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国内特集号 畜産の情報 2024年2月号

地域で食品残さのリサイクル〜エコフィードマッチングプラットフォームの構築について〜

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神奈川県環境農政局 農水産部 畜産課
畜産環境グループ グループリーダー 三木 桐美ひさみ

【要約】

 神奈川県の畜産経営は、都市近郊型で自給飼料生産の土地が狭いことから、比較的容易に入手できた輸入飼料(配合飼料や乾牧草など)に依存しており、飼料価格の高止まりによって、畜産経営を圧迫している。そこで、本県では、過度な輸入飼料への依存から転換し、持続可能な畜産経営の展開を図っていくため、令和4年に畜産関係団体や県が構成する「飼料高騰を踏まえた本県畜産の体質強化に向けた協議会」や「エコフィードネットワーク分科会」を設置し、エコフィードの利用推進のための検討や取り組みを進めている。令和5年度にはエコフィードマッチングプラットフォームの試験構築を実施し、同年12月末に本格運用を開始している。

1 はじめに

 神奈川県(以下「県」という)では、畜産農家における飼料高騰に対する中長期的な対策の一つとして、エコフィードを推進するとともに、食品関連事業者とのマッチングが効率的に行えるよう、プラットフォームの構築を進めている。神奈川県の畜産農家は、都市近郊で自給飼料生産の土地が狭く制約が多い。よって、その多くが比較的容易に入手できた輸入飼料(配合飼料や乾牧草など)に依存している。一般的に畜産経営においては、飼料費は経営コストの約3〜6割を占めるため、飼料価格の高騰がコスト上昇に直結する。一方、畜産物の販売価格の形成は、コストを十分に反映できる仕組みとなっていない。そのため、令和2年秋から続く飼料価格高騰の影響により、畜産農家が畜産物を販売することによって得る利益は大きく減少し、畜産経営を圧迫している。
 そこで県では、緊急対策として令和4〜5年度に畜産農家が購入する配合飼料や輸入乾牧草などに対し、補助金を交付してきた。しかしながら、この補助金はあくまで緊急的な対策であり、昨今の飼料をとりまく情勢から飼料価格が下がる見通しが立たない中では、過度な輸入飼料への依存から転換し、持続可能な畜産経営の展開を図っていく必要がある。そのため、令和4年に畜産関係団体や県が構成する「飼料高騰を踏まえた本県畜産の体質強化に向けた協議会」、その下に「粗飼料ネットワーク分科会」および「エコフィードネットワーク分科会」をそれぞれ設置し、自給飼料の生産拡大や国産粗飼料の確保、エコフィードの利用推進のための検討を重ねている。特にエコフィードネットワーク分科会では、令和5年度にエコフィードマッチングプラットフォーム(以下「プラットフォーム」という)の構築を進め本格運用を始めている。本稿ではこの取り組みの状況について報告する。

2 エコフィードマッチングプラットフォームについて

 従来、食品関連事業者からの食品残さ(エコフィード)に関する情報は、畜産農家が自らの営業活動により情報を得ている。加えて、畜産農家が希望する定時定量かつ品質が均一の材料である食品製造工場等由来の材料は、すでに飼料化されていることが多く、飼料化の余地が残っている材料について、畜産農家が広く情報を得ることは難しい。
 また、県は「食品残さを飼料として活用できないか」という相談を食品関連事業者から受けることがあるが、県がエコフィードを利用する畜産農家の中から対応可能な事業者を選定するため、その都度情報の収集・提供をすることとなり、当事者同士をつなげるまでには手間と時間を要する。
 そこで、県は地域循環型社会の実現を目指す東日本電信電話株式会社神奈川事業部(以下「NTT東日本」という)と連携し、畜産農家と食品関連事業者をマッチングするプラットフォームを構築・活用することでさらなるエコフィードの利用推進につながると考え、本格運用を前に、実証実験から取り組むこととした(図1)。

3 実証実験について

(1)実証実験の流れ

 令和5年4月下旬から、まずは県内でも積極的にエコフィードを活用している先駆的な養豚農家U社に協力を依頼し、さらに、U社とすでに取引しているまたは取引を予定している食品関連事業者2社で実証実験を開始し、その後、随時協力事業者を追加して進めていった(令和5年10月末現在で18社の協力事業者が参加)。
 

(2)マッチングまでの流れ

 畜産農家や食品関連事業者のマッチングまでの大まかな流れは、次の通りである(畜産農家や食品事業者のプラットフォームへの投稿イメージおよびデータ一覧フォームのイメージは、図2〜4の通り)。なお、畜産農家や食品関連事業者が投稿した時やマッチングした時などには、必要に応じて登録した事業者に情報をお知らせするメールが届くようになっている。









 
ア 畜産農家・エコフィード製造事業者におけるマッチングまでの流れ
・畜産農家などのメールアドレスを登録する。
・登録後に通知された畜産農家投稿フォーム(図2)にアクセスし、希望する食品残さの情報(種類、形状、数量、取引方法など)を入力する。
・登録後に通知されたデータ一覧フォーム(図4)にアクセスし、畜産農家などと食品関連事業者の両者が投稿したデータを閲覧する。
・データ一覧フォーム(図4)から、気になる食品残さの情報があった場合、食品関連事業者とのマッチングを進め(システムによる)、双方で費用負担などの条件を交渉していく(システムではなく相対での交渉による)。逆に、食品関連事業者からマッチングしたい旨の連絡があった場合も同様に、交渉を進める。
 
イ 食品関連事業者におけるマッチングまでの流れ
・事業者のメールアドレスを登録する。
・登録後に通知された食品事業者投稿フォーム(図3)にアクセスし、提供可能な食品残さの情報(前述のアと同じ)を入力する。
・登録後に通知されたデータ一覧フォーム(図4)にアクセスし、食品関連事業者と畜産農家などの両者が投稿したデータを閲覧する。
・畜産農家などからマッチングしたい旨の連絡があった場合は、双方で条件を交渉していく。また、データ一覧フォーム(図4)から気になる畜産農家などがあった場合は、マッチングを進め、交渉を進める。

4 実証実験で見えてきたこと

(1)マッチングの結果

 令和5年10月末現在で2組がマッチングの開始に至ったが、いずれも最終的な取引条件が折り合わず契約成立には至らなかった。
 

(2)システムに係る検証

 県とNTT東日本において、どういった情報をどのようにプラットフォームに示すか検討するとともに、実証実験参加者やエコフィードネットワーク分科会からの意見や、システム上対応可能かどうか検討を重ね改善を進めた。なお、検討・改善した主な事柄は次の通りである。
・当初、畜産農家は登録とデータの閲覧だけを想定していたが、畜産農家も希望する食品残さを意思表示できるよう、畜産農家用の投稿フォームも設けた。
・当初、パソコンで操作するイメージでの構成にしていたが、実際にはスマートフォンで閲覧・操作する畜産農家が多いため、スマートフォンでも操作しやすい画面構成に変更した。
・エコフィードに係る情報の投稿は、プルダウンによる選択式の方が入力しやすいものの、投稿者の意図をより正確に伝えるため、入力の仕方については一部直接入力とした。
 なお、輸送距離の検討に必要な情報として、市町村名の表示については、本格運用時に盛り込む予定である。
 

(3) システム以外の検証

 県とNTT東日本において、プラットフォームを有効に活用してもらうための対応策を検討するとともに、エコフィードネットワーク分科会からの意見を受け、次の通り対応した。
・プラットフォームを広く活用してもらうため、畜産農家だけでなくエコフィード製造事業者の参加も想定しているが、持続可能な畜産経営の展開を図ることを目的としていることから、投稿されたエコフィードに対し、マッチングをする際の優先順位を付けることとした。順位は、畜産農家、エコフィード製造事業者、県内に本社のある事業者(農場が県外)の順とした。
・プラットフォームへの参加を誘引するため、畜産農家や食品関連事業者がイメージできるようなリーフレットや、投稿する時の簡単な手引書を作成し、関係者に配布した。

5 おわりに〜課題と今後の取り組み〜

 本格運用においては、情報セキュリティへの対応などをより向上させた上で、令和5年12月末から県ホームページで本格運用のプラットフォームを公表している(図5)。また、畜産農家、食品関連事業者、エコフィード製造事業者には、新たな情報セキュリティ下で登録・投稿を依頼している。さらに、より多くの事業者に参加してもらえるよう、県のホームページで情報発信するとともに、畜産農家やエコフィード製造事業者が要望する材料が提供可能な食品関連団体には、登録・投稿への呼びかけを視野に入れている。
 一方、エコフィードのマッチングにおいては、適切な選別(分別)、処理、輸送の手間や経費を食品関連事業者と畜産農家のどちらが担うかという大きな課題があり、加えて、食品関連事業者が、エコフィードより廃棄物として処理する方が安価で手間がかからないとの判断に至ることもある。また、畜産農家にとってエコフィードの活用に当たっては、畜産物の品質に影響する飼料設計の変更や、施設整備が伴うこともあるため抵抗感が存在する。このような課題はあるものの、エコフィードマッチングプラットフォームにより、エコフィードに関する情報とマッチングの機会を従来よりも多く提供できることは、有意義な取り組みであると考えており、その中で契約が成立すれば、食品循環資源の再生利用や飼料自給率向上につながると考えている。