消費者などの持続可能性に対する関心の高まりから、鶏肉業界は持続可能性に関する取り組みを進めている。以下、その内容について紹介する。
(1)鶏肉生産が環境に与える影響
2017年、アーカンソー大学は米国家きん業界が環境に与える影響に関する報告書を公表した。同報告によると、1965年と2010年とを比較した際、飼養管理や設備更新、育種改良による飼料要求率(注9)の改善などが行われたことにより、鶏肉1キログラムの生産に必要な土地が72%、水使用量は58%、温室効果ガス(GHG)排出量は36%それぞれ減少したとされている(表6)。また、鶏肉企業を主な会員とする全米鶏肉協議会(NCC)は21年、同報告のアップデート版として、10〜20年の10年間の進捗を報告しており、この間の鶏肉生産量が21%増となった中で、GHG総排出量は0.8%減とわずかに減少したとしている。
(注9)家畜や家きんの増体に必要な飼料給餌量を表す指標。飼料給餌量(キログラム)/増体量(キログラム)で計算され、数値が低いほど必要な飼料が少なくなる。米国の鶏肉生産では1965年の2.4から、2010年には1.92、20年には1.79に改善。
鶏肉生産の環境負荷は飼料の占める割合が最も高く、GHG排出量については約8割が飼料由来とされる。飼料による影響は鶏肉業界にとってコントロールが難しい面でもあるが、業界では水資源やエネルギー利用の削減を通じ、引き続き環境負荷の低減を目指すとしている。
また、鶏ふんの肥料への利活用や副産物処理も主要な取り組みとされている。米国では鶏ふん肥料に高い需要があり、主に綿花農家に販売されている(注10)。NCCによれば、こうした鶏ふんの利用率は約95%となっているとされる。
一方で、鶏ふんや羽毛、血液といった副産物の処理については、新規の食鳥処理・加工施設の建設に際し近隣住民などの理解を得づらいことが課題となっている。業界では今後、嫌気性消化施設(注11)を建設し、鶏ふんなどから再生可能天然ガスを生産することを検討しており、ジョージア州で新たに1施設が建設予定となっている。
(注11)ふん尿や汚水などを、酸素のない環境(嫌気)下で微生物の働きにより発酵させ、燃料として利用可能な天然ガスを生産する施設。
(2)米国家きん・鶏卵のための円卓会議
家きん・鶏卵業界の関係者は2017年、先行する肉用牛・酪農での取り組みを参考に、「米国家きん・鶏卵のための円卓会議(US−RSPE)」を結成した。同組織は、サプライチェーン全体を通じた50を超える関係者(業界団体、飼料、肉用鶏、鶏卵の各生産者、加工業者、小売・外食業者、学術機関など)により構成され、持続可能性の取り組みについて検討が行われている。
その成果の一つとしてUS−RSPEは22年、15の分野(食品安全、アニマルウェルフェア、GHG排出量の削減など)および101の指標からなる「持続可能性のための枠組み」を策定した(表7)。同枠組みには、生産者や加工業者などが自身の取り組みと持続可能性とのつながりを認識し、改善に取り組めるよう作成されたチェックリストが記載されている。今後、報告用のオンラインツールが公開予定であり、報告結果は匿名化の上、集計・公表され、業界実態の把握や改善目標の作成に活用される見込みとなっている。
アニマルウェルフェアについては、1999年にNCCが肉用鶏向けのガイドラインを策定している(注12)。動物福祉や人道的処理の観点は生産者や加工業者にも浸透しており、認証機関による認証やスコアリング(採点)が行われているほか、一部商品パッケージにはラベリングも行われている(写真4)。と鳥前の気絶処理は加工段階におけるアニマルウェルフェアの確認項目の一つであるが、米国では電気によるスタニングが一般的で、一部ガスによるスタニングも採用されている。
(3)今後の課題
今後の鶏肉業界の課題は、輸出も視野に入れたマーケティング成功事例の収集である。消費者の持続可能性に関する意識は高まっているが、生産や加工に対する認識などには差があり、消費者への伝え方が模索されている。US−RSPEでは、ウォルマートなどの一部大手小売により持続可能性の認証ラベル作成が提案されたものの、現段階では消費者の混乱を招くとして、導入が見送られている。
また、アニマルウェルフェアと持続可能性が対立する場面もあるという。例えば「スローレイズドチキン」は「市販のブロイラーに比べゆっくりと成長させることで動物福祉にかなう」とする考え方で、欧州などで支持されている。しかし、飼料や光水熱を多く消費するという点で持続可能性と対立し、価格も高額となる。業界はこうした課題について、国際家きん福祉同盟(IPWA)などの国際機関と対話を継続し、方針を検討していくとしている。