人民公社時代の中国の畜産業は、農家の庭先飼養に支えられていた。1980年代以降、畜産専業農家が増加したものの、依然として庭先飼養を行う農家が主要な担い手であり、飼養頭羽数で見れば、家きん・ウサギ飼養羽数の95%、豚飼養頭数の85%、羊飼養頭数の70%、牛飼養頭数の52%をこれら農家で占めていた。また、肉類・卵の生産量の85%もこれら庭先飼養農家によるものであった(藤田1993)。90年代以降は家畜・家きん飼養の規模拡大が進んだが、種類によっては飼養頭羽数の半分以上は庭先飼養によって支えられていた。
2003年時点では、豚の年間出荷頭数規模1〜49頭の農家(場)から出荷された頭数が豚の総出荷頭数の71.3%を占め、肉牛は同1〜9頭の農家(場)から出荷された頭数が肉牛総出荷頭数の71.9%、羊は同1〜29頭の農家(場)から出荷された頭数が羊総出荷頭数の56.3%、肉鶏の年間出荷羽数規模1〜1999羽農家(場)から出荷された肉鶏の羽数が肉鶏総出荷数の32.9%を占めた。また、採卵鶏の総飼養頭数のうち、47.8%は採卵鶏飼養羽数規模1〜499羽の農家によるものであり、乳牛の総飼養頭数のうち87.5%は、飼養規模頭数1〜99頭(1〜49頭と50〜99頭の合計)の農家によるものである(『中国畜牧業年鑑』2004年版)。03年時点において、豚、肉牛、羊、乳牛は庭先飼養によるものが半分以上を占めていたことになる。
10年になると、これらの比率が、豚では35.5%、肉牛では58.4%、羊では51.2%、肉鶏では23.3%、採卵鶏では21.2%、乳牛では69.4%と縮小した(『中国畜牧業年鑑』2011年版)。主要な家畜・家きん飼養における農家の庭先飼養の位置付けが低下し、10年までにすでに畜産業の規模拡大が進んでいたのである。農家の副業レベルでの飼養が減少したと理解してよい。
表4は03年、10年、17年、21年における主要家畜家きんの飼養頭羽数規模別の農家(場)数を示したものである。豚・肉牛・羊・肉鶏は年間出荷頭羽数規模別のものであり、採卵鶏と乳牛は年末飼養頭羽数規模別である。表中に示している最も小規模の飼養農家数(豚出荷頭数49頭以下、肉牛出荷頭数9頭以下、羊出荷頭数29頭以下、肉鶏出荷羽数1999羽以下、採卵鶏年末飼養羽数499羽以下、乳牛年末飼養頭数49頭以下)は、羊以外はそれぞれの家畜・家きんの飼養農家(場)数の9割以上を占めている。羊も年間出荷頭数30〜99頭規模の農家(場)数を合わせると全体の9割以上となる。いまだ小規模の飼養農家が農家(場)数全体に占める割合が高いことになる。
表4からは、全体として家畜・家きん飼養農家(場)数は減少していることが確認できる。しかし、内訳を見ると、小規模の飼養農家数が減少し、大規模の飼養農場数は増加しており、肉牛を除けば2000年代以降、家畜・家きん飼育の大規模化が進んでいたことが確認できる。肉牛飼養も17年以降は同じく大規模化が進んでいる。こうした17年以降の家畜・家きん飼養の大規模化は、環境政策に助長された側面がある。環境政策の結果、畜産業においてはふん尿処理のための多額の投資が必要となったため、資金力に乏しい農家が畜産業を維持・参入することが難しくなったとみられる。
統計数字を確認することはできないが、10年以降も総出荷頭羽数・年末飼養頭羽数に占める庭先飼養の重要性は低下し、大規模の飼養農家(場)による家畜家きん飼養の重要性が増加したと思われる。
陝西省農業農村庁ウェブサイトによれば、主要家畜・家きん飼養農場の「規模化」の基準は次の通りである(陝西省農業農村庁2022)。
・豚:年間出荷頭数500頭以上(または飼養頭数300頭以上)
・肉牛:同50頭以上(または同100頭以上)
・羊:同100頭以上(または同100頭以上)
・肉鶏:出荷羽数1万羽以上(または飼養羽数5000羽以上)
・採卵鶏:飼養羽数2000羽以上
・乳牛:飼養頭数100頭以上
こうした基準による「規模化農場」による飼養頭羽数が各家畜・家きんの総飼養頭羽数に占める割合を「規模化率」というが、21年時点の採卵鶏の規模化率は81.9%であり、これはほかの家畜・家きんの規模化率に比べ12.9%高い水準である(雷2022)。採卵鶏の大規模化が最も進んでいることになるが、その中でも飼養規模が大きい生産者による比重が高まっており、採卵鶏飼養羽数5万羽以上の生産者による規模化率は28.1%である(雷2022)。