23年6月末の肉牛価格、過去5カ年平均の3割減の水準に下落
肉牛生体取引価格の指標となる東部地区若齢牛指標(EYCI)価格は、依然として下落傾向が続いている。2023年6月28日時点の同価格は、1キログラム当たり564豪セント(551円:1豪ドル=97.77円
(注1))と過去5カ年平均の3割減の水準に、また、22年9月の同価格から約半値の水準にまで下落している(図)。豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)によると、23年末までに同550豪セント割れ(同546豪セント)が予測されており、今後も過去5カ年平均を下回って推移するとみられている。
(注1)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年6月末TTS相場。
23年の牛飼養頭数は14年以来の高水準となる見込み
MLAは2023年6月、最新の牛肉生産量などの見通しとなる「Industry projections 2023」を公表した(表1)。MLAは将来の気象変動、金利、為替、インフレ率に関する仮定を基に、本見通しを作成している。
これによると、23年の牛飼養頭数は前回の見通し発表時(23年1月)から若干下方修正されたものの、14年以来最も高い水準となる2870万頭と予測されており、その後も増加傾向を維持し、25年には2924万頭に達するとされている。これに関してMLAは、これまで生産性の高い繁殖牛群を構築するために生産者が行ってきた遺伝的選抜の取り組みが、子牛供給頭数に大きく貢献していると分析している。また、比較的重量の軽い雌牛や牧草肥育牛のと畜比率が上昇することから1頭当たり枝肉重量は一定程度の減少が見込まれるものの、成牛と畜頭数の増加を背景に牛肉生産量は増加し、牛肉輸出量も23年に106万1000トン、25年に121万8000トンまで増加すると予測されている。
23年5月の牛肉輸出量、中国向けが2カ月連続で首位を維持
豪州農林水産省(DAFF)によると、2023年5月の牛肉輸出量は9万1479トン(前年同月比14.4%増)とかなり大きく増加し、23年1〜5月の累計でも38万4370トン(前年同期比20.5%増)と大幅に増加した(表2)。
現地報道によると、東部各州における牛肉生産量の増加と、海外からの需要の増加を輸出増の要因に挙げている。一方で豪州食肉産業協議会(AMIC)は、食肉処理施設の労働力不足は継続しているとしており、今後の輸出動向が注目されている。
輸出先別に見ると、中国向けが2カ月連続で首位となり、1万9569トン(前年同月比43.9%増)と大幅に増加した。日本向けは1万9366トンで、前月比では27.2%増と大幅に増加したものの、前年同月比では24.4%減と大幅に減少した。これは、前年同月に中国が新型コロナウイルス感染症(COVID−19)による厳しいロックダウン下にあったことや、米国では干ばつによる牛群
淘汰で牛肉生産量が増加したことで、これら輸出先への牛肉輸出が低迷したことから、日本向けが豪州の牛肉輸出量全体の3割以上を占めるまで増加していたことが影響している。米国向けについては、同国の干ばつは改善傾向にあるが、現在は牛肉生産量が減少していることから、1万7957トン(同63.4%増)と大幅に増加している。
このほか、現地報道によると、本年5月31日に発効した豪英FTA
(注2)に関して、現在、英国への急激な牛肉輸出量の増加は想定されておらず、本年後半にかけて、無税枠を利用した豪州Wagyu肉といった高級牛肉が一定量輸出される見込みであるとされている。
(注2)海外情報「豪英FTAおよびNZ英FTAが5月31日に発効(その2:豪州およびニュージーランド側の反応)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003535.html)を参照されたい。
(調査情報部 国際調査グループ)