23年1〜9月の生乳生産量は前年同期をわずかに下回って推移
アルゼンチン経済省によると、2022年の生乳生産量は1155万7400キロリットル(前年比0.0%増)と前年並みになった(図1)。同年6月以降は、干ばつ、コスト高、低迷する経済動向などを反映して前年同月を下回る傾向が見られた。近年の生乳生産量を見ると、20〜21年は良好な天候に恵まれたことや堅調な乳製品需要を背景とした生産者の増産意欲の高まりから、2年連続での増産となっていた。
23年1〜9月の生乳生産量は830万3900キロリットル(前年同期比0.8%減)と前年同期をわずかに下回った。干ばつの状況下において、牛の飼育環境が比較的良好であることや穀物飼料の多給により、生乳生産量が維持されているとされる。今後の生乳生産量は、穀物飼料価格の上昇が見込まれることから、生産者乳価に対する穀物飼料価格の比率が上昇し生産者の収益性がさらに低下するため、減少傾向で推移するとの見方もある。
23年1〜9月のチーズおよびホエイの輸出量は増加
2022年の主な乳製品の輸出量は、全粉乳(前年比3.5%増)およびチーズ(同8.7%増)が増加した一方、ホエイ(同5.5%減)およびバター(同27.1%減)が減少した(表1)。全粉乳およびチーズは3年連続で増加し、直近5年間で最大の輸出量となった。
23年1〜9月の主な乳製品の輸出量は、チーズおよびホエイが前年同期を上回った一方、全粉乳およびバターは下回った。主要輸出品目である全粉乳については、20年以降3年連続で増加したが、同期は大幅な減少に転じている。輸出先別では、これまで最大の輸出先であったアルジェリア向け(前年同期比76.0%減、同4万5580トン減)がニュージーランドとの競合などにより大幅に減少した一方、ブラジル向け(同75.5%増、同2万732トン増)が大幅に増加し最大の輸出先となったものの、アルジェリア向けの大幅減を埋めるには至らなかった(表2)。アルゼンチンでは、牛乳・乳製品の需給に応じて隣国のブラジルへ乳製品などを輸出しており、全体の輸出量が落ち込む中、同国向けが増加したものとみられる。また、チーズについては、モッツァレラチーズやセミハードチーズを中心に20年以降増加傾向で推移している。輸出先別では、ブラジル向け(同24.3%増)が大幅に増加する一方、これに次ぐチリ向け(同17.8%減)などは大幅に減少した。
生産者乳価は引き続き大幅な上昇
アルゼンチン経済省によると、2023年9月の生産者乳価は、1リットル当たり118.40ペソ(51円:1ペソ=0.43円(注)、前年同月比113.3%高)と大幅に上昇した(図2)。生産者乳価は18年ごろから上昇傾向となり、21年ごろから一層顕著となった。アルゼンチンでは近年、高水準のインフレが続いており、21年が年50.9%、22年が同94.8%を記録し、23年はさらに上昇することが見込まれている。
同国では23年10月22日に大統領選挙が行われ、この結果、11月19日に決選投票が行われることとなった。これに先立ち実施された予備選挙(8月13日)の結果を受け、翌日に自国通貨ペソが約2割切り下げられるなどの措置が講じられた。このため、決選投票後の政治・経済面での動向が注目されている。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2023年10月末TTS相場および現地参考為替相場(Selling)。
(調査情報部 井田 俊二)