(1)家畜・家きんの飼養動向
まず、近年の米国における主要な家畜・家きんの飼養動向を見ると、肉用牛は減少傾向にあるが、豚、肉用鶏および採卵鶏は増加傾向にあり、乳用牛は減少傾向から増加傾向に転じている(図1〜5)。
家畜排せつ物の管理と利用の観点から重要な点は、畜産農場の大規模化および専業化が進んだことと、その分布に地域的な偏りが見られることである。
肉用肥育牛、乳用牛、豚、肉用鶏、採卵鶏の1戸当たり飼養頭羽数・出荷頭羽数規模の中央値の過去30年間の変化を見ると、いずれも増加しており、大規模化が進んでいることが分かる(表1)。特に、乳用牛、豚、採卵鶏においては1987〜2017年の間にそれぞれ1525%増(16.3倍)、4175%増(42.8倍)、918%増(10.2倍)と、より大きな割合で増加している。
飼養規模別の飼養頭羽数の割合を見ると、1000頭以上の農場で飼養されている乳用牛は1997年の17.4%から2017年の55.2%まで増加、5000頭以上の農場で飼養されている豚も同じく40.2%から72.8%まで増加、10万羽以上の農場で飼養されている採卵鶏も同じく68.7%から76.4%まで増加しており、いずれも大規模な農場で飼養されている家畜・家きんの割合が半数を超えている(図6〜8)。
また、大規模化に伴い畜産の専業化も進んでいる。米国農務省(USDA)の農業資源管理調査(ARMS:Agricultural Resource Management Survey)によると、畜産物生産量全体に対して、作物を生産していない畜産農場が生産する畜産物の割合が1996年の22%から2015年の37%まで増加した(図9)。依然として作物も生産しながら家畜を飼養する畜産経営体が多いものの、作物を生産していない畜産経営体が増加していることが分かる。
さらに、主要家畜の地域分布を見ると、肉用牛(肥育牛)、乳用経産牛、豚、肉用鶏、採卵鶏の飼養頭羽数の上位5州でそれぞれ全米の飼養頭羽数の72.5%、52.5%、68.9%、41.3%、43.8%を占めるなど地域的な偏りも見られる(図10)。
(2)家畜排せつ物の発生状況と堆肥としての利用状況
当然、家畜を飼養すると、その副産物として発生する家畜排せつ物を処理しなければならない。発生する家畜排せつ物の量は畜種によって異なるため、異なる畜種から発生する家畜排せつ物を比較する際には生体重量を基準にしたアニマル・ユニット(AU)を単位として用いることが多い(注2)。1AU当たりの家畜排せつ物の発生量は乳用牛と肉用鶏が最も多く、いずれも1日当たり80ポンド(36.3キログラム)と推計されている(表2)。なお、1AU当たりの肉用牛、豚、採卵鶏の家畜排せつ物の発生量はそれぞれ同59.1ポンド(26.8キログラム)、63.1ポンド(28.6キログラム)、60.5ポンド(27.4キログラム)と推計されている。農作物の生育に必要な窒素(N)およびリン(P)の含有量は採卵鶏や肉用鶏が他の畜種よりも多いことが分かっている。
(注2)米国では家畜の生体重量1000ポンド(453キログラム)を1AUと定義づけている。
また、米国全体での発生状況を見ると、2017年にUSDAが公表した報告書では1年間で98億2246万頭・羽の家畜・家きんから13億8273万トンの家畜排せつ物が発生したと推計されている(表3)。特に、肉用牛から生じる排せつ物は12億トンと全体の86.8%を占めている。
NおよびPの含有量は817万5469トンと263万9932トンと推計され、堆肥あるいは液肥として利用すれば作物への貴重な栄養供給源となる。しかし、トウモロコシ、大豆、小麦などの主要作物7品種への堆肥利用状況を見ると、堆肥を利用しているのはすべての作付面積のわずか7.9%にすぎない(表4)。堆肥利用面積が1482万2000エーカー(599万8251ヘクタール)と最も大きいトウモロコシでも作付面積の16.3%にとどまっている。大豆および小麦の堆肥利用面積に至っては、それぞれ188万4000エーカー(76万2428ヘクタール)および90万8000エーカー(36万7455ヘクタール)とそれぞれ作付面積の2.3%および2.0%程度である。
また、堆肥利用によって主要作物7品種に投入されたNおよびPはそれぞれ50万8000トンおよび20万2000トンと推計されており、家畜排せつ物によって排せつされたNおよびPのそれぞれ7.9%および10.4%にとどまっている(図11)。
作物別にどの畜種に由来する家畜排せつ物を堆肥利用しているかを見ると、南東部での生産が多い綿花とピーナッツでは同じく南東部に多い家きんの排せつ物を利用し、中西部での生産が多いトウモロコシと大豆は、他の作物と比較して中西部に多い豚の排せつ物を利用していることが分かる(図12)。さらに、主要作物の堆肥の入手方法を見ると、77.8%が自身の農場で発生した家畜排せつ物を散布していることからも分かるように、米国では従来、発生した家畜排せつ物を自身の農地や牧草地に散布することが多い(図13)。これらのことは、家畜排せつ物の販売・流通には地域差が見られること、すなわち米国においても広域流通は容易ではないことを示している。また、主要作物の栽培において、購入した堆肥を利用している割合は14.3%と高くなく、家畜排せつ物を堆肥として販売して価値を高めることも容易ではないと言えるだろう。