新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、令和5年5月8日に季節性インフルエンザと同様の「第5類」相当に移行し、各種イベントの再開や訪日客の増加により、コロナ禍明けの景気回復が続いている。
しかし、気候変動、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の変化、円安の継続などにより、食料、肥料、エネルギー供給の不安定な状況が続いている。畜産分野においては、輸入飼料価格がかつてないほど高騰したことから、過度な海外依存からの脱却に向けた構造転換を図るとともに、国際情勢や為替変動の影響を受けにくい、国内資源を活用した畜産物の安定供給が可能な持続的畜産の確立、ひいてはわが国の食料安全保障を担うことが求められている。
農林水産省は、5年3月に「畜産・酪農緊急対策パッケージ」を策定するとともに、配合飼料価格高騰対策、飼料生産・利用の拡大、生産基盤の強化などの対策を決定した。これら緊急的あるいは持続的な支援の活用を通じた畜産・酪農経営の安定や生産基盤の維持・強化を推進し、将来に希望を持てる農業や食料安全保障を実現・確保していくことが強く求められている。
今号では、強じんで持続可能な農業・食料生産システムの構築や食料安全保障対策の強化などを支える主要諸外国・地域の畜産物の生産基盤の強化に寄与する生産・流通上の取り組みとして、適正な価格形成や生産者の収益向上などについて報告する。
巻頭記事では、農業者および食品事業者のコストが償われ、報酬が保護されるための適正な価格形成について、フランスのEgalimU法の骨子を踏まえ、わが国の畜産分野の適正な価格形成に関する取り組みとその可能性について報告する。
米国では、政府が課題である生産者への収益還元の担保のため、価格形成の透明性を確保すべく法整備を進めており、同国内肉用牛の飼養動向、価格形成および生産者の収益性向上に係る取り組みなどについて報告する。
EUでは、特にロシアのウクライナ侵攻以降、輸入依存度の高い飼料原料の自給率の向上、生物多様性保全のための用地確保義務の緩和など生産基盤の強化の動きや、若い世代へ農業経営を引き継ぐための政策などが進められており、これらの動きなどについて報告する。
豪州については、畜産農家の経営収支の特徴を分析するとともに、農家から徴収される課徴金を原資とした業界団体の活動を通じた農家の所得向上への取り組みなどについて報告する。
中国では、政府による補助金などを通じて、畜産業の規模拡大や近代化などの生産基盤の強化に向けた支援が行われている。今号では、中央政府による畜産業の生産基盤強化に関する計画や、地方政府による具体的な支援策を紹介するとともに、政府や民間団体などによる畜産業の経営安定に向けた取り組みについて報告する。
これらの報告が、わが国の生産基盤の維持・強化の推進について検討する際の一助となれば幸いである。