(1)GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉に対するMWTPと対購入価格比率
図8は、GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉に対するMWTPの回答結果をクロス集計したものである。水色の背景色をつけた列がGHG排出削減認証国産牛肉、橙色の背景色をつけた行がAW配慮認証国産牛肉に対するそれぞれのMWTPの度数分布を表す。
GHG排出削減認証国産牛肉に対するMWTPは、100グラム当たり41〜50円が102人(22%)で最も多く、次いで6〜10円の75人(16%)、11〜20円の63人(14%)、71〜100円の60人(13%)であった。他方、AW配慮認証国産牛肉に対するMWTPは、100グラム当たり41〜50円が88人(19%)で最も多く、次いで6〜10円の72人(15%)、21〜30円の68人(14%)、71〜100円の66人(14%)であった。
桃色の背景色をつけたセルは、どちらの認証牛肉に対しても同額のMWTPを支払う回答者数を表す。その合計は194人で、GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉のどちらもMWTP>0の回答者(386人)の50%、少なくともどちらかの認証国産牛肉についてMWTP>0の回答者(550人)の35%、全回答者(1108人)の8%を占めた。
GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉のどちらもMWTP=0の回答者は、全回答者の50%(558人)おり、AW配慮認証国産牛肉についてMWTP>0だが、GHG排出削減認証国産牛肉についてはMWTP=0の回答者が8%(85人)、GHG排出削減認証国産牛肉についてMWTP>0だが、AW配慮認証国産牛肉についてはMWTP=0の回答者が7%(79人)いることも分かる。また、GHG排出削減認証国産牛肉に対してAW配慮認証国産牛肉より高いMWTPを支払う回答者が10%(108人)と、AW配慮認証国産牛肉に対してGHG排出削減認証国産牛肉より高いMWTPを支払う回答者8%(84人)より多かった。
図9は、図8における各MWTP区間中点値の、回答者が普段購入している国産牛肉の価格帯の代表値に対する比率を求めて、GHG排出削減認証国産牛肉に対するMWTPの対購入価格比率とAW配慮認証国産牛肉に対するMWTPにおける対購入価格比率のバブルチャートである。GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉のどちらもMWTP=0の回答者が半数を占めるため、原点を中心とする円が突出して大きいが、それを除くとどちらの対購入価格比率も10%付近に集まっていることが分かる。
MWTP=0の回答者も含めた場合、AW配慮認証国産牛肉に対するMWTP、GHG排出削減認証国産牛肉に対するMWTPの対購入価格比率の平均値は、いずれも5%であった。また、AW配慮認証国産牛肉に追加支払意志のない回答者を除いた場合、AW配慮認証国産牛肉に対するMWTPの対購入価格比率の平均値は12%、GHG排出削減認証国産牛肉に対する追加支払意志のない回答者を除いた場合、GHG排出削減認証国産牛肉に対するMWTPの対購入価格比率の平均値も12%であった。この結果は、広岡ら(2018)の報告した値33〜47%に比べて極めて低い。
(2)GHG排出削減認証国産牛肉とAW配慮認証国産牛肉に追加支払する要因とその限界確率効果
表3に、限界確率効果(説明変数1単位の変化が追加支払確率に与える影響)を示す。
追加支払確率への影響度を見ると、20代、50代、60代、70代以上の女性、70代男性は、他の年代性別に比べてGHG排出削減認証国産牛肉に対する追加支払確率が、それぞれ21%、23%、20%、31%、19%高まる。量的変数の限界確率効果は、年代性別変数のように0か1の二つの値しか取らない説明変数の限界確率効果に比べ、有用性が低く、解釈が難しいと指摘されている(Williams(2021))。
そこで、吟味したい量的説明変数が一定量ずつ変化したときのGHG排出削減認証国産牛肉に追加支払する確率の予測値の変化を、他の説明変数を平均に固定した状態で、Probit計測式から計算し、グラフ化してみた(図10)。その結果、すべての説明変数を平均に固定した状態では追加支払確率予測値は0.38でGHG排出削減認証国産牛肉に対する追加支払が行われないが、他の変数を不変として、生物圏価値尺度得点が5以上だと追加支払確率予測値が0.5を上回り、回答者が追加支払を表明することが分かる。同様に他の変数を平均に固定してSDGs認知度が4(“詳しく知っている”)、わが国畜産分野のGHG排出削減の取り組みへの関心度が4(“やや関心がある”)以上、国産牛肉の購入価格が960円以上のいずれかの条件を満たせば、追加支払確率予測値が0.5を超え、回答者はGHG排出削減認証国産牛肉に対し追加支払を行うと予測される。
この結果は、和牛以外の相対的に安価な国産牛肉を普段購入している消費者に、GHG排出削減認証国産牛肉を割高な価格で購入してもらうには、生物圏価値をより重視する価値観への転換、SDGsの理解醸成と実践行動の普及定着、わが国畜産分野におけるGHG排出削減の取り組みについて一層の情報提供が必要であることを示唆している。
AW配慮認証国産牛肉へ追加支払する確率を高める説明変数は、70代以上女性ダミー変数、国産牛肉の購入価格、AWに配慮した家畜飼養管理の技術指針普及推進への関心度、生物圏価値尺度得点で有意に低める説明変数は利己的価値尺度得点であった。生物圏価値を重視する回答者ほど、AW配慮認証国産牛肉に割増金を追加支払する確率は高まる一方、利己的価値観を重視する回答者ほど当該認証済み国産牛肉への追加的支払をしない確率は大きくなる。追加支払意志への影響度を吟味すると、70代以上女性は、他の年代性別に比べ、AW配慮認証国産牛肉に割増金を追加支払する確率が24%高い。
図11は、分析対象の量的説明変数が一定量ずつ変化したときのAW配慮認証国産牛肉に追加支払する確率の予測値の変化を、他の説明変数を平均に固定した状態でグラフ化したものである。この結果から、他の条件を一定として、生物圏価値尺度得点が5以上、あるいは利己的価値尺度得点が1だと追加支払確率予測値が0.5を上回り、回答者がAW配慮認証国産牛肉に追加支払することが分かる。また、他の変数を平均に固定して、AW認知度が4(“詳しく知っている”)、AWに配慮した家畜飼養管理の技術指針普及推進への関心度が4(“やや関心がある”)以上、国産牛肉の購入価格が1130円以上のいずれかの条件を満たせば、追加支払確率予測値が0.5を超え、回答者はAW配慮認証国産牛肉に対し追加支払を行うと予測される。
この結果は、和牛以外の相対的に安価な国産牛肉を普段購入している消費者に、AW配慮認証国産牛肉を割高な価格で購入してもらうには、利己的価値から生物圏価値を重視する価値観への転換、国によるAWに配慮した家畜飼養管理の新たな技術指針(農林水産省(2023b))の生産現場への周知・徹底、国民への情報提供が必要であることを示唆している。