令和5年の農林水産物・食品の輸出については、下半期はALPS処理水放出に伴い、中国などによる輸入規制はあったが、アフターコロナ下で、世界的に人々が外出して飲食する機会が増えたことに加え、円安が追い風となったことで、過去最高となる1兆4547億円(前年比2.9%増)に達した。そのうち畜産品は1008億2600万円(同4.1%増)となったところであるが、その畜種別の輸出動向を紹介する。
【牛肉】牛肉輸出量、前年比13.0%増
令和5年の牛肉輸出量(牛くず肉を除く。以下同じ)は、8421トン(前年比13.0%増)とかなり大きく増加した(図1)。これは、主要輸出先向けの輸出量が増加する中、特に台湾、香港での外食需要の回復によるものだとみられる。
また、同年の輸出先は45カ国・地域となった。国・地域別のシェアを見ると、台湾向けが20%となり、前年にトップだった香港を上回った。次いで香港が18%、米国が14%となった。
5年の輸出金額は、569億7674万円(前年比11.0%増)と前年からかなり大きく増加し、過去最高となった。
また、同年の牛肉輸出量の部位別割合を見ると、全体に占める「ロイン」の割合が53%と最も高く、次いで「かた・うで・もも」が30%、「ばら」が14%となった(図2)。なお、北米やEU向けはサーロインなどのロインを中心とした輸出となっている一方、アジア向けはフルセットでの輸出が比較的多く、この傾向に変化は見られない。
5年の冷蔵・冷凍別の牛肉輸出量を見ると、冷蔵は4222トン(前年比13.0%増)、冷凍は4199トン(同13.0%増)と、ともに前年からかなり大きく増加した(図3)。全体に占める「冷蔵」と「冷凍」の割合は前年同の50%:50%となった。輸出量のうち、アジア向けは冷凍品の割合が高いのに対し、北米およびEU向けは冷蔵品の割合が高くなっている。
【豚肉】豚肉輸出量、前年比6.6%増
令和5年の豚肉輸出量(豚くず肉を除く。以下同じ)は、1570トン(前年比6.6%増)と前年からかなりの程度増加し、同年の輸出先は9カ国・地域となった(図4)。増加した背景には、香港、シンガポールでの安定した需要があるとみられ、国・地域別シェアでは、香港向けが68%と最も多く、次いでシンガポール向けが27%となった。
5年の輸出金額は、20億6673万円(前年比10.0%増)と前年からかなりの程度増加した。
また、ソーセージやハムなどを含む豚肉加工品(豚肉調製品(ゆでた豚足など)を除く。以下同じ)の5年の輸出量は132トン(同81.6%増)と前年から大幅に増加した(図5)。
【鶏肉】鶏肉輸出量、前年比32.3%増
令和5年の鶏肉輸出量は、日本国内での高病原性鳥インフルエンザ(以下「HPAI」という)の発生による輸出停止の影響は見られたものの、香港での需要の拡大などから、4390トン(前年比32.3%増)と前年から大幅に増加した(図6)。同年の輸出先は、前年と同数の5カ国・地域となった。国・地域別に見ると、シェアは香港向けが63%と最も多く、次いでカンボジア向けが25%となった。
なお、輸出金額も、13億7206万円(前年比35.2%増)と前年から大幅に増加した。
一方で、空揚げやサラダチキンといった鶏肉加工品の輸出量は、762トン(同6.7%減)と前年からかなりの程度減少した(図7)。国・地域別では、香港向けの割合が97%となった。
なお、輸出金額は、11億8468万円(前年比19.8%増)と前年から大幅に増加した。
【牛乳・乳製品】牛乳・乳製品輸出金額、前年比3.6%減
令和5年の牛乳・乳製品の輸出金額は307億8856万円(前年比3.6%減)と前年をやや下回った(図8)。これは、主に脱脂粉乳の国際価格が下落し、日本産の価格が不利になったことなどが一因であるとみられる。
品目別に見ると、最も輸出金額の多い育児用粉乳が143億4358万円(同1.0%減)、次いで、アイスクリームその他氷菓が79億6631万円(同23.5%増)、チーズが20億2909万円(同8.8%増)、LL牛乳が18億2477万円(同8.0%減)となった。
輸出先別に見ると、輸出金額の多い順に、育児用粉乳についてはベトナム、台湾、カンボジア、アイスクリームその他氷菓は台湾、香港、中国、チーズは台湾、ベトナム、香港、LL牛乳は香港、シンガポール、台湾となっている。
その他については粉乳類の輸出量が最も多く、輸出先別に見ると、輸出金額の多い順にフィリピン、次いでシンガポールとなっている。
【鶏卵】鶏卵輸出量、前年比39.0%減
令和5年の鶏卵(殻付き卵)の輸出量は1万8622トン(前年比39.0%減)と前年から大幅に減少した(図9)。
なお、輸出金額も68億2399万円(同18.8%減)と前年から大幅に減少した。
輸出量を輸出先別に見ると、鶏卵の総輸出量の98%を占める香港向けが1万8334トン(前年比1.6%減)とわずかに、次いでシンガポール向けが248トン(同27.0%減)と大幅に、いずれも前年を下回った。
国内でのHPAIの発生による輸出停止や国内需給のひっ迫、輸出先での需要の低下などにより減少したものとみられる。
(食肉、鶏卵:畜産振興部 大西 未来、牛乳・乳製品:酪農乳業部 橋 沙織)