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話題 畜産の情報 2023年7月号

農業の未来を担うために〜学校農業クラブ活動(農業鑑定競技会)を通して〜

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日本学校農業クラブ連盟 中央指導委員 専門委員長
(栃木県立真岡北陵高等学校 教諭) 廣田 真人

1 日本学校農業クラブ連盟について

 日本学校農業クラブ連盟(日連、FFJ:Future Farmers of Japan)は昭和25年に結成された、農業を学ぶ高校生のための全国組織です。学校農業クラブ活動(FFJ加盟校が行う農業活動)は、高校の教科(農業の学び)に位置付けられており、令和4年度現在、約7万5000人の農業クラブ員(学校農業クラブ活動を行う生徒)が加盟しています。農業クラブ員は、農業クラブが掲げる3大目標「科学性・社会性・指導性」の下、それぞれが農業系高校での学びを生かして活動に励んでいます。
 なお、全国規模であるFFJは、各加盟校のことを指す単位学校農業クラブ(以下「単位クラブ」という)、都道府県学校農業クラブ連盟、地区ごとのブロック学校農業クラブ連盟から構成されています(図1)。

 
 単位クラブが発足したころは、農業経営を目指すクラブ員が、自宅でのホームプロジェクトをより良く進めるために、専門の授業や地域での活動を主な取り組みとしていました(図2)。その後、学校農場や施設を使ったスクールプロジェクトが行われるようになり、教員の指導の下、科目として農業に結びついた専門の授業の活動が中心となりました。また、時代の変化に伴い、地域の特性を生かしたさまざまな活動が生まれました。中には、農業鑑定競技会のように全国大会の種目になったものもあります。地域や単位クラブごとにさまざまな活動を行っていますが、全国の農業クラブ員が共通して目指しているものに、日本学校農業クラブ全国大会(以下「全国大会」という)で開催されている発表会や競技会があります(表1)。



2 農業鑑定競技会とは

 農業鑑定競技会は、教科の学習や学校農業クラブ活動で得た農業に関する知識・技術の成果を鑑定・判定・診断・審査技術にわたり、その実力を競い合い、職業的な能力を高めることを目的としています。
 現行の実施基準では「農業・園芸・畜産・食品・森林・農業土木・造園・生活」の8分野でコースを設定しています。各分野とも出題範囲を定めており、各項目の関連する内容について出題されます(表2)。出題数は40問であり、うち25問は択一式、15問は記述式となっています。1問の回答時間は20秒となっており、最大5問までは40秒問題(計算問題など)を設定できることになっています。全国大会開催県および開催ブロックから審査員を選出し、毎年異なる問題が出題されます。
 表1でも示した通り、出場資格は各単位クラブ(加盟校)の代表者となります。全国大会の発表会・競技会の中でも最も参加人数が多い競技となっており、各分野で最優秀賞(日本一)を目指して、日頃の学習の成果を発揮するために取り組んでいます。


 

3 農業鑑定競技会全国大会の様子と問題の一例

 全国大会は毎年10月に開催されます。参加するクラブ員や教職員の延べ人数は3000人を超え、「農業高校生の甲子園」とも言われています。農業鑑定競技では20秒に1度ベルが鳴らされ、次々と問題を答えていきます(写真)。8分野すべての問題が一つの会場に設置され、多くのクラブ員が真剣に1問ずつ挑む姿は農業高校生の甲子園の名に恥じないものとなっています。畜産の例題は図3、4の通りとなっていますが、生産現場でも生かせるような実践的な問題や時事問題などから構成しています。できる限り実物や実際の写真を使って出題することを意識することにより、学んだことだけでなく現場で生かせる応用力を身につけるための問題づくりを心がけています。





4 農業鑑定競技会に取り組むクラブ員の声(取り組み状況とやりがい)

 第73回日本学校農業クラブ全国大会令和4年度北陸大会に出場したクラブ数は332校、クラブ員数は965人でした。前述した全国大会参加総数に対して約3分の1の参加者は農業鑑定競技会の出場者です。多くのクラブ員は農業鑑定競技会の全国大会で入賞するべく、普段の学習だけでなく、課外学習や家庭での学習に励んでいると聞きます。以下、農業鑑定競技会で入賞したクラブ員が話してくれた取り組み状況とやりがいを記載します。

(具体的な勉強方法と時間)
・出題範囲となっている教科書を中心に学習した。
・オリジナルの学習ファイルを作成し、授業で学んだこと以外にも自分で調べたことや実物や写真を貼り付けたりすることで、繰り返し学習できるよう工夫した。
・先輩たちが残してくれたファイルを参考にするようにした。放課後には農場や実習室で先生方にお願いして実物を見るようにしていた。
・農業鑑定競技会の全国大会に初めて出場した時には入賞できず、悔しい思いをしたので1年かけて勉強をした。
・継続して勉強することは難しいことだが、先生方に学び方や心構えを指導してもらい、工夫して集中力を切らせず、取り組むことができた。
(農業鑑定競技のやりがい)
・家業で酪農を営んでいるので、幼いころから牛に関わることには詳しかったと自負していた。しかし、いざ問題として出題されると自分の知らないことが多くあり、もっと学びたい・知りたいと思うようになった。
・やればやるほど畜産の奥深さを感じ、知ることで実際に使ってみたいと思ったり、家業に生かせるのではないかと感じるようになった。
・同じ志を持った仲間と高校3年間一緒に頑張り、共に入賞できたことが思い出として残っている。

 FFJとしても本競技会を通して畜産における興味関心を深め、職業的な能力を向上させることはもとより、全国に同じ志を持った仲間をつくることなどに寄与することを意識して開催しているところであり、このようにクラブ員からの声を聞けることは大変有意義に思います。

5 今後の展望

 現在、文部科学省が定めている新学習指導要領の改訂に伴い、令和6年度に向け、農業鑑定競技をはじめさまざまな学校農業クラブ活動で実施基準の改訂を進めています。これまでの改訂でも、根底にあったのは農業クラブ三大目標である「科学性・社会性・指導性」です。農を論理的に考え判断できる科学性、社会の一員として協力・奉仕できる社会性、自立心や責任感をもつ指導性は、これまではもちろんのこと、これからの農業を担う若者に必要な力だと私は思います。昨今、農業関係高校への農業後継者の入学は少なくなっていますが、農業や畜産業に強い興味を持って入学する非農家の生徒も多くいます。農業や畜産業、関連産業が将来の仕事として選ばれる、日本の農業を支える理解ある消費者が育てられることを目指し、農業や畜産業を支える人材の育成ができるよう農業クラブの活動の充実を進めていきたいと考えています。
 これまでの農業教育は、後継者を育成するために農業を教えることが主流でした。これから農業が産業としてますます発展するため、一つの職業として確立されるため、農業を通じて何を教えるかが一層求められると私は思います。これまでの諸先輩方が脈々とつないできた学校農業クラブ活動を、これからの農業の明るい未来につなげていくために、より充実したものにしていきたいと考えています。

6 第74回日本学校農業クラブ全国大会のご案内

 第74回日本学校農業クラブ全国大会は令和5年10月25日(水)〜26日(木)に熊本県(熊本市、玉名市、山鹿市、八代市、菊池市)で開催されます。これまで同様、農業鑑定競技会のほか、プロジェクト発表会、意見発表会、平板測量競技会の発表会・競技会に加え、本大会では農業情報処理競技会と家畜審査競技会(乳牛の部・肉牛の部)も開催されます。家畜審査競技会が開催されることにより、これまでの大会以上に畜産に興味関心を持つクラブ員が増え、生産現場に貢献できる農業高校生の育成の一助となればと熊本大会事務局が中心となり、準備を進めています。

(プロフィール)
令和2年4月から 日本学校農業クラブ連盟 中央指導委員 専門委員
令和4年4月から 同連盟 中央指導委員 専門委員長

例題の回答
5:B
9:B
4:A
24:A(ダイズ)