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話題 畜産の情報 2023年5月号

日本養豚大学校 〜養豚哲学の共有と確立された技術の実地教育を目指して〜

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一般社団法人日本養豚協会 係長 海老原 達之

1 はじめに

 わが国の養豚業における強力な担い手の育成を目的とする「日本養豚大学校」が2013年9月に開校し、今年で開校10年目の年となります。豚流行性下痢(PED)などの疾病状況や新型コロナウイルス感染症の影響を受け、休講することもありましたが、2022年度には第7期を3年ぶりに開講し、2月に全課程が無事に修了しました。これにより、第1〜7期生までの修了した受講生は、延べ255名になりました。
 本校では現在まで「初級コース」を実施しており、1年間に約50時間に及ぶ講義および実習を3スクールに分けて行っています。

2 日本養豚大学校誕生の背景

 近年、わが国の養豚をめぐる経営環境が厳しさを増す中、さまざまな政策的課題がある一方で個々の経営体質の向上が養豚業全体の競争力につながるとの認識が業界内で広がっていました。
 一般社団法人日本養豚協会(JPPA)の国際競争力強化検討委員会が取りまとめた報告書『養豚白書』の中で、国内養豚における繁殖成績・肥育成績の両面が、欧米諸国に比べて大きく遅れをとっている現状が改めて示された事を受け、次世代の経営力や生産技術の向上を目的に、業界内で常設の教育機関を設けて一定のカリキュラムのもとで人材育成を図ることが決まりました。
 そこで、JPPAが中心となり一般社団法人日本養豚開業獣医師協会(JASV)および麻布大学の協力を得て、生産者、獣医師、大学関係者で構成された日本養豚大学校設立準備委員会を設置し、新しい教育の場“日本養豚大学校”の設立に向けてカリキュラムや運営体制などを構築しました(写真1)。

 
 そして設立協賛企業による寄付金の協力を得て、2013年6月に養豚産業の新たな常設の教育機関「日本養豚大学校」が誕生しました(写真2)。

 
 講師陣には、JASV、麻布大学で活躍する獣医師をはじめ、第一線で活躍する養豚生産者や業界関係者、さらには公益社団法人全国食肉学校など養豚業以外の関係者を迎えました。日進月歩で進化する知見、全国の養豚生産者が日々試行錯誤して確立してきた技術を、内外から体系的に収集・整理して知識化しました。本校は、その正しい知識を効率的かつ効果的に産業全体に普及していく事を目指しています。これは、養豚に関する包括的な知識、飼養管理の基本的な技術などを養豚に携わる後継者や従業員に体系的に教えるための産学官民共同の教育機関として、国内では初めての取り組みとなるものです。
 また、JPPAと麻布大学は包括協定を結び、日本養豚大学校の実習会場や卓上講習を行うためのメインキャンパスの提供を受けており、最新の設備のそろった万全の体制で運営しています(写真3)。

 

3 日本養豚大学校の講義内容

 本校では、1スクール3日間×3回合計9日間を1期としたカリキュラムで行っています(写真4〜13)。講義課目は養豚全般、繁殖〜肥育管理技術、疾病コントロールとバイオセキュリティ、農場施設管理設備、流通〜食肉実態などの内容です(表1、2)。受講生によっては、すべての飼養部門を経験している方もいれば、大規模農場で働いている方のように一つの飼養部門しか経験したことがない方もいます。本校のカリキュラムは、養豚の一連の流れをつかむ内容となっているため、担当部門の技術的なスキルアップだけでなく、前後の飼養ステージを考えながら所属部署を担当することができるようになるなど、幅広い視野の取得につながっています。
 講師は、繁殖学や繁殖実習、解剖実習などは実習施設がある麻布大学の先生が担当します。同大学は、実際に豚を繁殖〜飼育〜解剖まで行える、日本でも数少ない設備を持っています。また、スクール毎に受講者の班編成を行い、グループミーティングを実施し最終日にグループ発表を行います。グループミーティングを行うことで、自農場の課題など意見交換をする場となり、受講生同士の交流も深まります。その他にも、受講レポート、次のスクールまでの課題作成も取り入れており、取り組んだ課題は1人ずつ発表を行います。本校では受講するだけではなく、交流、レポート作成・発表とスキルを磨けるような取り組みも実施しています。
 限られた期間の中で養豚のすべてを学び、覚えることには無理がありますが、講義を受けることで養豚を学ぶ視野を広げ、所属する農場をよりよい方向へ導くノウハウの取得につながると考えています。



 

4 講義以外の特長

 本校はカリキュラム以外にも貴重な学びの場を提供しています。
 一つ目は「仲間づくり」です。全国から養豚生産者が集まり、大中小の飼養規模の後継者や従業員が男女問わず集まります。同じ志を持った仲間に出会えることで、互いに刺激し合いそして学んでゆける環境になっています。地域差や農場差があると思いますが、この機会に違った目線を知る良い機会になっています。
 二つ目は「学びの場の提供」です。受講生およびスタッフなどは同じホテルに宿泊します。宿泊先のホテルの一室を利用して、講義が終わったあとも、皆で集まり勉強や飲食ができる場所で獣医師の先生や業界関係者も参加した養豚談議で盛り上がっています。
 三つ目は「獣医師が常駐」していることです。開講期間中は本校副校長の日先生が滞在し、JASVからも若手獣医師を派遣されています。そのため、講義の休み時間や宿泊先の学びの場でも獣医師に相談することができます。講師には聞けなかったことや自農場での悩みなど、気軽に聞ける機会があります。
 仲間や獣医師、そして講師などに出会える場ですので、限られた受講期間中に講義以外の場をフルに活用し、勉強会や食事会を率先して行って、人脈を広げていくことができます。

5 おわりに

 本校では、受講生が作成したレポートを受講生の所属している農場に返却します。課題作業では農場の協力が必要ですので、情報を共有しながら取り組み、農場全体で活用できるようなレポートの作成指導を心掛けています。また、受講レポートは講師にも共有し、次期開校に向けてより良い内容になるように取り組んでいきます。養豚業における後継者や従業員の教育の場として、本校を是非ご活用いただければと思います(表3)。





 
















(プロフィール)
千葉県白井市出身
2007年3月 東京農業大学農学部畜産学科 卒業
2007年4月 食肉卸売会社 入社
2014年10月 一般社団法人日本養豚協会 入社(現職)
千葉県の農家に生まれ、幼いころから農業や養豚業に触れ合う。
現在も田畑を営んでおり、休日を利用して稲作を手伝っている。
今後も農業に触れていきたい。