次ぐ2000年以降には、中国国内の電子商取引(EC:eコマース)が急成長し、若者を中心にECサイトが食肉を含む食品の新たな購入チャネルとなった。しかし、当初はコールドチェーンが十分に発達していなかったことなどから、「市場やスーパーマーケットで販売される食肉の方が新鮮」と認識する人が多く、ECサイトでの食肉購入層は限られていたという。またこのころには、急速な経済発展と所得向上に伴い人々の消費意欲が高まった中で、外食で生活の質を向上させることを好む層も増加した。これまでの中小の飲食店に加え、鍋料理店や海外の料理を提供する店など数多くのレストランが食肉消費の場として台頭した。
2020年前後からのCOVID-19の拡大に伴い外食店の営業が規制されると、家庭での調理機会が増加した。そのような中で、若者を中心に、従来のECサイトに加え、オフラインの店舗が展開するネット注文、ソーシャルコマース(注8)やライブコマース(注9)などさまざまなオンライン上の購入チャネルの人気が高まった。その背景には、人混みを避けて買い物ができることに加えて、コールドチェーンの成長などから、市場よりもオンラインで購入した方が新鮮かつ衛生的な食肉が購入できると認識されるようになったことなどがあるという。しかし、中高年層を中心に、従来のように市場でブロック肉を購入することを好む消費者も多く、実店舗の購入チャネルも引き続き利用され続けている。
(注8)ソーシャルメディアとオンラインショップを掛け合わせたECにおけるマーケティング手法の一つ。SNSなどのソーシャルメディアを活用し、企業・インフルエンサー・一般の消費者による投稿などで商品やサービスの魅力を発信し、情報を見たユーザーがそのソーシャルメディア上でそのままその商品などを購入することができる仕組み。
(注9)動画のライブ配信とオンラインショッピングを掛け合わせたECにおけるマーケティング手法の一つ。リアルタイムで配信する動画で商品やサービスを紹介し、視聴しているユーザーからコメント機能などで寄せられる質問に配信者が即座に回答するという双方向性が特徴。
食肉および肉料理の購入場所についてのアンケート調査でも、消費者が複数の購入チャネルを併用していることが分かった(図15)。
さらに、年齢別の集計結果によると、「市場」は中高年のみならず、比較的若い層でも利用されている(20代・30代でも8割以上が「市場」で食肉を購入していると回答)。しかし、「ネット購入」や「飲食店での持ち帰り、デリバリー」については、比較的若い層を中心に利用されていることが分かった(これらで食肉を購入していると回答した割合は、20代・30代では全体平均より5〜10ポイント以上高く、50代・60代では同10ポイント以上低い。図16−1〜3)。
香港での現地調査では、現地小売や卸関係者から、若年層は市場ではなくスーパーマーケットなどで買い物をするとの意見が聞かれたこと(注10)、実際に市場でも若年層の姿がほとんど見られなかったこと(注11)から、中国本土と香港の状況の違いを感じた。
(注10)香港では、下層階が店舗になっているマンションが多いなど実店舗へのアクセスが非常に良好なこと、また、人件費や倉庫代などの物流コストが高いことなどから、中国本土に比べて食肉のオンラインショッピングが発達していないとの話も聞かれた。
(注11)アジア諸国の中でも特に家賃水準が高い香港では、基本的に共働き世帯が多く、家事や育児などは東南アジアからの出稼ぎ者(住み込み)に委ねることが多いとされる。このため、香港の市場では、中高年層やこれら東南アジア系女性の姿がよく見受けられた。
(3)消費部位と食べ方などの変化
供給量が不足していた1980年代には、どの食肉もあらゆる部位が食用に供され、鶏は生きた鶏が1羽丸ごと購入されることが多く、豚肉や牛肉は、家庭での保存が難しかったことで、常温の肉を少量ずつ購入し調理されていた。食べ方としては、煮込み料理や細切りにして野菜との炒め物の具材にされることが多かったという。
1990年代に入っても部位に対する消費者のこだわりはさほど見られず、また、販売される食肉は常温が中心であった。しかし、このころには冷蔵庫を保有する家庭が増加し、使いきれなかった食肉を家庭で冷凍または冷蔵で保存するようになっていったという。また、欧米系ファストフード店の増加につれ、外食を通じた調理済み牛肉(ハンバーカー)や鶏肉(フライドチキン、チキンナゲットなど)の消費が増加した。なお、これらには主に輸入牛肉や白羽肉鶏が用いられた。
2000年以降になると、一定以上の経済水準を持つ人々が増加したことで消費者の健康志向が高まってきた。その表れとして、脂質の多さや、処理や保管の状況などから細菌・寄生虫などが懸念される肺や大腸、3腺(甲状腺、副腎、リンパ腺)などの内臓を避けるという、90年代には見られなかった「部位の選別」志向が高まった。さらに豚肉や牛肉の赤身部位を好むなど、よりヘルシーでおいしい部位にこだわって購入する消費者が増加した。併せて、食味や品質から輸入牛肉を求める消費者が増加したため、図8で示すように牛肉輸入量の増加につながった。特にステーキなどはこれらの輸入牛肉が好まれたという。またこのころから、鶏肉については、前述の中国国内での鳥インフルエンザの影響により、生きた鶏よりも鶏「肉」を購入する風潮が高まった。
牛や豚の内臓については、現在でもレバーや心臓、豚の脳(火鍋の具材などとして用いられる)などが消費されているが、「脂質やコレステロールが高い」「非衛生的な恐れがある」などネガティブなイメージから、消費層は減少しているとされている。また鶏でも同様に、鶏の頭や手羽の先端は成長ホルモンなどを注入される部位で健康によくないと考える層から敬遠されているとのことである。
また2000年以降は、食肉を使った半製品(注12)(写真6)が徐々に増えてきたが、コールドチェーンが未発達であったため、都市部の限られた地域のみでの販売にとどまっていた。それが冷凍技術やコールドチェーンの成長に従い、忙しく働く人々を中心に需要が高まった。さらに、COVID-19の影響で外食する機会が減少すると、これらの需要がより高まったという。
(注12)味付け牛肉などそのまま焼くなどの調理をするだけで食べられる商品。肉、野菜、調味料などがセットにされたミールキットなどを含む。
2000年ごろと比較して食べる機会が増えた食肉のカットについてアンケートで調査したところ、「日本式焼肉のようなカットの肉」や「日本式しゃぶしゃぶや火鍋のような薄切り肉」について、回答者の約半数が「食べる機会が増えた」と回答している(図17)。食の多様化にあわせて、従来の煮込み料理や炒めもの以外の食べ方が浸透していることがうかがわれた。
(4)消費量と摂食機会の変化
これまで述べたように、1990年代初頭までは食肉を自由に購入することができなかったため、90年の1人当たり年間消費量(注13)は、豚肉が15.0キログラム、牛肉が0.6キログラム、家きん肉が2.9キログラムに過ぎなかった(図18)。その後、中国の経済成長に合わせて1人当たり年間消費量は増加傾向で推移し、22年には豚肉が90年の1.7倍(25.4キログラム)、牛肉が同6.4倍(4.1キログラム)、家きん肉が同4.8倍(13.8キログラム)と大きく増加した(表3)。これは、同時期の日本の1人当たり年間食肉消費量の増加割合が1.2〜1.4倍であることと比較すると、非常に大きな成長を遂げたといえるだろう。
(注13)家庭外での消費量を含む。OECD(2023)「Meat consumption (indicator)」。家きん肉の90年の数値は公表されていないため91年の数値。22年はいずれも見込み値。
図18に示すように、豚肉の1人当たり消費量について、07年および19、20年にかなりの落ち込みが見られるが、これには、中国国内での豚の疾病流行が関係しているとみられる(07年:豚繁殖・呼吸障害症候群〈PRRS〉発生(注14)〈前年比7.9%減〉、19、20年:アフリカ豚熱発生〈前述〉〈それぞれ同19.5%減・6.8%減〉)。現地専門家によると、このような中国での疾病流行時の消費の減退は、豚肉生産量の減少に伴う価格高騰に加え、豚肉の安全性に対する消費者の不安感なども要因であるとされる。なお、19年は、1990年以降最も豚肉消費量の減退が激しかった年となるが、この年には、豚肉の代替として、牛肉や家きん肉の消費量が顕著に増加している(牛肉:同13.0%増、家きん肉:同13.8%増)。
また、中国では都市部と農村部の経済的な格差が大きく、食肉消費量にも大きな隔たりがあることが特徴とされてきた(図19)。しかし近年では、農村部の経済水準の向上によりその差が縮まり、比較的安価な食肉である豚肉および鶏肉については、年によっては逆転する状況も起きている。
食肉の1週間当たりの摂食頻度についてアンケート調査を行ったところ、いずれの食肉でも摂食頻度が増加していることが分かった(図20)。
現在(22年9〜10月)の年代別の摂食頻度を見ると、20代・30代・40代では、豚肉は週4〜5回、牛肉および鶏肉は週1回程度摂食すると回答した者の割合が最も高かった(図21−1〜3)。対して50代・60代では、いずれの食肉の摂食頻度も1カ月の間に数回も食べない者(「月に数回程度」以下の頻度者)の割合が最も高かった。これは、年齢が高くなって食肉に対する摂食意欲が減退した可能性もあるが、これらの世代が20代・30代であった1990年代の調査結果でも摂食頻度が低いことから、元来、食肉を摂食する習慣が少なかったことも一因と考えられる(図22−1〜3)。すなわち、現在、食肉の摂食習慣がある40代以下の世代が高齢化する数十年後には、高年齢層での摂食頻度が底上げされることで、全体平均が押し上がる可能性があるといえる。
また、最も摂食頻度が増えたと感じる食肉としては、「豚肉」を挙げる回答者の割合が最も高かった(図23)。その理由として、「自宅の料理で使う頻度が増えたから」「価格が安くなったから」を選択する回答者が55%を超えた(図24)。次いで、「健康にいいから」が挙げられており、中国人の健康意識の高さがうかがわれる結果となった。なお、これらの理由については、最も摂食機会が増えたと感じる食肉を「牛肉」または「鶏肉」と回答した者でも、その品目を選んだ理由の上位に挙げられている。