畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 畜産の情報 > 減産が継続するも、豚枝肉価格は9カ月ぶりに下落

海外需給【豚肉/EU】畜産の情報 2023年11月号

減産が継続するも、豚枝肉価格は9カ月ぶりに下落

印刷ページ
23年上半期の豚肉生産量、前年同期比8.6%減
 欧州委員会によると、2023年6月の豚肉生産量(EU27カ国)は、165万トン(前年同月比7.3%減)とかなりの程度減少し、13カ月連続で前年同月を下回った(図1)。同月の1頭当たり枝肉重量は93.7キログラム(同1.3%増)と前年同月をわずかに上回ったが、と畜頭数が1761万頭(同8.5%減)とかなりの程度減少したことが影響した。欧州での母豚飼養頭数の減少や、アフリカ豚熱(ASF)(注1)の収束が見通せないことなどが飼養頭数の減少につながっている。
 
(注1)直近はスウェーデンで発生している。詳しくは、海外情報「スウェーデン国内のイノシシにアフリカ豚熱が発生(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003598.html)を参照されたい。

 
 23年上半期(1〜6月)の豚肉生産動向を主要国別に見ると、生産量1位のスペインは、前年同期比5.8%減の248万5000トンとなった(表1)。中国向け輸出の減退に加え、23年3月から同国政府が実施しているアニマルウェルフェア規制の厳格化の影響(注2)が要因とみられる。同国の豚肉生産について米国農務省(USDA)は、24年も減少傾向で推移すると予測している。
 また、ドイツとポーランドは、いずれもASFの発生が継続しており、生産意欲が減退していることなどから減産となった。さらにデンマークでは、と畜頭数が745万7000頭(同19.0%減)と大幅に減少した。これは、飼養頭数が減少するEU域内向けを中心とした生体豚輸出増加の反動であり、同期間の輸出頭数は848万頭(同7.3%増)とかなりの程度増加した。
 
(注2)海外情報「スペイン豚肉生産、アニマルウェルフェア規制の厳格化などで減少見込み(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003607.html)を参照されたい。

 
23年8月の枝肉価格、9カ月ぶりに前月を下回る
 欧州委員会によると、2023年8月の豚枝肉卸売価格(EU27カ国)は、前年同月比18.3%高の100キログラム当たり238.06ユーロ(3万7971円:1ユーロ=159.50円(注3))となった(図2)。同価格は、引き続き前年を上回っているが、前月比4.6%安となり、9カ月ぶりに前月を下回った。また、週別の価格動向を見ると、7月中旬以降から前週を下回って推移しており、直近9月18日の週別価格は、前月第3週比2.1%安の同227.94ユーロ(3万6356円)となった。この下落について現地報道によると、天候不順によるバーベキュー需要などの低下を挙げており、と畜場の一部では操業を縮小する動き(注4)もあるとされている。
 
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年9月末TTS相場。
(注4)デンマークのデニッシュ・クラウン社では経営合理化計画が公表されている。海外情報「デニッシュ・クラウン社、経営合理化計画を公表(EU)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003593.html)を参照されたい。

 
23年7月の豚肉輸出量、アジアを中心に大幅に減少
 欧州委員会によると、2023年7月のEU域外への豚肉輸出量(EU27カ国)は、13万9342トン(前年同月比41.1%減)と大幅に減少した(表2)。アジア向け輸出の減少が大きく、特にフィリピン向けは同69.9%減の7126トンと大幅に減少した。これは、主要競合国のカナダや米国、ブラジルに比べてEUの豚肉価格が高い水準にあることが要因であり、現地報道によると、フィリピンはインフレ圧力による需要の低迷から豚肉や牛肉に代わり鶏肉や豚の内臓などの輸入に切り替えているためとされている。
 一方、英国向けは同8.4%増の2万7306トンとかなりの程度増加した。英国農業園芸開発委員会(AHDB)によると、英国は外食産業向けの豚肉とソーセージの輸入を増加させているという。なお、同国の本年上半期(1〜6月)の豚肉生産量は前年同期をかなり大きく下回り、また、豚肉価格は22年5月からEU平均を上回って推移している。

 
(調査情報部 渡辺 淳一)