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海外情報 畜産の情報 2024年1月号

米国鶏肉産業の現状と消費者ニーズへの対応について

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調査情報部 小林 大祐

【要約】

 米国の鶏肉業界は、生産段階の垂直統合による効率化や、消費者ニーズに対する速やかな反映を進めたことで、競争力を高めてきた。2023年時点では鶏肉需給の緩和から生産調整の局面にあるものの、今後、農場や食鳥処理・加工施設での機械化や持続可能性の取り組みを進めることにより、国内外でさらなる市場拡大を狙うポテンシャルを有している。

1 はじめに

 米国は、鶏肉(ブロイラー(注1))の生産量、消費量がともに世界第1位、輸出量はブラジルに次いで第2位と、世界有数の鶏肉大国である。中でも、1人当たり消費量は牛肉、豚肉を上回り増加傾向で推移している。こうした拡大は、堅調な需要のみならず、生産の効率化や育種改良、処理・加工施設における機械化の推進やコスト削減、需要者のニーズを捉えた商品開発といった供給サイドによる取り組みの成果でもある。また、同国では、アニマルウェルフェアや持続可能性に関する消費者の関心も高まっており、各企業はそうした消費者のニーズに応える製品の開発・販売を進めている。日本の鶏肉需給を見ると、国内消費の約25%を輸入製品が占めている。米国はブラジル、タイに次いで第3の鶏肉輸入先であるが、輸入量に占める割合はブラジルの74%、タイの24%に対して2%にとどまっている。2023年6月、最大の鶏肉輸入先であるブラジルで高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が発生し、同国から日本への鶏肉輸入は一時停止した。世界各国で家畜疾病の発生や災害が報じられる中で、今後、食料安全保障の観点から米国が上位2カ国を補完する存在になるのか、現時点で検討の余地があるもののその存在は無視できない。
 本稿では、近年の米国鶏肉の需給動向を概観し、産業構造(注2)や消費動向の変化、業界の持続可能性への取り組みについて、鶏肉の主産地であるジョージア州での調査結果も踏まえ紹介し、今後の見通しについて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2023年11月末TTS相場1米ドル=148.07円を使用した。
 
(注1)以下、本稿では特段の断りのない限り鶏肉=ブロイラーの肉とする。
(注2)米国鶏肉産業の構造については『畜産の情報』2019年1月号「米国における鶏肉需給の動向と消費の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000439.html)も参照されたい。

2 米国の鶏肉需給動向

(1)生産

 国内外の堅調な需要を背景に、処理羽数および平均出荷体重の増加に伴い生産量は増加傾向で推移している(図1、2)。米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、2022年の鶏肉生産量は2095万9000トン(前年比2.9%増)となった。09年と12年は減産になったが、これは米国内のバイオエタノール生産拡大に伴い飼料価格が高騰したことで、鶏肉生産量を下方修正せざるを得なかったことが要因とされている。23〜24年の鶏肉生産量についてUSDA/ERSは、23年後半から需給が緩和に向かう中で、大手鶏肉生産企業が孵化ふか卵の導入数を減らし、生産量を調整する動きが見られることから、前年比でほぼ横ばいか、わずかに増加すると見込んでいる。




 

(2)消費

 米国では、鶏肉は他の食肉に比べて安価なことや、消費者の間で鶏肉は健康的との認識が広まっていることから、1人当たり消費量は1992年以降、牛肉、豚肉を上回り増加を続けている(図3)。特に2022年以降は、物価高などの影響もあって鶏肉の国内消費は他の食肉を代替する形で拡大しており、小売店では販売促進を縮小させるなどして、需要を調整する現象も見られている。USDA/ERSによると、22年の鶏肉消費量は1742万8000トン(前年比2.9%増)となり、国内生産量の約84%を占めている。消費部位としては一般的にむね肉が好まれるほか、スポーツ観戦のお供として手羽先の需要も多い。また、近年はむね肉価格の高騰などからもも肉の需要も高まりつつある。

 

(3)輸出

 米国は150近い国や地域に鶏肉を輸出している。USDA/ERSによると、2022年の輸出量は約330万トン(前年比0.7%減)とブラジルに次いで多く、国内生産量の約16%を占めている(表1)。国内ではむね肉(ホワイトミート)の人気が高いことから、相対的に需要の少ないもも肉などダークミートと呼ばれる部位の輸出が主であり、主要輸出先はメキシコ、カナダ、キューバ、台湾、フィリピンなどである。
 輸出先のうち、メキシコは最大かつ、今後も需要増が見込まれる市場となっている。同国向けの輸出部位はレッグクォーター(注3)が中心であり、近年、メキシコ国内の中・高所得者層によるready-to-eatやready-to-cook(注4)製品需要の高まりから、輸入鶏肉などを原料に現地で加工、消費されている。中国向けは19年11月、米中通商交渉の進展に伴い約5年にわたる輸入制限が解除され、主要輸出先に返り咲いている。同国は米国にとって鶏足(もみじ)の最大の輸出先であり、これも含めた輸出量ではメキシコに次ぐ第2位となる。
 米国でもHPAIの発生は輸出のリスク要因となるが、衛生当局による二国間交渉の結果、HPAI発生時のゾーニング(感染区域の清浄区域からの区分け)が細分化された。過去に米国でHPAIのパンデミックが発生した15年と22年とを比べると、15年には最大で18の国や地域が国単位、37の国や地域が州や郡単位で制限を行ったのに対し、22年には80を超える国や地域との間で二国間の家畜衛生条件が締結されており、2つの国や地域が国単位、19の国や地域が州、42の国や地域が郡またはそれ以下の単位で制限を行った。日本とは18年に同条件が見直され、発生時にはまず州単位での制限が行われた後、防疫措置による封じ込め確認後、郡単位に縮小するとされた。
 
(注3)ブロイラーを4分の1にカットした際の脚部分で、もも肉や手羽元に当たる部位。
(注4)ready-to-eatとは、加熱せずそのまま食べることができる調理済みの食品。ready-to-cookとは、カットや下味などの加工がなされており、加熱調理することで食べられる半調理済みの食品。

コラム1 日本から見た米国の鶏肉輸出

 米国からの鶏肉輸入は、1990年代まで中国に次いでタイと並ぶ主要輸入先であったが、2001年に米国でHPAIが発生して以降、輸入量は減少していった(コラム1−図)。現在では「米国産はブラジルやタイ産に比べ、価格面や規格対応(日本の小売店や加工業者が求める正確なサイズのカットなど)の優位性が低い」といった認識が日本の加工業者や輸入業者に広まっていることなどから、輸入量はピーク時の10分の1程度と低い水準で推移している。22年の鶏肉輸入量の割合を見ると、ブラジル74%、タイ約24%、米国2%であり、米国からの輸入部位は主にもも肉やクリスマスシーズン用の骨付きもも肉となっている。ブロイラー以外では、外食向けのターキー(七面鳥)やカモ肉も輸入されている。
 一方、価格面や規格対応といった課題について米国の現地事業者からは「将来的に解決する可能性がある」との意見も聞かれた。米国では労働力不足を補い人件費を削減する観点から、処理・加工施設における機械開発・導入が積極的に進められており、AI技術の活用などが実用化すれば、より安く、より高い品質の鶏肉を輸出先の求める規格で生産できる可能性がある。今後、日本にとって米国が再び1990年代のような輸入先となる日が来るのか、動向が注目される。

3 米国鶏肉生産の特徴

(1)生産構造

 米国の主要鶏肉生産地は、ジョージア州、アラバマ州などの南東部である(図4)。同地域では、温暖な気候、豊富な水資源、鉄道網による飼料へのアクセスといった諸条件が揃っていたことから、鶏肉産業の発展につながった。中でもジョージア州では1940年代、他州に先駆けて垂直統合(飼料生産、養鶏、加工、流通などを一つの企業が統合して行う形態)による規模拡大が進み、米国最大の鶏肉生産州となっている(表2)。
 また、米国では垂直統合の進展により、約95%の生産者が鶏肉企業と契約を結んで鶏を飼養しており、残りの約5%は鶏肉企業が農場を保有し生産している。垂直統合の進展に伴い寡占化も進んでおり、鶏肉企業上位10社で全米の処理羽数の約8割を占めている(表3)。








 
 生産者と鶏肉企業との契約に当たっては、鶏肉企業から飼料やひななどの投入資材が提供されるため、生産者として、それら資材の市場価格の変動から保護されるメリットがある。契約期間は2022年時点で全体の約3分の1以上が5年以上の長期契約であり、群単位(ひなを肥育、出荷するごと)での契約は、7年間で10%減少している(図5)。これは、長期契約により安定生産が図られることや、生産者が設備投資のため銀行から融資を受ける際に、長期契約が条件となることといった背景がある。
 また、米国では契約における報酬支払いの仕組みとして、生産者同士で生産費の効率性を競わせる「家きん生産者トーナメントシステム」がある。その目的は、生産者に効率的な飼養管理や、設備更新への動機付け(インセンティブ)を与え、米国鶏肉の競争性を高めることにある。抗生物質不使用、オーガニック、外食用の小ぶりな鶏(注5)など、需要者のニーズに沿った鶏を生産する場合はプレミアムが支払われる。
 一方で、生産者団体からは契約内容が鶏肉企業の裁量に委ねられており、不均衡な力関係が存在するとの声も上がっている。同システムに関しUSDAは、市場の透明性を向上させるべく、鶏肉企業に対して契約前に生産者への情報開示を義務付ける新たな規則の施行を予定している(注6)。同規則は24年2月に施行予定であるが、トーナメントシステム自体は維持される形となっている。
 
(注5)米国で流通する肉用鶏には小型(約2.5キログラム未満)、中型(約2.5〜3.4キログラム)、大型(約3.4キログラム以上)の3種あり、小型は主に外食、中型は小売生鮮、大型は小売や加工品用と用途が分かれる。また、取り扱う鶏のサイズにより、処理加工場も異なる。
(注6)海外情報「米国農務省、肉用鶏生産者・鶏肉企業間の契約システムの最終規則を公表(米国)」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003641.html)を参照されたい。
 
 

(2)食鳥処理・加工の機械化・自動化

 食鳥処理業界は他の畜産業界と比べても機械化が進んでいるとされるが、内臓摘出後の脱骨、解体工程は手先の器用さが必要とされる面(注7)も大きく、これまで人の手による作業に依存してきた。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う労働力不足などがきっかけとなり、米国でも食鳥処理・加工の機械化、自動化が検討されるようになった。中でも、人工知能(AI)を活用した機械の開発が注目されている。鶏肉企業大手のタイソン・フーズ社は22年、食鳥処理・加工の自動化に13億米ドル(約1925億円)を投資すると発表した。 同社は、ロボット用のAIを開発するソフトロボティクス社と提携し、人間の手や目の感覚を再現する機械を開発するとしている(写真1)。自動化への投資により年間2000人の労働力が削減され、4億5000万米ドル(約666億円)の節減につながる見込みであるという。
 また、米国農務省国立食糧農業研究所(USDA/NIFA)は23年3月、アーカンソー大学、ジョージア工科大学ほか2者の研究機関に対し、AIを活用した食鳥処理ロボットの研究開発を行うセンターの設立などに、4年間で500万米ドル(約7億4035万円)の助成金を交付した。アーカンソー大学によると、現在普及している脱骨機は人の手に比べ3〜4%歩留まりが低く、1%の歩留まりの低下は加工場当たり年間150万ドル(約2億2211万円)もの損失につながるとされる。今後、AIによる機械学習の研究などが進むことによって、歩留まりの向上が期待されている。
 
(注7)機械は平均的なサイズの鶏を想定し処理を行うため、個体差に伴う歩留まりの低下や肉質への影響が懸念される。現在、]線や画像処理技術を用いた加工機械が実用化されているが手作業には及ばず、労働費の節減や従業員の安全とトレードオフの関係にある。

4 消費動向

 全米鶏肉協議会(NCC)の推計によると、鶏肉の国内消費のうち約50%が小売店、残りが外食産業に仕向けられ、さらに外食の約6割がファストフード向けとなっている。本章では小売店、外食産業それぞれの動向について確認し、鶏肉に付加価値を与える認証ラベルについても紹介する。
 

(1)小売店の動向

 2022年以降、インフレに加え、貯蓄の減少や金利上昇による住宅ローンなどの負担増により節約志向が強まる中で、食肉の中で比較的安価な鶏肉は、引き続き需要が高いとみられている。他方、節約志向から外食の頻度を減らし、自宅で調理する機会が増加したことにより、ready-to-cookやready-to-eatに加え、調理しやすいパッケージ製品の需要も増加している。例としては、むね肉のポーションカットやダイスカット(写真2)、1切れずつ個別に真空パックした製品(写真3)などがある。外食産業でも労働力不足からこうした「パッケージを開けてすぐに調理できる製品」の需要が高まっているという。また、衛生面の観点からも真空パックされた製品が普及しつつある。




 
 消費部位はむね肉が中心であるが、もも肉や手羽先の消費も伸びている(表4)。もも肉については、近年のむね肉の高騰や、エスニック料理の普及、ケトジェニックダイエット(注8)への関心の高まりなどにより、消費が拡大しているとみられる。22年9月以降の部位別卸売価格を見ると、骨なしもも肉はむね肉と同等か、若干安い価格で推移している(図6)。

 
(注8)糖質の代わりに脂質をエネルギー源とする食事法。もも肉はむね肉に比べ脂肪が多いため、より適しているとされる。
 




 

(2)外食産業の動向

 外食産業では、鶏肉を使ったグリルチキンやフライドチキンをバンズ(パン)に挟んだチキンサンドが主力商品となっている。特に2019〜21年にかけて、ファストフード企業15社が相次いでチキンサンドの新商品を発売したありさまは「チキンサンド戦争」とも呼ばれた(図7)。背景には、16〜19年にかけてハンバーガーパティ用の輸入牛肉価格が高騰したことがあるとみられる。23年現在、輸入牛肉価格は一定の落ち着きを見せているものの、米国内の牛群縮小や牛肉価格の高騰もあり、少なくとも今後数年間は、チキンサンドを含めて外食業界では鶏肉の優位が続くとみられている。


 

 (3)認証ラベル、環境への配慮

 米国では、さまざまな認証ラベルを取得した製品が販売されている。中でも、抗生物質不使用製品や、オーガニック製品の需要が高まっている(表5)。抗生物質不使用については、2015年に鶏肉製品の約3割を占めていたのに対し、22年には5割近くに増加しているという。一方、オーガニック製品はUSDAによる認証を受けて生産・販売されるが、飼養している農場は限られ、鶏肉生産量全体に占める割合は2〜3%程度で推移している。また、鶏肉は消費者から「環境に優しい」とのイメージを持たれているが、近年は消費者アンケートで環境への配慮を求める割合が上昇している。このため、鶏肉業界は消費者の持続可能性に対する関心が高まっていることを認識している(図8)。




コラム2 米国南部と鶏肉料理

 米国で国民的人気のフライドチキンは、もともと、アフリカ系米国人の「ソウルフード」であった。17世紀以降、米国南部のプランテーション農業の労働力として従事したアフリカ系米国人の間でフライドチキンの食文化が誕生し、20世紀ごろ、ファストフード店での販売などを通じて全土に普及したといわれている。フライドチキンとワッフルに桃を煮詰めたシロップなどを添えて提供する「チキン&ワッフル」は、米国南部の代表的な料理となっている(コラム2−写真1)。
 また、米国で鶏肉料理のファストフード店として知名度が高いのが、ジョージア州アトランタに本社を置く、チキンサンド店の「チックフィレイ」である(コラム2−写真2)。同社は1946年に創業後、徐々に売り上げを伸ばし、1店舗当たり売上高では2022年に全米ファストフード店1位と、消費者から高い支持を受けている。その理由としては、鶏肉の需要増に加え、製品の味、従業員のあいさつやサービス、店舗内やトイレの清潔さなどが挙げられている。今後、同社はドローンによる配達を試験的に開始見込みであり、さらなる顧客満足度の向上を図るとしている。




5 持続可能性への取り組み

 消費者などの持続可能性に対する関心の高まりから、鶏肉業界は持続可能性に関する取り組みを進めている。以下、その内容について紹介する。
 

(1)鶏肉生産が環境に与える影響

 2017年、アーカンソー大学は米国家きん業界が環境に与える影響に関する報告書を公表した。同報告によると、1965年と2010年とを比較した際、飼養管理や設備更新、育種改良による飼料要求率(注9)の改善などが行われたことにより、鶏肉1キログラムの生産に必要な土地が72%、水使用量は58%、温室効果ガス(GHG)排出量は36%それぞれ減少したとされている(表6)。また、鶏肉企業を主な会員とする全米鶏肉協議会(NCC)は21年、同報告のアップデート版として、10〜20年の10年間の進捗しんちょくを報告しており、この間の鶏肉生産量が21%増となった中で、GHG総排出量は0.8%減とわずかに減少したとしている。
 
(注9)家畜や家きんの増体に必要な飼料給餌量を表す指標。飼料給餌量(キログラム)/増体量(キログラム)で計算され、数値が低いほど必要な飼料が少なくなる。米国の鶏肉生産では1965年の2.4から、2010年には1.92、20年には1.79に改善。

 
 鶏肉生産の環境負荷は飼料の占める割合が最も高く、GHG排出量については約8割が飼料由来とされる。飼料による影響は鶏肉業界にとってコントロールが難しい面でもあるが、業界では水資源やエネルギー利用の削減を通じ、引き続き環境負荷の低減を目指すとしている。
 また、鶏ふんの肥料への利活用や副産物処理も主要な取り組みとされている。米国では鶏ふん肥料に高い需要があり、主に綿花農家に販売されている(注10)。NCCによれば、こうした鶏ふんの利用率は約95%となっているとされる。
 一方で、鶏ふんや羽毛、血液といった副産物の処理については、新規の食鳥処理・加工施設の建設に際し近隣住民などの理解を得づらいことが課題となっている。業界では今後、嫌気性消化施設(注11)を建設し、鶏ふんなどから再生可能天然ガスを生産することを検討しており、ジョージア州で新たに1施設が建設予定となっている。
 
(注10)米国における家畜排せつ物の利活用の取り組みについては『畜産の情報』2023年11月号「米国における家畜排せつ物の管理および利用の現状」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002976.html)も併せて参照されたい。
(注11)ふん尿や汚水などを、酸素のない環境(嫌気)下で微生物の働きにより発酵させ、燃料として利用可能な天然ガスを生産する施設。
 

(2)米国家きん・鶏卵のための円卓会議

 家きん・鶏卵業界の関係者は2017年、先行する肉用牛・酪農での取り組みを参考に、「米国家きん・鶏卵のための円卓会議(US−RSPE)」を結成した。同組織は、サプライチェーン全体を通じた50を超える関係者(業界団体、飼料、肉用鶏、鶏卵の各生産者、加工業者、小売・外食業者、学術機関など)により構成され、持続可能性の取り組みについて検討が行われている。
 その成果の一つとしてUS−RSPEは22年、15の分野(食品安全、アニマルウェルフェア、GHG排出量の削減など)および101の指標からなる「持続可能性のための枠組み」を策定した(表7)。同枠組みには、生産者や加工業者などが自身の取り組みと持続可能性とのつながりを認識し、改善に取り組めるよう作成されたチェックリストが記載されている。今後、報告用のオンラインツールが公開予定であり、報告結果は匿名化の上、集計・公表され、業界実態の把握や改善目標の作成に活用される見込みとなっている。


 
 アニマルウェルフェアについては、1999年にNCCが肉用鶏向けのガイドラインを策定している(注12)。動物福祉や人道的処理の観点は生産者や加工業者にも浸透しており、認証機関による認証やスコアリング(採点)が行われているほか、一部商品パッケージにはラベリングも行われている(写真4)。と鳥前の気絶処理は加工段階におけるアニマルウェルフェアの確認項目の一つであるが、米国では電気によるスタニングが一般的で、一部ガスによるスタニングも採用されている。
 
(注12)米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの取り組みの詳細については『畜産の情報』2022年12月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002306.html)を参照されたい。
 
 

(3)今後の課題

 今後の鶏肉業界の課題は、輸出も視野に入れたマーケティング成功事例の収集である。消費者の持続可能性に関する意識は高まっているが、生産や加工に対する認識などには差があり、消費者への伝え方が模索されている。US−RSPEでは、ウォルマートなどの一部大手小売により持続可能性の認証ラベル作成が提案されたものの、現段階では消費者の混乱を招くとして、導入が見送られている。
 また、アニマルウェルフェアと持続可能性が対立する場面もあるという。例えば「スローレイズドチキン」は「市販のブロイラーに比べゆっくりと成長させることで動物福祉にかなう」とする考え方で、欧州などで支持されている。しかし、飼料や光水熱を多く消費するという点で持続可能性と対立し、価格も高額となる。業界はこうした課題について、国際家きん福祉同盟(IPWA)などの国際機関と対話を継続し、方針を検討していくとしている。

コラム3 ハリソンポートリーの取り組み −持続可能性と経済性の両立−

 米国鶏肉企業は、大手タイソン・フーズ社が今年、6カ所の国内工場を閉鎖するなど、収益性の悪化に直面している状況にある。そうした中、ジョージア州の中堅食鳥処理業者であるハリソンポートリー(年間処理羽数5100万羽)は、ニッチ市場への集中と選択、さらに最新機械の積極的導入により安定した収益を実現している。
 同社はヒスパニック市場(主にメキシコ系)をターゲットとし、ニーズの高い黄色い皮の鶏肉を生産・販売する(コラム3−写真1)。飼料にマリーゴールド(菊の一種)を配合することで皮が黄色くなり、これが「脂肪があって風味が豊か」との印象を与えるという。ヒスパニック市場は国内外とも需要増が見込まれているが、他企業ではコスト増を理由に同様の製品を生産していないこともあり、ほぼ独占に近い状態となっている。鶏肉生産量に対する輸出の割合は約4割であり、ハラール対応製品も展開しながら、輸出業者を通じてメキシコ、カナダやフィリピン、中国、ベトナム、ペルーなど幅広い国や地域に輸出している。
 また、同社では脱骨機などの最新機械を他社に先駆けて導入し、人件費を節減(直近7年で932人から473人に半減)するとともに、従業員の安全性に配慮している(コラム3−写真2)。投資コストはほぼ1年で回収し、大手企業が導入の参考とするため、見学に来訪するという。また、従業員を大切にするという創業者理念から、従業員用の無料診療所や、ボーナス、長期休暇などの福利厚生を整備しており、求職者からの人気は高い。
 その他、鶏を傷つけないかごによる出荷や電気スタニング、スタニング前に鶏をリラックスさせるマッサージ器導入などによりアニマルウェルフェアに配慮しているほか、副産物である鶏軟骨の医療用製品への利活用やEV冷蔵車の導入、節水設備への投資により、持続可能性にも配慮している。
 今後の展望としては、ラインの稼働率を上げ生産量の3割拡大を目指すほか、画像処理とウォータージェット技術を用いたカット機械や、太陽光発電装置の導入を予定しているという。日本向け輸出についてはこれまで実績はないものの「条件が折り合うのであれば」と市場拡大に意欲的な姿勢を示した。




6 おわりに

 米国鶏肉産業は、もともと垂直統合の下で競争力を高めてきたが、処理・加工段階では脱骨・解体の機械化や、AI技術の導入によりさらなるコスト節減、品質向上の余地がある。また、国内では利便性のニーズからカット製品やもも肉が注目されており、今後も新たな商品の開発が進むとみられる。2023年時点では鶏肉需給の緩和により生産調整を行う企業もあるが、生産サイクルの短さから増産要望には応えやすく、輸出にどのように取り組んでいくか見守っていく必要がある。
 また、持続可能性やアニマルウェルフェアについては、業界団体や鶏肉企業などの関係者の間で「取り組まなければならない課題」との認識が広まっており、設備投資などにより経済性との両立を図りつつ、着実に取り組みを進めている。円卓会議での議論の行方や、フレームワークに基づくサプライチェーン関係者の取り組みが今後どのように進展していくのか、業界の動向が注目される。
 
謝辞
 今回の調査では、米国家きん鶏卵輸出協会(USAPEEC)、米国家きん協会(USPOULTRY)、ジョージア大学、ジョージア州家きん検査ラボ(GPLN)、ジョージア州家きん連盟(GPF)、ハリソンポートリーの皆様方をはじめ、多くの方々に快く調査に応じていただいた。ここに深く感謝の意を申し上げる。