼料原料集積地となる広東省黄埔港到着の輸入トウモロコシ価格(関税割当数量内:1%の関税+25%の追加関税)は、23年1月が1キログラム当たり2.82元(56円:1元=19.88円
(注))となった。22年3月以来、国産価格を上回って推移していた輸入トウモロコシ価格は3カ月連続で下落し、国産価格を下回っている。また、国産と輸入との価格差は、同月の国産トウモロコシ価格(東北部産の同港到着価格)同3.04元(60円)に比べて同0.22元(4円)安とさらに広がっている。
国産大豆価格、潤沢な供給により弱含みで推移と予想
2023年1月の国産大豆価格は、前月に続きわずかに下落している(図2)。同月の国内の大豆需給を見ると、供給面では、大豆生産量の大幅な増加により産地の在庫水準が高いことに加え、国家備蓄在庫から旧穀の放出が行われていることで市場供給量は潤沢とされている。一方、需要面では、春節が明けて川下の需要は改善に向かいつつあるとされている。このため、需給はやや緩和傾向にあり、価格は安定ながらも弱含みでの推移が見込まれている。
各地の価格動向を見ると、主産地である黒竜江省の食用向け国産大豆平均取引価格は、23年1月が1キログラム当たり5.46元(109円、前年同月比 9.7%高)と高い水準ながらも下落傾向にある。また、大豆の国内指標価格の一つとなる山東省の国産大豆価格は、同6.06元(120円、同6.4%高)と同じく下落傾向にある。国産大豆価格と輸入大豆との価格差は、国産大豆価格が下落する中で、1キログラム当たり0.66元(13円)とわずかに縮まった。
大豆の輸入量については、前年に比べて減少しつつも引き続き高い水準で推移している。22年(1〜12月)の輸入量は9109万トン(前年比5.6%減)、輸入額は世界的な穀物相場高の影響から同14.3%増の612億5300万米ドル(8兆4119億円:1米ドル=137.33円
(注))と報告されている。主な輸入先はブラジル(総輸入量の59.7%)、米国(同32.4%)、アルゼンチン(同4.0%)であった。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年2月末TTS相場。
2023年中央1号文書を発表、農畜産物生産の安定と供給の確保
中国共産党中央委員会と中国国務院は2月21日、「2023年中央1号文書」である「2023年の農村振興における重点活動の全面的推進に関する中国共産党中央委員会と国務院の意見書(2023年1月2日)」を発表した。この中央1号文書は、その年の最初に発出される最も重要な政策であり、14年以降、20年連続して「三農(農業、農村、農民)」の問題に対処したものとなる。
今年の中央1号文書では九つの項目が示されているが、昨年に続き穀物や重要な農畜産物に焦点を当て、生産の安定と供給の確保を明確に指示している。また、このためには農村への効率的な投資や農民の所得向上に向けた対策なども不可欠としている。
現地専門家によると、食料安全保障は一貫して重要な位置を占めているが、特にコロナ禍で生じた貿易の混乱や食料の輸出制限などが国際需給に複雑な変化をもたらしたことで、中国の食料輸入にも大きな影響を及ぼしたことを踏まえたものとしている。このため、昨年に初めて生産能力の強化が示された大豆など、特に輸入量が多い農畜産物については、引き続き生産の強化を図り、輸入依存からの脱却が求められている。
今回の発表に際し中国国務院は、巨大な国内人口を擁する中で食料需要は依然として堅調に伸びており、世界の農業貿易の不確実性と不安定性が大幅に高まっている中で、国内生産の確保が求められるとしている。このため、次のステップとして、複数の対策を同時に行い、食料安全保障基盤を全面的に強化するための包括的な取り組みを行う必要があるとしている。
(調査情報部 横田 徹)