中国をはじめとするアジア諸国における畜産物の消費量は1971年以降増加し続けており14)、世界の鶏肉需要量も2005〜07年に比べ、2050年までには約2.2倍に増加することが見込まれている15)。それ故、今後も世界的な飼料の需要増加が確実視される中、輸入飼料に依存するわが国の鶏肉生産を持続可能なものとするためには、国産飼料の生産力強化が求められる。さらに、日本学術かんよう会議の答申16)では、農業の有する洪水防止機能、水源涵養機能(洪水緩和、水資源貯留、水質浄化)、土壌浸食防止機能および土砂崩壊防止機能を合わせれば、年間約6兆円を超える経済価値があり、加えて水田は生物多様性の維持や景観の保全など換金し得ない機能も有するとされている。これらのことから、飼料用米と酒かすの飼料への利用促進により、わが国の耕地面積を拡大することができれば、飼料自給率の観点からだけではなく、災害に対する危機管理や環境保全の観点からも、わが国生活基盤の持続可能性が高められると判断される。
最近、鶏肉とは比較にならないほど高額な和牛肉の輸出量が年々増加していることを考えれば、食味に優れた鶏肉であれば、拡大する世界の鶏肉市場にわが国で生産された高品質な鶏肉が参入できる可能性もあると判断される。また、日本酒かすを給与して鶏肉を生産することは恐らくわが国にしかできない。それ故、飼料用米と日本酒かすを給与して高品質な鶏肉が生産できれば、その鶏肉は和牛に次ぐわが国の有力な輸出品目になる可能性もあると期待される。
日本政策金融公庫の調べによれば、飼料用米で育てた畜産物やその加工品は、48.9%の消費者が「国産で安心ができる」と判断すること、飼料用米で育てた鶏肉については、価格が1割以上割高でも50%の消費者が購入する意思があること、残りの43.8%の消費者も価格が同等であれば購入する意思があることがそれぞれ報告されている17)。それ故、わが国の大地が育んだ飼料用米と酒かすを用いて生産された鶏肉となれば、その購買意欲はさらに高まると判断される。ただしこの場合、その鶏肉の価格は比較的高額になると予想されるため、現在主流となっているトウモロコシ大豆主体飼料で生産された国産鶏肉とは競合することなく、輸入牛肉の市場を獲得するものとなろう。すなわち、飼料用米と酒かすによる鶏肉生産の実用化とその発展は、わが国鶏肉生産業全体の底上げに寄与するものと言えよう。
【参考文献】
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16) 日本学術会議. 2001. 地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)
17) 日本政策金融公庫. 2015. 飼料用米で育てた畜産物、約9割が購入に意欲. ニュースリリース, 2015.