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海外情報 畜産の情報 2023年9月号

中国の食肉産業の展望〜中国国際食肉産業週間を踏まえて〜

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内蒙古財経大学 准教授 阿拉坦沙アラタンシャ
内蒙古財経大学 准教授 格根哈斯ゲゲンハス
内蒙古財経大学 准教授 唐達頼タンダライ

【要約】

  本稿では、2023年4月18〜22日に山東サントウ青島チンタオ市の青島世界博覧城で開催された2023年度中国国際食肉産業週間にて発表された「中国食肉産業の現状と発展の方向性」について報告する。中国は14億人を抱える消費大国である。中国の高度経済発展に伴う国民所得の増加、生活水準の向上などにより、食肉消費量が増加し続け、現在、同国は世界一の食肉生産国、消費国、輸入国となっている。一方、同国は食肉の「大国」ではあるが、「強国」(強い国)ではない。国の政策により農業大国から農業強国へ移行している中、食肉産業では質の向上による食肉強国の実現に取り組んでいる。消費者の生活習慣の変化、品質の重視、温度管理・冷凍解凍・加工・包装など食肉関連技術の進歩、デジタル化などの事項が近年の中国の食肉産業に大きな影響を与えている。中国食肉産業は、食肉消費量の拡大のみならず、品質、利便性、風味などの要素において、多様化する消費志向への対応が可能となりつつあり、大きな発展が見込まれている。これらの事項は、同国の食肉生産者のみならず、国際貿易にも大きな影響を与えるものと考えられる。

1 はじめに

 中国は食肉(肉類)(注1)の生産、消費大国であると同時に、食肉の輸入大国でもある。一方、同国は農業大国から農業強国の実現を目指す中で、畜産業についても強国を目指している。同国の経済政策方針では、「国内大循環を主体として、国内外の双循環(注2)が互いに促進する新発展モデルを目指す」とされ、このことが中国の新しい経済発展戦略となった。食肉産業においても、海外市場(外循環)と国内市場(内循環)の相互促進の実現、国内市場の大循環を主体とする食肉産業の高度な発展が求められ、これは(1)安定的な供給、標準化・高品質化した生産と加工(2)食肉品質のレベルアップ(3)国内消費に対応した国内生産と輸入のバランス(双循環)−の3点の実現と捉えることができる。簡単に表現すると、安定的な国内生産の確保、食肉の品質向上、食肉輸入の安定と国内生産と消費の均衡を保った持続可能な食肉産業の発展を実現するものである。
 2022年、中国の食肉生産量は9328万トン、食肉輸入量は721万トンを超え、1人当たりの年間食肉消費量は70キログラムに達している(注3)。中国は14億の人口を抱え、その食肉消費の全体像は想像しにくいが、年間約7億頭の肥育豚、5000万頭の肉牛、4億頭の羊、165億羽の家きんを消費している。中国は食肉生産量と消費量で世界一となっており、数量からしても食肉の生産、消費大国である。中国の1人当たりの年間食肉消費量は1978年の9キログラムから年々増加してきており、今後も継続的に増加が見込まれている。注目すべき点は、食肉消費量は増加するものの、構成する各種畜産物の消費割合が必ずしも同程度の比率で増加するものではないことである。
 中国の食肉の消費は、大きく区分すると「家庭内消費」と「外食消費」となる。従来、食肉の流通は「1頭買い」および「部分肉」での流通、供給が一般的であった。しかしながら、近年はコロナ禍のほか、消費者の生活習慣や外食店舗の経営方針などの変化が大きく、食肉の流通、供給形態にも大きな変化が生じ、カット・加工した食肉と調理済み食品の流通が増加している。
 そこで本稿では、2023年度中国国際食肉産業週間(注4)の食肉産業発展大会を中心に中国国際食肉工業展示会にも焦点を当て、中国食肉産業の今後の発展と方向性、食肉産業に関する高度な発展について紹介する(写真1〜3)。
 
(注1)中国では、「食肉」という言い方はほとんどなく、基本的に「肉類」を使用する。本稿中の「食肉」という表現は中国語の「肉類」を示している。中国語の「肉類」には、豚肉、牛肉(ヤクと水牛肉を含む)、羊肉(めん羊肉と山羊肉を含む)、家きん肉(鶏肉とカモ肉を含む)などが含まれる。
(注2)内循環(国内市場)と外循環(海外市場)を指し、中国の巨大な市場規模と潜在的な国内需要の強みを生かした、国内と海外の市場が互いに循環を促進する新しい発展モデル。
(注3)食肉生産量は「国家統計局」、輸入量は「海関総署」、消費量は「市場監管総局」のデータを引用。
(注4)食肉をテーマとした中国国内の最大規模のイベントであり、毎年1回、4日間の会期で中国食肉協会と国際食肉事務局(IMS)の共催で開催される。2022年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により開催が見送られたが、23年は中国有数の養牛企業である華凌牛業集団有限公司が協賛し、「華凌牛業-中国国際食肉産業週間」と名付けられ、23年4月18〜22日に山東省青島市青島世界博覧城で行われた。







2 中国食肉生産および輸入の現状

 中国の食肉生産量は、この5年間アフリカ豚熱などの家畜伝染病やCOVID-19などのヒトへの感染症といった疾病の影響が大きく、2018年の8625万トンから19年の7759万トン、20年の7748万トンと減少した(図1)。その後、21年と22年は、それぞれ8990万トンと9328万トンと増加しており、今後も疾病の発生など突発的な事象が大きく影響しない限り継続的に増加すると想定される。
 主要食肉の中で、豚肉の生産量が最も多く、食肉全体の58〜62%を占め、次いで家きん肉は23〜28%、牛肉は7〜8%、羊肉は6%程度で推移している。国民所得の増加、生活水準の向上、食習慣の変化に伴い、食肉消費量は増加している。
 中国の食肉輸入量を見ると、18年は422万トンであったが、20年の991万トンをピークに21、22年は減少している(図2)。食肉輸入量の減少は、COVID-19拡大による冷凍輸入品への検査の影響が大きかったとの見方が強い中で、輸入先でのコロナ禍における供給体制の問題を指摘する声もある。しかし、輸入食肉は、部分肉や一次加工された商品などの品揃えが豊富であり、外食店舗で使いやすいため、その多くが外食で利用されていることを考慮すると、COVID-19関連の規制による中国全体の外食消費の落ち込みも一因とみられる。
 中国の食肉消費量の増加が見込まれる中で、国内の食肉生産量は限界水準にあり、COVID-19関連の規制が緩和され国際貿易が正常に動き出していることから、今後、中国の食肉輸入量は間違いなく増加すると推察される。しかしながら、輸入先の食肉供給能力や国際関係などの不安要素があることも否定はできない。




3 中国の食肉産業発展大会

 毎年開催される食肉産業発展大会には、食肉業界の関連機関の指導層、著名な専門家、学者ならびに企業の上層部が招かれ、新しい発展の枠組みにおける食肉業界に対する各種政策の変化、市場の変化、消費の変化などについて踏み込んだ議論が行われる。2023年の中国国務院の「中央第一号文書」では、食肉を含む重要な農産物の安定供給などについて、明確な政策ガイドラインが打ち出され、中国の食肉産業の新しい発展の枠組みを早急に構築し、食肉産業の構造転換、レベルアップを実現し、高品質な商品の供給などといった、食肉産業の持続可能な発展の方向性を明確にした。今回の食肉産業発展大会では、このような政策背景の中、「新しい枠組みを構築し、新たな挑戦に立ち向かう」ことをテーマに掲げ、「食肉産業の新しい発展の枠組みに対する政策保障と科学技術による支援」「食肉産業の新しい発展の枠組みを導くモデルとサービスの保障」「中国食肉業界の全国的に統一された大市場(注5)」の三つの大きな課題をめぐり、食肉産業発展の中でいかに国際および国内市場の双循環を促進するか、また国内大循環を主体とした中国の巨大な市場性と国内需要を活性化するための食肉産業の発展条件について議論が行われた。
 以下に食肉産業発展大会と中国国際食肉工業展示会での主要な点について紹介する。
 
(注5)中国統一大市場は、2022年4月『中共中央国務院の全国的に統一された大市場の早急な構築に関する意見』で発表された。全国的な統一的基礎制度の制定、標準的な市場施設整備、商品とサービスの高水準での均質化、統一的かつ公平な市場管理、市場競争の透明化などを前提に、全国的に統一された一大市場の形成を目指すものである。
 

(1)「食肉大国」から「食肉強国」へ

 中国食肉協会の李水龍会長は本会の開幕式でのあいさつの中で、政府の指導の下、何代にもわたる食肉産業従事者の努力を経て、中国はすでに食肉の生産および消費の大国となり、基本的に「食肉の供給」を安定させることができたと語った。2022年には中国の食肉の総生産量が9000万トンを超えて世界の食肉生産量の4分の1以上を占める規模となり、1人当たりの年間食肉消費量も65キログラムを超え、世界の平均水準を大幅に上回っている。食肉関連企業は、こうした食肉消費や、より高品質な食肉商品の需要に応じた食肉商品の開発、品質の改善、商品の多様化を実現できているとした。一方、同会長は中国の食肉産業は「規模が大きいが強くはない」事実を指摘し、中国の食肉産業発展における一部の過程や一部の商品は国際市場への依存度が依然として高く、その部分で(国際的な)発言力がないとし、食肉産業の構造調整の必要性、産業構造の最適化、産業のレベルアップ、産業の標準化レベルの向上、食肉の品質と安全保障能力の向上、産業の効率改善などの必要性を指摘した。
 また国際食肉事務局(IMS)のギョーム・ルエ(Guillaume Roué)会長は開幕式のあいさつの中で、中国食肉産業発展大会が中国の食肉業界にとって非常に重要な機会であり、業界関係者は食肉に関し、国の状況、経済的情勢やその他さまざまな角度から見解を発表することができる場所であると評価した。現在、世界の食肉業界は、動物衛生、疾病問題、アニマルウェルフェア、持続可能な発展など多くの課題に直面しており、世界中がこれらの問題の解決のために最大限に努力し、食肉業界の持続可能な発展を実現しようとしていると述べた。
 そのほか、開幕式では、華凌牛業集団の楽建江副総経理、農業農村部畜牧獣医局の王功民副局長もあいさつを行った。
 4者のあいさつを中国食肉産業の実情に照らし合わせてみると、中国食肉産業では、市場性と需給問題、動物衛生や資源調和における持続可能な発展などマクロ的な課題もあれば、食肉商品の品質向上、安全安心、と畜・加工過程での問題など具体的な課題も多く存在する。これら問題の解決は中国が農業大国から農業強国へ、食肉大国から食肉強国へ進化し、食肉産業の高度な発展を達成するためには必要最低限のことであり、中国の食肉業界関係者の共通認識と言えよう。
 

(2)食肉産業の新しい発展の枠組みに対する政策保障と支援策

 世界的にはCOVID-19が常態化し、世界の政治と経済情勢の変化などが食肉貿易と食肉産業に多くの課題と問題提起をもたらしている。一方、中国の食肉産業は、このような近年の情勢を需要拡大、安定的な供給、品質向上、消費者ニーズの多様化、安定的な飼料調達などの課題と発展の機会であると捉え、このような食肉産業の新しい発展の枠組みに対して、政府による食肉産業に関する政策、食肉企業による市場競争と消費の変化に対応した技術革新、経済的な発展が重要であるとしている。
 本大会では、食肉産業の新しい枠組みを構築する中での政策、市場、消費の変化などについて講演および検討が行われ、食肉産業発展の新しい枠組みや食肉産業の持続可能な発展の具体的な方向性が示された。
 
ア 豚と畜業における変化
 馮忠澤氏(注6)は、この10年間のと畜業に関する劇的な変化について講演を行い、と畜業の発展の方向性を示した。2013年に肥育豚のと畜管理業務が商務部から農業農村部に組み入れられて以降、この10年の間に、各農業農村部門およびと畜業界、その他各界の共同の努力により、中国のと畜業界に非常に大きな変化が起きた。その変化を「一減四増」と呼び、それは、全国の豚のと畜企業数の大幅な減少(一減)、と畜業の集約、と畜企業のと畜能力の向上、と畜頭数の増加、と畜企業の資産と売り上げの倍増(四増)を示している。同時に、と畜業の標準化が進められ、と畜法令や基準が整備され、これに準じたと畜場の建設が進んだ。一方で基準違反への取り締まりや基準順守の呼び掛け強化により、と畜業の健全化が進んでいる。しかし、と畜業の発展と標準化の過程で、一部のと畜場での処理能力の超過、品質管理基準の未達、基準や法規の違反などの問題が依然として存在し、と畜業の発展の障壁となっている面がある。馮氏は講演の中で、今後の一定期間において、「業務計画に照らし、と畜の品質管理、標準化を重点的に推進するとともに、関係者の能力向上、と畜の品質と安全のリスクモニタリングを強化し、豚と畜の標準化を徹底することが、豚と畜業の高度な発展を推進することになる」とした。
 
(注6)中国動物感染症防止対策センター、農業農村部と畜技術センター副主任。
 
イ 食肉需要の拡大と消費のレベルアップ
 周光宏氏(注7)は、食肉製品の品質管理と新しい分野の食肉資源に関して講演を行い、世界保健機関(WHO)による加工肉製品と赤身肉の発がん性に関する発表に対する疑問を呈した。この誤解を解くべき科学的視点の知見から始まり、生鮮食肉の品質および安全管理、冷蔵冷凍食肉生産における重要な技術、食肉製品の品質管理における風味とゲルに関する技術(注8)、先進的な食肉生産技術としての細胞性食肉などの内容について、自らの研究と体験を通して、中国の食肉科学技術の進展の方向性について紹介した。また、講演の中で、食肉の栄養と人の健康に関する研究、食肉製品の冷凍・冷蔵技術の向上、塩蔵肉・常温肉などの中国の従来型食肉製品の安全性と品質の管理、生鮮食肉の鮮度保持と冷蔵冷凍技術、細胞性食肉技術の難題などの視点から、食肉製品の品質管理や新素材創出の最先端課題について分析した。
 周琳氏(注9)は、食肉消費の新しい傾向について、世界的な視野に立ち、従来型の食肉消費の質のレベルアップ、細胞性食肉産業の発展と課題、調理済み食品の台頭と食肉産業のチャンスなどの面から国内外の食肉消費の傾向について分析した。世界的に見ると、食肉消費量は増加し続けているが、増加速度は減速している。その中で、中国国内の食肉消費は依然として大きな増加の可能性を秘めており、食肉加工産業が食肉市場の安定的発展の基礎になるとした。
 孫宝忠氏(注10)は、牛肉羊肉産業の発展の新しい枠組みとこれに関する問題および発展の方向性について講演した。中国の牛肉羊肉消費需要は量の増加とともに品質の向上も産業発展の重要な目標となり、数量、安全性、品質、風味、加工性が牛肉羊肉ないしは食肉消費のニーズの要素となる(写真4、5)。便利かつ簡便な特色ある調理済み食品の開発、環境に優しく炭素排出量の少ない生産、消費の発展などの面から牛肉羊肉産業発展の新しい道を構築することを訴えた。
 徐幸蓮氏(注11)は、家きん肉産業の新たな枠組みの下における発展の方向性について講演を行い、食肉産業発展の現状から家きん肉の新しい発展の枠組みを分析した。家きん肉産業におけるアニマルウェルフェアに配慮したと畜、食品包装における人工知能の導入(写真6、7)、伝統的な家きん肉料理と現代の食品加工技術の結合、家きん肉加工の省エネ化、家きん肉の品質・安全を保証するための生産者の認識の統一化、家きん肉加工品製造への人工知能の導入など、家きん肉産業の発展における新技術の必要性を訴えるとともに、今後は、食肉市場での鶏肉調理済み食品需要が急速に高まる可能性を指摘した。
 
(注7)南京農業大学教授、食肉製品の品質制御・新資源創出全国重点実験室、国家肉類品質・安全管理工程技術研究センター主任。
(注8)ゲルとは高分子物質などがその相互作用により全体として網目構造を作り、液相を多量に含んだまま流動性を失ったもので、固まった寒天、豆腐、こんにゃくなどがその例である。ゲルに関する技術は食品加工分野でも用いられる。
(注9)農業農村部食物・栄養発展研究所副研究員。
(注10)中国農業科学院北京畜牧獣医研究所、畜産物品質・安全研究室主任。
(注11)国家食肉製品品質・安全制御工程技術研究センター副主任、中国畜産品加工研究会常務副会長。









 
ウ 食肉業界の人材育成と関係する科学技術の応用
 張原飛氏(注12)は、中国の養鶏業界を事例に人材育成システムの必要性ならびに科学技術評価業務の重要性について報告した。食肉産業の高品質な発展のためには専門的な人材の育成を強化し、関連する科学技術を早急に普及させることが必要であるとした。管理者体系表、研修対象、研修内容、研修方法、研修教材の面から人材育成体系構築の主な内容を紹介し、人材育成において重要な要素の一つである研修教材について、『食肉製品加工技術と管理』『養豚とと畜加工技術と管理』などの教材の編集進捗しんちょく状況についても紹介した。張氏は家きんのみならず、食肉産業全体に専門人材の育成と科学技術の応用が急務であると訴えた。
 王宇斐氏(注13)は、分光スペクトル分析(注14)に基づく食肉の品質および鮮度の検査について講演を行った。分光スペクトル分析の原理および発展の説明を通して、食肉産業の「生産」「貯蔵」「輸送」「販売」各段階において分光スペクトル分析技術の応用性と応用例などを紹介するとともに、各種装置について実例を用いた解説を行い、今後の食肉産業の各工程への応用を訴えた。
 
(注12)中国食肉協会総括エンジニア。
(注13)無錫譜視界科技有限公司販売担当の副総経理。
(注14)分析対象に対して光を照射し、その反射光もしくは透過光を光の周波数ごとに分解して測定・解析することで分析対象の成分や性質などを分析すること。
 
エ 食肉産業全国統一大市場
 黄敏氏(注15)は、中国における食肉食品の生産・加工業の高度な発展計画について解説した。食肉産業は食品工業の代表的産業であるとともに、食品安全規制は業務の重要な点となる。現在、食肉商品の品質と安全性は良好な方向に向かっているが、それでも中国の食肉産業には、商品の品質が不十分、企業の研究開発・技術革新能力が低く、産業全体の競争力が強くないといった短所が見られる。そこで、多くの食肉生産企業においては、食品安全の主体としての責任を全面的に果たし、品質と安全性の基準を順守することが基本となる。食肉産業においても全国統一大市場確立に向けて、品質と安全性を前提にした川上から川下までの品質管理システムの整備、商品開発の技術革新、商品の品質向上、食肉商品のブランド化、食肉産業の高度な発展の必要性と重要性を指摘した。
 于文軍氏(注16)は、中国輸出入食肉食品監督管理政策について解説した。中国の輸出入食肉食品の規制政策については、重要な項目として3点が挙げられている。第一に、高水準の対外開放が徹底され、多くの良質で安全な食肉製品の中国への輸出を歓迎している。海関総署(以下「税関」という)は、輸出入食肉食品の安全規制業務を非常に重視し、関係各者と協力して輸入食肉の安全性を確保し、消費者の健康を守っている。食品安全性リスクのある食肉について、税関は速やかに関連するリスク防止措置を講じている。第二に、ガバナンス能力の向上と食品貿易の安全でスムーズな流通が堅持されている。新しい情勢の下において、税関は「中華人民共和国輸入食品の国外生産企業登録管理規定」(海関総署令第248号)と「中華人民共和国輸出入食品安全管理方法」(海関総署令第249号)を改定・公布して、管理制度をさらに整備し、輸出入食品の安全性の保証、輸出入食品貿易の順調な発展を促進している。第三に、各者の責任が徹底され、食品安全の国際的な共同ガバナンスの新しい枠組みの構築が推進されている。税関は今後も引き続き、輸出国(地域)の主管部門と協力し、供給側の管理を強化し、港湾での検査検疫の規制を強化して、違法行為を厳しく取り締まり、輸入食品の安全性を保証していく。同時に、貿易のさらなる利便性の強化も積極的に推進するとしている。
 陸成雲氏(注17)は、中国における統一大市場構築の機会、食肉産業チェーン・サプライチェーンの高度な発展について講演を行った。国家レベルにおいて統一大市場構築の機会をどのように捉え、いかにして食肉産業チェーン・サプライチェーンの高度な発展に向けた措置を講じるかが最重要となっている。全国的な統一大市場の構築は、国の方針であり、新しい発展の枠組み構築の基礎となると同時に、内在的に求められるものである。各分野の産業の規模拡大、産業構造の調整、食肉産業チェーン・サプライチェーン構造の底上げと、相互的に発展することが重要と指摘している。食肉産業チェーン・サプライチェーンの高度な発展を推進する全体的な考え方は、大規模化の条件を備えた国内の食肉大市場に焦点を当て、需要と供給の最適なマッチングを目指し、生産・流通・消費の全体の変革を道筋とし、より広い範囲の経済循環の実現を目標として高度な発展を実行することが必要であると強調した。このほか、高度な発展の重要な点としては、現代的な流通体系の構築、資源の統合・発展に焦点を合わせ、全体構造を把握した上でのネットワークシステムの構築・発展を計画し、プラットフォームと統一大市場の環境構築に焦点を当てて、技術革新を進め、発展を推進する必要があるとしている。
 
(注15)国家市場監督管理総局食品生産司副司長。
(注16)海関総署輸出入食品安全局一級巡視員。
(注17)中国国家発展改革委員会総合運輸研究所運輸サービス・物流研究室副主任。

4 おわりに

 中国の食肉産業は、食肉大国から食肉強国への転換過程において「国内大循環」を主体とした「国内と海外の双循環」の促進を前提とした高度な発展が求められている。これは、中国の経済発展の中長期戦略でもある。今回、中国国際食肉産業週間を通じて、中国の食肉産業の発展の方向性およびその展望について、いくつかの見通しが浮き彫りになったと言える。
 第一に、食肉の安定供給である。食肉消費の需要増加に対応した国内生産拡大と海外からの輸入による食肉の安定供給の確保に取り組んでいる。第二に、高品質な食肉の提供である。消費の質のレベルアップに伴う食肉の品質、安全安心、風味などを重視する需要に対応するため、高品質な食肉の供給を推進している。第三に、食肉生産における大規模化、標準化、ブランド化である。食肉生産は従来の数量重視から品質重視へ転換している中、高品質なものを安定的に供給することが前提となり、生産規模、標準化された生産・加工、商品のブランド化は食肉産業の発展方針となっている。第四に、調理済み食品、デジタル化、人工知能の導入など食肉産業の新しい動向による市場拡大、レベルアップと効率向上である。
 中国の食肉産業は、上述のような発展の方向性が見込まれる中、食肉製品の安定供給と持続可能な発展の実現を目指している。中国はまさしく食肉生産大国、消費大国であり、輸入大国でもある。中国の食肉産業の発展の方向性ならびに日々の動きは、国際貿易に大きな影響を与えるものであり、引き続き注視すべきものだと言えよう。