(1)竹内養鶏場の概要
株式会社竹内養鶏場(以下「竹内養鶏場」という)は北海道の東部、十勝管内音更町で養鶏を営む家族経営である。労働力は共同で代表を務める竹内康浩氏(写真1)と父の強氏のほか、母と姉の4人である。その他に雇用者が5人おり、うち4人が卵のパッキングを行い1人が鶏舎の管理をしている。
竹内養鶏場には1300羽を飼養できるケージが11あり、飼養羽数は約1万4000羽である。品種はソニア(8割)とボリスブラウン(2割)であり、ソニアはピンク色の卵、ボリスブラウンは茶褐色の俗にいう「赤玉」を産卵する。各ケージで2品種を同じ割合で飼養している。鶏は105日齢の
大雛を導入し、約1年半程度産卵に供し650日齢まで飼育する。産卵率は8割強で日産卵量は1万個である。給餌を停止すると抵抗力が弱まるとの理由から、通常は1〜2回実施する強制換羽を実施していない。2カ月に1回、1ケージずつ更新をしていくが、ケージごとに品種の割合を一定としているため、得られる卵の色の割合は安定している。鶏舎は、空間が広く衛生的であるという理由から、2段の開放鶏舎を採用している(写真2)。
鶏ふんは、もみ殻を近隣の農家より無料で調達しケージの下に敷き、定期的に堆肥盤へ移動させる。堆肥盤へたまった鶏ふんは近くの農家が利用している。以前は鶏ふんの臭いは大きな課題であった。鶏舎から直線で300メートルの距離にある小学校で、体育の授業の際には鶏舎の前がマラソンコースにもなっていたが、そこを走る児童から「臭いが強い」と言われていた。現在はふん尿処理や飼料の変更などの効果で課題は払しょくされたと評価しており、筆者が調査で訪問した際にも、鶏舎特有の臭いはほとんど感じられなかった。
(2)竹内養鶏場で給与する飼料
竹内養鶏場では、「米
艶 」「玉艶」の2種類の鶏卵を生産しており、それに伴って2種類の配合パターンがある。飼料は、99.8%が北海道産原料で構成される(表1、写真3)。「米艶」は米を主体とした配合で、白い黄身の卵であり、「玉艶」はトウモロコシを主体とした配合で着色剤を使用しない自然な黄色い黄身の卵である(写真4)。米、トウモロコシともに北海道産のものを使用し、特にトウモロコシは色素の強い品種であるビビッドなどを選択し黄身の色を強調するようにしている。いずれも、主となる穀物の配合割合は全体の68%である。
飼料を国産とする際にはタンパク質の供給が一つの課題となるが、同じ道東の釧路で生産される、CP
(注4)65以上の魚粉を利用している。魚粉は配合割合が高くなると卵に魚臭さがついてしまうという課題がある。一般に、飼料への配合割合が3〜4%になると、臭みが出て来ると言われるが、竹内養鶏場では15%と高い。水揚げしてその日のうちに丸ごと加工された新鮮なサンマやイワシ、ニシンなどを利用している。魚かすと言われる、アラの部分を主体として生産されるものより単価は高いものの、混合できる量が多くなると考えてこちらを選択している。
また、ミネラルやビタミン類の供給源として、生米ぬかも利用する。生米ぬかは水分率が高く腐敗しやすい性質をもっているため、採卵鶏での利用はあまり一般的ではない。しかし、ここでは配送頻度を上げてもらうことで腐敗を防ぐ工夫により、9%弱の混合が可能となっている。カルシウム源は、オホーツク海側にあるサロマ湖で採れたホタテの貝殻を利用している。これらは天日で乾燥させた後、熱風殺菌を経て粉砕しており、8%を占めている。その他、不足する塩分やビタミン類、ビフィズス菌を0.2%添加するが、これ以外はすべて北海道内から調達した原料ということになる。北海道産の原料にこだわるのは、遺伝子組み換え作物やポストハーベスト農薬を使わない、安全で安心な卵を作るための竹内氏親子の2代にわたるこだわりであり、長年の理想としていた形だと言う。購入飼料はすべて、地元の飼料業者を介して仕入れている。
飼料の給与は1日1回で4〜7時の間に行う。完全自家配合で、給与量は1日1羽当たり110〜120グラムを目安としている(写真5)。これは与える飼料の消化吸収率が高いためで、結果として給与量が少なく済んでいるのだと考えている。自家配合しているのは、原料を厳選して調達していることに加え、自らの目で気候や鶏の体調をモニターし、配合をリアルタイムで微調整するためである。
(注4)粗タンパク質(Crude Protein)含量。
(3)国産濃厚飼料を利用するまでの経緯
竹内養鶏場が国産の濃厚飼料を使い始めた背景には、遺伝組み換え作物やポストハーベスト農薬の不使用に対するこだわりがある(表2)。1986年に「さくらたまご」の販売を始めたが、そのころから飼料の一部自家配合を始めて、開放鶏舎を採用していた。飼料原料も10数種類利用しており、大豆かすや魚粉を中心に20%弱が国産原料であった。98年より非遺伝子組み換えのトウモロコシを利用するようになり、同時に試行錯誤を重ねながら原料の種類を厳選していくようになった。2008年には、輸入トウモロコシをポストハーベスト農薬フリーに切り替え、その他の輸入原料は生米ぬかや貝殻などの国産品に切り替えた。これにより、国産原料の比率は3分の1に増加した。
大きな転換点は2010年である。当時は政府による飼料用米への支援が始まり、米の飼料利用が加速したころである。もともと、健康に気を配った畜産物を作りたいと考えていた経営主の強氏は、海外産の飼料価格が2カ月単位で変動して飼料費の長期的な見通しが立ちにくいことと、安定した仕入れを確保できないことに苦労していた。そこで、飼料会社の提案もあり米を飼料として使うことを決めた。濃厚飼料の中身を変える場合には、通常は家畜への影響も考えて1〜2割程度から始めることが多いが、その前より多くの試行錯誤で飼料の見直しを行っていたことから、業務用鶏卵(主に地元の菓子屋などへの販売)以外はすべてを米に転換した。それでも当初は鶏も軟便になったり、消費者からも黄身の色が薄くなったことへの苦情があったりして、対応に夜遅くまでかかることもあった。しかし、次第に消費者の評価が高まっていった。これにより、飼料の北海道産原料の比率は99.8%となった。当時、康浩氏は看護師をしており、経営継承をする予定はなかったが、30年以上の父の安全・安心な鶏卵作りへのこだわりを間近で見て後継者となることを決意し、12年に病院を退職し経営に参画するようになった。
18年には、飼料業者の提案により、トウモロコシを北海道産のものに転換することになった。これにより、現在の2種類のブランド卵のラインナップが確立することとなった。
(4)鶏卵の販売
「米艶」と「玉艶」の2種類の卵は、黄身の色のコントラストが鮮やかであり、ブランド価値を形成することに貢献しているものと考えられる。「米艶」「玉艶」とも、生産量の約半分が生協に出荷されるほか、残りの半分は飲食店での利用や近隣の販売施設などで直接販売している。中でも、養鶏場の近くにある「道の駅 おとふけ」では、2種類のブランド卵を販売するとともに、「米艶」を使った白いオムライスが駅内の洋食店で提供され、人気を博している(写真6)。販売に当たっては、康浩氏が自らの足で営業を掛けたものが多く、地元の有名菓子メーカーにも業務用として鶏卵を販売するなど、流通チャネルは多岐にわたる。