(1)経営概要
JA佐渡CBSは繁殖雌牛を飼養し、子牛生産を行うほか、島内の農家から繁殖雌牛の預託受け入れを行っている(写真4)。
操業開始は2018年7月20日で、総工費は5億3940万円(うち自己資金2億3394万1000円)である。労働力は10人である。敷地面積は42.897ヘクタール、収容可能頭数は繁殖雌牛280頭、育成牛160頭、哺育牛60頭、分娩牛30頭、隔離牛30頭であり、牛舎は7棟(繁殖牛舎2棟、育成牛舎2棟、ほか隔離牛舎など3棟)ある(写真5、6、7)。ほかに堆肥舎や機械格納庫、粗飼料保管庫などの施設を有している。高千家畜市場までは家畜車で約80分の距離である。
(2)設立の背景・経緯
佐渡島では古くから高千家畜市場が開催され、県外からのもと牛導入を支援してきた。しかし、前述のように高齢化や後継者不足に起因する肉用牛の飼養戸数・頭数の減少に歯止めがかからず、年間上場頭数は300頭(1回開催当たり100頭)を下回る状況となっており、佐渡畜産の衰退が心配された。また、島北部の外海府海岸に位置する同市場は家畜輸送の面で必ずしも便利な立地ではない。
そこで、市場の維持や和牛子牛の増頭を目指し、JA佐渡は自らCBS事業を立ち上げた。生産体制再構築のため、畜産クラスター事業を活用し、施設が整備された。和牛子牛の増頭を図る機能とともに、地域の担い手育成や規模拡大が困難な繁殖農家の繁殖雌牛の飼養受託としての機能を果たすことを目的に建設された(図3)。
JA佐渡では、肉用牛農家、酪農家、耕種農家が佐渡産飼料の提供を通じて連携し、和牛生産と酪農振興、収入向上を目指している。このような佐渡版畜産クラスターの形成と基幹施設(CBS、家畜市場、生乳加工施設)との連携体制の確立により、世界農業遺産の島「佐渡」での持続可能で特徴ある農畜産業の振興が図られている。共生と持続可能性を基盤とした地域農業の振興である。
(3)CBS稼働により期待される効果と目標値
ア 500頭を目標とした繁殖雌牛の増頭とともに、400頭を目標とした子牛出荷頭数の拡大である(2015年は285頭)。24年3月現在、年間380頭 の総出荷頭数に占めるCBSの割合は約40%である。
イ 発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ、WCS)用稲作付面積の拡大であり、すでに37ヘクタール(15年)から151ヘクタール(21年)へと大きく拡大している。これは当初の目標値(20年に143ヘクタール)を超えている(図4)。
ウ 堆肥供給量の拡大であり、70トン(15年)から2500トン(20年)とした目標値となっている。23年は690トンの実績である。
(4)牛預託受け入れの実態
2024年3月現在、当該CBSにおける牛飼養頭数は314頭(うち預託頭数8頭)である。預託は島内全域から受け入れており、最大預託頭数は20頭である。預託の受け入れは、市営牧場が閉牧する冬季(11月〜翌4月)に集中する。特に冬季は、農家が市営牧場下牧後の妊娠牛の分娩スペースを確保するため、受け入れるケースが多い。通常期は、農家が管理できない諸々の事由により受け入れている。毎年3〜4戸から預託依頼があり、預託頭数は1戸当たり3〜5頭である。現在、4戸の繁殖農家が利用しており、飼養する全頭を預託するケースもある。牛の分娩にもCBSの職員に立ち会ってもらえるので、利用サイドの農家としてはありがたい。
育成牛の預託受け入れ月齢は離乳後3カ月齢からである。出荷月齢は8〜10カ月である。預託料は1日当たり税別750円(後述の市営牧場は同300円)、育成牛・成牛とも同額である。料金は設立当時の飼料価格を基に設定したものが据え置かれているので、現在の飼料価格の高騰下において厳しい価格設定ではある。
(5)給与飼料および飼養管理の実態
牛に給与する粗飼料の中心は島内産のWCSであり、コストはある程度抑えられている。ただし育成牛に与える主な飼料は輸入乾牧草であり、現在この価格が高騰しているため、購入に経費がかかっている。この点、島内での牧草生産が経費削減の解決策であるが、土地や労働力の制約がボトルネックとなっている。
また時折、島内のクラフトビール醸造所で発生するビールかすなどエコフィードも活用している。特産のおけさ柿の皮など食品循環資源を活用した高付加価値化も考えているが、島内でこれらを加工する業者の確保が課題となっている。
飼養管理上の特徴として、モバイル牛温恵を導入し、分娩牛舎には6台のカメラを設置している。雌牛の体温変化の監視による「段取り通報」「駆けつけ通報」のサービスは分娩管理に大いに役立てられている。
疾病対策では、分娩後のへそ消毒の徹底や気管支炎予防措置を実施している。子牛の肺炎予防のためにハッチの牛床をマットにしたり、もみ殻やおが粉には加水したりするなどして、粉じんの発生を抑制している。牛白血病対策も行いながら、陽性・陰性問わず受け入れており、陽性の牛はパドックなども活用し、分離して管理している。
表1は、当該CBSにおける年間子牛出荷頭数の推移を示したものである。操業開始の2018年度には14頭だったのが、22年度で148頭と大きく増加している。
現在、繁殖雌牛の平均分娩間隔は約14カ月であり、1年1産を目標に短縮することで、生産効率を高めることを目指している。
(6)CBSが地域農業に与える効果
まず、佐渡島内の肉用牛農家にとっては、市場上場頭数の増加により子牛の購買者離れを抑制できたことである。このような市場維持が、CBSの建設がもたらした最大の効果であると考えられる。さらに、農家の高齢化が進展する中で、緊急の際の牛の預託場所を確保できた効果がある。島内の肥育農家は現在2戸のみであるが、農家戸数が減少しても、CBSが運営されることで、肉用牛の肥育を維持できるという地域農業にとって大きな効果がある。
また、現在7戸の酪農家にとっては、WCS用稲の生産の取り組みが推進されることで、低コストでの粗飼料供給が可能になったことである。とりわけ、島南部の購入飼料に依存する酪農家にとっては大きなメリットとなっている。2023年現在、島内全体で157ヘクタールの作付面積のうち94ヘクタール(60%)がJA佐渡コントラクターによる作業受託の実績である。
(7)今後の課題と展望
もみ殻をWCS用稲生産農家から回収し、耕種農家には堆肥散布を実施することで、耕畜連携を実現している。CBSは、肉用牛農家にとって飼料費の削減や労働負担の軽減がもたらされ、不可欠な施設となっている。地域にとっては、既存農家が牛舎を整備し、増頭を図ることがまずもっての目標となっている。当該施設を拠点とした肉用牛振興が図られ、将来的には、農家戸数が増加すること、ひいては農家に支えられるCBSを目指している。
当該CBSの経営上の課題として、まず子牛の生産率向上を目指した分娩間隔の短縮が挙げられる。これは島全体の和牛生産の課題でもある。
次に子牛の疾病原因の早期究明と管理技術の確立が挙げられる。生後1〜2カ月の免疫力が低い哺乳期は特に注意を払う必要があり、いかに体力をつけさせるが子牛の疾病対策として重要である。その意味で、哺育牛舎での牛飼養管理はきわめて重要である。
また、子牛市場の開催を年3回から4回に増やせるよう新規農家の参入促進や既存農家の増頭推進に取り組むことが大きな課題である。市場にまとまった数の子牛を出荷できるようになることで、購買者もまとまった数の子牛を購入することができる。島内の農家にとっても、子牛の飼養期間を短縮でき、早い回転で収入を得ることができる。家畜市場における購買者(需要)は固定的であり、1回の出荷頭数が多ければ、子牛価格は下落する傾向がある。子牛価格が下がり過ぎないよう適正頭数で出荷するためにも、当該CBSが調整弁の機能を果たすこと(継続的に肥育を行うことなど)は一つの手段となるが、将来的には、市場の開催頻度を増やすことが重要な課題である。