(1)昆虫の飼料利用に関する制限
欧州委員会保健衛生・食の安全総局(DG SANTE)に聞き取りの機会を得たが、開始直後に「まず理解してほしいことは」と切り出された。そして「BSEの過ちが繰り返されないよう、昆虫の飼料利用は慎重に適用範囲を広げてきた。魚類用飼料は2013年、豚や家きん用飼料は21年に解禁したが、反すう動物への適用は現状難しいと考えている。同様の理由で、昆虫に与える餌についても厳しく規制しており、一部の例外を除いて、昆虫には植物性の飼料しか与えることができない」と話し、無分別の食品残さを昆虫の飼料として利用することには否定的であった。
このことから、さまざまな食材が含まれる家庭や外食産業からの食品残さを昆虫の飼料として利用することは現状では困難であり、食品工場などから発生する均一な植物性の食品残さが主な供給源となる状況にある。例えば、欧州域内の大手昆虫養殖企業の工場では、フライドポテト工場から出るジャガイモの廃棄物などを昆虫に与える餌として利用している。
(2)コストの問題
ラボバンクの試算によると、2021年5月時点で昆虫由来ミール(昆虫タンパク質)の生産コストは1トン当たり3500(54万8975円)〜5500ユーロ(86万2675円)と推計されており、同時点の魚粉の同1200ユーロ(18万8220円)〜2000ユーロ(31万3700円)、大豆ミールの同370ユーロ(5万8035円)と比較して高額である。
欧州委員会への聞き取りでも、普及に際してコストの問題は大きく、昆虫に与える餌に食品残さの使用許可を求める業界の要望も、飼料コストの削減意図が大きいのではないかとの意見が聞かれた。
各ミールの生産コストの差については、魚粉などの価格が近年上昇し続けていることに加え、今後の昆虫の品種改良や、より効率的な生産方法の確立および大規模な工場の建設により、昆虫ミールの生産コストをある程度低下させることが期待される。しかし、競争力保持を期待できるものの、魚粉および大豆ミールと価格差のある現状では、昆虫ミールの機能などの特性や、温室効果ガス排出量削減といった持続可能性での利点をふまえた差別化が必要と思われる。
(3)フラス規制の問題
前述の通り、フラスは有機肥料として承認されたものの、その販売にはさらに2段階の手続きが必要である。まず、欧州議会およびEU理事会規則(2019/1009)では、昆虫を含む各種動物由来の製品について、必要な処理を行った後肥料製品として転換できるための基準(エンドポイント)を規定している。この規制の改定は欧州委員会によって2023年5月30日に承認されており、議会および理事会の反対がなければ8月末ごろ発効の予定である。その後、肥料としての特性と環境への影響評価が24年末をめどに実施されるため、フラスの有機肥料としての利用開始は25年以降と見込まれる。
また、昆虫養殖業界はフラスを肥料として利用するため熱処理が要求される点を疑問視しており、家畜のふん尿のように熱処理を行うことなく、圃場への直接散布が可能になるよう規制緩和を求めている。
(4)貿易上の懸念
2022年11月のIPIFFの年次会議では、WTOとの整合性がその他の懸念として挙げられていた。会議では欧州委員会の発表者から、フラスの輸入を制限するような規制はWTOのルールに違反する可能性が指摘された。そのため、EU域外からのフラスの輸入規制を行うことが難しくなると、域内で発生したフラスの販売・処理が難しくなるのではないかといった意見も聞かれた。
これは飼料用タンパク源としての昆虫ミールなどの製品でも同様であり、EU側の求める厳しい条件を満たす必要はあるものの、昆虫由来の製品が域外国から輸入される可能性がある。
また、現状はミツバチを除く昆虫の取引に関する国際的なルールがなく、国際的に同意された動物衛生上の手順もない。昆虫による人畜共通の感染症の媒介の否定はできず、昆虫の形態で国際的に流通させるためには、動物衛生上のリスクを洗い出し、国際獣疫事務局(WOAH)のような機関で議論を行い、コンセンサスを得ていく必要がある。