本牧場が持続的な展開をするためには、酪農の技術を確立し、安定的な経営成果を収める必要がある。ここでは、家畜の飼養管理と粗飼料生産の側面から見ていくことにする。
(1)家畜の飼養管理
竹信牧場の経産牛1頭当たりの生乳生産量は、前述のように年々増加し、令和4年には1万1076キログラムになっている。このような高泌乳を実現している要因について明らかにしたい。
第1に、本牧場では、初回にホルスタインの性選別精液を用いて人工授精を行っているが、授精できないと和牛精液を種付けしてF1を生産している。育成牛は北海道の十勝地方に預託に出している。人工授精の際、ABS Global社(本社:米国ウィスコンシン州デフォレスト)から精液を購入している。そして、ゲノミック評価も行っている(写真8)。
第2に、現在は、経産牛の飼養頭数を減らす方向にあるので、後継としての育成牛を絞ることができる。選択から外れた育成牛の販売は、地域の他の酪農家との相対での取引である。取引価格は、市場価格を考慮して決定することになっている。なお、雄子牛、F1、受精卵移植の和子牛については、肥育もと牛として家畜市場で販売している。
第3に、飼養管理において、日々の観察が大切として、疾病の予防対策や早期治療に心がけている。茂治氏によると、給餌の時に食べに来ない場合は留意が必要で、乾乳牛の場合、特に注意している。その結果、健康な乳用牛の飼養につながり、経産牛の平均除籍産次(初産分娩から廃用までの期間)が、令和元年の2.83産、3年の3.29産、4年の3.59産と長命連産の方向に進んでいる。
第4に、1日3回の搾乳であるが、個体管理によって搾乳量の変化を把握している。発情発見装置の導入によって、発情を見逃さないことも大きい。
以上のような地道な努力によって、高い水準の経営成績を享受することができているのである。茂治氏によると、本牧場における経産牛の乳量における追求目標は1頭当たり1万1000キログラムであったが、2022年にすでに達成している。
(2)粗飼料生産
粗飼料は、デントコーンを栽培している。令和4年の実績では、生草で年間1ヘクタール当たり一期作48トン、二期作42トンを収穫している。ただし、デントコーンの収穫量は天候に左右される。播種後の出芽時に降雨がないと、一期作と二期作の合計で50トンにとどまることもある。
本牧場を含む5戸の酪農経営で構成される農事組合法人干拓コントラがトウモロコシの二期作を行っている。本牧場の経営面積は48ヘクタールに上る。そのうち、31.4ヘクタールが岡山県と笠岡市の所有地である。その賃借料は255万6117円で、1ヘクタール当たり8万1405円になる。
なお、年間に購入する粗飼料の量は、4年において(( )内の数字は3年)、アルファルファ1178トン(900トン)、チモシー322トン(125トン)、イタリアンライグラス217トン(250トン)とアルファルファのウエートが高いことが分かる。アルファルファは大豆の代替のタンパク源としても活用している。全国酪農業協同組合連合会(全酪連)を通じて、良質の粗飼料の購入を目指している。
一時期、同コントラでは、アルファルファの栽培を検討した時期もあった。しかし、試験栽培の結果、収量が少なく、トウモロコシの二期作を継続することになった。
以下、トウモロコシ二期作の作業体系を示す。一期作の播種は、4月上旬〜下旬、収穫・調製は、7月25日〜9月中旬である。二期作の播種は、7月下旬〜8月中下旬、収穫・調製は、11月25日〜12月中旬である。なお、収穫・調製はバンカーサイロで行っている。
トウモロコシの二期作を行っているので、堆肥の散布時期は短く、12月中旬〜3月末の4カ月間である。なお、家畜排せつ物は、共同堆肥舎に堆積し、540ヘクタールの圃場に散布している(写真9)。
本牧場では、TMRで飼料給与を行っている。なお、ミックスフィーダー4台(1台は予備)を用いてTMRの調製を行っている。平成26年の数値であるが、飼料の乾物自給率36.4%、国産率39.2%を実現している。
以上のことから、自給飼料のトウモロコシの役割は重要であることが分かる。それ故、成分検査を全酪連に依頼して行っている。
最近の課題としては、トウモロコシの特定の品種で、ツマジロクサヨトウの被害を受けるようになったことが挙げられる。それに対して、本牧場では、発芽から3週間まで、農薬散布を実施するようにしている。
(3)経営成果
本牧場の令和3年度の財政状態(貸借対照表)は、表5の通りである。また、経営成績(損益計算書)は、表6の通りである。なお、本牧場の期首は1月1日で、期末は12月31日である。
令和3年度は、図1で見たように酪農経営をめぐる交易条件が悪化した時期でもある。この時期においても、表6の四つの利益がすべてでプラスの数値を上げている。四つの利益とは、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益である。
また、表5を基に、以下のような財務の安全性について検討した。
当座比率=当座資産÷流動負債=228.6%
流動比率=流動資産÷流動負債=259.4%
固定比率=固定資産÷自己資本(純財産の部)=256.5%
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)=78.5%
当座比率は100%以上、流動比率は200%以上が望ましいとされている。1年未満の償還期間の流動負債に匹敵するだけの現金や預貯金などの当座資産を準備しておくこと、また、回転率の高い棚卸資産を含めた流動資産の場合、流動負債の2倍以上準備しておくということになる。本牧場は、二つの経営指標で望ましい数値をあげている。
固定比率は、長期的に運用する固定資産の自己資本に対する割合を見たものである。本牧場の場合、ロータリーパーラーなどの大型の投資をしており、固定比率の数値がやや大きくなっている。分母に自己資本だけでなく1年以上の償還期間の固定負債を加えたものが、固定長期適合率である。こちらは、100%以下が望ましいとされている。この経営指標も望ましい数値を示している。
以上のことから、本牧場は、財務的に安全な経営状態にあることが分かる。