(1)養豚経営の現状
中国では毎年、7億頭弱の肥育豚が市場に出荷され、これに繁殖雌豚などを加えると、概算で毎年7億6000万頭ほどの豚が飼養されているが、中国の養豚業の現状を知るには生産地域や経営状況などの把握が不可欠である。
中国の養豚経営は農家による経営と企業経営に大まかに分類することができ、経営規模によって「一定規模を有する養豚経営(養豚場)」と「分散型養豚経営(養豚場)」に分類されることが多い。「一定規模を有する養豚経営(養豚場)」とは、豚の年間出荷頭数が500頭以上の養豚経営(養豚場)(注1)を指す。一定規模を有する養豚経営(養豚場)はさらに、大型養豚場、中型養豚場、小型養豚場に分けられる。大型養豚場は年間出荷頭数が1万頭以上の養豚場であり、中型養豚場は同3000頭以上1万頭未満のもの、小型養豚場は同500頭以上3000頭未満である。分散型養豚経営(養豚場)とは、農家が数頭から数十頭の規模で行う養豚経営(養豚場)を指す。こうした小規模農家による養豚経営からの出荷は、自家消費用と商業流通用が併存する。つまり、自家消費分を確保した後の残りを商業流通向けに回すものである(数十頭から500頭程度の養豚経営は、「一定規模」に達していないと分類されるが、一般には「分散型」にも帰属されていない)。
中国の養豚の飼養頭数や出荷頭数の統計では、地域が単位とされ、経営規模別での明確なデータはない。ただし、現在の中国の養豚業では、企業経営が主導的で重要な役割を果たしていることは間違いないと言える。
次に、中国の養豚経営の状況を具体的に紹介する。主に企業経営と農家による経営に分類されるが、実際には企業と農家が共同で経営している例も多い。
第一に企業経営について紹介する(写真1)。企業経営において養豚企業はまず、繁殖養豚場を設置し、繁殖事業に大量の労力と資金を投入する。肥育事業については、一部の企業は企業内で肥育を実施しているが、大部分の企業は農家との間で契約を締結して肥育業を委託している(「企業+農家」の共同経営)。企業は農家に子豚を提供し、均一化された飼料、飼養管理、家畜衛生などを基礎として豚の肥育を行うことで、一定の肉質を実現し、出荷される肥育豚を企業がまとめてと畜する。
(注1)2016年4月発表の『全国養豚生産発展企画(2016〜2020年)』(中国生猪生○〇展○○(2016—2020年))を参照。
こうした「企業+農家」の共同経営は企業にも農家にもメリットがある。企業は資金の投入を減らすことができ、経営リスクの分散ができる。農家が肥育を行うため、企業は養豚場の土地を確保する(土地を賃借する)必要がなく、自社で肥育するための費用負担は発生せず、労働力を雇用する必要もない。肥育段階でのリスクは農家側にあるため、企業は経営リスクをある程度回避することができることになる。一方で農家は肥育用子豚、飼料、飼養管理、家畜衛生などの面で企業の基準に従い、出荷した肥育豚は企業が買い取ってくれるため、経営は安定し、大きな経営リスクはなく、安定した収入を得ることができるものである。
第二は、「農家+協会」の共同経営である。養豚農家は各地の生産協会の名の下に養豚経営を行う。協会は、肥育用子豚の飼料、飼育資金の調達、獣医サービスの提供、肥育豚の出荷、市場との連携(豚肉加工・販売企業などの紹介など)などの業務を担当して関連のサービスの提供を行う。ここでは、協会はサービス提供者と位置付けられ、農家は顧客と位置付けられる。1戸の農家の養豚経営の規模には限りがあるため、協会が管轄エリア内の養豚農家を取りまとめ、大規模経営に似た条件を作り出すことによってメリットを生み出すことができるのである。「農家+協会」の共同経営形式と「企業+農家」の共同経営形式には共通点も多いが、異なる点として、協会は企業のように繁殖事業、飼料、と畜場、市場などを所有しない。農家にとっては、企業との共同経営の方が安定しているが、企業との共同経営の場合、経営管理や出荷管理の自由はなく、それほど高い収益も望めない。農家は協会と共同経営することで、経営管理や出荷管理の面で裁量があり、高い利益を目標とすることが可能である。しかし、裁量があるということは、同時にある程度の経営リスクを負うということである。
第三は農家による経営である(写真2)。農家が独自に養豚経営を行った場合、豚肉の自給自足や経営管理の裁量は確保されるが、収益の保証はなく、経営のリスクは比較的大きい。とりわけ近年は、さまざまな要因で飼料や豚肉価格の変動が大きく、農家による経営は非常に難しくなっている。農家による経営では、養豚専用の飼育場を有するケースは少なく、養豚経営は農業の副業と位置付けられることが多い。また、各農家の養豚頭数は少ないながらも、このような農家による養豚経営は中国の養豚業の中で軽視できない経営形式であり、各農家が飼育する頭数は少ないが、非常に多くの農家が2〜5頭の豚を飼養し、自家で消費する豚肉を自給できるほか、1〜2頭の肥育豚を付近の市場に出すこととなるため、全体量は決して少なくはない。簡単に言えば、ウエットマーケットなどの一般的な市場で常温販売されている豚肉の大半はこうした農家で飼養された豚肉である。こうした農家による経営は、中国の養豚業の主流からは離れているものの、中国の肉類消費の現状から考えると、その存在の重要性は否定できない。
現在、中国では繁殖雌豚が豚肉のサプライチェーンの中で最も重要な部分であると言われており、養豚企業は繁殖雌豚(肥育用子豚の供給)と市場(と畜・加工を含む)を非常に重視している。これはサプライチェーンの上流と下流であり、養豚業で主導的な地位を占めている。農家は前述の3種類の経営形式を自由に選択しているわけではなく、農家の所在する地域や養豚経営のインフラ、資金力など多くの条件により制限を受けた中で選択することとなり、農家が養豚経営の面で疑いなく非常に不利な地位に置かれていることが、この点からうかがえる。
(2)企業の養豚経営規模の状況
現在、中国では多くの企業が養豚経営に従事している。2022第8回中国養豚業高度シンポジウム(2022第八届中国猪业高峰论坛)(注2)のデータを整理すると、2022年には養豚経営を行う大企業(年間出荷頭数が100万頭以上)が28社あり、合わせて1億7993万頭を出荷した(図3)。これは同年の中国の肥育豚出荷頭数の26%を占める。
(注2)2022年12月23日と24日の両日、広東省珠海市で開催された。
22年には、100万頭以上を出荷する養豚企業が21年より4社増え、上位20の養豚企業の肥育豚出荷頭数は1億6918万頭以上となり、21年の1億3635万頭から3283万頭増えた(前年比24%増)。22年、上位20社の肥育豚出荷頭数の最低ラインは170万頭であり、21年(130万頭)から40万頭(31%)増えた。このうち、最上位の「牧原集団」の出荷頭数は6120万頭で、21年(4026万頭)比で2094万頭増え、全国の養豚出荷頭数の8.74%を占めた。22年、年間出荷頭数が1000万頭以上の企業は4社あり、500万頭以上1000万頭未満の企業も4社あった。全体的に見て、企業の養豚経営規模は拡大を続けているが、上位20の養豚企業のうち7社が飼料製造企業でもあることは注目に値するものと考えられる。
次に、各企業の繁殖雌豚の飼養状況に着目する必要がある。定期的に養豚業に関する情報発信を行っている「新豚派調研」(新猪派)(注3)から発表されるデータを整理すると、22年末時点の中国の繁殖雌豚飼育頭数が1万頭以上の企業数は116社である。これは21年の144社から28社減少している。繁殖雌豚の飼養頭数が1万頭以上の企業における繁殖雌豚の飼養頭数は合わせて1129万頭で、中国の繁殖雌豚飼育総数の26%を占める。以下はその内訳である。
・10万頭以上の企業は23社で、繁殖雌豚飼養頭数の合計は897万頭(全国の2割)
・5〜10万頭の企業は15社で、繁殖雌豚飼養頭数の合計は93万9000頭
・1〜5万頭の企業は78社で、繁殖雌豚飼養頭数の合計は137万9000頭
繁殖雌豚を1万頭以上飼育するこれらの企業は主に広東省、四川省、広西チワン族自治区、湖南省、江西省などの中国の南方地域に集中しており、広東省には21社(21年時点では24社)ある。しかし、業界関係者によると、近年、アフリカ豚熱、COVID−19の影響を受けたことを踏まえ、業界の今後の安定性に対する不安もあって、大企業が養豚経営規模を縮小する傾向が見られるという。こうした業界の将来に対する不安は、繁殖雌豚を1万頭以上飼養する企業数の減少からもうかがえる。特に、河南省では、21年末には繁殖雌豚を1万頭以上飼養する企業は22社あったが、それが22年末には8社へと激減した。このような繁殖雌豚を大規模飼育する企業の減少は、大きく3点理由が挙げられる。まず、アフリカ豚熱の影響による繁殖雌豚の飼育頭数の縮小。次に、生体豚の販売不振の影響による繁殖雌豚の需要減退、第三に企業の資金繰り難、経営調整を目的とした繁殖雌豚を大規模飼育する企業の数の減少である。
(注3)養豚新勢力に焦点を当て、統計データから養豚業を読み取ることを目的とした養豚関係の情報を発信する公式なアカウントで、広州它之国生物科技有限公司(会社)に属される。養豚業情勢に関心がある関係者から一定の評価が得られている。