(1)牛肉生産の特徴
ア 放牧と季節性のある生産
NZの牛肉生産は、全国に広がるライグラスなどのイネ科牧草やシロクローバーなどのマメ科牧草を中心とした牧草地を中心に、放牧により行われている(写真1)。また、牧草地に肉用牛を放牧した後、丈の短くなった牧草地に羊を放牧するなど、肉用牛と羊の複合経営(以下「肉用牛・羊経営」という)が一般的となっている。
経産牛を除く肉用牛の生産サイクルは、冬から春先(7〜9月)に子牛を出産し、牧草の成長に合わせて肥育が行われるという季節生産が基本となる(図3)。経産牛は月によってと畜頭数に4倍以上もの差が生じるが、これは酪農の乾乳期となる6月を前に乳用牛の更新が行われることから、例年4〜5月に経産牛のと畜頭数が集中するためである。また、雄牛は酪農由来の子牛を中心に肥育されたものであり、生後16〜20カ月齢で出荷されることから、12月〜翌1月にと畜頭数が増加する。
イ 生産コスト
肉用牛・羊経営の場合、放牧が主体となるため、生産コストの内訳は牧草地の維持管理などに必要な肥料・石灰・種子の購入費が最も大きな構成要素となっており、全体の18.1%を占めている(図4)。業界団体のビーフ・アンド・ラム・ニュージーランド(BLNZ)によると、近年のインフレにより、2021年以降、これらの購入費や補助飼料費などが特に上昇しているとされる。
ウ 酪農由来の牛肉生産
飼養される肉用牛の品種別割合(2022年)を見ると、アンガス種(39%)、ヘレフォード種(10%)やそれらの交雑種(7%)など肉専用種が過半数を占めており、また、乳用種であるホルスタイン種(20%)、ホルスタイン種とヘレフォード種の交雑種(5%)が4分の1を占めるなど、酪農由来の肉用牛も牛肉生産に寄与している(図5)。10年前のデータと比較すると、酪農の規模拡大や肉用牛価格の上昇などを背景に、酪農由来の肉用牛の割合が17%から25%に上昇している。
21年度は、酪農経営から肥育もと牛として年間99万頭の子牛が導入されているほか、3万頭の雄牛(雄牛全体の5%)、73万頭の経産牛(経産牛全体の75%)、3万頭の未経産牛(未経産牛全体の6%)がそれぞれ肉用としてと畜されている(図6)。また、同年のと畜頭数266万頭のうち、経産牛が97万頭(全体の37%)と最も多い。種類別の牛1頭当たり枝肉重量を見ると、去勢牛や雄牛は約300キログラム、未経産牛は約250キログラム、経産牛は約200キログラムとなっている(図7)。このほか、子牛の出産シーズンである春先は、酪農部門で乳用・育成に供さない余剰子牛(ボビー子牛)が多く発生する。これらは生後1カ月以内にと畜され、子牛肉やベビーフード向け、ペットフードとして欧州や中東などに輸出されている。
エ 輸出志向型の生産
NZの人口は2022年末時点で516万人であり、他の主要牛肉生産国と比較して少なく、国内市場からの需要は限定的であるため、生産される牛肉の約7割が輸出される輸出志向型の牛肉生産となっている(図8)。このため、同国の牛肉生産は為替や海外の需要の影響を受けやすいという特徴がある。
(2)飼養・生産動向
ア 飼養動向
NZの牛飼養頭数は、国際的な乳製品価格の上昇を背景に、肉用牛・羊経営から酪農経営への転換が行われてきたため、長期的には乳用牛が増加傾向で推移しており、2014年は670万頭まで増加した(図9)。その後は酪農の収益性悪化などから緩やかに減少し、22年は614万頭となっている。一方で肉用牛は、牧草地利用の観点から酪農と競合するため、乳用牛頭数と相反関係にある。16年に353万頭まで減少した後、酪農経営からの転換が一部行われたことから、22年には390万頭まで緩やかに増加している。
飼養頭数を地域別に見た場合、比較的雨が多く、牧草にとって良好な生育環境が整う北島が全体の7割を占め、中でもノースランド地方、ワイカト地方、ホークスベイ地方、マヌワツ・ワンガヌイ地方が多くなっている(図10)。残り3割を占める南島は、平地が広がるカンタベリー地方を中心にかんがい施設を利用した飼養が行われている。長期的な動向としては、北島が減少からやや上向きで推移する一方、南島は、おおむね横ばいで推移している(図11)。
イ 生産動向
飼養頭数は長期的に減少しているが、と畜頭数は近年増加傾向で推移している。これは、酪農由来の経産牛がと畜頭数の4割弱と最も多く占めているためであり、2021年度は97万頭がと畜されている(図12)。同様にボビー子牛のと畜も増加傾向で推移している。また、ホルスタイン種やその交雑種の雄牛は、12年度まで減少傾向で推移したが、近年は増加傾向に転じ、21年度は53万頭となっている。雄牛や経産牛から生産される牛肉は、主に加工用に仕向けられている。
他方で主に肉専用種である去勢牛は、15年度に53万頭まで減少したが、近年は増加傾向で推移し、21年度は66万頭がと畜されている。未経産牛は12年度に44万頭まで減少したが、こちらも近年増加傾向で推移し、21年度は55万頭がと畜されている。去勢牛および未経産牛は、肉質が良好とされることでプライム牛と呼ばれており、主にテーブルミート用に仕向けられている。
牛肉生産量は、種類別と畜頭数とそれぞれの枝肉重量の差によって多少の増減はあるものの、おおむねと畜頭数の推移と連動しており、近年増加傾向で推移している(図13)。21年度は69万2456トン(前年度比5.0%減)とやや減少したものの、過去20年間の平均値(63万4449トン)と比べて9.1%上回っている。
(3)輸出動向
牛肉輸出量は、近年増加傾向で推移しており、2022年には47万8878トンと、この10年間で31.2%増加している(図14)。主に冷凍で輸出されており、輸出先は、中国、米国向けで全体の71.4%を占め、次いで日本、韓国、台湾、カナダ向けと続いている。
輸出先別に見ると、近年、特に中国向けの増加が著しく、22年は21万7456トンと過去10年間で6倍以上に増加し、全体の約半数近くを占めるまでになっている。22年は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)による同国の厳格なロックダウンがあったものの、家庭消費需要の増加もあり、特に大きな輸出量の落ち込みは見られていない。米国向けは主に酪農由来の雄牛や経産牛から生産され、ハンバーガーなどの原料となる加工用冷凍牛肉であるが、近年は中国向けの増加から輸出量は減少傾向で推移しており、22年は12万4328トン(13年比27.5%減)となっている。日本向けは、加工用冷凍牛肉のほか、テーブルミートとして利用される冷蔵牛肉も多く輸出されている。15年に発効した日豪経済連携協定による豪州産牛肉の輸入増の反動で減少したが、近年は環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)の発効などを背景に輸出量は増加基調にあり、22年は3万2979トンが輸出されている。