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調査・報告 畜産の情報 2024年4月号

小売業畜産プロセスセンターの動向〜安全・安心・おいしい豚肉を食卓に〜

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ロジスティクスコンサルタント 物流よろず相談室 野田 勝

【要約】

 畜産物が消費者の食卓に並ぶまでの過程、農場・生産者⇒小売業(プロセスセンター⇒店舗)⇒消費者までのルートの中で、各担当者のさまざまな工夫や努力が連携されることにより、消費者に安全・安心でおいしい畜産物が届けられている。
 今回は十和田湖高原ポークSPF「桃豚ももぶた」を産地から導入した小売業のさまざまな取り組みについて述べてみたい。

1 はじめに

 十和田湖高原ポークSPF「桃豚」の生産・販売などを手掛けるポークランドグループのウェブサイトには、同グループの循環型農業の取り組みについて記載されている(図1)。
 この概念図から全体像を見てみると、地元農家が、消費者の生ごみ・野菜くずを堆肥として生産した飼料用米から飼料工場で作られた餌を、ポークランドグループの養豚農場が使用して飼育し、SPF豚「桃豚」が生産される。その後、と畜され、枝肉、部位肉に原材料加工される。概念図にはないが、実際はこの後、小売業の食品加工工場である畜産プロセスセンター、あるいは店舗後方作業場でスライス加工、盛り付け包装、値付けされ、店舗のオープンケースに陳列され、消費者が購入し、初めて食卓に並ぶことになる。
 この循環チェーンのどこにおいてもさまざまな工夫があり、どこか一つでも機能が発揮できないと、最終消費者に安全・安心かつおいしい桃豚が届けられない。

2 養豚農場

 SPF豚とはSpecific(特定の)Pathogen(病原体)Free(ない)の略語であり、あらかじめ指定された病原体(トキソプラズマ感染症・流行性肺炎・豚赤痢など)を持っていないため、病気を抑制する抗生物質や薬品を使わずに育てることができる。その結果、肉質が風味豊かで保水性に富み、独特の臭みがないため、おいしい豚肉として多くの消費者の方の支持を得ている。
 ポークランドグループのポークランド、十和田湖高原ファーム、ファームランド、バイオランド、ノースランドの各農場で育成される「桃豚」は特定の病原体を持っていない状態で生まれてくる。そのため、農場内に病気を持ち込まないように、さまざまな防疫管理・衛生管理の対策を徹底している。
 例えば、豚舎内に入る時には従業員は必ずシャワーを浴び、専用の作業着に着替える(写真1)。また、車両も場内を走れるのは専用車だけで、出荷も専用車両で場内と場外を区分けするなど、SPF豚農場の衛生状態を維持するために細心の注意を払っている(写真2)。
 食品加工工場として衛生管理に実績のあるエンジアリング会社の設計・施工・管理により、最新の設備・機械・建物のハード環境の中、徹底した衛生管理のもとに運営されている(写真3)。
 そしてSPF豚農場と認定されるためには「日本SPF豚協会」による、農場管理、豚の血液検査・内装検査などの定期的かつ厳格な審査を受けている。そうすることによりSPF農場としての衛生管理状態を維持継続している(写真4)。
 






3 小売業のプロセスセンター

(1)機械化が進む最新プロセスセンター

 食品スーパーマーケット業界用語で、生鮮品の仕入れや加工、包装、配送を一括集中して行う施設の事をプロセスセンター(以下「PC」という)と呼ぶ。そのPCの中で最も事例が多く、最も多くの実績・効果を発揮しているのが畜産PCである。
 PCは、店舗における人手がたくさんかかる加工・盛り付け・包装作業を集約し、作業の機械化・自動化を進め、結果として店舗作業の軽減を通じて各店舗のコスト削減を目指した施設である。特に近年、温度管理、鮮度管理、コールドチェーン技術が進み、畜産加工機器も発展しさらに機械化・自動化が進み、畜産PCの生産性の高い効果がより発揮され、最終的に店舗段階の生産性向上につなげることができる環境になっている。
 ここから最新の畜産自動加工機器の事例を紹介してみる(写真5〜9)。














 
 (ア)あるいは(イ)と(ウ)、(エ)、(オ)の3種類を一つに直結、ライン化すれば、畜産原材料投入―スライス―加工―トレイ盛り付け−包装―値付け―パック商品のコンテナ詰合せ・積み付けまでの全工程が完全自動化され、より高い生産性が発揮できる。
 

(2)オギノの店舗と物流拠点配置・機能概要

 本稿の主題である畜産PCの話を進める前に、小売業における物流体制全般の概要を説明したい。
 小売業では取り扱いの多い商品を店舗(消費者)に効率良く供給するため、産地や工場と店舗の間をつなぐさまざまな物流体制・各種物流センター(以下「センター」という)を整備している。
 
3種類の物流機能について
・DC(distribution center)
商品を大量に動かすために、必要な商品を在庫保管・管理する施設。
対象は一般食品・菓子・酒類など。
・PC(process center)
食品の一次加工・二次加工工場、盛り付け-包装-値付けを一括して行う食品加工工場。
対象は畜産・水産・惣菜・青果など。
・TC(transfer center)
通過型。商品を保管せず、仕分け即通過させる。
対象はチルド・生鮮原材料など。
 
 以下では、センターの運用事例として、株式会社オギノ(以下「オギノ」という)の取り組みを紹介する。
 オギノは山梨県に35、長野県に6、静岡県に5、計46店舗(2024年2月現在)をドミナント展開(注1)する甲信地区リージョナル・スーパーマーケットである。
 これらの各店舗に対し商品分類別の六つのセンター(生鮮、グロサリー、住居関連、衣料、用度品、青果)から商品を全店に供給している(写真10〜12、図2)。この際、1日4便の車両に各センターの商品を組み合わせて集約、混載することで、93%と高い積載効率(配送車両の許容積載量に対して実際に積載している貨物の割合)により無駄のない効率的な配送体制を実施している(図3)。
 
(注1)チェーンストアが特定の地域に集中して店舗展開を行い、市場占有率を高める経営戦略。
 













 
 2024年問題の重要課題である車両待機時間の短縮についても、センターとしては各便に合わせて、センター入荷車両指定時間により入荷車両待機時間を抑制している。店舗としてはセンターからの配送便も店舗指定着時間設定、一括配送で効率的な荷受け、さらに使用マテハン(注2)の統一、キャスター仕様で省力化、また全国標準クレート(注3)使用により、空マテハンの回収作業を短縮化し、結果として店舗搬入車両の滞留作業時間を大幅に短縮している。
 
(注2)マテリアルハンドリング。荷物の積み下ろしや運搬などを行う機器。
(注3)食品流通で使用されるプラスチック製の輸送用容器。
 

(3)畜産プロセスセンター

 全体物流体制の中で基幹センターとして位置付けられているのが生鮮センターである(写真13)。
 生鮮センターには畜産・水産・惣菜のPC機能とチルド・生鮮原材料のTC機能がある。今回は畜産事業者との関係の深い畜産PCについて述べてみる。


 
(ア)畜産産地開発のいきさつ
 オギノは、全店舗で前述の十和田湖高原ポーク「桃豚」を取り扱っている。「桃豚」を導入したのは、全国の銘柄肉を検討する中、食の安全への取り組みとしてのSPF技術での徹底した防疫体制の確立と、「BMW」(B=バクテリア、M=ミネラル、W=ウォーターの略で土の中のバクテリアと石に含まれるミネラルを利用して汚水を浄化する技術)の活用により抗生物質をほとんど使わずに生産される点に注目したためである。
 小売業として安全・安心かつ美味しい豚肉を消費者に提供すべく、オギノとして銘柄豚「桃豚」を選択し、導入することになった。
 併せて冒頭で述べたように養豚事業を中心とした循環型農業サイクルで生産された畜産物を扱うことで、社会貢献にもつながると考えた。
 
(イ)畜産産地から直結した畜産PC
 産地のSPF工場と同様に、食品加工工場の衛生管理に実績のあるエンジ二アリング会社、三菱ケミカルエンジ二アリング株式会社の設計管理により、温度管理・鮮度管理を徹底した食品加工工場になっている(写真14〜16)。
 産地の畜産加工工場⇒オギノの畜産PC⇒配送体制⇒店舗までが完全につながり、産地から店舗オープンケースまですべての過程においてコールドチェーンが確立されている。
 工場内はソックダクト(注4)により低温管理されている。
 
(注4)特殊な布の筒に空調機で冷やされた空気を入れ、無風状態で霜が降るように部屋全体を均一に冷やす装置。鮮度管理・温度管理・働く環境づくりに効果がある。
 
畜産PCの作業工程
1)原料入荷
2)一次加工(磨き・成形)
3)最終加工(切り身加工・スライス)
4)盛付
5)包装・値付け・仕分け
6)配送
7)店舗着(陳列)








 
(ウ)畜産産地と小売業の取り組み
1)産地としての原料のスペック(仕様)強化
 産地における原料加工範囲やオギノのセンターにおける加工範囲を見直し、スペック(脂肪の厚さ、筋の取り方、サイズ、包丁加工カット数、加工範囲など)を取り決めた。センター入荷後、一次加工作業工程を少なくし、すぐに自動加工機器投入でスライス加工できるような態勢にした結果、鮮度向上・加工作業の生産性が大きく向上した。
 産地から消費者の畜産物消費までの畜産流通ルート全体の中で、どの工程で、どの作業をすることが、全体として効率的かつ生産性を上げることにつながるかという視点で、工程全体を考え、見直すことが重要である。
 
2)年間取扱量にて計画生産
 原材料の年間使用量を計画予測し、取り決めることにより産地としては計画的な生産準備作業が可能になる。小売業も安定した品質の原材料として継続的に安定供給を受けられることになり、より効率的なセンター作業が運営できる。年間を通して商品安定供給につなげている。
 
3)「桃豚」1頭単位のセット仕入れ方式
 豚肉の部位は、肩ロース・ロース・バラ・もも・ひれなどのパーツで構成される。それをパーツ単品購入ではなく、1頭単位のセット買いで、年間仕入れ頭数を計画取引することにより、商品安定供給につなげている。
 
4)銘柄豚として売り場展開
 店舗の売り場の「桃豚」コーナーを展開し、チラシによる販売促進、キッチンスタジオでの調理法の提案などにより、他小売業との差別化を図り、銘柄豚「美味しい桃豚」の特徴を消費者に紹介している(写真17)。
 

 
5)産地との交流
定期的に、オギノの各部(商品部・販売部・物流部)が合同で、産地農場・工場を訪問し、産地とコミュニケーションを図ることにより、さらなる改善に取り組んでいる。
 
(エ)畜産PC運営の工夫
その他の畜産PC運営の工夫として、以下の取り組みなどを行っている。
・加工機器の自動機械化でさらなる効率改善、進化
・店舗からのパック数発注を自動発注システムで精度アップさせ、店舗の品切れや値下げを抑制
・受注パック数に応じたセンター作業の稼働計画を作成し、精度アップにより生産性向上、効率化
・各店舗でのパック発注数から所要量展開機能(注5)で原料換算し、産地に週単位で原料調達の予約を入れ、計画的に仕入れを行う
 
(注5)必要な原材料の量を計算する機能。
 
 センターを単なる施設・箱でなく、企業全体を支える屋台骨として根幹をなす「事業」として、成長を継続させる必要がある。以下の課題について月次報告で実態を可視化させ、全社・全部門で情報を共有し、取組課題一覧表にて時系列で進捗状況を確認し、PDCAを実践し、縦割り組織に横串を刺し、組織横断的に会社全部門で取り組むことが重要である。
 
各種KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)数値を管理
・人時生産性(一人一時間当たりの生産数日別、ライン別、畜種別)
・センターパック当たりのコスト分析
・人件費比率、人員構成、スキルマップ、多能工化
・クレーム分析、対策、改善
・作業改善、品質管理(QC)活動
・歩留り改善、カッティングテスト
・店舗の欠品分析、対策
・センターマーチャンダイジング、供給比率、店舗マンアワー
・店舗段階の生産性(人時売上げ・粗利・純利益・人件費一万円当たり各生産性)
・店舗段階でのパック当たりコスト分析

4 小売り店舗での展開

 前述の畜産PCで生産される商品は、まず1便(7:00店着)で店舗に早朝集中陳列、開店時に100%で品ぞろえし、3便(13:00時店着)で夕方のピーク時に備えた売場への追加補充を行い、2度目の夕方開店品出し100%で販売体制を強化している(図3参照)。
 店舗は物流体制・店着時間、配送商品を便ごとに店舗作業に連動させた稼働計画システムにより、各作業の標準作業時間(RE基準)(注6)により計画的に運営され生産性向上を継続的に追求している(図4)。
 本システムはLSP(レイバースケジューリングプログラム)(注7)を進化させたもので、グループの担当する店舗作業を洗い出して200項目抽出し、それぞれにRE基準を設定した作業マスターを作成している。これを基に、誰が、何人で、いつ、どんな作業をすべきかといった詳細な計画を自動的に生成するシステムである。
各物流センターからの納品数量情報に応じて自動的に店舗各作業に連動させて稼動計画を立て、作業を実施し、その結果としての実績を評価し、PDCA(Plan:計画 Do:実行 Check:測定評価 Action:対策改善)で改善を繰り返している。
 
(注6)個々の作業を平常な状態でマニュアル通りに行うのに必要な時間。
(注7)設定した生産性目標の実現に向けて、作業管理や要員管理を行うための基本的なしくみ。
 

5 おわりに

 新型コロナウイルス感染症の影響は潜在化・長期化し、すべての産業に大きな影を落としている。さらに続いている飼料価格の高騰、原材料価格の高騰や生活必需品の値上げ、人手不足、人件費高騰、電気料金高騰・設備機器投資額高騰、2024年問題、配送費高騰、庫内業務費高騰などにより、ますます厳しい経営状況になっている。
 すべての産業で、景気に関係なく、超・人手不足―慢性的な労働力供給不足の状態が継続的になってきた。
 小売業においても、これまでもさまざまな工夫や対策や改善を行ってきたが、これからは今まで以上に畜産関連業者全体チェーンの連鎖の中で、さらに深い取り組みで全体の生産性を上げていかないと生き残れない環境になっている。
 産地から消費者の間のすべての畜産関係事業者の壁を越えて、待ったなしに、一気通貫させた全体での取り組みを、さらに深めることが必要不可欠な時代になってくる。
 
 最後にこの場をお借りして、原稿作成にご協力を頂きました多くの関係者の皆様に御礼申し上げます。
 
参考資料
1. 十和田湖高原ポークSPF桃豚ウェブサイト「循環型農業」
2. 日本SPF豚協会ウェブサイト「SPF豚とは」
3. 十和田湖高原ポークSPF桃豚ウェブサイト「桃豚の特徴『SPF豚』」
4. 株式会社日本キャリア工業ウェブサイト
5. 大森機械工業株式会社ウェブサイト
6. 株式会社イシダウェブサイト
7. 村田機械株式会社ウェブサイト