セブンフーズの農場を訪問した際、防疫措置の関係で豚舎に入ることはできなかったが、母豚が何百頭もいる豚舎を外から見学した時は、驚くほど臭いは気にならなかった。それを可能にしているのが「セブンフーズ式農業」である。通常、豚のふん尿は浄化槽で処理するが、同社では独自に開発した「発酵床(バイオベッド)」によるふん尿処理のシステムを導入している。「発酵床」とは、堆肥におがくずやもみ殻に好気性細菌を混ぜて、発酵させたものであり、ふん尿を即時に発酵処理するため、臭いを抑えることができる。
このシステムの取り組みは2003年から始まった。まず、母豚120頭規模の自社農場の繁殖・肥育豚舎で発酵床の利用を試みた。試行錯誤を繰り返す中で、臭いが少なく汚水を流さない、浄化槽を不要とする飼育システムを3年がかりでようやく確立した。06年には会社名を冠した「セブンシステム」として、畜舎の建設構造と発酵床の処理方法に関する二つの特許を取得した。特許を取得したことで周囲からの発酵床システムへの信用が高まった。また、各養豚場の周辺には住宅やホタルの生息地があるため、地域住民へ配慮した飼養管理に努めている。
こうしたふん尿処理システムを構築した同社は、07年に農林水産省モデル支援事業(広域連携アグリビジネスモデル支援事業)に採択されたことが契機となり、08年に大津第一農場が稼働するなど、大規模な農場整備が12年まで進んだ。07年の時点では、社員数はわずか4人、年間の出荷頭数は240頭、売上高は9000万円の中小規模経営であったが、12年までの間に社員数は64人、出荷頭数は4万6000頭、年間売上高は15億円にまで急拡大した(前田ら2021)。
その一方で、生産規模が急激に拡大したことで多くの人材が必要となり、大学生・高校生などの新卒、中途採用、女性従業員の採用などさまざまなライフステージの人材を採用する機会が増加したことが契機となり、人材評価制度を導入するに至った。
急激な飼養頭数規模拡大への対応に際して、同社ではアニマルウェルフェアの実践を試みている。例えば、08年に欧州で開催された農業機材の展示会で「母豚群飼養管理システム=フリーストール」に出会い、10年にドイツから16基導入した(写真3)。これは、妊娠中の母豚を狭い囲いに入れるのではなく、自由に歩き回らせることでストレスにも配慮したフリーストールである。広い部屋の中で群れになっていても各個体を識別できるよう、各母体の耳にはICタグを装着させている。飼料の給与に関しては、24時間自由摂取となっているが、体重増加を管理するため、ICタグの利用により100グラム単位で給餌量を調整できるようになっている。こうしたことで健康状態の維持や疾病の早期発見が可能となった。
また、ドイツから自動的に体重を計測する「オートソーティングシステム」を08年に導入した(写真4)。このシステムは、放し飼いの広い部屋から給餌する部屋に移動させる際に、豚は必ずこの装置を通るような仕組みとなっており、豚1頭だけが通れる大きさで、床に体重計が装備されており、自動的に体重が計測されるつくりとなっている。もし、出荷に適した体重であれば、出荷部屋に向かう扉だけが開き、逆に出荷に適していない体重であれば、給餌スペースに通じる扉だけが開く仕組みとなっている。多頭数で豚を飼養している場合、出荷可能な体重の豚を探し、その豚だけを別の部屋に追い込むのは従業員にとって非常に負担のかかる作業である。また、追いかけられる豚にとってもストレスとなる。これらのシステムを同社では「自動測量出荷システム」と呼んでいる。
その一方で、08年からは生産コストの大半を占める飼料費を抑制するため、当時話題となっていた食品残さなどの未利用資源を利用して製造される飼料である「エコフィード」の導入を開始した。当初は、食品残さに関する知識・経験も乏しく、手作業による分別、異物の混入防止、夏場の腐敗防止などに加え、数量・時間指定、専用容器、温度管理、集荷などの体制づくりに苦心した。現在、セブンフーズでは国産飼料を組み合わせて自社飼料工場で自家用飼料の製造を行っている。セブンフーズが自家用飼料の製造に着手したのは09年のエコフィードが始まりである。当時、母豚数120頭規模であった杉水農場の敷地内に、食品工場から出される残さを受け入れ、液体飼料を製造する液体飼料化プラント(木造平屋建て、床面積72平方メートル)を総額3500万円をかけて建設した。さらに、併せて肥育用豚舎1棟(木造平屋建て、床面積360平方メートル)を建て替えた。この豚舎で飼養される豚はエコフィードのみが給与され、ブランド豚として出荷されていた。
写真5は、18年に旭志農場で稼働した新しい自社飼料工場である。セブンフーズでは図5に示すような流れで、自家配合を行っている。原料としては、トウモロコシ(年間約7000トン)、大豆かす(同約2000トン)、飼料用米(同約3000トン)、乾燥パンくず(同約2000トン)、乾燥めんくず(同約1000トン)などのほか、生めん、焼酎かす、オートミールなどの未利用資源(食品製造副産物、加工くず、余剰食品など)を利用している(写真6)。配合比率としては、未利用資源15%、飼料用米35〜40%、輸入トウモロコシ、大豆かすなどに微量成分を配合し、TMR(Total Mixed Ration:混合飼料)を製造している。飼料の配合構成に関しては、日本標準飼料成分表や日本食品標準成分表を参考に、5大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル)の配合を表計算ソフトで計算し、その比率を決定している。この取り組みを始めるきっかけとなったのは、前田氏が栄養士の資格を有していたためである。現在は専門の担当者を配置し、多種多様な飼料原料に対応すべくシステムの深化が図られている。TMRは成長ステージや季節、投入する未利用資源などを勘案しながら1週間単位で製造を行っている。各ステージにおけるTMRの製造量は、肥育期用として年間約1万2000トン、離乳期用として同1300トン、母豚期用として同約1100トンが製造されている。なお、水分量が多い未利用資源は成分の調整が難しく、カビが生える懸念があることや、異物が混入している可能性があるなどの理由により、レストランやコンビニから排出されるものは飼料原料として利用していない。
これらの飼料原料に関しては、同約1万トン以上の子実トウモロコシおよび飼料用米の受け入れが可能となっているほか、約30社の食品メーカーと契約し、未利用資源を受け入れている。