23年牛肉生産量は前年比4.3%増と2年連続で増加
アルゼンチン経済省によると、2023年の牛肉生産量は328万6000トン(前年比4.3%増)と前年をやや上回り、2年連続での増加となった(図1)。これは、23年前半を中心に70年ぶりといわれる厳しい干ばつに見舞われたことで、水不足や牧草に深刻な影響が及び、牛の保留が困難となった牛肉生産者が、と畜場やフィードロット向けの出荷を増やしたためとみられる。11〜12月には降雨が見られたものの、同年の肉用牛と畜頭数は1451万3000頭(同6.9%増)と前年をかなりの程度上回った。特に雌牛の淘汰が進んだことで、と畜頭数に占める雌牛の比率は一時50%に達するなど、繁殖資源が減少した。
一方、24年1月の牛肉生産量は26万6000トン(前年同月比2.5%減)と前年同月をわずかに下回った。24年は前年末の降雨などにより飼養環境の改善が見込まれることで、牛の保留傾向が強まることから、肉用牛と畜頭数は前年を下回るとみられている。
23年牛肉輸出量は増加も、輸出単価は大幅に下落
アルゼンチン国家統計院(INDEC)によると、2023年の牛肉輸出量は67万3409トン(前年比8.2%増)と前年をかなりの程度上回った(表)。一方、輸出単価は1トン当たり4044米ドル(61万3353円:1米ドル=151.67円(注)、同25.8%安)と大幅に下落したため、輸出額は27億2299万7000米ドル(4129億9695万円、同19.7%減)と前年を大幅に下回った。
輸出量全体の8割を占める中国向けは53万6748トン(同9.4%増)とかなりの程度増加したものの、輸出単価は同3121米ドル(47万3362円、同32.4%安)と前年を大幅に下回った。これは、中国経済の動向が不透明な状況下で同国の牛肉消費が停滞していることや同国内生産量の増加、さらに、豪州産牛肉などとの競合などにより、取引価格の下落につながったとみられる。また、イスラエル、ドイツおよび米国などの主要輸出相手先についても、輸出単価は前年比で1〜2割程度下落した。
24年1月の肥育牛(去勢)出荷価格、前年同月比4.3倍に上昇
肥育牛(去勢)の出荷価格は2023年1月以降、干ばつの影響により家畜の出荷頭数が増加する中で大幅に上昇している(図2)。同国の肉用牛相対取引の指標となるリニエルス家畜市場の24年1月の取引価格は、生体1キログラム当たり1424.20ペソ(256円:1ペソ=0.18円(注))と、前年同月比4.3倍となった。これは、不安定な経済状況を反映した急激なインフレに加え、23年12月12日に実施された50%を超える公式為替レートの切り下げなどの影響とみられる。
アルゼンチンでは23年12月10日に新政権が発足し、低迷する経済を立て直すため、その主な原因である財政問題の解決に着手した。しかし、現時点で新政権が打ち出す政策実現性の道筋は見えておらず、今後の同国の牛肉需給を見通す上で、天候と並び大きな不確定要素となっている。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2024年2月末TTS相場および現地参考為替相場(Selling)。
(調査情報部 井田 俊二)