JAおきなわ八重山地区畜産振興センター(以下「畜産振興センター」という)では、こうした状況を打開するため、市内における需要の掘り起こしを目的とした取り組み(ドライブスルー事業)と、「顔の見える関係」を堅持しつつ、全国に石垣牛のおいしさを届ける取り組み(クラウドファンディング)を展開し、一定の成果を上げている。
(1)ドライブスルー事業
ドライブスルー事業は通称名として呼ばれている取り組みであり、新型コロナ拡大防止の観点から、3密(密閉・密集・密接)を避け、消費者(客)が車に乗ったまま商品を受け取ることができる、ファストフード店などで採用されているようなドライブスルー方式での販売方法・形態である(写真2)。
この取り組みは、畜産振興センターの担当者・生産者同士の雑談の中から生まれたアイデアであったと言うが、と畜頭数の維持・回復の方策を検討する中で真剣な議論に発展し、実現に至ったものである。
初回の実施に当たっては、地元の新聞を活用しながら開催告知し、石垣市の畜産課、JAおきなわ、肥育部会などが協力し、ステーキ用や焼肉用などにカットした石垣牛の牛肉1万円相当の詰め合わせセット(1キログラム)を5000円で販売することを決めた。販売日となった令和2年5月2日、市内の販売所では600セットを用意したが、開始後30分も経たないうちに完売する大盛況ぶりであった。その後、好評につき要望に応える形で同年9月に2回目の販売会が行われた。初回に販売所周辺で道路の渋滞を引き起こしてしまった反省を踏まえ整理券制、販売期間を5日間にするなどの対策を講じたが、わずか2日で1200セットすべてが完売となった。
ドライブスルー事業では、1回目は1頭分、2回目は6頭半分に相当する量の牛肉を販売したにすぎず、と畜頭数を大幅に引き上げる効果はほとんど見込めなかったものの、地元の消費者に石垣牛のおいしさを改めて知ってもらう良い機会になったほか、生産者が直接消費者の反応を感じ取るまたとない機会となり、やりがいや自信を取り戻すことにもつながったものと思われ、数値だけでは測りきれない充実感や手応えを感じる結果となった。
(2)クラウドファンディング
石垣牛同様、コロナ禍で飛騨牛の出荷が滞っていた飛騨農業協同組合(岐阜県)では、令和2年4月29日〜5月10日にかけて実施したクラウドファンディングにおいて、わずか2週間の間に1億1000万円を超える支援金が集まり、大きな注目を集めた
(注2)。このニュースを見た畜産振興センターの担当者は、すぐに同組合の担当者に相談を持ち掛け、そこで受けたアドバイスなどを基に企画を練り上げ、石垣牛の出荷の滞留を解消する資金として1000万円の支援金を集めるという目標を掲げて同年5月29日からクラウドファンディングを開始した。
6月21日に募集を締め切った結果、1000人を超える人々から目標金額を大きく上回る総額1789万4338円の支援が寄せられ、成功を収めるとともに、その支援金を基に石垣牛の定義から外れそうな月齢の高い牛10頭ほどを無事に出荷することができた。
また、今回の取り組みを通じて副次的な効果もあったと畜産振興センターの担当者は感じている。支援者の地域別の内訳を見ると、北海道が24人、東北地方が13人、関東地方が502人、中部地方が107人、近畿地方が166人、中国地方が21人、四国地方が10人、九州地方が62人、沖縄県が236人で県外の消費者が79%を占めている(図7)。このことから、石垣島に愛着を持っているまたは石垣島を応援している人々が県外に大勢いることがうかがえたほか、ターゲットとしている対象にしっかりとアプローチできていると言え、今後の販路開拓およびコロナ禍後の県外からの来客回復に期待が持てるものとなった。
さらに、今回のクラウドファンディングは支援する金額に応じて返礼品が用意されており、例えば、1口当たり2万2000円を支援した者には石垣牛の肉1.7キログラムの詰め合わせセットが送られる仕組みとなっている(図8)。この返礼品の商品開発などは、地元の複数の業者と協力しながら進めたことにより、支援金の一部が地域にも還元され、コロナ禍で売り上げが低迷する地元の食肉関連産業の支援に一役買っている。
なお、支援金の内訳を見ると、1口当たり1万2000円に615件(54%)、同1万7000円に279件(24%)、同2万2000円に247件(22%)の支援を集めた。
(注2)『畜産の情報』2022年4月号「ピンチをチャンスに〜コロナ禍に挑む飛騨牛復興プロジェクト〜」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002064.html)を参照されたい。