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調査・報告 畜産の情報 2023年11月号

大規模酪農経営の持続的な展開〜株式会社竹信牧場を事例に〜

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山陽学園大学 地域マネジメント学部 教授 横溝 功

【要約】

 近年の酪農経営を取り巻く交易条件は大変悪化している。他方、都府県では乳用牛100頭以上の規模の酪農経営が増加している。本稿では、大規模酪農経営の事例として、岡山県笠岡市の干拓地に立地する株式会社竹信牧場を取り上げ、経営管理の中でも施設の投資と労務管理の側面から教訓を得ることにする。

1 はじめに

 酪農経営を取り巻く環境は極めて厳しい。図1に、近年の生乳価格と配合飼料価格の推移を示した。折れ線グラフは、前者の価格を後者の価格で割った交易条件(注1)を表している(生乳価格÷配合飼料価格×100)。この交易条件の値は、大きいほど酪農経営に有利になり、小さいほど酪農経営に不利になる。
 酪農経営の交易条件は、平成14〜20年にかけて悪化し、その後、21年に改善している。再び22〜25年にかけて悪化するが、令和2年にかけて改善している。そして2〜3年、4年と大きく悪化していることが分かる。特に、4年に大きく落ち込んでいるのである。
 4年の交易条件の悪化は、図1からも分かるように、配合飼料価格の高騰が大きい。周知の通り、(1)新型コロナウイルス感染症拡大による国際的な物流への影響(2)ロシアのウクライナ侵攻に伴う穀物供給の減少(3)円安−が配合飼料価格高騰の主な要因になっている。

 
 このような厳しい状況下で、酪農経営がいかに持続的に展開できるかが大きな課題になっている。
 さて、都府県における酪農経営の規模別戸数の推移を表したものが図2である。飼養頭数100頭未満の階層で飼養戸数が減少傾向にあり、特に小規模階層での減少率が大きい。20頭未満では年率(平成20〜令和4年)6.28%、20〜29頭では年率6.20%の減少になっている。一方、100頭以上規模では、年率1.11%の増加になっている。
 令和2年から、100頭以上規模と一つの階層区分だったものが、100〜199頭、200〜299頭、300頭以上という階層が細分化されるようになっている。これを一覧にしたものが表1である。100〜199頭では年率(2〜4年)5.71%、200〜299頭では年率8.76%、300頭以上では年率8.22%の増加になっている。300頭以上の階層では令和4年に130戸に達していることが分かる。
 さらに、乳用牛の規模別の飼養頭数の推移について見たものが、表2である。100〜199頭では年率(2〜4年)3.14%、200〜299頭では年率9.67%、300頭以上では年率7.19%の増加になっている。また、100頭以上の乳用牛の飼養割合が、4年に41.9%を占めている。同年における100頭以上の酪農経営の戸数割合は、9.5%である。以上のことから、都府県では、100頭以上の大規模な酪農経営によって、乳用牛の約4割が飼養されていることになる。
 大規模酪農経営の成立は、大変魅力的である。確かに、酪農経営においては家族経営が主流であるが、急速にその戸数を減少させており、都府県において乳用牛の飼養頭数の多くを大規模酪農経営が支える結果になっている。
 ただし、大規模経営の持続的な展開には、家族経営とは異なり、大規模な施設投資や雇用を伴い、固定費部分が大きくなる。そのため、家族経営よりも、より緻密な経営管理が求められる。特に、前述のような交易条件の悪化の時期には、経営管理がまさしく重要になる。また、雇用のウエートが高くなるので、家族経営において暗黙知の部分が大きかった作業内容を、マニュアル化する必要もある。本稿では、岡山県において、乳用牛(経産牛)を約500頭飼養している大規模酪農経営を取り上げ、その展開過程を見ていく。特に、経営管理の中でも、施設の投資と労務管理の側面から捉えて教訓を得ることにする。
 
(注1)ここでの交易条件は、仕入れコストが製品の価格に転換できているか、その関係を見たものである。なおここでは、仕入れとして配合飼料、製品として生乳を取り上げた。
 







2 施設の投資

 本稿で取り上げる株式会社竹信牧場(以下「竹信牧場」という)は、岡山県笠岡市の干拓地に立地する。同地には、畜産農家が入植し、大規模な経営を展開している。竹信牧場はその中の代表的な酪農経営である。経産牛を約500頭飼養している。前述のように、都府県では、300頭以上の酪農経営が令和4年に130戸存在している。竹信牧場はこの130戸の中の1戸ということになる。
 竹信牧場が当該干拓地に入植したのは、平成6年で、100頭の乳用牛からスタートしている。ハード面では、8頭Wのミルキングパーラーとフリーストール牛舎を導入している。9年には、12頭Wのミルキングパーラーを増設している。17年に、後述するようなトウモロコシ2期作を開始している。23年には、法人化し、経産牛飼養頭数も300頭規模に拡大している。24年に畜舎を増築するとともに、26年には、18頭Wのミルキングパーラーを増設している。この時点で経産牛飼養頭数が450頭規模に達している(写真1〜3)。
 なお、公益社団法人中央畜産会主催の「平成27年度全国優良畜産経営管理技術発表会」において最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞している。
 そして、30年3月に40頭タイプのロータリーパーラーを導入している(写真4)。
 代表取締役の竹信茂治氏は、昭和44年生まれで、中堅として経営内外で活躍している。










 

(1)ロータリーパーラーの導入動機

 ロータリーパーラー導入の動機は、茂治氏によると、(1)いかに搾乳効率を向上させるか(2)いかに搾乳作業の強度を軽減させるか−にある。しかし、搾乳作業の時間は短くなるが、雇用人数は増えることになる。古いパーラーでは、1回当たり4人でシフトを組んでいたが、ロータリーパーラーでは、同6人のシフトである(写真5、6)。
 作業をローテーションで行っているが、前搾りは技術や経験が必要とのことであった。搾乳は、1日に5:00〜8:00、12:00〜15:00、18:00〜21:00の3回行っている。
 なお、6人のシフトであるが、日本人1〜3人、フィリピン人・ベトナム人3〜5人である。搾乳作業において、外国人技能実習生(以下「実習生」という)や外国人労働者が大きな役割を担っていることが分かる。




 

(2)ロータリーパーラーの機種選定

 ロータリーパーラーの導入に当たっては、茂治氏は、北海道や米国を視察している。古いパーラーは米国ボーマチック社製だったが、近隣にあった代理店が閉鎖された。西日本オリオン株式会社瀬戸内営業所が、笠岡市の近隣の浅口市鴨方町に開設されたので、メンテナンスのしやすさを考慮して、同社のロータリーパーラーを導入した。
 過去にゴムのローラーやポンプが故障し、半日稼働できないという事態が発生したため、それ以降は代理店にバックアップの部品を置いてもらうことにしている。このアクシデントに見舞われた以外は、ロータリーパーラーは1ポイントで故障しても39ポイントで搾乳できるというメリットを生かし、順調に稼働させてきた。
 施設の規模が大きいだけに、代理店との物理的な距離や、迅速なメンテナンスと修理部品の在庫の重要性を物語っている。
 ロータリーパーラーの導入に際し、株式会社日本政策金融公庫のスーパーL資金で2億3000万円を借り入れて、建物2億2000万円、バルククーラー1000万円の投資を行った。また、ロータリーパーラーは餌寄せロボットとともに(計6000万円)楽酪事業を活用して導入し、3000万円の補助残をリースで対応している。なお、楽酪事業の補助金額に上限があったため、上限を超えた587万円は自己資金で賄った。多額の投資になるので、財務管理が極めて重要といえる。
 

(3)乳用牛の増頭

 乳用牛の飼養状況は表3の通りである。経産牛飼養頭数が500頭を超える大規模酪農経営である。現在は、やや過密状態になっているため、経産牛470〜480頭規模にまで、飼養頭数を減らす予定である。すなわち、少数精鋭の飼養を目指している。
 しかし、と畜場において廃用牛のと畜の枠を確保する必要があるため、予め、と畜頭数をおかやま酪農業協同組合に伝え、同組合から、と畜の枠を岡山県営食肉地方卸売市場に連絡してもらうことになっている。
 このように、乳牛の飼養頭数の減少には、廃用牛のと畜というプロセスが伴うため、柔軟な対応が難しいことが分かる。
 生乳出荷量は、令和元年が4780トン、3年が5318トン、4年が5516トンである。経産牛1頭当たり生乳生産量で見ると、元年が9876キログラム、3年が1万327キログラム、4年が1万1076キログラムと年々増加していることが分かる。

3 労働力の確保

 大規模酪農経営の場合、ハードの整備とそれをうまく使う労働力の確保が重要である。本牧場の場合、実習生の活用や外国人労働者を雇用している。そのノウハウと課題を明らかにする。
 

(1)労働力の構成

 本牧場の労働力は、表4の通りである。家族労働力4人のうち、基幹労働力は2人、補助労働力は2人である。常時雇用は、令和元〜5年にかけて8人から12人に増加している。実習生は7人から5人に減少している。
 常時雇用の1人は、茂治氏の従兄弟である。獣医師の資格を持っているので、淘汰とうた 対象の牛を迅速に見つけることができる。また、牛に慣れているため、係留せずに妊娠鑑定を実施することができる。
 発情牛や疾病牛の発見・対応には、獣医師を頼るのではなく、ロータリーパーラーと同時に導入した発情発見装置やキャッチペン(注2)を活用している。
 
(注2)発情牛や疾病牛など注意を要する牛の待機場。

 

(2)実習生の受け入れ開始

 近隣の肥育経営のF牧場が、倉敷市の監理団体を通じて、中国人の実習生を受け入れていた。そこで、本牧場もF牧場に倣って、中国人の実習生を受け入れることになった。
 当時は実習生の労働条件を労働契約書などの書面で明確にしていなかったため、常時雇用と実習生の賃金の差をめぐり実習生とトラブルになったことがある。実習生の採用に当たっては、労働条件を明確にする必要があり、以下で述べるように、本牧場と実習生との間を取り持つ監理団体の役割が極めて重要といえる。
 

(3)現段階の実習生の受け入れ

 現在は、広島県福山市の監理団体(一般監理事業)の協同組合Gを通じて実習生を受け入れている(写真7)。それまで、さまざまな監理団体の担当者から事業内容の説明を受けていたが、その中で特に協同組合Gが(1)外国人技能実習生制度に詳しいことと(2)事務所との物理的距離が近いため、問題が生じた際に対応が迅速であること―を理由に同組合を選択した。
 なお、技能実習1号は1年以内、技能実習2号はプラス2年以内、技能実習3号を取得すればプラス2年以内、通算5年の在留期間が確保される。さらに、特定技能を取得すれば、在留期間が延長される。
 竹信牧場では1人が技能実習3号を取得している。仕事の内容をよく把握し、日本語も少し話せることから、本牧場にとって大きな戦力になっている。本実習生は、プラス2年の在留期間中に他牧場で経験を積むことも選択できたが、協同組合Gの担当者と相談の上、本牧場に残ることを選択した。
 以上のように、監理団体の拠点が本牧場の近くに立地していることにより、実習生が将来の意思決定を行う場合にも、相談しやすい環境となっているといえる。

 

(4)監理団体の役割と現状

 監理団体は、(1)技能実習生の募集(2)現地での面接(3)受け入れまでの手続き(4)受け入れ後の企業への監査・指導−などを行う非営利団体である。
 このような事業を行うには、外国人技能実習機構(OTIT)への監理団体の認可申請を行い、主務大臣である法務大臣と厚生労働大臣から監理団体の許可を受ける必要がある。
 なお、監理団体は、特定監理団体と一般監理団体がある。監理できる技能実習生は、前者が技能実習1号、2号であるのに対して、後者が技能実習1号、2号、3号である。ちなみに、本牧場が利用している協同組合Gは、一般監理団体である。
 令和3年11月9日時点での特定監理団体数は1673団体、一般監理団体数は1748団体である。また、2号以降の対象職種で、耕種農業の特定監理団体数は852団体(50.9%)、一般監理団体数は459団体(26.3%)、畜産農業の特定監理団体数は557団体(33.3%)、一般監理団体数は196団体(11.2%)であり、多くの監理団体が耕種農業や畜産農業を扱っていることが分かる。
 

(5)外国人労働者の雇用

 表4で示した通り、竹信牧場の常時雇用12人のうち3人が外国人労働者で、いずれもベトナム人の獣医師である。本牧場は、外国人労働者をあっせんする会社を通じて彼らと通常の雇用関係を締結するとともに、あっせん会社には雇用者1人当たり約30万円を支払っている。3人は20〜30歳代と若く、主として前述の日本人獣医師のサポートを任されている。また、資格を考慮した給与体系になっている。
 なお、外国人を雇用する場合、「出入国管理及び難民認定法」で定められた在留資格の範囲で、就労が認められている。このように、法律上の問題をクリアするために、あっせん会社の役割が大きいといえる。
 本牧場では、農業・酪農・牧場の求人サイト「あぐりナビ」に、求人広告を掲載していたことをきっかけに、あっせん会社から本牧場に応募があった。このように、労働力の確保のためには、WEBを活用した求人活動に取り組むことが重要な戦略になる。なお、求職者に職場としての魅力を伝えるために、本牧場でロータリーパーラーを導入していることは、大きな広告塔になっている。
 本牧場における、実習生や外国人労働者の採用を含む労務管理は、主として茂治氏の夫人が担当しているため、茂治氏は経営全体の管理や飼料作作業に力を注ぐことができる。このように、トップマネジメントにおいても、分業のメリットを享受しているのである。
 茂治氏の夫人は、最初のあっせん会社と交渉して1人目のベトナム人獣医師の採用に至る過程で、別のあっせん会社の秘書にも知遇を得た。これにより、もう2人のベトナム人獣医師を採用することができた。このように、労働力の確保には、本牧場のように、WEB広告に取り組むことと人的なつながりを大切にすることが肝要といえる。

4 酪農の技術と経営成果

 本牧場が持続的な展開をするためには、酪農の技術を確立し、安定的な経営成果を収める必要がある。ここでは、家畜の飼養管理と粗飼料生産の側面から見ていくことにする。
 

(1)家畜の飼養管理

 竹信牧場の経産牛1頭当たりの生乳生産量は、前述のように年々増加し、令和4年には1万1076キログラムになっている。このような高泌乳を実現している要因について明らかにしたい。
 第1に、本牧場では、初回にホルスタインの性選別精液を用いて人工授精を行っているが、授精できないと和牛精液を種付けしてF1を生産している。育成牛は北海道の十勝地方に預託に出している。人工授精の際、ABS Global社(本社:米国ウィスコンシン州デフォレスト)から精液を購入している。そして、ゲノミック評価も行っている(写真8)。


 
 第2に、現在は、経産牛の飼養頭数を減らす方向にあるので、後継としての育成牛を絞ることができる。選択から外れた育成牛の販売は、地域の他の酪農家との相対での取引である。取引価格は、市場価格を考慮して決定することになっている。なお、雄子牛、F1、受精卵移植の和子牛については、肥育もと牛として家畜市場で販売している。
 第3に、飼養管理において、日々の観察が大切として、疾病の予防対策や早期治療に心がけている。茂治氏によると、給餌の時に食べに来ない場合は留意が必要で、乾乳牛の場合、特に注意している。その結果、健康な乳用牛の飼養につながり、経産牛の平均除籍産次(初産分娩から廃用までの期間)が、令和元年の2.83産、3年の3.29産、4年の3.59産と長命連産の方向に進んでいる。
 第4に、1日3回の搾乳であるが、個体管理によって搾乳量の変化を把握している。発情発見装置の導入によって、発情を見逃さないことも大きい。
 以上のような地道な努力によって、高い水準の経営成績を享受することができているのである。茂治氏によると、本牧場における経産牛の乳量における追求目標は1頭当たり1万1000キログラムであったが、2022年にすでに達成している。
 

(2)粗飼料生産

 粗飼料は、デントコーンを栽培している。令和4年の実績では、生草で年間1ヘクタール当たり一期作48トン、二期作42トンを収穫している。ただし、デントコーンの収穫量は天候に左右される。播種はしゅ後の出芽時に降雨がないと、一期作と二期作の合計で50トンにとどまることもある。
 本牧場を含む5戸の酪農経営で構成される農事組合法人干拓コントラがトウモロコシの二期作を行っている。本牧場の経営面積は48ヘクタールに上る。そのうち、31.4ヘクタールが岡山県と笠岡市の所有地である。その賃借料は255万6117円で、1ヘクタール当たり8万1405円になる。
 なお、年間に購入する粗飼料の量は、4年において(( )内の数字は3年)、アルファルファ1178トン(900トン)、チモシー322トン(125トン)、イタリアンライグラス217トン(250トン)とアルファルファのウエートが高いことが分かる。アルファルファは大豆の代替のタンパク源としても活用している。全国酪農業協同組合連合会(全酪連)を通じて、良質の粗飼料の購入を目指している。
 一時期、同コントラでは、アルファルファの栽培を検討した時期もあった。しかし、試験栽培の結果、収量が少なく、トウモロコシの二期作を継続することになった。
 以下、トウモロコシ二期作の作業体系を示す。一期作の播種は、4月上旬〜下旬、収穫・調製は、7月25日〜9月中旬である。二期作の播種は、7月下旬〜8月中下旬、収穫・調製は、11月25日〜12月中旬である。なお、収穫・調製はバンカーサイロで行っている。
 トウモロコシの二期作を行っているので、堆肥の散布時期は短く、12月中旬〜3月末の4カ月間である。なお、家畜排せつ物は、共同堆肥舎に堆積し、540ヘクタールの圃場ほじょうに散布している(写真9)。
 本牧場では、TMRで飼料給与を行っている。なお、ミックスフィーダー4台(1台は予備)を用いてTMRの調製を行っている。平成26年の数値であるが、飼料の乾物自給率36.4%、国産率39.2%を実現している。
 以上のことから、自給飼料のトウモロコシの役割は重要であることが分かる。それ故、成分検査を全酪連に依頼して行っている。
 最近の課題としては、トウモロコシの特定の品種で、ツマジロクサヨトウの被害を受けるようになったことが挙げられる。それに対して、本牧場では、発芽から3週間まで、農薬散布を実施するようにしている。

 

(3)経営成果

 本牧場の令和3年度の財政状態(貸借対照表)は、表5の通りである。また、経営成績(損益計算書)は、表6の通りである。なお、本牧場の期首は1月1日で、期末は12月31日である。
 令和3年度は、図1で見たように酪農経営をめぐる交易条件が悪化した時期でもある。この時期においても、表6の四つの利益がすべてでプラスの数値を上げている。四つの利益とは、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益である。
 また、表5を基に、以下のような財務の安全性について検討した。
 
 当座比率=当座資産÷流動負債=228.6%
 流動比率=流動資産÷流動負債=259.4%
 固定比率=固定資産÷自己資本(純財産の部)=256.5%
 固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)=78.5%
 
 当座比率は100%以上、流動比率は200%以上が望ましいとされている。1年未満の償還期間の流動負債に匹敵するだけの現金や預貯金などの当座資産を準備しておくこと、また、回転率の高い棚卸資産を含めた流動資産の場合、流動負債の2倍以上準備しておくということになる。本牧場は、二つの経営指標で望ましい数値をあげている。
 固定比率は、長期的に運用する固定資産の自己資本に対する割合を見たものである。本牧場の場合、ロータリーパーラーなどの大型の投資をしており、固定比率の数値がやや大きくなっている。分母に自己資本だけでなく1年以上の償還期間の固定負債を加えたものが、固定長期適合率である。こちらは、100%以下が望ましいとされている。この経営指標も望ましい数値を示している。
 以上のことから、本牧場は、財務的に安全な経営状態にあることが分かる。



5 おわりに

 酪農経営を取り巻く環境は、大変厳しくなっている。輸入飼料の高騰で、交易条件が悪化している。他方、都府県の酪農部門の構造を見ると、乳用牛飼養頭数100頭未満の中小規模酪農経営が減少しているのに対して、100頭以上の大規模酪農経営が増加している。しかし、近年の交易条件悪化の中で、大規模酪農経営の持続的展開のためには、より緻密な経営管理が求められる。
 本稿では、岡山県笠岡市の干拓地に立地する大規模酪農経営の竹信牧場を対象に、施設の投資と労務管理の側面から、経営管理の工夫について明らかにすることを目的とした。なお、本牧場は、繰り返しになるが、公益社団法人中央畜産会主催の「平成27年度全国優良畜産経営管理技術発表会」において最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞している。
 施設の投資の画期は、平成30年3月に40頭タイプのロータリーパーラーの導入を挙げることができる。投資規模は3億円近くに上る。本稿では、最適な投資についてまでは言及できていない。しかし、以下の3点を教訓として得ることができた。第1に、機種選定の際に、近隣に代理店が存在するかどうかである。まさしく、故障した場合の対応やメンテナンスが、安定した経営展開に直結する。代理店の重要性は、搾乳ロボットを導入する場合と同じである。第2に、故障した場合の対応に、古いパーラーを残している点も大きい。このことも、搾乳ロボットを導入する場合と同じである。第3に、機種選定に当たって、ロータリーパーラーを導入した牧場を訪問し、実際に見ていることである。経営者自らの目で確かめることが肝要と言える。現場で稼働しているロータリーパーラーを目の当たりにすることで、自己の立地する環境に適合するかどうか判断できるのである。
 次に、ロータリーパーラーを中心に、500頭規模の経産牛を飼養しているので、労働力の確保が不可欠である。本牧場では、実習生や外国人労働者を活用していた。前者では監理団体、後者では外国人労働者のあっせん会社の役割が大きい。以下の3点を教訓として得ることができる。第1に、技能実習生の場合にも、労働条件を明記することが肝要である。常時雇用との労働内容や役割での違いを意識する必要がある。少子高齢化が進むわが国において、技能実習生の役割が今後ますます大きくなることが予想される。ただし、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告では、現行の技能実習制度(人材育成を通じた国際貢献)は廃止して、人材確保と人材育成(未熟練労働者を一定の専門性や技能を有するレベルまで育成)を目的とする新たな制度の創設(実態に即した制度への抜本的な見直し)を検討するように、政府に求めている。第2に、本牧場の場合、監理会社やあっせん会社から営業があった。WEB広告の取り組みが、監理会社やあっせん会社に対する本牧場のPRにもなっていたのである。労働力確保には、積極的に農場や牧場を情報公開していくことが必要といえる。第3に、本牧場の場合、労働力確保を含めた労務管理に、代表取締役の妻が大きな役割を果たしていた。このように、大規模酪農経営の場合、労務管理を担当するスタッフの設置が肝要であるといえる。
 本牧場における酪農の技術面で得られる教訓は、第1に、乳用牛の大規模飼養において、データによる個体管理がより重要になることである。第2に、個体の能力を高めるために、牛群検定とゲノミック評価が重要な役割を果たしていたことである。第3に、乳用牛の観察が大切なことである。第4に、本地域の自然条件に合致したトウモロコシ二期作を持続的に継続することの重要性である。現在のような飼料価格の高騰の下では、本牧場のような飼料を自給する努力が肝要といえる。
 最後に、本牧場では、実習生1人が技能実習3号を取得していた。2号から3号へ移行する場合、本牧場だけではなく、他の牧場でも実習することが可能になる。しかし、本牧場に残って実習を続けているのである。このことは、本牧場が実習生にとって、魅力ある実習先になっていることを意味している。このような魅力ある実習先や職場環境をいかに構築していくかが、大規模酪農経営にとって、大切な労務管理における戦略といえる。
 
謝 辞
 本稿をとりまとめるに当たり、株式会社竹信牧場 代表取締役社長の竹信茂治様から懇切なご指導を賜りました。ここに深甚なる謝意を表します。

 
【参考文献】
・『2021年度版 外国人技能実習・特定技能・研修事業実施状況報告書(JITCO白書)』
公益財団法人 国際人材協力機構編、2021年12月