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国内特集号 畜産の情報 2024年2月号

堆肥の流通地域範囲の拡大に向けた大分県関係者による取り組み〜より良いマッチングに向けて〜

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大分県農林水産部 地域農業振興課 安全農業班 主幹 祖田 嘉教

【要約】

 大分県では、農畜産業を成長産業として確立するため、令和3年に県内農業団体と本県が共同で大分県農業総合戦略会議を設立し、「農業システム再生に向けた行動宣言」に基づき、園芸振興、畜産振興、担い手育成・確保など各作業部会においてさまざまな取り組みを進めてきた。この取り組みの一つとして、家畜排せつ物の良質な堆肥化ならびに有効活用を推進するため、堆肥の広域流通を促進する体制整備などを進めることになった。組織の枠を超えたマッチングチームの設立により、少しずつではあるものの着実に広域流通の実績を上げている。

1 はじめに〜大分県農業の現況と課題〜

 大分県は、標高0メートルから1000メートル近くまで耕地が分布し、耕地面積の約70%が中山間地域に位置する起伏の多い地勢にあります。こうした地域条件を生かし、米を中心に野菜、果樹、花きの園芸作物や肉用牛をはじめとした畜産など、多様な農業が営まれています。一方、農業産出額が減少し、農業経営体の減少が続くなど厳しい状況が続いています。このような状況の中、令和3年に県内農業団体と県が共同で大分県農業総合戦略会議を設立し、「農業システム再生に向けた行動宣言」に基づき、園芸振興、畜産振興、担い手育成・確保など各作業部会において、農業の成長産業化に向け各種取り組みを進めてきました。この具体的な取り組みの一つとして、家畜排せつ物の良質な堆肥化ならびに有効活用に向けた検討委員会を設立し、同委員会が中心となって未利用資源である堆肥の広域流通を促進する体制整備などを進めることになりました。本稿では、この耕畜連携の取り組みについて紹介します。

2 大分県における耕畜連携と課題

 一般的な耕畜連携とは、畜産農家と耕種農家の連携のことであり、畜産農家が製造した堆肥を耕種農家が活用し、飼料作物などを栽培し、それを家畜の餌とする相互の供給が行われる地域循環の仕組みを指します。
 本県の畜産農家は、規模拡大が進む一方、その維持やさらなる拡大に際して、家畜排せつ物からの高品質な堆肥の生産、有効活用が大きな課題の一つとなっています。また、本県では畜産の盛んな地域と耕種の盛んな地域が異なっており、堆肥を活用したい耕種農家の近隣に畜産農家がいないため、堆肥の入手が難しいという需給のミスマッチがありました。それに加え、過去に未熟な堆肥を使用し、雑草の発生や強い臭気などに苦労したことにより、堆肥の利用に慎重になっている耕種農家がいることも課題でした。
 ここで紹介する耕畜連携は、地域限定で行われてきた堆肥循環による耕畜連携を、県域で広域的に実施することで、畜産堆肥の流通を拡大し、県内耕種農家の土づくりを促進する事を目標とする新たな取り組みです。

3 肥料価格高騰の影響

 世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇、ロシアによるウクライナ侵攻などの世界情勢の影響を受け、原料の大半を輸入に依存する化学肥料の価格が高騰し、耕種農家の経営を圧迫する事態となりました。このため、国は化学肥料の使用量の低減や堆肥などの国内資源の活用などを行う農業者に対して、肥料コスト上昇分の一部を支援する肥料価格高騰対策事業などの対策を打ち出しました。一方で本県では、長期的視点に立った対策に取り組むべく、土壌診断に基づいた土づくり、地域資源である畜産堆肥の活用、化学肥料の使用量低減を進めることを目的とした「耕畜連携堆肥活用推進事業」を立ち上げました。

4 耕畜連携堆肥活用推進事業

 耕畜連携堆肥活用推進事業は、肥料価格高騰の影響を受けにくい生産基盤づくりを進めるため、県域での堆肥の流通体制を構築するとともに、流通促進に向けた施設整備や堆肥の導入などを支援するものです。具体的には、畜産農家やコントラクター組織における良質堆肥の生産・流通に向け、攪拌かくはんロータリー機械やペレット製造機、一時保管庫などの整備を進めています(写真1)。耕種農家については、データに基づいた土づくりを進めるため、土壌診断や堆肥の購入・運搬・施用やマニュアスプレッダなどの堆肥散布機の導入に対して支援を行っています(写真2)。さらに、畜産が盛んでない地域へ堆肥を円滑に流通させるため、地域での堆肥散布を担う集落営農法人などに対して、堆肥の一時保管庫の整備や作業に必要なスキッドステアローダー(小型ホイールローダーの一種)など機械類の導入も行っています。




5 耕畜連携マッチングチームの立ち上げ

 課題であった堆肥の需給バランスのミスマッチをカバーするためには、前述の補助事業によるハード面の整備に加えて、これまで堆肥を積極的に活用したくてもできなかった耕種農家に向けて、情報提供によってマッチングを進めるなど、ソフト面の対策も必要です。そのため、新たにマッチングチームの立ち上げを模索しました。多くの地域ですでに畜産農家と耕種農家が相対で取引している中、どのように関係機関が関わることでマッチングを進めることができるのかについて、当初は参加した各組織がどんな役割を担うべきかがよく分からず、議論がなかなか進みませんでした。しかし、何度も協議を重ねた結果、各団体の役割分担や課題を整理し、令和4年9月にJAグループ、公益社団法人大分県畜産協会、大分県酪農業協同組合、大分県などの各関係機関で、耕畜連携マッチングチーム(以下「マッチングチーム」という)を立ち上げることとなりました(写真3)。この組織を中心にして、後述するさまざまな取り組みを行っています(事務局:大分県農業協同組合中央会)。

6 マッチングのシステム

 耕種農家が畜産堆肥を利用する場合は、運搬の手間や費用を考え、近隣の畜産農家から入手するのが一般的です。今回設立したマッチングチームは、地域、広域の2段階構成となっています。地域流通は、各JAに受付の窓口を置いており、耕種農家からの申し込みがあった場合、後述する堆肥供給リストに記載されている中から、近隣で価格や運搬などの希望の条件に合いそうな畜産農家を紹介します(図1、2)。その後は、畜産農家と耕種農家の間で、日程や運搬などの詳細な条件について直接交渉をしていただき、合意すればマッチング成立となります。地域内で不成立となった場合は、広域マッチングチームに連絡があり、対象区域を広げて再度マッチングを行うこととなっています。




 

7 堆肥供給リストの作成

 マッチングを行うためには、基本情報として、県内畜産農家の堆肥の状況を把握する必要があります。そのため、公益社団法人大分県畜産協会や大分県酪農業協同組合など、県内畜産関係団体が、県内200件程度の畜産農家を対象に堆肥生産、流通状況について現地調査を実施しました。畜産農家に堆肥の供給の意向があった場合は、堆肥分析結果に加え、参考単価、運搬や散布の対応の可否など、堆肥を希望する耕種農家が知りたい情報についてリスト化しました(図3)。また、このリストについては、畜産農家の了承を得た後に、令和5年7月から全農おおいたのウェブサイトで公開されており、畜産農家の追加など、適宜更新を行っています。
 その他、堆肥マッチングの申込書なども広域マッチングチームで検討を重ね、ウェブサイトに掲載し、受付を開始しています。公開後には、後述の通り地域において少しずつマッチングが成立し始めていますが、まだ取り組みは始まったばかりです。耕種農家からのマッチング要望の声をいかに拾い上げていくかがカギになるため、さらなる積極的な周知活動が必要と考えています。

8 マッチングの取り組み事例

 JAべっぷ日出ひじでは、マッチングシステムの確立後、ウェブサイトや各部会の役員会などにおいて広く周知を行ってきました。その結果、水稲、果樹、野菜の各耕種農家から堆肥マッチング申し込みがあり、要望に応じて、堆肥供給リストに登録された近隣の畜産農家を紹介しました。その結果、令和5年4〜6月の間で、7件、263トンのマッチングを成立させています。また、秋からは耕種農家が堆肥を利用するシーズンであり、堆肥利用の増加が見込まれるため、先に述べた耕畜連携堆肥活用推進事業や日出町独自の支援事業も併せてさらに推進を図っていきます。
 さらに、畜産があまり盛んではない県南地域の果樹法人から、牛ふん堆肥のマッチング申し込みがありました。県南地域だけで要望する堆肥の量に対応することが難しいことから、広域マッチングチームに連絡が届いています。同法人の要望に対して、完全に対応できる畜産農家が堆肥供給リストにはなかったものの、対応の可能性がありそうな畜産農家、果樹法人の双方に、運送や価格などについて、どこまで条件を緩和できるか検討を依頼しています。このように、マッチング成立に向けてのきめ細かな対応を広域マッチングチームの関係者で行っているところです。

9 その他の取り組み

 堆肥の散布には、マニュアスプレッダなど専用の機械が必要ですが、従来の肥料散布機でも堆肥の散布ができるようにするため、県内産の堆肥を使った「堆肥入り化学肥料」の製造に向け検討中です。具体的には、県内に工場を置く肥料製造メーカー、農業関係団体などと意見交換を重ね、堆肥の水分量や不純物の有無、臭気など、原料として求められる堆肥の品質評価を行うなど、実現に向けて現在取り組んでいます(写真4)。
 また、肥料散布機での散布が可能な、鶏ふんペレットの活用実証として、樹園地に肥料の一部代替として散布し、生育状況調査の他、コストや臭気など環境面についての検討を行っているところです。
 県北部地域では肥料価格が高騰する以前から、小ネギ農家グループが勉強会を行う中で堆肥投入の重要性について理解を深めてきました。その結果、今回、耕畜連携堆肥活用推進事業を活用し、ハウス内で散布可能な小型のマニュアスプレッダを小ネギ農家が多数導入することとなりました。また、必要な堆肥の確保については、普及指導員が畜産農家を紹介することによって、堆肥の導入・散布が実現し、生産性向上につながっています。
 このように、耕畜連携については、各組織、段階においてさまざまな取り組みを進めています。

10 おわりに

 農作物の生産の基盤となる土壌は、その「物理性」「化学性」「生物性」を改善することで生産性を高めることが可能です。そのためには、適度な水分量で、雑草種子などを含まず、悪臭のしない高品質な堆肥を継続して圃場ほじょうに投入することが必要です。また、本県では、稲作地帯において、長年にわたり堆肥の投入が行われず、地力窒素(注)が低下している水田が多く見受けられます。そのため、堆肥の投入による土づくりの重要性はますます増しています。さらに、化学肥料の原料は海外に依存するため、化学肥料のみによる農業生産では、世界情勢に大きく左右されてしまいます。そのため、少しでも影響を受けにくい生産基盤体制を整えるためにも、堆肥をはじめとしたさまざまな国内資源を肥料原料として活用していくことが必要となっています。
 今後は、耕畜連携の取り組みをさらに進めるため、マッチングチームや各構成団体の活動の際にさらに周知を図るなどにより、広く県内の農家に取り組みを知っていただく事が必要です。引き続き、マッチングチームの活動および活性化を図っていきたいと考えています。その上で堆肥を活用した土づくりを進めることで、耕種農家の生産性の向上や、化学肥料の使用量の低減につなげ、かつ、畜産農家の規模拡大や所得向上につながるよう取り組んでいきます。
 
(注)微生物により分解されて、作物にとって利用可能になる土壌窒素。