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調査・報告 畜産の情報 2024年4月号

佐渡島の肉用牛振興に果たすCBSの役割と機能 〜家畜市場の維持・強化への貢献〜

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中村学園大学 流通科学部 准教授 中川 隆

【要約】

 本稿では、佐渡島での取り組みを事例に、キャトルブリーディングステーション(CBS)が肉用牛生産ひいては地域農業振興に果たす役割や機能を検討した。JA佐渡CBSの稼働が肉用牛の増頭を推進させ、堆肥循環や飼料生産を拡大させるなど、島の肉用牛振興に大きく貢献している実態が明らかとなった。とりわけ、CBSがもたらす家畜市場の維持・強化は注視すべき機能であり、島の肉用牛農家にとっても、島外の子牛購買者にとっても、大きなメリットをもたらすものである。

1 はじめに

 わが国では、畜産クラスター事業を主とした和牛繁殖雌牛の増頭支援により、全国的に繁殖雌牛は増加傾向にある。新潟県のJA佐渡では、繁殖基盤強化のため、大型和牛繁殖支援施設(Cattle Breeding Station;以下「CBS」という)を建設し、2018年7月に稼働させている。
 佐渡島のCBSを核とした肉用牛振興は、世界農業遺産に認定された同地域の生物多様性保全型農業の維持・振興やSDGs(持続可能な開発目標)の観点などからもきわめて重要である。地域農業との共生や持続可能性をキーワードにCBSが果たす役割や機能について検討することは、今後のわが国の肉用牛振興を展望する上でも肝要であろう。
 上述の背景を踏まえ、佐渡島での取り組みを事例に、CBSの建設・稼働が地域農業振興に果たす効果や持続可能な肉用牛生産の諸課題を明らかにすることが本稿の目的である。

2 地域農業の概況

(1)佐渡農業の概要

 佐渡島は新潟市の西方約45キロメートル、本土との最短距離は約32キロメートルに位置し、総面積は850平方キロメートル、海岸線延長は281キロメートルである。沖縄本島を除くとわが国最大の離島である。2004年3月に1市7町2村が合併し、1島1市の佐渡市が誕生している。08年9月より朱鷺ときの放鳥が開始され、12年4月に36年ぶりに自然界でヒナが誕生し、16年5月には野生の雌雄同士からヒナが誕生している。11年6月に島全体が「トキと共生する佐渡の里山」として世界農業遺産(GIAHS)に日本で初めて認定され、13年9月には日本ジオパークに認定されている(写真1)。現在、「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録を目指した活動が行われている(佐渡農業普及指導センター〔1〕)。
 佐渡市の農家戸数は7103戸(販売農家5333戸)(10年)から4647戸(同3301戸)(20年)と変化し、販売農家は10年間で38.1%減少している。離農者の増加とともに農地面積は7941ヘクタール(15年)から7099ヘクタール(20年)と縮小している。農業従事者のうち65歳以上の割合は78.3%(県平均75.4%)と高齢化が顕著である。
 

 
 図1は佐渡市の21年の農業産出額を示したものである。産出額全体の67%を米が占め、果実は19%、畜産は6%となっている。米の産出額は57億円で、農薬・化学肥料の5割以上の削減を基本とした「生きものを育む農法」で栽培された「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」などが生産されている(写真2)。果実の産出額は16億3000万円で、特産の「おけさ柿」がその全体の8割を占める。特産の「ル レクチエ」やみかんの生産も増加傾向にある。野菜の産出額は4億円で、いちごやアスパラガス、ゴーヤなど多品目が生産されている。前述のブランド認証米100%の米粉「さどっ粉」を使用したうどんやそばの実を使用した「佐渡の朱鷺そば」の販売など6次産業化の取り組みも推進されている。
 
畜産の産出額は5億3000万円である。佐渡島は優良な子牛産地であり、高千たかち家畜市場では競りが年3回(4、7、11月)開催されている。島内産の年間約300頭の子牛が競りに出され、その多くが各地のブランド牛の肥育もと牛として出荷されている。ちなみに、県内には他に長岡家畜市場がある。島内にと畜場はなく、肉用牛はすべて島外でと畜される。島内には嘱託契約の産業動物獣医師が数人配置されているが、獣医師の確保が課題となっている。
 また、JA佐渡では、3年間契約職員として従事しながら農業知識・技術を身につけ、新規就農を支援する制度を設けている。24年3月現在、島外出身者数人が研修を受けている。畜産においては、(1)CBSでの牛飼養管理に係る研修(2)家畜市場での販売流通に係る研修(3)肉用牛農家での研修―が行われている。
 



 

(2)佐渡畜産の概要

ア 歴史的経緯
 佐渡島は江戸時代に幕府の天領となって以降、鉱山の発展に伴う役用牛の需要があった地域である。明治20年(1887年)ごろには7000頭超の牛が飼養されたとされている。これに伴い放牧も盛んで、大佐渡林間放牧をはじめ放牧場が運営されていた。現在、六つの公共放牧場(市営5、民間1)が運営されている。昭和期に入り、高度経済成長期には機械化の進展により役用牛の需要は激減し、肉用牛飼養が主となった。2012年の第10回全国和牛能力共進会では佐渡島の子牛2頭が1等賞を獲得するなど、全国有数の子牛産地としての地位を確立している。
 
イ 肉用牛飼養の動向
 図2は佐渡市における肉用牛の飼養戸数および飼養頭数の推移を示したものである。飼養戸数は132戸(2000年)から54戸(22年)と大きく減少している。飼養頭数は、後述のJA佐渡CBSが整備され稼働されたことを機に、近年大きく増加し、22年では938頭である。さらに24年3月現在、繁殖農家51戸で黒毛和種916頭(うち314頭がCBS)を飼養している。なお、酪農家は7戸である。
 肉用牛の一貫生産を行う経営体は農家3戸とJA佐渡CBS・肉用牛中核育成センターの計四つの経営体である。肥育牛の平均年間出荷頭数は、農家1戸当たり2〜3頭、JA佐渡が40〜50頭である。
 前述の通り、畜産産出額は佐渡農業全体の6%を占めるが、県全体に占める割合となると1%である。県内の肥育牛は、村上牛や新発田牛しばたうしなど主に「にいがた和牛」として出荷される。「にいがた和牛」は新潟県内で肥育され最長飼養地が県内の黒毛和種で、枝肉の格付等級が「A」または「B」の3等級以上のものと定義されている(新潟県〔2〕)。本稿が舞台とする佐渡市では、佐渡産和牛が「佐渡牛」として市内の小売店で販売されている(写真3)。
 


3 JA佐渡CBSの実態

(1)経営概要

 JA佐渡CBSは繁殖雌牛を飼養し、子牛生産を行うほか、島内の農家から繁殖雌牛の預託受け入れを行っている(写真4)。
操業開始は2018年7月20日で、総工費は5億3940万円(うち自己資金2億3394万1000円)である。労働力は10人である。敷地面積は42.897ヘクタール、収容可能頭数は繁殖雌牛280頭、育成牛160頭、哺育牛60頭、分娩牛30頭、隔離牛30頭であり、牛舎は7棟(繁殖牛舎2棟、育成牛舎2棟、ほか隔離牛舎など3棟)ある(写真5、6、7)。ほかに堆肥舎や機械格納庫、粗飼料保管庫などの施設を有している。高千家畜市場までは家畜車で約80分の距離である。
 







 

(2)設立の背景・経緯

 佐渡島では古くから高千家畜市場が開催され、県外からのもと牛導入を支援してきた。しかし、前述のように高齢化や後継者不足に起因する肉用牛の飼養戸数・頭数の減少に歯止めがかからず、年間上場頭数は300頭(1回開催当たり100頭)を下回る状況となっており、佐渡畜産の衰退が心配された。また、島北部の外海府そとかいふ海岸に位置する同市場は家畜輸送の面で必ずしも便利な立地ではない。
 そこで、市場の維持や和牛子牛の増頭を目指し、JA佐渡は自らCBS事業を立ち上げた。生産体制再構築のため、畜産クラスター事業を活用し、施設が整備された。和牛子牛の増頭を図る機能とともに、地域の担い手育成や規模拡大が困難な繁殖農家の繁殖雌牛の飼養受託としての機能を果たすことを目的に建設された(図3)。
 JA佐渡では、肉用牛農家、酪農家、耕種農家が佐渡産飼料の提供を通じて連携し、和牛生産と酪農振興、収入向上を目指している。このような佐渡版畜産クラスターの形成と基幹施設(CBS、家畜市場、生乳加工施設)との連携体制の確立により、世界農業遺産の島「佐渡」での持続可能で特徴ある農畜産業の振興が図られている。共生と持続可能性を基盤とした地域農業の振興である。
 

 

(3)CBS稼働により期待される効果と目標値

ア 500頭を目標とした繁殖雌牛の増頭とともに、400頭を目標とした子牛出荷頭数の拡大である(2015年は285頭)。24年3月現在、年間380頭  の総出荷頭数に占めるCBSの割合は約40%である。
イ 発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ、WCS)用稲作付面積の拡大であり、すでに37ヘクタール(15年)から151ヘクタール(21年)へと大きく拡大している。これは当初の目標値(20年に143ヘクタール)を超えている(図4)。
ウ 堆肥供給量の拡大であり、70トン(15年)から2500トン(20年)とした目標値となっている。23年は690トンの実績である。
 

 

(4)牛預託受け入れの実態

 2024年3月現在、当該CBSにおける牛飼養頭数は314頭(うち預託頭数8頭)である。預託は島内全域から受け入れており、最大預託頭数は20頭である。預託の受け入れは、市営牧場が閉牧する冬季(11月〜翌4月)に集中する。特に冬季は、農家が市営牧場下牧後の妊娠牛の分娩スペースを確保するため、受け入れるケースが多い。通常期は、農家が管理できない諸々の事由により受け入れている。毎年3〜4戸から預託依頼があり、預託頭数は1戸当たり3〜5頭である。現在、4戸の繁殖農家が利用しており、飼養する全頭を預託するケースもある。牛の分娩にもCBSの職員に立ち会ってもらえるので、利用サイドの農家としてはありがたい。
 育成牛の預託受け入れ月齢は離乳後3カ月齢からである。出荷月齢は8〜10カ月である。預託料は1日当たり税別750円(後述の市営牧場は同300円)、育成牛・成牛とも同額である。料金は設立当時の飼料価格を基に設定したものが据え置かれているので、現在の飼料価格の高騰下において厳しい価格設定ではある。
 

(5)給与飼料および飼養管理の実態

 牛に給与する粗飼料の中心は島内産のWCSであり、コストはある程度抑えられている。ただし育成牛に与える主な飼料は輸入乾牧草であり、現在この価格が高騰しているため、購入に経費がかかっている。この点、島内での牧草生産が経費削減の解決策であるが、土地や労働力の制約がボトルネックとなっている。
 また時折、島内のクラフトビール醸造所で発生するビールかすなどエコフィードも活用している。特産のおけさ柿の皮など食品循環資源を活用した高付加価値化も考えているが、島内でこれらを加工する業者の確保が課題となっている。
 飼養管理上の特徴として、モバイル牛温恵を導入し、分娩牛舎には6台のカメラを設置している。雌牛の体温変化の監視による「段取り通報」「駆けつけ通報」のサービスは分娩管理に大いに役立てられている。
 疾病対策では、分娩後のへそ消毒の徹底や気管支炎予防措置を実施している。子牛の肺炎予防のためにハッチの牛床をマットにしたり、もみ殻やおが粉には加水したりするなどして、粉じんの発生を抑制している。牛白血病対策も行いながら、陽性・陰性問わず受け入れており、陽性の牛はパドックなども活用し、分離して管理している。
 表1は、当該CBSにおける年間子牛出荷頭数の推移を示したものである。操業開始の2018年度には14頭だったのが、22年度で148頭と大きく増加している。
 現在、繁殖雌牛の平均分娩間隔は約14カ月であり、1年1産を目標に短縮することで、生産効率を高めることを目指している。
 

 

(6)CBSが地域農業に与える効果

 まず、佐渡島内の肉用牛農家にとっては、市場上場頭数の増加により子牛の購買者離れを抑制できたことである。このような市場維持が、CBSの建設がもたらした最大の効果であると考えられる。さらに、農家の高齢化が進展する中で、緊急の際の牛の預託場所を確保できた効果がある。島内の肥育農家は現在2戸のみであるが、農家戸数が減少しても、CBSが運営されることで、肉用牛の肥育を維持できるという地域農業にとって大きな効果がある。
 また、現在7戸の酪農家にとっては、WCS用稲の生産の取り組みが推進されることで、低コストでの粗飼料供給が可能になったことである。とりわけ、島南部の購入飼料に依存する酪農家にとっては大きなメリットとなっている。2023年現在、島内全体で157ヘクタールの作付面積のうち94ヘクタール(60%)がJA佐渡コントラクターによる作業受託の実績である。
 

(7)今後の課題と展望

 もみ殻をWCS用稲生産農家から回収し、耕種農家には堆肥散布を実施することで、耕畜連携を実現している。CBSは、肉用牛農家にとって飼料費の削減や労働負担の軽減がもたらされ、不可欠な施設となっている。地域にとっては、既存農家が牛舎を整備し、増頭を図ることがまずもっての目標となっている。当該施設を拠点とした肉用牛振興が図られ、将来的には、農家戸数が増加すること、ひいては農家に支えられるCBSを目指している。
 当該CBSの経営上の課題として、まず子牛の生産率向上を目指した分娩間隔の短縮が挙げられる。これは島全体の和牛生産の課題でもある。
 次に子牛の疾病原因の早期究明と管理技術の確立が挙げられる。生後1〜2カ月の免疫力が低い哺乳期は特に注意を払う必要があり、いかに体力をつけさせるが子牛の疾病対策として重要である。その意味で、哺育牛舎での牛飼養管理はきわめて重要である。
 また、子牛市場の開催を年3回から4回に増やせるよう新規農家の参入促進や既存農家の増頭推進に取り組むことが大きな課題である。市場にまとまった数の子牛を出荷できるようになることで、購買者もまとまった数の子牛を購入することができる。島内の農家にとっても、子牛の飼養期間を短縮でき、早い回転で収入を得ることができる。家畜市場における購買者(需要)は固定的であり、1回の出荷頭数が多ければ、子牛価格は下落する傾向がある。子牛価格が下がり過ぎないよう適正頭数で出荷するためにも、当該CBSが調整弁の機能を果たすこと(継続的に肥育を行うことなど)は一つの手段となるが、将来的には、市場の開催頻度を増やすことが重要な課題である。

4 CBSを活用した繁殖経営の実態〜小ア農場の取り組み〜

(1)経営の概要

 経営主の小ア邦宏氏は佐渡市生まれの56歳である(写真8)。IT関連の島外企業に従事した経歴があるUターン就農者である。小ア氏の両親はもともと鶏や豚を飼養していたが、同氏が13歳の頃に肉用牛の飼養を開始した。同氏は40歳の頃に就農し、両親から経営を継承した際は、繁殖雌牛13頭を飼養していた。21年に19頭まで増頭したが、更新のため、近年は少しずつ頭数を減らしており、現在は繁殖雌牛16頭、育成牛(未経産牛)2頭、子牛10頭を飼養している。
 労働力は小ア氏1人で、企業での就業中に培ったIT活用のノウハウを牛の飼養管理にも活用している。また、アルバイト2人を近隣の障害者施設より受け入れている。アルバイトは常時1人を基本的に平日17時30分より1時間のみ雇用しており、飼料給与などを担当してもらっている。もう1人は週1日、あぜ草刈りなどを担っている。
 牧草地は2ヘクタール(うち1ヘクタールは借地)、水田(食用米)作付面積は2.7ヘクタール(うち1.2ヘクタールは借地)、WCS用稲作付面積は0.9ヘクタール(うち0.3ヘクタールは借地)であり、他農家のWCS用稲作付面積1ヘクタールの作業受託を行っている。牛舎は2棟(各棟8頭)である。現在、後述の市営牧場である堂林放牧場に繁殖雌牛8頭を預託している。
 

 

(2)繁殖経営の実態〜CBSの利用実態と経営への影響〜

 現在、牛の預託先として市営牧場とCBSの両方を利用している。子牛や育成牛(未経産牛)については、自牛舎で飼養している。子牛の離乳は90日で行う。分娩間隔は13カ月である。繁殖雌牛について、出産前後は自牛舎で飼養し、他の期間は市営牧場やCBSを利用している(写真9)。飼養する牛は平均9歳で、高齢牛の更新が課題となっている。牛が下牧し牛舎の制約により物理的に牛を管理することが難しくなる冬季にCBSに預託している。2021年には6頭の繁殖雌牛を預けた実績がある。
 春季から秋季にかけては、市営牧場を積極的に利用している。牛飼養および粗飼料生産は基本的にすべて小ア氏1人で行っており、牛を預託すると稲わらなど自給飼料生産に投入する時間を確保できるため、預託施設の利用による労力軽減は経営改善に大きく寄与している。冬季も牛を預託できるCBSが設立されたことは地域にとっても大きなものと考えている。
 


 

(3)飼養管理上の特徴

 牛舎に監視カメラを13台設置し、スマートフォンや隣接する住居内で確認できるようにしている。これまで子牛の事故はほとんどない。子牛の飼養について、離乳前は群れ飼いで、離乳後は個室飼いを行っている。監視カメラによる観察が基本であるが、なるべく牛舎を留守にしないよう留意している。
 繁殖雌牛の飼養では、出産や牛白血病発病による事故発生を抑制するよう留意している。出産前後以外はつなぎ飼いで、監視カメラでの観察を基本としている。
 牛に給与する粗飼料はほぼすべて自家製である(写真10)。子牛の育成期には購入したチモシーをわずかに給与して慣らすようにしている。濃厚飼料については、2023年春より二つのタンクに分けて保管している。
 子牛の出荷先は高千家畜市場である。購買者数の9割が県内であり、残りが岐阜県、山形県、福島県など県外である。一方、購買頭数については岐阜県が最も多く、全体の3割を占める。冬季に市場が開催されないため、11月に出荷するか、冬を越して4月に出荷するか、出荷時期の調整には苦慮する面もある。ただ、この点は佐渡畜産が抱える全体的な課題でもある。
 

 

(4)今後の課題

 当該経営の今後の主な課題は以下の3点である。
ア 繁殖雌牛の高能力牛への切り替えを進めること。
イ 牛白血病の保因牛をなくすこと。
ウ 労働力の制約から粗飼料購入を検討していること。

5 佐渡市営牧場の実態〜堂林放牧場の取り組み〜

 最後に、CBSとともに佐渡畜産を支える施設として、市営牧場についても紹介する。
 島内に五つある市営牧場では12カ月齢以上の繁殖雌牛を飼養している。そのうちの一つである堂林放牧場は佐渡市平清水の標高200メートルの高台に立地しており、1979年より開設されている(写真11)。開牧期間は4月中旬から11月中旬であり、田植え期までには開放し、冬季は閉牧される。2023年現在、市営牧場は7人の管理人(市職員)で運営されており、利用農家は19戸で預託受け入れ頭数は約130頭である。13年までは各牧場で繁殖管理が実施されていたが、受胎率が低かったため、現在では、未経産牛を堂林放牧場と経塚放牧場に集約・管理することで受胎率を80%強まで高めている。表2に、民営を含めた佐渡市の公共牧場の一覧を示す。
 堂林放牧場も前述のCBS同様に、預託受け入れ機能を有した施設として農家の飼養コスト削減を目指している。農家は自宅牛舎での牛飼養が困難になる場合、市営牧場に預託することが可能である(ただし閉牧される冬季以外)。その間、農家は飼料生産などに注力することができる。また、牛白血病対策に伴う陽性・陰性牛の分離放牧施設としても活用されている。牧場には嘱託契約の獣医師を配置している。
 同牧場における飼養頭数は23年9月現在40頭(預託能力は55頭)で、未経産牛も預かっている。8時30分から17時までの勤務時間で常時2人の市職員が牧場管理を行っている(写真12)。事故や脱走などが発生しないよう留意しながら、飼料給与や牧草の刈り取り、発情管理などの業務を行っている。給与するWCSなどの飼料は地元の農家やコントラクター組織から購入している。週1回、関係機関(県、JA、家畜保健衛生所、獣医師など)と会合を設け、繁殖管理に係る情報共有を積極的に図っている。
 




6 おわりに

 本稿では、佐渡島での取り組みを事例に、CBSが肉用牛生産ひいては地域農業振興に果たす役割や機能を検討した。佐渡島では現在、世界文化遺産登録を目指した活動が進められており、地域の機運も高まっている。そのような中で、JA佐渡CBSの稼働が肉用牛の増頭を推進させ、耕畜連携による堆肥循環や飼料生産を拡大させるなど、島の畜産振興に大きく貢献している実態が明らかになった。
 JA佐渡CBSは、肉用牛の増頭とともに佐渡島で従来公共牧場が果たしてきた牛の預託受け入れ機能を補完する役割を担っている。これは小ア農場や堂林放牧場の事例でも明らかにした通りである。だが、まずもって注目すべき機能は、島畜産の要である高千家畜市場の維持・強化である。市場での子牛取引が島の肉用牛農家にとって最重要の収入源であり、生活基盤となっていることは言うまでもない。生産者にとって安定的な子牛価格を下支えするCBSの役割の重要性は強調してもしすぎることはない。また、CBSの子牛供給機能は、島外の購買者にとって、まとまった数のもと牛を導入できる大きなメリットをもたらすものである。家畜市場というインフラに支えられ、佐渡版畜産クラスターは持続的・共生的に稼働する。このようなCBSの公益的な側面は強調されるべきであり、その機能強化にはいっそうの期待を込めるべきである。
 わが国において、子牛供給に果たす島畜産の役割はきわめて重要であり、佐渡島も例外ではない。日本の原風景ともいわれる佐渡島。本稿で取り上げたCBSを核とした肉用牛生産がますます推進され、これが佐渡農業ひいては佐渡島経済のいっそうの活性化につながることを期待したい。
 
謝辞
 本稿を草するに際して、調査にご協力頂いたJA佐渡、小ア農場、堂林放牧場、佐渡市農林水産部および新潟県畜産課の関係の皆様に対して、記して感謝の意を申し上げたい。
 
参考文献
〔1〕佐渡農業普及指導センター「令和4年度普及活動報告」2023年3月。
〔2〕新潟県「「にいがた和牛」の紹介」(https://www.pref.niigata.lg.jp/site/chikusan/1196871360640.html)(閲覧日:2023年12月25日)。